問う。
「セシル」
「何でしょう?」
「どうやったら君と結婚出来る?」
「お断りしましたが」
間髪入れず返された。
ルシアンは怯まない。
むしろ、不敵に口角を上げる。
「甘い」
「何がです?」
「俺が諦めると思っているセシルが」
「殿下よりは現実を見てます」
「ふっ......そういうところ嫌いじゃないぞ」
「斬りましょうか?」
セシルの手が腰元の剣へ伸びた。
「やめて。確実に痛いから。マジすんません」
手のひらクルックル。
生存への判断だけは超一流。
伊達に怠惰に全力を尽くしてはいない。
「......私は婚約破棄された身です」
「バカ上のことは気にしてない。気にしたことがない。あれはジャガイモ」
「それはそう」
即答。
少し離れた場所で。
アレクシスの眉が動いた。
気がした。
気のせいだろう。
気にするまでもない。
「で」
「で、とは?」
「どうすれば君と結婚できるかだ」
「......はぁ」
セシルが小さく息を吐く。
断った程度では、この男は止まらないらしい。
「俺は本気だぞ?」
先ほどまでより、少しだけ真っ直ぐだった。
ほんの少しだけ。
セシルはルシアンを見る。
軽薄。
怠惰。
政治にも興味を示さない。
皇位すら欲しがらない第三皇子。
「父が――」
「うん?ローデリック?」
「グランフェルト侯爵が了承すれば構いません」
「ホントっ!?」
ルシアンの顔が一気に明るくなった。
「あくまでも、私はですが」
「そんなことでいいのっ!?」
「何ですか、その自信は」
「いや、そうかぁ」
ルシアンは一人。
何度も頷く。
ローデリック・グランフェルト。
帝国宰相。
セシルの父。
そして――
ルシアンにとっては話の通じる男。
「侯爵家のために、いずれ何処かへ嫁ぐのが貴族令嬢だと思っておりましたから」
「わかった!約束だぞ!!」
「ええ」
「じゃあ、セシル」
「はい」
ルシアンが踵を返す。
「またなっ!!!」
そのまま。
足早に去っていく。
「......はい?」
セシルだけが残された。
何故。
あの方はあれほど嬉しそうなのでしょう。
◇ ◇ ◇
王宮。
「ヒュー♪ヒュー♪」
長い廊下。
ルシアンは上機嫌で歩いていた。
足取りは軽い。
口笛は鳴らない。
普段なら移動することすら面倒だと言う男。
今日ばかりは違う。
「ローデリックの許可なんて余裕じゃん♪」
鼻歌まで出そうな勢いだった。
セシル本人が言ったのだ。
父が了承すれば構わない。
ならば話は早い。
ローデリックなら――
問題ない。
あの男なら。
少なくとも。
自分が世間で言われているような男ではないことくらい、分かっている。
あとは父上だ。
皇帝。
エドガルド・フォン・ヴァルディア。
父から許可を取る。
ローデリックから許可を取る。
終わり。
簡単。
実に簡単。
「勝ち戦だろ」
ルシアンは政務室の前で足を止めた。
そして。
扉を開く。
――バァン!!――
「父上―!!俺とセシルの結婚認めて―」
軽い。
あまりにも軽い。
帝国皇族の婚姻を相談する声とは思えない。
政務室の中。
机に座る男が一人。
ヴァルディア帝国皇帝。
エドガルド・フォン・ヴァルディア。
そして。
その向かいには――
もう一人。
帝国宰相。
グランフェルト侯爵家当主。
セシルの父。
ローデリック・グランフェルト。
「............」
「............」
「............」
三人の視線が交わった。
「......あれ?」
何か思ってたのと違うぞ。