15
リンは声とおなじく、涼やかに微笑んで、言った。
「俺が留学中に支えになっていたのは、きみからのメールだったんだよ」
ふふっとリンが笑う。
言われている意味がわからなかった。
たぶんぼくは、かなり間の抜けた顔をしていただろう。それを嘲るように笑うこともなく、少し照れ臭そうに肩を竦めるリンの横で、ヨウがからからと声を上げた。
「ホームシックがひどくて、慣れるまで毎日ヨウに電話して」
「そうそう。あんまりしつこいから途中からでなくなった」
思わず「えっ?」と声をあげる。
ヨウが言っていることは、どうも本当のようだ。「ひどいよね」とリンが眉を下げて苦笑まじりに言いながらも、ぼくを見た。
ほんとうに、綺麗な目をしている。澄んだ目なんていう比喩では形容しきれない。
「でも、そのおかげなのかな。あとがないって、吹っ切れたのは」
吸い込まれそうなリンの表情を目の当たりにしたぼくは、目を逸らすことができなかった。
「あんなになやんでいたのに、絶対に諦めないって思ったんだ。
きみがくれたメールに書かれていたように、夢を叶えられなかった人の気持ちも、夢を諦められない人の気持ちもわかるから」
ぼくは、あの時のメールに、自分には夢も希望もないと書いた。
夢も希望もない。好きだったピアノも続けられなかった。決められた高校に進学するための受験勉強を頑張っている。
でも、そんなときにラジオから聞こえてきた二人の音楽が、ぼくの心をつかんで離さなかった。
こんなことは初めてだった。良い成績をとるのが当たり前で、学校や周りから褒められてもちっとも嬉しくなかった。家に帰れば母からは上には上がいると現実を突き付けられる。だから自分の心は凍っていると思っていたのに、ふたりの音楽を聴いた瞬間に、ぼくの世界は変わった。
誇張ではない。本当にそうだった。
ぼくは家の中の狭い世界しか知らなかった。でも外の世界にはこんなにも煌びやかな音があって、そしてその音は誰かを傷付けるものでもなく、まるで自分がいままで隠していた音のようにすっと馴染んでくれる。そんな音楽を耳にしたのは、今日が初めてだ。だからできることなら、ずっと二人の音を聞いていたい。
そう書いた。
はっきりと覚えている。