ホーム競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜第二十五話 砕かれた星たち
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第二十五話 砕かれた星たち

《おおっと! 黒雷による、アンチウェポンへのアンチウェポン返しだぁ!


 大興奮の声があがる。まさにお株を奪われた感じの超絶技巧。
 遠距離を完封され、距離を詰められたクロワは今、完全に格闘戦へ引きずり込まれた。
 全速力で翔けるソルティ。

『ちょっとは振り向けや、コラァ!』

 必死に追いすがるも間に合わず、ラグビーのトライに近い形で赤へと連れこまれ、最高得点4点へと叩きこまれた。
 異例だと叫ぶ実況。


《ゴーーール! アンチウェポンが墜ちました! 両チーム、キーパーとバックスが0枚という異常事態です! 荒れた決勝戦となりましたーーー!


 キーパーとバックスが全機墜ちる試合など記憶にない。
 一時仕切り直しをしたいところだが、黒雷は勢いのまま瞬く間にフィールドを一周して、体勢を立て直したばかりのチーザを強襲してきた。

 黒雷のフルブースト運用は、完璧な効率そのもの。
 チーザも振りほどこうとスピードを上げて高度を不規則に変え続ける。

「チーザ!」

 駆けつけようにもここまでの無理がたたり、ブースターが熱に悲鳴をあげて飛ばせず、ソルティやウェハーも同様の状況。
 こちらを気遣ってか、チーザからは頼もしい通信が入る。

『先輩! ウチ、ただではやらせませんから! ちゃんと熱いものを出して貰います!』

 逃げきれないと判断したチーザは、黒雷のオーバーヒートを引きだす最少失点の貢献ブロックダウンへと切り替えた。
 致命的な直撃を避けつつ最短距離はグレネードで阻み、やられるまでの猶予と敵の飛行距離を稼ぐ。

 黒雷は被弾面を最小に、チーザ機の予備動作から動きを先回りし続け、数度の打撃でチーザを粉砕。
 体勢を崩した天地逆さまのチーザが、そのまま黒雷に赤サークルへ連れこまれ、再びトライのように地表へと叩きこまれた。
 介入の余地が全くない電光石火の一連の流れ。


《ゴーーール! またまた赤です! 3連続赤のレッドスクランブル! こんなのは観たことがなーーーい!


 地面との激突音と怒濤のゴールコールが虚空に響く。
 チーザも4点をとられた。

『いったーーい! ウチ、こんな体勢初めて!』

 強引に墜とされていたが、文句の音声がすぐに届いて安堵する。
 気絶するほどのダメージではなかったようだ。
 10点差もあった貯金が一気に詰まってきて、既に射程圏内となったことに寒気を感じる。

 黒雷を見やれば、機体の黒く這う光ネオンラインが不気味に思え、唇が震えていく。
 そこへソルティの怒声が懸念と寒気を吹き飛ばす。

『点なんざ気にすんな! 相手はもうカラッカラじゃねーか! 鍋が焦げつくまで火力あげっぞオラァ!』

 ノイズと音割れの酷い声を聞き、過ぎたことを考えても仕方がないと冷静になって現状を整理する。

 敵は残り二機。
 活躍を見せる黒雷は、無駄のない動きで余力を残している。
 だが、奴についていく機体はそうでもない。

 オーバーヒートで足が止まりかけている敵アタッカーへ標的を定め、ウェハーとも連携して追いこみをかけていく。
 ソルティも同じ考えのようだ。

「決めるぞ、速度を上げろ!」

 風切り音が振動となってシートを揺らす。
 低空をソルティが担当し、上空へ向きを変えると、こちらの意を組んだウェハーは横方向への逃げ場を絞っていく。

 空へ飛翔すると陽射しの強い太陽が視界に入る。

 西へ傾いた日を見て、決着のときは近いと意思を固め、グリップを起こす。
 すると、急接近する黒雷が眼下に映った。
 恐ろしさはある。だが今は、仲間の期待に応えたい気持ちの方が遥かに強い。

「引き受ける。確実に獲れ!」
『おう! ウェハー! 各個撃破シングルだ、続け!』

 黒雷からの妨害行為を大周りのターンでいなす。
 敵も既に手持ちの実弾が底をつき始めているのだろう。
 それほど無理をせずとも捌くことができた。

 フィールド外周よりに飛行ラインを変え、空気を割くように飛ぶも、何故か追ってこない黒雷。即座に喚起を促す。

「そちらにいくようだ。落雷注意」
『なめんなよ! こちとら磁石コンビとおまけ付きで名を馳せてんだよ!』

 ソルティに近寄った黒雷を、前後挟撃の形へと導く。

「上出来だ。続けウェハー」
『あいよ!』

 黒雷を封じこめ、残る敵アタッカーを追うも、敵は逃げの一手。
 しかし逃走先はウェハーと連携して全て抑えこむ。
 逃げ場も失くし、息を上げた敵の背中にソルティの殴打が炸裂した。

『なんだよ! 後ろからが好きか! 凄いのぶち込んだから派手にイキな!』

 どちらにせよ崩せた。間髪入れず、北側の赤へ墜とすべく射撃を当てる。
 わずかに届かないが、残りはウェハーが補正するはずだ。

「ウェハー?」

 ウェハーからの追撃がこない。
 不安を感じ、慌ててそちらへ意識を向けると、肉薄する黒雷とウェハーの一騎打ちが既に始まっていた。
 戦闘を見やるのと同時、下からビリビリとした余波と共に撃墜音が響く。
 すかさず実況の声が耳に届いた。


《ゴーール! 青です! さぁ、いよいよルシファーは後がなくなりましたー! 連覇の途絶える歴史的瞬間がやってくるのかーー?


 墜落結果は一瞥すらせず、ウェハーと黒雷の一騎打ちだけをカメラで捉える。
 応援が追いつくよりも先に、墜とされそうだ。
 嫌な気分に心臓が早まり、ウェハーからも自己申告が上がる。

『ブロックダウンしやす!』

 追いすがるよりも先に力尽きたウェハーだが、さすがに赤を取らせるほどのヘマはしなかった。
 サークルの外へと降り立ち、立ち昇る土煙と爆音。
 一瞬遅れで歓声も鳴る。


《黒雷が返したーー! しかし、ダウン止まりーー! ゴールはならなかった!


『よくやった! 今度、娘も一緒に奢ってやらぁ!』
「後は任せろ!」

 仲間たちの献身に応えたい。グリップへ力をこめ、黒雷を鋭く睨んだ。
 フィールドの中央に悠然と佇む黒雷。
 既にソルティ含め、残るのは3機のみ。

『やーーっと、最終局面だな。雷は火気休暇も・・ ・所望されてる見たいだけどよぉ、お盆じゃあるまいし、積乱雲もあくせく働く職場だよなぁ?』
「当然だ。ブラックだからな!」

 休みなど与えるつもりもない。
 2対1と圧倒的優位性を活かし、限界まで追い立てるだけだ。
 余計に走らせるべく、最後の残弾だったマイクロミサイルポッドを撒く。
 しかし、一射ごとに数発をまとめて撃ち落とし、効率良く処理されてしまう。

『あんにゃろう、可愛げがないぜ! 少しはデレろっての! 攻略しがいがねぇぞコラァ!』

 遠距離では埒が明かないと判断したのか、ソルティは突進していく。
 すぐ前のソルティを追った。

「ソルティ、このまま時間切れを狙うのも選択だぞ?」
『あ? てめぇで考えてもねーことを投下すんのはやめろナック!』

 叱責を受け「確かに」と思い直し、喉の奥をククッと鳴らす。
 この試合、味方がやられたのは全て黒雷であり、正直面白くないと感じていた。

 どうせここまで来たのなら、観客も完全決着しか求めていないと思う。
 大きく旋回し、G圧で体を横に叩きつけられながらも憎まれ口を叩く。

「ヘマするなよ?」
『へっ! 誰にいってやがる! お前の背中だぞ?』

 ソルティと二人、飛行機雲の螺旋を紡いで黒い機体へと追いすがる。
 濃紺と銀のモービルギアは、互いを補い合い黒雷の飛べる世界を削り、決定的な勝機をうかがっていた。

 黒雷は過去に捉われた亡霊。
 思考加速しすぎて、未来を見れなくなった悲しい兵士だ。

 どれだけ読めても、二対一の状況は覆せないだろう。
 決着で目を覚ましてくれることを切に願う。
 そう考えていた矢先のこと。

『あ! やべ、ヒートだわ』

 ソルティの速度が急落し、この展開を待っていた黒雷が急旋回してソルティに牙を向けた。
 対応の速さから、このミス含め黒雷の罠と思われる。
 ソルティの立て直す時間を稼ごうと軌道上に割って入り、黒雷と対峙した。身の毛のよだつ殺気とプレッシャーに息を飲みつつ、背後のソルティへ端的に問う。

「ソルティ、時間は?」
『わりぃ、10秒くれ!』

 眼前の黒雷は瞬きほどのロールスラスターを吹かす。
 即応して左ツイストロール軌道へ備えるも、黒雷は直進して通り抜けていった。

 でなければ気づけないほどの細かいフェイク。
 嵌められたことを悟り奥歯がギリと音を立てる。
 背中越しに打撃音が聞こえ、ソルティの音声にも今日一番のノイズがのった。

『今日は譲ってやる! だがな! 4点はヤだね!』

 ソルティは意地でも赤サークルを避けるべく、グレネードを手元で爆発させて黄色へと強引に飛びこんだ。
 自爆してでも赤を回避する様子に会場が啞然とする中、ゴールコールが飛ぶ。


《エースを残して21点ずつの同点! ついに一騎打ちだー!


 実況の声に紛れこんでくるソルティの怒声。

『俺のブロックダウンを無駄にすんじゃねーぞ!』
「無論だ。決着をつけてくる!」

 記憶にある限りでは、ソルティが初めてのブロックダウンをした。
 今日はこれだけでも記念すべき日だと思う。
 ソルティの声に続いたのは、意識を取り戻した仲間からの激励たち。

『先輩!』
『ナックさん、貴方なら勝てます!』

 チーザとクロワから呼ばれたことで、全身に活力が漲る。

『あたいも信じてる!』
『僕、初めての時、ナックさんがいいなって思ったんです! 負けないでください!』

 皆の叫びがスピーカーの音を割る。
 鼓膜を飛び越えて心臓を鳴らし、心の殻にヒビを入れた。

 魂の奥底から「勝ちたい」と願い、自然とグリップへ伝える力がこもっていく。
 そこへウェハーが、らしくもない大声で叫んだ。

『ナックさん、俺はあんたに色んなことを教わった。だから見せてくれ、この先を! 俺と娘に、マリンがいたはずの未来を! いっっっけーーー兄貴―――・・・・・!』

 懐かしい呼ばれ方だ。
 強化兵士で家族のいないマリンからはそう呼ばれていた。
 マリンは廃棄が決まった後も、ウェハーと娘の心配ばかりをしていたことを鮮明に思いだす。
 全ての思いを言葉に乗せ、力強く答えた。

「ウェハー......任せろ!」
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競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜作者:元毛玉(もとけだま)
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《おおっと! 黒雷による、アンチウェポンへのアンチウェポン返しだぁ!


 大興奮の声があがる。まさにお株を奪われた感じの超絶技巧。
 遠距離を完封され、距離を詰められたクロワは今、完全に格闘戦へ引きずり込まれた。
 全速力で翔けるソルティ。

『ちょっとは振り向けや、コラァ!』

 必死に追いすがるも間に合わず、ラグビーのトライに近い形で赤へと連れこまれ、最高得点4点へと叩きこまれた。
 異例だと叫ぶ実況。


《ゴーーール! アンチウェポンが墜ちました! 両チーム、キーパーとバックスが0枚という異常事態です! 荒れた決勝戦となりましたーーー!


 キーパーとバックスが全機墜ちる試合など記憶にない。
 一時仕切り直しをしたいところだが、黒雷は勢いのまま瞬く間にフィールドを一周して、体勢を立て直したばかりのチーザを強襲してきた。

 黒雷のフルブースト運用は、完璧な効率そのもの。
 チーザも振りほどこうとスピードを上げて高度を不規則に変え続ける。

「チーザ!」

 駆けつけようにもここまでの無理がたたり、ブースターが熱に悲鳴をあげて飛ばせず、ソルティやウェハーも同様の状況。
 こちらを気遣ってか、チーザからは頼もしい通信が入る。

『先輩! ウチ、ただではやらせませんから! ちゃんと熱いものを出して貰います!』

 逃げきれないと判断したチーザは、黒雷のオーバーヒートを引きだす最少失点の貢献ブロックダウンへと切り替えた。
 致命的な直撃を避けつつ最短距離はグレネードで阻み、やられるまでの猶予と敵の飛行距離を稼ぐ。

 黒雷は被弾面を最小に、チーザ機の予備動作から動きを先回りし続け、数度の打撃でチーザを粉砕。
 体勢を崩した天地逆さまのチーザが、そのまま黒雷に赤サークルへ連れこまれ、再びトライのように地表へと叩きこまれた。
 介入の余地が全くない電光石火の一連の流れ。


《ゴーーール! またまた赤です! 3連続赤のレッドスクランブル! こんなのは観たことがなーーーい!


 地面との激突音と怒濤のゴールコールが虚空に響く。
 チーザも4点をとられた。

『いったーーい! ウチ、こんな体勢初めて!』

 強引に墜とされていたが、文句の音声がすぐに届いて安堵する。
 気絶するほどのダメージではなかったようだ。
 10点差もあった貯金が一気に詰まってきて、既に射程圏内となったことに寒気を感じる。

 黒雷を見やれば、機体の黒く這う光ネオンラインが不気味に思え、唇が震えていく。
 そこへソルティの怒声が懸念と寒気を吹き飛ばす。

『点なんざ気にすんな! 相手はもうカラッカラじゃねーか! 鍋が焦げつくまで火力あげっぞオラァ!』

 ノイズと音割れの酷い声を聞き、過ぎたことを考えても仕方がないと冷静になって現状を整理する。

 敵は残り二機。
 活躍を見せる黒雷は、無駄のない動きで余力を残している。
 だが、奴についていく機体はそうでもない。

 オーバーヒートで足が止まりかけている敵アタッカーへ標的を定め、ウェハーとも連携して追いこみをかけていく。
 ソルティも同じ考えのようだ。

「決めるぞ、速度を上げろ!」

 風切り音が振動となってシートを揺らす。
 低空をソルティが担当し、上空へ向きを変えると、こちらの意を組んだウェハーは横方向への逃げ場を絞っていく。

 空へ飛翔すると陽射しの強い太陽が視界に入る。

 西へ傾いた日を見て、決着のときは近いと意思を固め、グリップを起こす。
 すると、急接近する黒雷が眼下に映った。
 恐ろしさはある。だが今は、仲間の期待に応えたい気持ちの方が遥かに強い。

「引き受ける。確実に獲れ!」
『おう! ウェハー! 各個撃破シングルだ、続け!』

 黒雷からの妨害行為を大周りのターンでいなす。
 敵も既に手持ちの実弾が底をつき始めているのだろう。
 それほど無理をせずとも捌くことができた。

 フィールド外周よりに飛行ラインを変え、空気を割くように飛ぶも、何故か追ってこない黒雷。即座に喚起を促す。

「そちらにいくようだ。落雷注意」
『なめんなよ! こちとら磁石コンビとおまけ付きで名を馳せてんだよ!』

 ソルティに近寄った黒雷を、前後挟撃の形へと導く。

「上出来だ。続けウェハー」
『あいよ!』

 黒雷を封じこめ、残る敵アタッカーを追うも、敵は逃げの一手。
 しかし逃走先はウェハーと連携して全て抑えこむ。
 逃げ場も失くし、息を上げた敵の背中にソルティの殴打が炸裂した。

『なんだよ! 後ろからが好きか! 凄いのぶち込んだから派手にイキな!』

 どちらにせよ崩せた。間髪入れず、北側の赤へ墜とすべく射撃を当てる。
 わずかに届かないが、残りはウェハーが補正するはずだ。

「ウェハー?」

 ウェハーからの追撃がこない。
 不安を感じ、慌ててそちらへ意識を向けると、肉薄する黒雷とウェハーの一騎打ちが既に始まっていた。
 戦闘を見やるのと同時、下からビリビリとした余波と共に撃墜音が響く。
 すかさず実況の声が耳に届いた。


《ゴーール! 青です! さぁ、いよいよルシファーは後がなくなりましたー! 連覇の途絶える歴史的瞬間がやってくるのかーー?


 墜落結果は一瞥すらせず、ウェハーと黒雷の一騎打ちだけをカメラで捉える。
 応援が追いつくよりも先に、墜とされそうだ。
 嫌な気分に心臓が早まり、ウェハーからも自己申告が上がる。

『ブロックダウンしやす!』

 追いすがるよりも先に力尽きたウェハーだが、さすがに赤を取らせるほどのヘマはしなかった。
 サークルの外へと降り立ち、立ち昇る土煙と爆音。
 一瞬遅れで歓声も鳴る。


《黒雷が返したーー! しかし、ダウン止まりーー! ゴールはならなかった!


『よくやった! 今度、娘も一緒に奢ってやらぁ!』
「後は任せろ!」

 仲間たちの献身に応えたい。グリップへ力をこめ、黒雷を鋭く睨んだ。
 フィールドの中央に悠然と佇む黒雷。
 既にソルティ含め、残るのは3機のみ。

『やーーっと、最終局面だな。雷は火気休暇も・・ ・所望されてる見たいだけどよぉ、お盆じゃあるまいし、積乱雲もあくせく働く職場だよなぁ?』
「当然だ。ブラックだからな!」

 休みなど与えるつもりもない。
 2対1と圧倒的優位性を活かし、限界まで追い立てるだけだ。
 余計に走らせるべく、最後の残弾だったマイクロミサイルポッドを撒く。
 しかし、一射ごとに数発をまとめて撃ち落とし、効率良く処理されてしまう。

『あんにゃろう、可愛げがないぜ! 少しはデレろっての! 攻略しがいがねぇぞコラァ!』

 遠距離では埒が明かないと判断したのか、ソルティは突進していく。
 すぐ前のソルティを追った。

「ソルティ、このまま時間切れを狙うのも選択だぞ?」
『あ? てめぇで考えてもねーことを投下すんのはやめろナック!』

 叱責を受け「確かに」と思い直し、喉の奥をククッと鳴らす。
 この試合、味方がやられたのは全て黒雷であり、正直面白くないと感じていた。

 どうせここまで来たのなら、観客も完全決着しか求めていないと思う。
 大きく旋回し、G圧で体を横に叩きつけられながらも憎まれ口を叩く。

「ヘマするなよ?」
『へっ! 誰にいってやがる! お前の背中だぞ?』

 ソルティと二人、飛行機雲の螺旋を紡いで黒い機体へと追いすがる。
 濃紺と銀のモービルギアは、互いを補い合い黒雷の飛べる世界を削り、決定的な勝機をうかがっていた。

 黒雷は過去に捉われた亡霊。
 思考加速しすぎて、未来を見れなくなった悲しい兵士だ。

 どれだけ読めても、二対一の状況は覆せないだろう。
 決着で目を覚ましてくれることを切に願う。
 そう考えていた矢先のこと。

『あ! やべ、ヒートだわ』

 ソルティの速度が急落し、この展開を待っていた黒雷が急旋回してソルティに牙を向けた。
 対応の速さから、このミス含め黒雷の罠と思われる。
 ソルティの立て直す時間を稼ごうと軌道上に割って入り、黒雷と対峙した。身の毛のよだつ殺気とプレッシャーに息を飲みつつ、背後のソルティへ端的に問う。

「ソルティ、時間は?」
『わりぃ、10秒くれ!』

 眼前の黒雷は瞬きほどのロールスラスターを吹かす。
 即応して左ツイストロール軌道へ備えるも、黒雷は直進して通り抜けていった。

 でなければ気づけないほどの細かいフェイク。
 嵌められたことを悟り奥歯がギリと音を立てる。
 背中越しに打撃音が聞こえ、ソルティの音声にも今日一番のノイズがのった。

『今日は譲ってやる! だがな! 4点はヤだね!』

 ソルティは意地でも赤サークルを避けるべく、グレネードを手元で爆発させて黄色へと強引に飛びこんだ。
 自爆してでも赤を回避する様子に会場が啞然とする中、ゴールコールが飛ぶ。


《エースを残して21点ずつの同点! ついに一騎打ちだー!


 実況の声に紛れこんでくるソルティの怒声。

『俺のブロックダウンを無駄にすんじゃねーぞ!』
「無論だ。決着をつけてくる!」

 記憶にある限りでは、ソルティが初めてのブロックダウンをした。
 今日はこれだけでも記念すべき日だと思う。
 ソルティの声に続いたのは、意識を取り戻した仲間からの激励たち。

『先輩!』
『ナックさん、貴方なら勝てます!』

 チーザとクロワから呼ばれたことで、全身に活力が漲る。

『あたいも信じてる!』
『僕、初めての時、ナックさんがいいなって思ったんです! 負けないでください!』

 皆の叫びがスピーカーの音を割る。
 鼓膜を飛び越えて心臓を鳴らし、心の殻にヒビを入れた。

 魂の奥底から「勝ちたい」と願い、自然とグリップへ伝える力がこもっていく。
 そこへウェハーが、らしくもない大声で叫んだ。

『ナックさん、俺はあんたに色んなことを教わった。だから見せてくれ、この先を! 俺と娘に、マリンがいたはずの未来を! いっっっけーーー兄貴―――・・・・・!』

 懐かしい呼ばれ方だ。
 強化兵士で家族のいないマリンからはそう呼ばれていた。
 マリンは廃棄が決まった後も、ウェハーと娘の心配ばかりをしていたことを鮮明に思いだす。
 全ての思いを言葉に乗せ、力強く答えた。

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