地上への道
水を飲み終えた。
コップは床に置く。
「よしっ」
椅子から立ち上がり、伸びをする。
部屋から出てみよう。
目の前のドアを開く。
「痛っ」
なにかにぶつかった。
「なにしてるんですか?アド様」
「いや、地上の様子を見に行ってみようかと。」
「はぁっ...。先程も申し上げましたが、アド様はまだ地上に出ることもできません。」
すごく残念なものを見るようにマリは僕を見る。
「地上に出れないなら、地上に影響ってどうやって与えるんだよ。」
「そんなの、配下を創造して地上に影響を与えるに決まってるじゃないですか。」
どんな配下がいいだろう。
やっぱりドラゴン?ゴーレム?
「うーん...」
やっぱりドラゴンだね。強そうだし。
さっき水を生み出したように、頭の中で念じる。
とにかく大きく、だけど線は細く。
なにをも砕く顎と鋭い牙。
その息吹は触れたもの全てを溶かす。
「来い!フレイムドラゴン!」
一瞬の静寂。
「来ませんよ。」
「来てほしかったよ。」
「今のAPでは確実にドラゴンを配下にするなんて不可能です。そもそも、ドラゴンを創造できたとして、この密室では、私達は圧死します」
「もーーっ!」
頭を掻いて、自分の単純さを恨む。
「今のAPなら...ギリギリ、外までの道くらいは作れるかもしれません。」
「一応聞くけど、道の作り方も念じるの?」
「そうですよ。水晶玉を触りながら念じてください。ちなみにこの水晶玉は領域のコアになってるので落としたりして絶対に割らないでくださいね。領域と私達が消滅します。」
「ついでみたいに僕の生き死にに関わること言うなよ。」
「私たちのです。」
「そうだね。」
余計な言葉に呆れながら、返事をする。
「もし、よろしければ命じて頂ければ私もコアを操作することができるようになりますので、外までの道を作っておきましょうか?」
「えっ、そんなこともできるの?頼むよ。」
どうやら僕が念じる必要はなかったらしい。
それなら最初から頼めば良かった。
急に周囲を淡い光が包む。
「アド様、できましたよ。」
「おっ、流石マリだね。すごく早い。」
「ありがとうございます。」
「それで道はどこだい?」
「ここですよ。」
マリの尻尾が指す先を見る。
そこには、蛇1匹が通れるくらいの穴が伸びていた。
「あのさ、」
「なんでしょう?」
「いや...」
どうしよう。呆れて、何を言ったらいいか分からない。
...もう、マリになにか頼むのをやめよう。
椅子にへたり込む。そういえば水は飲んだけど、長い間何も食べてない気がする。
「APって残ってる?」
「この通り綺麗に使い切りました!」
マリは透明になったコアを自慢げに見せてくる。別に褒めてるつもりはないんだけど。
「お腹がすいた。」
「我慢するしかないですね。」
「どのくらい?」
「さあ?二日もすればパン一つ分くらいのAPは溜まるかもしれません。」
「そんなの無理!死んじゃうよ!」
「はぁ...仕方ないですね。」
そう言うとマリは、さっき開いたばかりの穴に身を捩じ込む。
「えっ...」
僕の声を置き去りにして、マリは穴の奥へ消えていった。
♢♢♢
チロチロと舌をだす。
情報では得ていたが、初めて草というものの上を這う。
案外ひんやりとする。
部屋の床とはまるで感触も違う。
草の上は、地面が沈むようだ。
青年と呼ぶにはまだ少し幼い。
黒髪黒目で二本の曲がった角を持つ主人は、二日も空腹を我慢できないらしい。
「アド様が命じたのではないですか。」
誰に言うでもなく呟く。
返事はない。
当然だ。
誰もいない月の下、青白い蛇はうねうねと這いながら食料を探す。
その辺をぴょんぴょんと跳ぶ虫を持って帰ったら主人のことだ。
きっとまた騒ぐだろう。
「これは食べ物じゃない!」
そんな声が聞こえてくる気がする。
さっさと木の実のひとつでも見つけて帰ろう。
心地よい夜風が吹く。
草原の奥へと進む。
少し這うと、灯りと毛玉が見える。
初めて見る人間。
人間の集落。
そして、四つん這いの魔獣。
四つん這いの魔獣も主人同様に空腹を我慢できないのだろう。
「死にたくない。」
ふと、集落の方から声が聞こえた。
主人の声よりやや低い。
そういえば、主人は人を殺したくないと言っていた。
別に、主人や私が人を殺すわけではない。
魔獣が人を殺すだけだ。
だけど、主人は魔獣を退治してAPを溜めたいと言っていた。
魔獣を退治する機会があって、見逃して、戻った時にため息を吐かれても癪だ。
灯りのある方へ顔を向けた。
♢♢♢
舌をチロチロとだして、草の上を這う。
夜露なのかなんなのか草は少し湿っている。
目の前には、人間の腕を咥えた四つん這いの縞々の魔獣と人間。
尻もちをついている人間と目が合った。
「ひっ...」
今度は主人よりも高い声。
やることをやって早く木の実を探そう。
知っていた。
魔獣よりも私は優れていると。
今、どうすれば良いのかも。
当たり前のように魔獣に這い寄る。
反動をつけ、尾を振るう。
伸びきった尾が、剣へと変わる。
魔獣の首と体は離れた。
そのまま来た道を戻る。
後ろの方からドサッという音が聞こえる。
しばらくすると低い声と高い声が騒がしく響いてきた。
♢♢♢
だんだんと草の背が高くなってきた。
這いにくいけど、草の隙間から木が見える。
木の実は木にぶら下がっていることを知っている。
背の高い草むらを抜けると水辺があった。
綺麗な水が月に照らされキラキラしてる。
ゲロゲロとなにかの鳴き声も聞こえる。
岩の上にいたなにかを咥える。
口に入れて咀嚼しながら、木々を眺める。
赤い木の実がぶら下がる枝を見つけた。
口の中のものを飲み込んで、枝に向かう。
木を這うと、いつもより尾が引っ張られる気がした。気にせず、枝にたどり着く。
「もうこれでいいでしょう。」
木の実を口に咥えて、降りる。
水辺を過ぎて、背の高い草を抜けたら、広い草原に出た。
草原を奥に進むと、小さな穴があった。
蛇は再び、穴に頭を捩じ込んだ。