第十八話 クラウスの失望/クラウス視点
「存外使えない男だったじゃないか、アズール」
「まだです! 『紅の一党』を動員して奴らを......私が陣頭指揮を執ります!」
クラウスが自身の執務室に呼び出したアズールに対して大きなため息をついた。
「既に『黒牙』と『デュアルソード』がやられている。残りの連中は彼らと正面から戦って勝てる相手ではない。冷静になりなさい」
「......しかし」
「君が死霊術師を殺そうとしたことで彼らを本気にしてしまったようだ。浅慮としか言いようがない」
クラウスはそう言うと大きなため息を吐いた。
アズールの独断による「特級リスク対策社」襲撃によって「紅の一党」の存在が伝わってしまったし、何より死霊術師でないと読み解けない秘密が屋敷にあることが露見してしまった。
だがアズールはまだこの問題を武力行使で解決できる問題だと思っている。
その事実がクラウスに失望の念を抱かせた。
「そもそもだ。何故屋敷の問題を解決しないままでいたのかね」
「屋敷は私の名義で借りていました。家主が金に目をくらませなければ秘密は守り通せたはずです」
「だが結果として屋敷はシャーロットに買い取られた」
アズールは反論を口にしようとするが、クラウスの鋭い眼光に射抜かれ口ごもる。
「君は自身が初めて担当した汚れ仕事から今まで目を背けていた。違うかな。その甘さが今、我々を追い詰めている」
「......おっしゃる通りです」
アズールは間接的にではあるが、人を殺した事実から目を背けていた。
故に証拠となる書類は改竄、消去し、肖像画の顔を黒塗りにしてどんな一族が住んでいたかわからなくなるようにさせた。
だが彼は決してその屋敷を訪れることはなかったし、それ以上の隠蔽工作に関わろうとしなかった。
「スカーレットはどうした。諸々の書類を準備したのは彼女だろう......君は裏切られたようだが」
スカーレットはギルドの第一級書記官であるとともに、アズールの秘書を務めていた。
「......行方を追わせています」
「私の耳には『特級リスク対策社』の屋敷を目指して移動中と入ってきているがね」
「至急確認を......」
秘書の裏切りによって自身の仕組んだ審判を台無しにされたアズールは、内心いきり立っているのがクラウスにはひしひしと伝わっている。
アズールに任せていては再度の暴走は免れない。
「必要ない」
冷たく端的にクラウスが言い放った。
「何故です? スカーレットはギルドの裏事情にも触れています。これ以上奴らに証拠を与えるのは愚策かと......」
「『紅の一党』を使って暗殺に失敗すること以上の愚策があるものか。ギルドが暗殺集団を抱えている以上の情報を彼女が知っていると?」
「それは......ないと思いますが」
陣頭指揮を執ると息巻いていたときと比べ、短時間のやり取りでアズールはすっかり意気消沈してしまった。
「スカーレットは消さなくていい。反撃に何を暴露されるかわからないからな」
「......承知しました」
「真意を見極める必要がある。シャーロットが本気で我々とやり合うつもりなのか、別に目的があってヴェルデと手を組んでいるのか」
クラウスの言葉を聞き終えるや否や、アズールは踵を返してクラウスの執務室を退室した。
(......何かする気だな。結局奴に投資した分の働きは得られなかった。それこそシャーロットのような人物が腹心として欲しいものだが)
「ふっ......ありえない話だ」
自嘲気味に笑うクラウスは、シャーロットが何故ギルドを離れたかを知っている。
特異個体「災禍の竜」──それが全ての始まりだった。