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「ヨウは一応芸能人だからダメだけど、俺ならいまのところまだ一般人だから」
ぼくにとって、一般人も、芸能人も関係ない。このふたりが奏でる音と、そして、リンの澄んだ声が好きだ。
「よかったら、ここに連絡して」
ふふっと笑いながら、リンがぼくに名刺を差し出した。
戸惑ったものの、ヨウも受け取っていいというように手を差し出した。震える手で、おそるおそるそれを受け取る。
名刺には、リンの名前と、ピアノ講師と肩書きがある。住所は、ぼくが住んでいる市と同じだ。少し離れているが、通えない距離ではない。
どういう意味なのか、名刺を渡された意図がわからない。名刺と、リンとを何度も交互に見たからだろうか。リンがどこかはにかむように肩をすくめた。
「手が小さいからという理由でピアニストを諦める人は確かにいる。だけど、世界を羽ばたくようなピアニストにはなれなくても、子どもに教える講師だったり、バックサウンドの候補にはなれると思うんだよね」
ぼくはまるで胸中を見透かされているような気分になって、慌てて自分のシャツの胸元を握った。
たしかにぼくは、ずっとそう思っていた。そういう仕事に就きたいと、微かに。まず母を説得するのが先だから叶うはずもないと思っていた希望が、俄かに見えたような気がする。
「きみの名前、教えてくれる?」
少し伸びた、栗色の横髪を耳にかけながら、リンが言う。
リンの音が、ぼくの夢を後押ししてくれるような、そんな期待に胸で震える。その後押しに甘えるわけにはいかないと冷静でいる自分を、いままでの弱い自分とともに手放すべきなのかもしれない。
頭の中にいろんな考えが浮かんだけれど、ためらったのは、ほんの一瞬だった。
ぼくは何度も突っかかりそうになりながらも、ぼく自身の名前をリンに告げた。もう一度、本当になりたかった自分の夢と共に。