ホーム競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜閑話:信頼と確かな絆
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閑話:信頼と確かな絆

 ウォッチャー戦当日の早朝。
 まだ日が昇らぬ内に共同ガレージへと向かう。

「今日はあたいにかかってる」

 自分を鼓舞するため、意気込みを呟いた。
 異名持ちの仲間は全員マークされているし、イカロス戦でのチーザの指揮にも注目が集まっている。
 ノーマーク選手としてどれだけチームに貢献できるか。

「大丈夫。気負いは無い」

 ナックたちベテラン陣に基本技術では敵わない。
 若手である、チーザたちのセンスやストロングポイントにも。

 だからこそ以前は焦っていた。
 結果を出そうと藻掻き、口先だけで後輩たちを信用すると言い、頼らなかった。

 先輩なのだと自らに変な枷を課して。
 後輩は導くべきとの観念に囚われて、ますます結果は出せないし、より自分一人でどうにかしようとする悪循環に陥っていた。

 歴戦の猛者には気負いがバレていて、洞察の鋭さに改めて気付かされる。
 ソルティに指摘された日の記憶が蘇り、工具キットとバスケットを持つ手に思わず力が入った。

 口角を上げ、日課の笑顔作りを意識する。
 そうして視線を上げた時には体の強張りは抜けていた。

「もう電気がついてる。ナックさんかな?」

 朝食のホットサンドを二人分用意してきた。
 食べて貰いたくて好物のチェダーチーズを使って。

 バスケットの隙間からはチーズと焼いたトーストの香りが漂う。
 美味しいと言って貰えるだろうか。どうしても胸は高鳴る。

 既に灯りの見えるガレージに近寄ると中からは話し声がした。
 ナックとアカトだ。
 ガレージ脇で二人のやり取りを盗み聞く。

「あー可笑しい! 笑った笑った! 勝ち続けりゃメディアと政府だけは黙らせられんだろ」
「おい、俺は本気で......」
「なら、次のウォッチャー戦。必ず勝てよ。その先で待つ」
「あぁ」

 アカトらしいし、ああいった男同士の約束は羨ましい。
 立ち去るアカトを木陰に隠れてやり過ごし、気持ち普段より明るい笑顔になって、足取りを弾ませながらガレージへと入った。

「おはよう、ナックさん」


 ───────────────────


 試合直前のオープン回線でのやり取りは、ハーベストがウォッチャーを手玉に取って好感触で終えた。
 ナックが天才と評する訳だ。
 技術はあっという間に追い越され、経験も破竹の勢いで積み上げている。
 せめてメンタルで上回ろうと思ってもこれだ。

 正直、嫌になる。

 味方だから頼もしい。けれど、ハーベストはきっと今後多くの選手たちの心を折り、夢を砕く。
 今までの競技の常識さえ破壊していくのが目に浮かぶ。
 妬くなというのは無理があるだろう。

「ハーベスト、今日はヒートをしつこく狙われるけど、いけそう?」
『ええ! ウェハーさんから休ませかたを伝授して貰いましたし、任せて下さいよ!』
「そう。お互い頑張りましょ」

 不安があっても前向きに。それが既に出来ている。
 ナックが「数年後にはハーベストを中心にセブンスカイズは回るだろう」と語っていたけれど、本当にそうなるかも知れないと最近は思う。

 敵わない。でも、負けられない。

 同じエクリプスのメンバーだ。先輩としてもう少しだけカッコつけたい。
 せめてナックの前では、一秒でも長く良い所を。
 やる気を高めていたところへチームの決まり文句が飛ぶ。

『チームエクリプス、日食の時間だ』
「了解!」


 ───────────────────


《見て下さい! この素晴らしい連携! これが暴言王と、“元”最強の死神です!


『チッ』

 無神経な内容の実況が大音量で鳴り、ナックの舌打ちが小さく響く。
 エクリプス内で『死神』の単語をナックに言う人はいない。そんなことをしたらソルティから鉄拳制裁される。

 だけど、それだけじゃない。
 一番の理由はナックが痛ましい表情をするから。
 どうして異名が嫌いなのかは教えてくれないけれど、あんな表情は見たくない。
 チームが禁句にするには充分な理由だった。

『ナック! 余計なこと考えんじゃねー! お前は俺の尻だけ求めてればいーんだよ!』
『ったく、訴えるぞ?』

 磁石コンビのやり取りが通信で飛ぶ。
 相変わらずの雰囲気に何か口を挟む余地などない。
 ナックが背中を預けるのがソルティだけなのは、嫉妬の想いも僅かに過る。
 ただ、二人が安心して飛べるよう全力でサポートするだけだ。

「あたいが左翼。フォローお願い!」
『あいよ!』

 敵の放ったグレネードが空に大輪の花を咲かせ、爆音をシート越しに味わう中、磁石コンビが波打つジェットコースターを思わせる縦の高速スラロームを描く。

 こちらも連動し、逃げ場を抑えるべく先回りする。
 しかし、敵の立ち回りの方が優れ、連携は巧くいなされた。
 次第にクロワが追い詰められ最少失点の貢献ブロックダウンの流れとなり、予定していたキーパーへの強襲を試みるも失敗。

 ウォッチャーは何気なく落下矯正の連携攻撃キャリブレーションを中断した。正直あり得ない。
 4点が狙える局面は、どれだけ経験を積んでいても緊張するし、冷静さも失う。
 その好機を手放す際に、一糸乱れぬ連携を保つのは本当に難しい。
 簡単にやってのけるウォッチャーを睨み、唇を引き結んだ。

 ロースコアの試合展開が続き、ブーイングの声はモービルギアの駆動音をかき消す勢い。
 耐える展開に口の中は渇き、背中にもびっしょりと汗が伝う。
 状況を打開したくてグリップに力を込め、ナックの銀色の機体と並走した。

「ナックさん、あたいが活路を開こうか?」

 気づいたら口を開いて出た言葉。

『いや、問題ない。このままチェイサー主体で攪乱を続行する。いくぞチーザ、ウェハー』

 積極的に提案するも、すげなく断られた。
 けど、気落ちしている暇はない。

 今は遠い背中。その背を必死に追い続ける。
 いつか本当の意味で肩を並べて戦える日を夢見て。

 戦局はクロワが墜とされ、苦しい中でソルティの叱咤が飛んでいる。
 戸惑い気味のナック。

『......皆、俺が自由に動いても良いか?』

 この問いに否を唱える者など、エクリプスのメンバーには一人もいない。
 ナックが本音を吐露してくれたことに、思わず顔が綻んでしまう。

「勿論、あたいがフォローする」


 ───────────────────


 戦場で最強と呼ばれた男の本気。
 銀色のモービルギアは、右肩に搭載したパワースラスターを起動し、圧倒的な技術と動きで空間を支配する。

 敵陣を切り裂く姿はまるで荒れ狂う竜巻。交差するたびに敵エースへとダメージを蓄積させていく。
 数度の激しい衝突を繰り返し、戦局はナック優位へと傾き出した。

 観る側も高揚して浮足立つほどの強さ。
 ナックは敵のチェイサーも同時に難なく捌き、誘いルアーに引っ掛かりそうだった味方を止める指揮も見せる。

『各機、キーパーへのプレスを継続』

 あぁ、頼もしい。これがエクリプスのリーダーだ。
 世界中へ自慢したい気持ちを抑え「了解!」と通信を返した。
 ナックが戦場で暴れ回る影に潜み、敵キーパーのオーバーヒートを狙うべく追い続ける。

 観客の瞳は、両エース対決へと釘付けだ。
 それで構わない。チームの一員としてここでしっかりと仕事をする。
 最後にナックが見てくれたらそれでいい。

 グレネードを撒き、爆発で逃げる方向を制限していく。
 敵は、無理して爆風を突っ切る選択を選んだが、確実に熱負荷は高められた。

 チーザやウェハーと連携し、逃走ルートの頭を押さえて逃げ道を歪ませていく。
 決して楽はさせないように。
 敵味方のマイクロミサイルが入り乱れ、機内温度も急上昇。
 ヘルメット内の汗の匂いも強くなり、唇を舐めれば塩の味がした。

 こちらのオーバーヒートも気にし始めた頃、ふとナックの戦闘を見やる。
 どうやら決着は近い。

『赤のベッドに誘ったのはそっちだろう? 逃げるなよ、エースキラー』

 ナックの通信が届いた瞬間、即座に全体の位置関係を判断し、勝った時に赤サークルが狙えるポイントへと全速力で飛ばす。
 いの一番で信頼に応えたい。その一心で。
 気持ちが逸るままグリップを起こし、機体で大きく弧を描く。

 ......届け! 間に合え!

 ナックは勝つ。
 どれだけ苦しくともエースキラー如きに負けるわけが無い。エクリプスの面々がその強さを一番良く知っていた。

 だから必ずそこへ敵がくると確信できる。
 内臓を揺さぶられつつも最速でポイントへ到達し、スラスターを吹かして機体姿勢を直す。

 心臓の鼓動が早い。
 心の中を落ち着かせ、息を整える。
 だけど、ここから一人で補正しても赤には届かない。高度が足りず、一撃入れるのが関の山だろう。

 決め手を欠く中、右斜め後ろにモービルギアの駆動音が聞こえた。
 振り向いて確認するまでも無い。ウェハーだ。
 ベテランの彼ならば、瞬時に距離が届かないと判断し、きっとフォローに入る。

 ......あたいとは違う。

 ナックもソルティもウェハーには絶対の信頼を寄せているし、どんな局面でも「ここに誰かいて欲しい」と思ったところにウェハーはいる。
 チーザの高い空間把握能力が無くても、ハーベストやクロワほどの技術が無くても、助けが必要なところには顔を出す。

 経験?
 そんな安易な言葉では片付けられない。
 彼は最強の磁石コンビが頼る凄腕のチェイサーだ。

 かつて敵チームとして何度も対戦したが、当時は凄さが分からなかった。
 味方になってその凄さを初めて知る。

 皆が凄すぎるから、焦りと気負いで後輩も頼れず、結果も出せなかった。
 片や頼りになるウェハーは常にチームを優先。自分一人でどうにかしようと固執したりはせず、チームをいつも下支えしている。

 ウェハーの頼もしさを感じつつ、カメラ中央にエース対決を捉えた刹那、ナックの繰り出したラリアットが見事に決まる。

『ここだ、キャリブレ開始』

 スピーカーから声が聞こえた時には既に照準を合わせていた。

「了解、任せて」

 信頼に応えて放つ。赤サークルへと運ぶ一射を。
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 まだ日が昇らぬ内に共同ガレージへと向かう。

「今日はあたいにかかってる」

 自分を鼓舞するため、意気込みを呟いた。
 異名持ちの仲間は全員マークされているし、イカロス戦でのチーザの指揮にも注目が集まっている。
 ノーマーク選手としてどれだけチームに貢献できるか。

「大丈夫。気負いは無い」

 ナックたちベテラン陣に基本技術では敵わない。
 若手である、チーザたちのセンスやストロングポイントにも。

 だからこそ以前は焦っていた。
 結果を出そうと藻掻き、口先だけで後輩たちを信用すると言い、頼らなかった。

 先輩なのだと自らに変な枷を課して。
 後輩は導くべきとの観念に囚われて、ますます結果は出せないし、より自分一人でどうにかしようとする悪循環に陥っていた。

 歴戦の猛者には気負いがバレていて、洞察の鋭さに改めて気付かされる。
 ソルティに指摘された日の記憶が蘇り、工具キットとバスケットを持つ手に思わず力が入った。

 口角を上げ、日課の笑顔作りを意識する。
 そうして視線を上げた時には体の強張りは抜けていた。

「もう電気がついてる。ナックさんかな?」

 朝食のホットサンドを二人分用意してきた。
 食べて貰いたくて好物のチェダーチーズを使って。

 バスケットの隙間からはチーズと焼いたトーストの香りが漂う。
 美味しいと言って貰えるだろうか。どうしても胸は高鳴る。

 既に灯りの見えるガレージに近寄ると中からは話し声がした。
 ナックとアカトだ。
 ガレージ脇で二人のやり取りを盗み聞く。

「あー可笑しい! 笑った笑った! 勝ち続けりゃメディアと政府だけは黙らせられんだろ」
「おい、俺は本気で......」
「なら、次のウォッチャー戦。必ず勝てよ。その先で待つ」
「あぁ」

 アカトらしいし、ああいった男同士の約束は羨ましい。
 立ち去るアカトを木陰に隠れてやり過ごし、気持ち普段より明るい笑顔になって、足取りを弾ませながらガレージへと入った。

「おはよう、ナックさん」


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 試合直前のオープン回線でのやり取りは、ハーベストがウォッチャーを手玉に取って好感触で終えた。
 ナックが天才と評する訳だ。
 技術はあっという間に追い越され、経験も破竹の勢いで積み上げている。
 せめてメンタルで上回ろうと思ってもこれだ。

 正直、嫌になる。

 味方だから頼もしい。けれど、ハーベストはきっと今後多くの選手たちの心を折り、夢を砕く。
 今までの競技の常識さえ破壊していくのが目に浮かぶ。
 妬くなというのは無理があるだろう。

「ハーベスト、今日はヒートをしつこく狙われるけど、いけそう?」
『ええ! ウェハーさんから休ませかたを伝授して貰いましたし、任せて下さいよ!』
「そう。お互い頑張りましょ」

 不安があっても前向きに。それが既に出来ている。
 ナックが「数年後にはハーベストを中心にセブンスカイズは回るだろう」と語っていたけれど、本当にそうなるかも知れないと最近は思う。

 敵わない。でも、負けられない。

 同じエクリプスのメンバーだ。先輩としてもう少しだけカッコつけたい。
 せめてナックの前では、一秒でも長く良い所を。
 やる気を高めていたところへチームの決まり文句が飛ぶ。

『チームエクリプス、日食の時間だ』
「了解!」


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《見て下さい! この素晴らしい連携! これが暴言王と、“元”最強の死神です!


『チッ』

 無神経な内容の実況が大音量で鳴り、ナックの舌打ちが小さく響く。
 エクリプス内で『死神』の単語をナックに言う人はいない。そんなことをしたらソルティから鉄拳制裁される。

 だけど、それだけじゃない。
 一番の理由はナックが痛ましい表情をするから。
 どうして異名が嫌いなのかは教えてくれないけれど、あんな表情は見たくない。
 チームが禁句にするには充分な理由だった。

『ナック! 余計なこと考えんじゃねー! お前は俺の尻だけ求めてればいーんだよ!』
『ったく、訴えるぞ?』

 磁石コンビのやり取りが通信で飛ぶ。
 相変わらずの雰囲気に何か口を挟む余地などない。
 ナックが背中を預けるのがソルティだけなのは、嫉妬の想いも僅かに過る。
 ただ、二人が安心して飛べるよう全力でサポートするだけだ。

「あたいが左翼。フォローお願い!」
『あいよ!』

 敵の放ったグレネードが空に大輪の花を咲かせ、爆音をシート越しに味わう中、磁石コンビが波打つジェットコースターを思わせる縦の高速スラロームを描く。

 こちらも連動し、逃げ場を抑えるべく先回りする。
 しかし、敵の立ち回りの方が優れ、連携は巧くいなされた。
 次第にクロワが追い詰められ最少失点の貢献ブロックダウンの流れとなり、予定していたキーパーへの強襲を試みるも失敗。

 ウォッチャーは何気なく落下矯正の連携攻撃キャリブレーションを中断した。正直あり得ない。
 4点が狙える局面は、どれだけ経験を積んでいても緊張するし、冷静さも失う。
 その好機を手放す際に、一糸乱れぬ連携を保つのは本当に難しい。
 簡単にやってのけるウォッチャーを睨み、唇を引き結んだ。

 ロースコアの試合展開が続き、ブーイングの声はモービルギアの駆動音をかき消す勢い。
 耐える展開に口の中は渇き、背中にもびっしょりと汗が伝う。
 状況を打開したくてグリップに力を込め、ナックの銀色の機体と並走した。

「ナックさん、あたいが活路を開こうか?」

 気づいたら口を開いて出た言葉。

『いや、問題ない。このままチェイサー主体で攪乱を続行する。いくぞチーザ、ウェハー』

 積極的に提案するも、すげなく断られた。
 けど、気落ちしている暇はない。

 今は遠い背中。その背を必死に追い続ける。
 いつか本当の意味で肩を並べて戦える日を夢見て。

 戦局はクロワが墜とされ、苦しい中でソルティの叱咤が飛んでいる。
 戸惑い気味のナック。

『......皆、俺が自由に動いても良いか?』

 この問いに否を唱える者など、エクリプスのメンバーには一人もいない。
 ナックが本音を吐露してくれたことに、思わず顔が綻んでしまう。

「勿論、あたいがフォローする」


 ───────────────────


 戦場で最強と呼ばれた男の本気。
 銀色のモービルギアは、右肩に搭載したパワースラスターを起動し、圧倒的な技術と動きで空間を支配する。

 敵陣を切り裂く姿はまるで荒れ狂う竜巻。交差するたびに敵エースへとダメージを蓄積させていく。
 数度の激しい衝突を繰り返し、戦局はナック優位へと傾き出した。

 観る側も高揚して浮足立つほどの強さ。
 ナックは敵のチェイサーも同時に難なく捌き、誘いルアーに引っ掛かりそうだった味方を止める指揮も見せる。

『各機、キーパーへのプレスを継続』

 あぁ、頼もしい。これがエクリプスのリーダーだ。
 世界中へ自慢したい気持ちを抑え「了解!」と通信を返した。
 ナックが戦場で暴れ回る影に潜み、敵キーパーのオーバーヒートを狙うべく追い続ける。

 観客の瞳は、両エース対決へと釘付けだ。
 それで構わない。チームの一員としてここでしっかりと仕事をする。
 最後にナックが見てくれたらそれでいい。

 グレネードを撒き、爆発で逃げる方向を制限していく。
 敵は、無理して爆風を突っ切る選択を選んだが、確実に熱負荷は高められた。

 チーザやウェハーと連携し、逃走ルートの頭を押さえて逃げ道を歪ませていく。
 決して楽はさせないように。
 敵味方のマイクロミサイルが入り乱れ、機内温度も急上昇。
 ヘルメット内の汗の匂いも強くなり、唇を舐めれば塩の味がした。

 こちらのオーバーヒートも気にし始めた頃、ふとナックの戦闘を見やる。
 どうやら決着は近い。

『赤のベッドに誘ったのはそっちだろう? 逃げるなよ、エースキラー』

 ナックの通信が届いた瞬間、即座に全体の位置関係を判断し、勝った時に赤サークルが狙えるポイントへと全速力で飛ばす。
 いの一番で信頼に応えたい。その一心で。
 気持ちが逸るままグリップを起こし、機体で大きく弧を描く。

 ......届け! 間に合え!

 ナックは勝つ。
 どれだけ苦しくともエースキラー如きに負けるわけが無い。エクリプスの面々がその強さを一番良く知っていた。

 だから必ずそこへ敵がくると確信できる。
 内臓を揺さぶられつつも最速でポイントへ到達し、スラスターを吹かして機体姿勢を直す。

 心臓の鼓動が早い。
 心の中を落ち着かせ、息を整える。
 だけど、ここから一人で補正しても赤には届かない。高度が足りず、一撃入れるのが関の山だろう。

 決め手を欠く中、右斜め後ろにモービルギアの駆動音が聞こえた。
 振り向いて確認するまでも無い。ウェハーだ。
 ベテランの彼ならば、瞬時に距離が届かないと判断し、きっとフォローに入る。

 ......あたいとは違う。

 ナックもソルティもウェハーには絶対の信頼を寄せているし、どんな局面でも「ここに誰かいて欲しい」と思ったところにウェハーはいる。
 チーザの高い空間把握能力が無くても、ハーベストやクロワほどの技術が無くても、助けが必要なところには顔を出す。

 経験?
 そんな安易な言葉では片付けられない。
 彼は最強の磁石コンビが頼る凄腕のチェイサーだ。

 かつて敵チームとして何度も対戦したが、当時は凄さが分からなかった。
 味方になってその凄さを初めて知る。

 皆が凄すぎるから、焦りと気負いで後輩も頼れず、結果も出せなかった。
 片や頼りになるウェハーは常にチームを優先。自分一人でどうにかしようと固執したりはせず、チームをいつも下支えしている。

 ウェハーの頼もしさを感じつつ、カメラ中央にエース対決を捉えた刹那、ナックの繰り出したラリアットが見事に決まる。

『ここだ、キャリブレ開始』

 スピーカーから声が聞こえた時には既に照準を合わせていた。

「了解、任せて」

 信頼に応えて放つ。赤サークルへと運ぶ一射を。
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