第十五話 各個撃破
数日間、俺たちは「特級リスク対策社」の拠点である屋敷に立てこもった。
うかつに外へ出てリーベの生存が明らかになることは避けたい。
シャーロットが事前に保存食を蓄えていたのがその助けとなった。
そしてギルドにいるシャーロットの協力員から情報がもたらされた。
魔術で調教された鳥に結ばれた手紙へ目を通すシャーロット。
そこには五年前、同時期に加入した「紅の一党」疑惑のパーティが挙げられていた。
「なあ、その協力員って信用できるのか?」
「ええ。同じ孤児院出身ですから」
事もなげに聞いたヒルダだったが、シャーロットの返答で気まずそうに黙る。
シャーロットが孤児だったとは初めて知った。
「この『デュアルソード』......どうでしょうか」
パーティの一覧からシャーロットが一組の冒険者たちの名前を指差す。
リストにヒルダが顔を近づけしばらく眺めるが、何かに気付いた様子。
「......ああ、典型的な『蒼翠の剣』の後追いだな。見ろ。剣士二人に魔術師とハンターって、おい!」
「はい。先日の襲撃者たちにかなり近い構成です。Bランクパーティですが、チームワークで実力以上の仕事を何件も成功させています」
その「デュアルソード」というパーティはシャーロットの記憶に残るほどの凄腕だったらしい。
日雇いでくすぶっていた俺には知り得ない世界だ。
「チームワークが売りならそれを発揮できる前に潰す。そうだろ?」
「つまりどういうこと?」
問い返すイザベラは俺の神経保護水薬の量産で寝不足気味な様子。
申し訳ないと思いつつ、思いついた反撃作戦を述べる。
「俺たちがされたことと同じことをそのままやり返せばいいんだ。白昼堂々襲撃するわけにもいかないし、一石二鳥だろ?」
「そう簡単な話か? アイツらの方が暗闇での戦闘に慣れてる。なんせ殺し屋だからな」
ヒルダの反対意見。それは想定の範囲内だ。
「アイツらはリーベが死んだと思ってるはずだ。病み上がりで悪いがリーベには少し本気を出してもらう。魔術師とやり合える仲間はいるか?」
「うん、いるよ。僕と昔同じパーティだった魔術師。魔術戦での実力は本物さ」
これで厄介な魔術師は封じた。
そして俺はヒルダに視線を向ける。
「ハンターが逃げ出す前に俺とヒルダで剣士を倒す。俺には『毒耐性』がある。ヒルダは事前に毒対策の水薬を飲んでおいてくれ」
「そんな上手くいくかあ? ハンターなんだから逃げ足も速いだろ」
「いいや。俺も出る。ハルトはハンターに当てる。どうだ?」
名乗り出たのは後方で黙って話を聞いていたヴェルデだった。
「ヴェルデ、ギルド側の人間がこの一件に関わっていいのか?」
「そのギルドに半殺しにされたんだ。俺は切り捨てられたんだよ。アズールに」
どこか悲し気に呟くヴェルデ。
ヴェルデは味方だと考えていいらしい。翠剣ヴェルデが仲間入りしたとなれば百人力だ。
そして俺たちは襲撃プランの立案に話題を移行した。
*
さらに二日後、俺たちは「デュアルソード」がアジトにしている家屋前に集まっていた。
彼らは仕事の後は必ず酒場で一杯飲んでから帰るのが習慣のようだ。
これもシャーロットの協力員からの情報。
「有能だな。シャーロットの協力員は」
上機嫌に騒ぎながらこちらへ向かってくる声が聞こえてくる。
俺たちは正面から「デュアルソード」を迎え撃つつもりでいた。
格の違いを見せつけ、「特級リスク対策社」に以降歯向かえないようにする。
そのためにはヴェルデの力も利用する。
シャーロットは屋敷で肖像画の人物について調べている。
ギルドの仕業かわからないが多くの記録が不自然に消えているらしい。
イザベラは乱戦に巻き込まれないように離れた場所で待機。毒に備えた水薬を準備している。
「なんだテメエら」
黒いローブを着込み、フードを目深に被った俺たちの姿を見て、二人いる剣士の片割れが迷わず剣を抜いた。
裏社会の人間だけあって迷いがない。
もう一人の剣士が柄に手をかけた瞬間、距離を詰めたヒルダの蹴りが胴に突き刺さった。
「ぐ......っ」
「チッ......明日にでもまた挨拶に行こうと思っていたところだ! ここで潰す!」
一人目の剣士の剣が炎をまとう。
二人目の剣士は氷を扱う剣士だったが、初動を完全に封じた。
炎と氷の剣士。「デュアルソード」の由来だ。
「リカルド! 出番だよ!」
敵の後方から放たれた火球は敵の魔術師のもの。
リーベは避ける仕草もなく、巾着から骨粉を撒いて骨の魔術師を召喚した。
リカルドは迫る火球に手を向け、短く詠唱する。カチカチと骨がぶつかり合う。
「生きてたのか! 死霊術師! わざわざ殺されに来たか!」
魔術師の気付きと同時にリカルドの魔力が火球をかき消した。
「死んでるのかもよ? 昔、死後の自分を使役した死霊術師もいたのさ」
炎の剣士の目の色が変わった。
炎の刀身が一直線に伸び、リーベを狙っている。
氷の剣士は自慢の氷剣を出す暇もないまま、ヒルダ相手に防戦一方だ。
「届け!」
「──隙だらけだ」
彼ら「デュアルソード」のアジト。その屋上に佇んでいたヴェルデが飛び降り、一撃で炎の剣士を殴り倒した。
リーベを狙って解き放たれた業火はリカルドの放つ炎によって相殺される。
そしてリカルドは片手間で魔術師の攻撃を無効化する。動揺を隠せない魔術師。
Bランク上位とも言われるパーティは、チームワークを乱されると途端に崩れた。
俺は乱戦に加わらない。
スキル「鷹の目」を使いただ一点を見ていた。
気配を消し、魔術師の後ろに隠れているハンターの姿を。
そして「デュアルソード」が劣勢になった途端、ハンターは勢いよく駆け出した。
(増援を呼びに行ったな)
おそらくすぐに増援を呼びに行かなかったのは「紅の一党」内での評価に影響が出るからだ。
そして俺は神経保護の水薬を飲み込み、ハンターを追う。
暗闇の中でもハンターを逃さないための「鷹の目」は維持、「加速」と「俊敏」、「反射」を追加。
瞬く間にハンターと俺の距離は縮まっていく。
ハンターは目くらましの煙玉を投げたり、まきびしのような暗器をバラまいたりしたが、全て「鷹の目」と「反射」で見破った。
暗闇で転ばないように気を払う必要のあるハンターに対して、「反射」で障害物を避けられる俺ではまともな勝負にならない。
故に俺の放ったジャンプ蹴りが直撃してハンターは地面を転げまわる。
「お前ら......何が目的だ?」
「白々しいな。この間の礼だよ」
矢とナイフが交差した紋章の記された手紙をハンターに突き付ける。
「報復か。殺すなら殺せ......それが闇の流儀だ」
「報復ね。報復は報復でももっと上の奴にするつもりだ。例えば──アズールとかな」
ハンターの顔色が変わる。
俺はハンターの襟を掴んで立たせると、既に勝負がついただろう後方に戻るよう促す。
「後ろ盾のない新興のギルドがゴストリンのギルド評議員に勝てると思っているのか!?」
「勝てるさ。そのためにお前らを利用させてもらう」
多少は手荒な真似をする覚悟はしていたが、呆気なく証拠は見つかった。
奴らは「紅の一党」として働いた際の報酬の帳簿をわざわざつけていたのだ。
暗号化されていたが、シャーロットにかかれば解読は容易いだろう。
後は「デュアルソード」が消される前にアズールを訴える。
それで奴を失脚させられる、はずだった。