ホーム競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜第二十六話 日食の空
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第二十六話 日食の空

 沸騰するような、体中をアドレナリンが駆け巡る感覚は随分と久しぶりに思う。
 急速に全ての音が遠のき、目に見える全てが色褪せていく。
 その逆に心臓の鼓動は高まり、体温や汗もハッキリと知覚し、全細胞が目覚めたようだ。

 あぁ......俺は・・帰ってきた。
 例え見世物ショウであっても、鳥かごの中だろうと、翼さえあれば飛べる。
 静寂が包む白黒の思考加速の臨界領域コンテンプレーションに佇む黒雷を、カメラ中央へと捉える。

「待たせたな、アイビス。寂しかっただろう? 俺はここにいる!」

 アイビスと違い、俺はアドレナリンが大量に分泌されたときしか発動させられない、加速世界へと戻ってきた感覚。
 こんな孤独の世界で一人待ち続けていたアイビスは、再会を喜ぶかのようにスラスターを短く二度起動し、挨拶をしてきた。

「だが悪いな! 今日だけは勝たせて貰う!」

 黒雷アイビスの何もかもがスローモーションになっていく。
 同じ高みに至ったことで、黒雷の見えなかった欠点も浮き彫りになってきた。

 クロワの射撃に比べたらなんて稚拙なんだ。
 チーザの動きよりも読み易いし、ウェハーの丁寧さには及ばない。
 思い切りの良さもキャメルに劣る。守勢を凌ぐ勘はハーベストが遥かに上。

 突きあげる情動と共に分析を進めていると、強引にオープン回線が開かれた。

『ナック、こんな狭いところで片翼じゃ飛べないだろう? 私と共に......』

 アイビスが通信をねじ込んで来ている。ハッキングは明確な違反行為だ。
 アイビスには試合後に厳罰がくだる。
 何故そこまで......と、思いかけてその思考を断ち切った。

「断る」

 チェイスが熱を増し、広く大きな弧を描くドッグファイトが繰り広げられる中、通信記録が残ることもお構いなしにアイビスは言葉を続けた。

『私は楽園を作りたい! それ以上に、かつて死神とまで呼ばれた美しいナックが、こんなショウでピエロになっていくのが耐えられない......』

 その言葉を聞いて確信する。
 アイビスは、俺にかつての自分を重ねているのだろう。
 ずっと自分自身がピエロだという苦悩を抱え続けたに違いない。

 訣別の意思を示すべく、重力に引きずられつつも、フィールドの限界高度ギリギリまで上昇していく。
 頂点に達した愛機ランツは、その銀翼の背に太陽を掲げ、悠然と黒い敵機を見下ろす。
 眼下のアイビスを目掛け、俺は思いの全てを叩きつけた。

「片翼の死神? セブンスカイズは鳥かご? 上等じゃないか! もう一つの翼はエクリプスの皆が作ってくれる」

 ここまで連れて来てくれた仲間たちがいる。
 だから何度でも飛べるし、自らの意思で飛ぶこの空こそが戦場だ。

「それに、俺の背中はソルティの特等席だ。何故なら俺たちは──」
『磁石だからな!』

 後半のセリフはソルティに掻っ攫われた。
 次々と仲間たちからの声援が飛んできて、今ばかりは音割れも、ノイズも耳に心地よい。

 機体のいない真下へ宣言代わりのビームを一発放つ。
 大地に着弾し、その音が轟く間は会場全ての者が言葉を失った。
 そこにチームの決まり文句を紡ぐ。

「空を駆け、光を奪う、俺たちは太陽の狩人」

 俺たちの思いと音声が今、一つに重なる。

 ──「さぁ、日食の時間だ!!」

 チームエクリプス全員の声が揃った。

「アイビス!」
『ナックゥゥゥ!』

 互いに吠える。時間切れを狙うことなど全く頭にない。
 カメラの端ギリギリに相手を捉えたまま、その背後を狙い飛翔する。
 だが、滾る思いに実況が水を差す。


《ご来場の皆様! 両チーム同点です! 黒雷と死神の一騎打ちによる頂上決戦! これで全てが決まります!


 丁度良い。
 点数など気にせず済むし、叩き落とせばチームが勝つというシンプルな構図。
 俺は、黒雷に勝つことに全神経を集中させた。

 瞬きすらも惜しんで二筋の飛行機雲を描き、雲が掻き消える前に追い越し、塗り重ねていく。
 早すぎる思考に体が追いつかず、高速で振り回されることで内臓からは気持ち悪さがこみ上げるも、必死に飲みこむ。

 久々に領域へ踏みこみ感じたことは、体がとても試合時間一杯持ちそうにないということ。
 目の前の出来事に考える時間が与えられると、どうしても反応してしまう。
 思えば、黒雷の試合はいずれも短期決着していたことに気がついた。

『ナーーック! この世界は! 他の無能な奴らに合わせるのが馬鹿らしくならないか?』

 大地を天井にした逆さま状態で、アイビスからの揺さぶりの言葉を受けとる。足元に見える太陽の陽射しが少し眩しいくらいだ。

『ナック! 私とナックは特別なんだ! 特別な......』

 アイビスの繰り返すさえずりを無視し、ただ純粋に勝利だけを求めてソニックブームを撒き散らす。度重なる遠心運動にも慣れて、モービルギアから出るスラスターの噴射も最小限で済むようになってきた。

「騒音はソルティ! スペシャルは焦げたバーガーだけで足りている!」

 最後のグレネードを至近で叩きつけ、ツイスト飛行のカメラ越しに2機の間で大気が爆ぜる様子を見る。
 当然、当たるヘマはしないアイビス。グレネードという絶縁状の意味も通じたようだし、そろそろだと身構える。
 知覚速度のせいで音が遅れてやってくるので、爆発音と衝撃に備えた。

「ぐっ!」

 普段なら秒で駆け抜ける音と衝撃を、体感1分以上も体験しなければならない。
 相変わらず嫌な気分まで百倍にしてくれる。

 黒雷は大きく迂回するべく外周寄りに軌道を変え、俺も対角線上へと軌道修正し、牽制射撃を行う。
 ビームの刺し合いが激化するのは、黒雷もここがクライマックスだと肌で感じとっているのだろう。

 何度も至近距離へビームが飛来し、風を焼く音がモービルギアの駆動音を上回り、鼓動も高鳴っていく。
 再びアイビスから通信が入る。

『私は勝ち続けた! なのに世界は変わらない! ならば世界を壊して作り直すしかない! 違うか!? ナック!』

 百倍の世界で千年に渡る時間を考え続け、そのような結論しか導けなかったのは理解できる。
 黒雷アイビスは孤高の存在。

 現実世界でも。セブンスカイズでも。チーム内でも。
 たった一人で戦い、考え、嘆き、苦しみ続けた。
 だからこそ、虚しい答えしか導けなかったのだと思う。

「一人で頑張るな! 荷物をもっと他にも預けろ! 俺も一緒に背負ってやる!」

 俺はありったけの思いをこめて叫んだ。
 しかし、即座に返る射撃と拒絶。

『ハッ! 私たちと同じ境地に至れる人間などいない! 誰が支えてくれるというのだ?』

 苛立ちと同情を感じながら、最後の気力を漲らせ、グリップに力をこめる。
 加重負担を左半身へと押しやり、右手に見える黒雷へ想いを叩きつけた。

「チームの仲間だ! 俺は支えて貰い、ここに来た! 俺がどんなに諦めようとしても、皆が手を引き、背を押し、もう一度飛べと空へ連れて来てくれた!」
『理解できない! 私たちのような異常者を誰が理解できるものか!』

 アイビスの憤怒とも思えるビームが殺到し、ツイスト回避を行い、再度カメラ中央へと黒雷を捉える。
 そこへ、仲間たちの声援が届き始めた。

『兄貴!』
『ナックさん、勝ってください!』

 力が沸いてくる。

『あたいとこれからもずっと!』
『フッ、祝勝会の準備はお任せを』
『先輩なら大丈夫です!』

 目頭が熱くなる。

『わりぃなぁ、アイビスちゃんよ~! 俺のナックは渡さねーから!』

 ......俺は一人じゃない!

「決着だ、アイビス!」

 フィールドの中央へ二機のモービルギアが最高速で迫る。
 双方のブースターからは限界を示す火花が舞っており、これが最後のアタックであることは明白だった。
 交差する刹那、ずっと温存していた右肩のパワースラスターを起動。
 全てが回る中、カメラの中心へ黒雷を見据える。

『死神ィィ!』

 眼前を過る黒い機影。
 暴発したスピンで右拳を空振りさせての左後ろ回し蹴り、更に回転、右拳をジャストミートさせる。
 強烈な打撃音が二つ、世界を鳴らした。
 全てを使い果たし視力さえも薄れゆく中、落下していくアイビスへ告げる。

「明日の空でまた会おう!」


 ───────────────────


 とある高層ビルの一室に、黒雷の重大違反の後始末へ奔走する男がいた。
 アンティーク調の薄暗い部屋で忙しなく事務処理を進め、独り言を繰り返す。

「あぁ、なんて可哀想。きっと死神野郎の口車で騙されてしまったんだ。土がつくなんて今でも信じられないよ」

 髪を掻き毟りながらも、協賛スポンサー、政府、メディア、その全てに工作を済ませていく。
 男は、各所にメールを送りつつ、新しいストーリーの準備を進めていた。

「いつでも戻ってこられるように、急いで整えないと......それにしても......」

 男は革張りのチェアーに預けていた体を起こし、高級なデスクを力の限り拳で叩きつけた。乾いた鋭い音が役員室内に木霊する。

「目障りなんだよ、ナック。お前にだけは退場して貰おう。今は勝利の美酒を堪能するが良い。今だけな」

 狂気じみたものが男の瞳には宿っていた。


 ───────────────────


 話題騒然。
 ルシファーの翼に初の土がついた一夜を過ぎ、日食の空は明け、世界は未来への輝きを取り戻していた。
 黒雷の引退という電撃発表もあり、業界全体に激震が走っている。

 来週から、セブンスカイズの試合は全てオープン回線で行われる。
 決勝でハッキングされたとは主催側も認めたくないようで、新しい形式のデモンストレーションを兼ねていたと言い張り、ルール改定の流れに至った。

 敵との会話での駆け引き、心理戦。
 仲間とのより高い連携練度と情報隠蔽のための手段。

 新時代の幕開けだ。

 そうした激動の日々でも俺たちの翼が止まることはない。
 全試合オープン回線へのルール変更に伴い、俺はメンテナンスを続けていた。

「ったく、整備とクソは長すぎると後が詰まるんだぜ? ほら、秘匿ハンドサインを詰めるんだろ? いくぞオラァ!」

 整備の手を止め、金髪の親友を少し眺めてから答えた。

「あぁ、今行く」
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 沸騰するような、体中をアドレナリンが駆け巡る感覚は随分と久しぶりに思う。
 急速に全ての音が遠のき、目に見える全てが色褪せていく。
 その逆に心臓の鼓動は高まり、体温や汗もハッキリと知覚し、全細胞が目覚めたようだ。

 あぁ......俺は・・帰ってきた。
 例え見世物ショウであっても、鳥かごの中だろうと、翼さえあれば飛べる。
 静寂が包む白黒の思考加速の臨界領域コンテンプレーションに佇む黒雷を、カメラ中央へと捉える。

「待たせたな、アイビス。寂しかっただろう? 俺はここにいる!」

 アイビスと違い、俺はアドレナリンが大量に分泌されたときしか発動させられない、加速世界へと戻ってきた感覚。
 こんな孤独の世界で一人待ち続けていたアイビスは、再会を喜ぶかのようにスラスターを短く二度起動し、挨拶をしてきた。

「だが悪いな! 今日だけは勝たせて貰う!」

 黒雷アイビスの何もかもがスローモーションになっていく。
 同じ高みに至ったことで、黒雷の見えなかった欠点も浮き彫りになってきた。

 クロワの射撃に比べたらなんて稚拙なんだ。
 チーザの動きよりも読み易いし、ウェハーの丁寧さには及ばない。
 思い切りの良さもキャメルに劣る。守勢を凌ぐ勘はハーベストが遥かに上。

 突きあげる情動と共に分析を進めていると、強引にオープン回線が開かれた。

『ナック、こんな狭いところで片翼じゃ飛べないだろう? 私と共に......』

 アイビスが通信をねじ込んで来ている。ハッキングは明確な違反行為だ。
 アイビスには試合後に厳罰がくだる。
 何故そこまで......と、思いかけてその思考を断ち切った。

「断る」

 チェイスが熱を増し、広く大きな弧を描くドッグファイトが繰り広げられる中、通信記録が残ることもお構いなしにアイビスは言葉を続けた。

『私は楽園を作りたい! それ以上に、かつて死神とまで呼ばれた美しいナックが、こんなショウでピエロになっていくのが耐えられない......』

 その言葉を聞いて確信する。
 アイビスは、俺にかつての自分を重ねているのだろう。
 ずっと自分自身がピエロだという苦悩を抱え続けたに違いない。

 訣別の意思を示すべく、重力に引きずられつつも、フィールドの限界高度ギリギリまで上昇していく。
 頂点に達した愛機ランツは、その銀翼の背に太陽を掲げ、悠然と黒い敵機を見下ろす。
 眼下のアイビスを目掛け、俺は思いの全てを叩きつけた。

「片翼の死神? セブンスカイズは鳥かご? 上等じゃないか! もう一つの翼はエクリプスの皆が作ってくれる」

 ここまで連れて来てくれた仲間たちがいる。
 だから何度でも飛べるし、自らの意思で飛ぶこの空こそが戦場だ。

「それに、俺の背中はソルティの特等席だ。何故なら俺たちは──」
『磁石だからな!』

 後半のセリフはソルティに掻っ攫われた。
 次々と仲間たちからの声援が飛んできて、今ばかりは音割れも、ノイズも耳に心地よい。

 機体のいない真下へ宣言代わりのビームを一発放つ。
 大地に着弾し、その音が轟く間は会場全ての者が言葉を失った。
 そこにチームの決まり文句を紡ぐ。

「空を駆け、光を奪う、俺たちは太陽の狩人」

 俺たちの思いと音声が今、一つに重なる。

 ──「さぁ、日食の時間だ!!」

 チームエクリプス全員の声が揃った。

「アイビス!」
『ナックゥゥゥ!』

 互いに吠える。時間切れを狙うことなど全く頭にない。
 カメラの端ギリギリに相手を捉えたまま、その背後を狙い飛翔する。
 だが、滾る思いに実況が水を差す。


《ご来場の皆様! 両チーム同点です! 黒雷と死神の一騎打ちによる頂上決戦! これで全てが決まります!


 丁度良い。
 点数など気にせず済むし、叩き落とせばチームが勝つというシンプルな構図。
 俺は、黒雷に勝つことに全神経を集中させた。

 瞬きすらも惜しんで二筋の飛行機雲を描き、雲が掻き消える前に追い越し、塗り重ねていく。
 早すぎる思考に体が追いつかず、高速で振り回されることで内臓からは気持ち悪さがこみ上げるも、必死に飲みこむ。

 久々に領域へ踏みこみ感じたことは、体がとても試合時間一杯持ちそうにないということ。
 目の前の出来事に考える時間が与えられると、どうしても反応してしまう。
 思えば、黒雷の試合はいずれも短期決着していたことに気がついた。

『ナーーック! この世界は! 他の無能な奴らに合わせるのが馬鹿らしくならないか?』

 大地を天井にした逆さま状態で、アイビスからの揺さぶりの言葉を受けとる。足元に見える太陽の陽射しが少し眩しいくらいだ。

『ナック! 私とナックは特別なんだ! 特別な......』

 アイビスの繰り返すさえずりを無視し、ただ純粋に勝利だけを求めてソニックブームを撒き散らす。度重なる遠心運動にも慣れて、モービルギアから出るスラスターの噴射も最小限で済むようになってきた。

「騒音はソルティ! スペシャルは焦げたバーガーだけで足りている!」

 最後のグレネードを至近で叩きつけ、ツイスト飛行のカメラ越しに2機の間で大気が爆ぜる様子を見る。
 当然、当たるヘマはしないアイビス。グレネードという絶縁状の意味も通じたようだし、そろそろだと身構える。
 知覚速度のせいで音が遅れてやってくるので、爆発音と衝撃に備えた。

「ぐっ!」

 普段なら秒で駆け抜ける音と衝撃を、体感1分以上も体験しなければならない。
 相変わらず嫌な気分まで百倍にしてくれる。

 黒雷は大きく迂回するべく外周寄りに軌道を変え、俺も対角線上へと軌道修正し、牽制射撃を行う。
 ビームの刺し合いが激化するのは、黒雷もここがクライマックスだと肌で感じとっているのだろう。

 何度も至近距離へビームが飛来し、風を焼く音がモービルギアの駆動音を上回り、鼓動も高鳴っていく。
 再びアイビスから通信が入る。

『私は勝ち続けた! なのに世界は変わらない! ならば世界を壊して作り直すしかない! 違うか!? ナック!』

 百倍の世界で千年に渡る時間を考え続け、そのような結論しか導けなかったのは理解できる。
 黒雷アイビスは孤高の存在。

 現実世界でも。セブンスカイズでも。チーム内でも。
 たった一人で戦い、考え、嘆き、苦しみ続けた。
 だからこそ、虚しい答えしか導けなかったのだと思う。

「一人で頑張るな! 荷物をもっと他にも預けろ! 俺も一緒に背負ってやる!」

 俺はありったけの思いをこめて叫んだ。
 しかし、即座に返る射撃と拒絶。

『ハッ! 私たちと同じ境地に至れる人間などいない! 誰が支えてくれるというのだ?』

 苛立ちと同情を感じながら、最後の気力を漲らせ、グリップに力をこめる。
 加重負担を左半身へと押しやり、右手に見える黒雷へ想いを叩きつけた。

「チームの仲間だ! 俺は支えて貰い、ここに来た! 俺がどんなに諦めようとしても、皆が手を引き、背を押し、もう一度飛べと空へ連れて来てくれた!」
『理解できない! 私たちのような異常者を誰が理解できるものか!』

 アイビスの憤怒とも思えるビームが殺到し、ツイスト回避を行い、再度カメラ中央へと黒雷を捉える。
 そこへ、仲間たちの声援が届き始めた。

『兄貴!』
『ナックさん、勝ってください!』

 力が沸いてくる。

『あたいとこれからもずっと!』
『フッ、祝勝会の準備はお任せを』
『先輩なら大丈夫です!』

 目頭が熱くなる。

『わりぃなぁ、アイビスちゃんよ~! 俺のナックは渡さねーから!』

 ......俺は一人じゃない!

「決着だ、アイビス!」

 フィールドの中央へ二機のモービルギアが最高速で迫る。
 双方のブースターからは限界を示す火花が舞っており、これが最後のアタックであることは明白だった。
 交差する刹那、ずっと温存していた右肩のパワースラスターを起動。
 全てが回る中、カメラの中心へ黒雷を見据える。

『死神ィィ!』

 眼前を過る黒い機影。
 暴発したスピンで右拳を空振りさせての左後ろ回し蹴り、更に回転、右拳をジャストミートさせる。
 強烈な打撃音が二つ、世界を鳴らした。
 全てを使い果たし視力さえも薄れゆく中、落下していくアイビスへ告げる。

「明日の空でまた会おう!」


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 とある高層ビルの一室に、黒雷の重大違反の後始末へ奔走する男がいた。
 アンティーク調の薄暗い部屋で忙しなく事務処理を進め、独り言を繰り返す。

「あぁ、なんて可哀想。きっと死神野郎の口車で騙されてしまったんだ。土がつくなんて今でも信じられないよ」

 髪を掻き毟りながらも、協賛スポンサー、政府、メディア、その全てに工作を済ませていく。
 男は、各所にメールを送りつつ、新しいストーリーの準備を進めていた。

「いつでも戻ってこられるように、急いで整えないと......それにしても......」

 男は革張りのチェアーに預けていた体を起こし、高級なデスクを力の限り拳で叩きつけた。乾いた鋭い音が役員室内に木霊する。

「目障りなんだよ、ナック。お前にだけは退場して貰おう。今は勝利の美酒を堪能するが良い。今だけな」

 狂気じみたものが男の瞳には宿っていた。


 ───────────────────


 話題騒然。
 ルシファーの翼に初の土がついた一夜を過ぎ、日食の空は明け、世界は未来への輝きを取り戻していた。
 黒雷の引退という電撃発表もあり、業界全体に激震が走っている。

 来週から、セブンスカイズの試合は全てオープン回線で行われる。
 決勝でハッキングされたとは主催側も認めたくないようで、新しい形式のデモンストレーションを兼ねていたと言い張り、ルール改定の流れに至った。

 敵との会話での駆け引き、心理戦。
 仲間とのより高い連携練度と情報隠蔽のための手段。

 新時代の幕開けだ。

 そうした激動の日々でも俺たちの翼が止まることはない。
 全試合オープン回線へのルール変更に伴い、俺はメンテナンスを続けていた。

「ったく、整備とクソは長すぎると後が詰まるんだぜ? ほら、秘匿ハンドサインを詰めるんだろ? いくぞオラァ!」

 整備の手を止め、金髪の親友を少し眺めてから答えた。

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