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訊ねる。
「......はぁ?」
ルシアンは二人を見た。
父。
エドガルド・フォン・ヴァルディア。
そして。
帝国宰相ローデリック・グランフェルト。
「いや、ちょっと待って」
「何でしょう?」
「何でしょう、ではなく」
ルシアンがローデリックへ顔を向ける。
「何で?」
「何がですかな?」
「セシルとの結婚」
「ああ」
「何で認めないの?」
「認められる理由がないからですな」
「............」
ルシアンは首を傾げた。
「俺、第三皇子だよ?」
「存じております」
「父上、皇帝だよ?」
「存じております」
「金もあるよ?」
「存じております」
「顔もいいよ?」
「それは、じゃがいも」
「誰がじゃがいもだ!
コラぁ!
?」
ローデリックは涼しい顔で書類をめくった。
「ルシアン」
エドガルドが口を開く。
「お前、自分が世間からどう見られているか知っているか?」
「ん?」
「答えてみろ」
「えーっと......」
ルシアンは指を折る。
「怠惰」
「うむ」
「酒好き」
「うむ」
「政治嫌い」
「......うむ」
「働かない」
「.........うむ」
「皇位に興味なし」
「............うむ」
「完璧じゃん」
「親として残念過ぎるぞ」
エドガルドが額を押さえた。
「はぁ......それが問題なのだ」
「へ?」
「皇族とは、血筋だけで務まるものではない」
エドガルドが椅子へ深く腰掛ける。
「民に認められ、貴族に認められ、他国からも相応の人物として扱われる必要がある」
「まあ、そりゃそうだろうけど」
「お前には、それがない」
「............」
「第三皇子という地位はある。
だが、ルシアン個人に対する世間の評価はどうだ?」
「......怠惰?」
「帝級ニートだ。
自分より立場が上の者への敬称ではないだろうが」
「いや、でもさ」
ルシアンが眉を寄せる。
「別に皇帝になりたいわけじゃないし」
「そこではないのです」
ローデリックが口を挟んだ。
「殿下。
今回は皇位継承の話ではありません」
「じゃあ何?」
「婚姻です」
ローデリックは書類を置いた。
「我がグランフェルト侯爵家は、帝国宰相を務める家です」
「ああ」
「そしてセシルは、その家の長女」
「知ってる」
「ならば、話は簡単でしょう」
「全然簡単じゃないんだけど」
ローデリックが笑う。
「皇族であれば、どのような人物であっても侯爵家の令嬢を娶れるとお考えですかな?」
「......いや」
「そうでしょう」
ローデリックの声が低くなる。
「家格だけの問題ではありません。
婚姻する相手が、外部から認められる人物であること。
それが大前提です」
「............」
「ましてや、我が家の場合はなおさらです」
ローデリックが腕を組む。
「帝国宰相という立場は、なかなか厄介なものでしてな」
「知ってる。
絶対やりたくない」
「ホント、それ」
「おい、ローデリック」
エドガルドが呆れた声を出す。
「陛下。
事実でございます」
「否定はせんが」
「でしょう?」
ローデリックが笑った。
そして。
再びルシアンへ視線を戻す。
「宰相には敵が多い」
先ほどまでの軽さが消えた。
「政策に反対する者。
権益を奪われた者。
私の失脚を望む者」
「............」
「表立って敵対する者ばかりではありません。
笑顔で握手を交わしながら、こちらの失点を探っている者もいる」
ルシアンは黙って聞いていた。
「だからこそ、付け入る隙を与えるわけにはいかないのです」
「それと俺に何の関係が?」
「今の殿下が、その隙になり得る。
そういうことです」
「............」
「怠惰で、政治に興味もなく、皇族としての責務すら果たさない第三皇子」
ローデリックは淡々と続ける。
「そのような人物を娘婿に迎えたとなれば、我が家の判断を疑う者も出るでしょう」
「......なるほど」
「それだけではありません」
ローデリックの目が細くなる。
「侯爵家への批判は、いずれセシルにも向かう」
「............」
「娘がどれほど立派に振る舞おうと、夫の評判によって、その立場が損なわれる可能性がある」
静かな声だった。
「私は宰相である以前に、あの子の父親です」
ルシアンが顔を上げる。
「娘の幸せに影を落とす可能性がある婚姻を、認めるわけにはいきません」
政務室の時計が時を刻む。
エドガルドは口を挟まなかった。
ルシアンも珍しく黙っていた。
「......つまり」
ルシアンが口を開く。
「俺がセシルと結婚すると、セシルが面倒なことになるかもしれないってこと?」
「その通りです」
「俺のせいで?」
「今のままであれば」
「......そうかぁ」
ルシアンは天井を見上げた。
面倒だ。
実に面倒だ。
自分がどう思われようと、知ったことではない。
怠惰。
無能。
穀潰し。
好きに呼べばいい。
だが。
セシルがそのせいで困るというのなら。
話は少し違う。
「......ふーん」
ルシアンが椅子へ深く身体を預けた。
「で、ローデリック」
「何でしょう?」
「俺との結婚自体が嫌なの?」
ローデリックは即答しなかった。
しばらくルシアンを見つめる。
「いいえ」
「ん?」
「殿下が、世間から相応の人物として認められるのであれば」
ローデリックは穏やかに笑った。
「セシルとの婚姻を認めることに異存はありません」
「......マジ?」
「ええ」
「本当に?」
「無論」
ルシアンの背筋が伸びた。
「父上も?」
「ああ」
エドガルドが頷く。
「皇族として相応の評価を得ることができれば、俺も反対はせん」
「............」
ルシアンは二人を交互に見る。
エドガルド。
ローデリック。
どちらも真顔だった。
「......なるほどね」
ルシアンが腕を組む。
そして。
少しだけ考えた。
「じゃあさ」
二人が顔を上げる。
「どうすればいい?」
エドガルドとローデリック。
その目が、一瞬だけ交わった。
あとがき
朔來 織
最後までお読みいただき、ありがとうございます。 『Lazy Emperor』は毎週月・水・金の18:00更新です。 面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、 リアクションやコメントで応援していただけると嬉しいです。 ルシアンは働きたくありません。 作者は働くしかありません。 それでは、次話で。 ルシアン働け。
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Lazy Emperor
作者:朔來 織
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ルシアンは二人を見た。
父。
エドガルド・フォン・ヴァルディア。
そして。
帝国宰相ローデリック・グランフェルト。
「いや、ちょっと待って」
「何でしょう?」
「何でしょう、ではなく」
ルシアンがローデリックへ顔を向ける。
「何で?」
「何がですかな?」
「セシルとの結婚」
「ああ」
「何で認めないの?」
「認められる理由がないからですな」
「............」
ルシアンは首を傾げた。
「俺、第三皇子だよ?」
「存じております」
「父上、皇帝だよ?」
「存じております」
「金もあるよ?」
「存じております」
「顔もいいよ?」
「それは、じゃがいも」
「誰がじゃがいもだ!
コラぁ!
?」
ローデリックは涼しい顔で書類をめくった。
「ルシアン」
エドガルドが口を開く。
「お前、自分が世間からどう見られているか知っているか?」
「ん?」
「答えてみろ」
「えーっと......」
ルシアンは指を折る。
「怠惰」
「うむ」
「酒好き」
「うむ」
「政治嫌い」
「......うむ」
「働かない」
「.........うむ」
「皇位に興味なし」
「............うむ」
「完璧じゃん」
「親として残念過ぎるぞ」
エドガルドが額を押さえた。
「はぁ......それが問題なのだ」
「へ?」
「皇族とは、血筋だけで務まるものではない」
エドガルドが椅子へ深く腰掛ける。
「民に認められ、貴族に認められ、他国からも相応の人物として扱われる必要がある」
「まあ、そりゃそうだろうけど」
「お前には、それがない」
「............」
「第三皇子という地位はある。
だが、ルシアン個人に対する世間の評価はどうだ?」
「......怠惰?」
「帝級ニートだ。
自分より立場が上の者への敬称ではないだろうが」
「いや、でもさ」
ルシアンが眉を寄せる。
「別に皇帝になりたいわけじゃないし」
「そこではないのです」
ローデリックが口を挟んだ。
「殿下。
今回は皇位継承の話ではありません」
「じゃあ何?」
「婚姻です」
ローデリックは書類を置いた。
「我がグランフェルト侯爵家は、帝国宰相を務める家です」
「ああ」
「そしてセシルは、その家の長女」
「知ってる」
「ならば、話は簡単でしょう」
「全然簡単じゃないんだけど」
ローデリックが笑う。
「皇族であれば、どのような人物であっても侯爵家の令嬢を娶れるとお考えですかな?」
「......いや」
「そうでしょう」
ローデリックの声が低くなる。
「家格だけの問題ではありません。
婚姻する相手が、外部から認められる人物であること。
それが大前提です」
「............」
「ましてや、我が家の場合はなおさらです」
ローデリックが腕を組む。
「帝国宰相という立場は、なかなか厄介なものでしてな」
「知ってる。
絶対やりたくない」
「ホント、それ」
「おい、ローデリック」
エドガルドが呆れた声を出す。
「陛下。
事実でございます」
「否定はせんが」
「でしょう?」
ローデリックが笑った。
そして。
再びルシアンへ視線を戻す。
「宰相には敵が多い」
先ほどまでの軽さが消えた。
「政策に反対する者。
権益を奪われた者。
私の失脚を望む者」
「............」
「表立って敵対する者ばかりではありません。
笑顔で握手を交わしながら、こちらの失点を探っている者もいる」
ルシアンは黙って聞いていた。
「だからこそ、付け入る隙を与えるわけにはいかないのです」
「それと俺に何の関係が?」
「今の殿下が、その隙になり得る。
そういうことです」
「............」
「怠惰で、政治に興味もなく、皇族としての責務すら果たさない第三皇子」
ローデリックは淡々と続ける。
「そのような人物を娘婿に迎えたとなれば、我が家の判断を疑う者も出るでしょう」
「......なるほど」
「それだけではありません」
ローデリックの目が細くなる。
「侯爵家への批判は、いずれセシルにも向かう」
「............」
「娘がどれほど立派に振る舞おうと、夫の評判によって、その立場が損なわれる可能性がある」
静かな声だった。
「私は宰相である以前に、あの子の父親です」
ルシアンが顔を上げる。
「娘の幸せに影を落とす可能性がある婚姻を、認めるわけにはいきません」
政務室の時計が時を刻む。
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「......つまり」
ルシアンが口を開く。
「俺がセシルと結婚すると、セシルが面倒なことになるかもしれないってこと?」
「その通りです」
「俺のせいで?」
「今のままであれば」
「......そうかぁ」
ルシアンは天井を見上げた。
面倒だ。
実に面倒だ。
自分がどう思われようと、知ったことではない。
怠惰。
無能。
穀潰し。
好きに呼べばいい。
だが。
セシルがそのせいで困るというのなら。
話は少し違う。
「......ふーん」
ルシアンが椅子へ深く身体を預けた。
「で、ローデリック」
「何でしょう?」
「俺との結婚自体が嫌なの?」
ローデリックは即答しなかった。
しばらくルシアンを見つめる。
「いいえ」
「ん?」
「殿下が、世間から相応の人物として認められるのであれば」
ローデリックは穏やかに笑った。
「セシルとの婚姻を認めることに異存はありません」
「......マジ?」
「ええ」
「本当に?」
「無論」
ルシアンの背筋が伸びた。
「父上も?」
「ああ」
エドガルドが頷く。
「皇族として相応の評価を得ることができれば、俺も反対はせん」
「............」
ルシアンは二人を交互に見る。
エドガルド。
ローデリック。
どちらも真顔だった。
「......なるほどね」
ルシアンが腕を組む。
そして。
少しだけ考えた。
「じゃあさ」
二人が顔を上げる。
「どうすればいい?」
エドガルドとローデリック。
その目が、一瞬だけ交わった。
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朔來 織
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