ホームあなたがぼくのすべて13
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13

 言うならいまがチャンスかも。

 母に「Klar(クラー)」が好きだということを打ち明けるよりも、ぼくは本当の意味で二人に救われたのだということを、自分の口で伝えたかった。もう一度、今度は、面と向かって。

 あの時は、ラジオ番組に直接電話をする勇気がなかった。もし母に聞かれたら。そちらのほうが勝って、メールをするので精いっぱいだった。

 いまは違う。目の前に、憧れの人たちがいる。

 このチャンスを掴まなかったら、絶対に後悔する。

 ぼくは人ごみに入るのが嫌いだ。その人たちの音や、思いまでを空気と一緒に吸ってしまうかのような、そんな感覚に陥るからだ。

 だけどいまのぼくには、自分のなかにずっと燻っていた、「誰かに本音を打ち明けたい」という思いが消えない。

 何度勇気を出そうと思っても、結局戻ってくるモヤが、完全に晴れた。

 リンとヨウは思いのほか寛容だった。周りに集まっているすべての人たちと握手をしては、言葉を交わしている。

 あと、数人でぼくの番だ。またスマホが手の中で震えた。

 『南帆の音が綺麗なのは誰かを思う心が強いから』
 『一途さはなによりも強い』
 『絶対に消えないのはなにかを好きでいられる思い』

 リンが歌うフレーズの歌詞と共に、なのかのメッセージが立て続けに届く。

 大袈裟なまでに喉が鳴る。手が震えるほど緊張したのは、初めてかもしれない。

 ――いや、過去に一度だけある。

 母から、ぼくがピアノを続けるには「手の小ささはデメリットでしかない」「これ以上は無駄だ」ときっぱりと言われた。

「私もそうしたのだから違う夢を持ちなさい」――そう言われたが、ぼくはピアノを続けたかった。ぼくにはそれしかなかった。音を奏でている間だけ、ぼくは自分が自分でいられるような、そんな感覚だったからだ。

 ぼくのひとつ前の人が、嗚咽を漏らしながらふたりと握手をする。そして、ぼくの番になった。

 ぼくは緊張をほぐすように、細く息を吐いた。そして、一歩前に出る。

「はじめまして」

 ほんの少し、声が上ずった。一気に耳まで赤くなるのを感じながらも、ぼくは揺れる視界で懸命にふたりを見た。

「ぼくです、あのときの、メールを読み上げてもらったの」

 たったその一言を発するまでに、かなりの時間を要した。

 でも、誰もそれを咎めなかった。ぼくの後ろに並んでいた人が、まるで自分のことのように喜びながら泣き出したのが、耳に飛び込んでくる。

 リンが嬉しそうにヨウを見た。ヨウが少し悪戯っぽく笑って、リンの肩をポンと叩く。
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あなたがぼくのすべて作者:草凪星砂
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 母に「Klar(クラー)」が好きだということを打ち明けるよりも、ぼくは本当の意味で二人に救われたのだということを、自分の口で伝えたかった。もう一度、今度は、面と向かって。

 あの時は、ラジオ番組に直接電話をする勇気がなかった。もし母に聞かれたら。そちらのほうが勝って、メールをするので精いっぱいだった。

 いまは違う。目の前に、憧れの人たちがいる。

 このチャンスを掴まなかったら、絶対に後悔する。

 ぼくは人ごみに入るのが嫌いだ。その人たちの音や、思いまでを空気と一緒に吸ってしまうかのような、そんな感覚に陥るからだ。

 だけどいまのぼくには、自分のなかにずっと燻っていた、「誰かに本音を打ち明けたい」という思いが消えない。

 何度勇気を出そうと思っても、結局戻ってくるモヤが、完全に晴れた。

 リンとヨウは思いのほか寛容だった。周りに集まっているすべての人たちと握手をしては、言葉を交わしている。

 あと、数人でぼくの番だ。またスマホが手の中で震えた。

 『南帆の音が綺麗なのは誰かを思う心が強いから』
 『一途さはなによりも強い』
 『絶対に消えないのはなにかを好きでいられる思い』

 リンが歌うフレーズの歌詞と共に、なのかのメッセージが立て続けに届く。

 大袈裟なまでに喉が鳴る。手が震えるほど緊張したのは、初めてかもしれない。

 ――いや、過去に一度だけある。

 母から、ぼくがピアノを続けるには「手の小ささはデメリットでしかない」「これ以上は無駄だ」ときっぱりと言われた。

「私もそうしたのだから違う夢を持ちなさい」――そう言われたが、ぼくはピアノを続けたかった。ぼくにはそれしかなかった。音を奏でている間だけ、ぼくは自分が自分でいられるような、そんな感覚だったからだ。

 ぼくのひとつ前の人が、嗚咽を漏らしながらふたりと握手をする。そして、ぼくの番になった。

 ぼくは緊張をほぐすように、細く息を吐いた。そして、一歩前に出る。

「はじめまして」

 ほんの少し、声が上ずった。一気に耳まで赤くなるのを感じながらも、ぼくは揺れる視界で懸命にふたりを見た。

「ぼくです、あのときの、メールを読み上げてもらったの」

 たったその一言を発するまでに、かなりの時間を要した。

 でも、誰もそれを咎めなかった。ぼくの後ろに並んでいた人が、まるで自分のことのように喜びながら泣き出したのが、耳に飛び込んでくる。

 リンが嬉しそうにヨウを見た。ヨウが少し悪戯っぽく笑って、リンの肩をポンと叩く。
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