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たったの一言を告げるだけなのに、既にもう息が上がっている。
昔からこうだ。肝心なことになると、面と向かって話せない。でもぼくは、他の人に対してはどう思われてもいいけれど、リンとヨウにだけは、妙な誤解をされたくなかった。
ぼくの言葉からかなり間が空いたというのに、ふたりともなにも言わなかった。まるでぼくの言葉を待ってくれているかのような、そんな雰囲気にもみえる。
そうかもしれない。連弾をするのだって、相手と呼吸を合わせる。相手の呼吸を読む。そうして相手がどうしたいのかを見極めながら、即興ですら音楽を作ってしまえるふたりだ。
ほかの人たちへの対応を見ていたけれど、ヨウのファンの人の時にはリンが下がって、リンのファンの人の時にはヨウが少し下がっているかのようだった。
人は舞い上がっているときが一番感情が出る。そうでない人もいる。学校や、海外でずっと音楽に触れていたふたりだ。わからないわけがない。
数回の呼吸ののち、ぼくは意を決して両手を握り込んだ。
「2年前に初めて声を聞いたときから、ずっと好きです。
あなたの声がぼくを救ってくれて、ぼくがずっと出せなかったものを出すきっかけを作ってくれました。ふたりが奏でる音が、ぼくのすべてでした。
だからぼくは、ずっとおふたりの音を聞いていたいです」
最後のほうは、ちゃんと言葉にならなかった。
いままでずっと、ぼくは自分の気持ちをきちんと打ち明けるということをしたことがなかった。
本当はもっとピアノの練習もしたかったし、手が少し小さいというだけで諦めたくはなかった。
受験だってそうだ。演奏する側ではないのなら、サポートをする側に回りたい。なんでもいいから音楽に関わって生きていきたい。
ぼくにとっては自分を表現することや、気持ちをさらけ出すことができるのは、自分に馴染む音を聞いているときだけなのだ。
――言えた。
声にならなかった心の声は、ずっと母に言いたかったことだ。ずっとそう思っていたのに、押し隠していたことだ。
その言葉を自分に想起させることができただけでも、ぼくはいま、自分の気持ちに素直になれているということだと思う。
周囲の喧騒を掻き消すほど高鳴っていた胸の音は、いまは不思議と凪いでいる。だからなのか、俯いているぼくの耳には、リンとヨウが穏やかに笑い合う声が聞こえていた。