06
全身に染みわたるような透き通ったその声は、まるでぼくの固まった部分を融かすかのようだった。2年前、この声を聞けなくなったときからずっと枯れていた涙が、ぼくの頬を伝い落ちていく。慌てて拭ったけれど、もう遅い。
涼やかな笑い声。
とりわけて丁寧なわけではないのに、優しくて穏やかな言葉。
そしてなにより、彼が元気でいたことが、なによりも嬉しかった。
FMラジオのブースからは、会話の内容が聞こえている。その時間帯の担当をしている、お馴染みのラジオのパーソナリティーが、「これは俺の功績だよ」と声高らかに言う。
『凛音(りおん)くん、本当にメディアNGだからねえ。俺の人脈と人望とネットワークがなければ、今回のゲスト出演は叶いませんでしたー。はい、みんな拍手ー!』
よく響く太い声で、パーソナリティーが言う。同時に、FMブースの周囲にいた人たちが拍手をしている。当然、ブースの中には聞こえていないだろう。
でも、拍手を煽った彼は、もっと、もっとというように大袈裟に手を上下させている。周囲の拍手は、その動作に煽られるかのように、一段と大きくなった。
ブースの中で、凛音と呼ばれた彼が、気恥ずかしそうに笑っているのが見えた。あのときと、まったく変わらない、息を漏らすような笑い方だ。
スマホのバイブレーションが、メッセージを通知する。ぼくは若干滲んだ視界の中で、ディスプレイを操作した。なのかだ。
『水瀬凛音って人、知る人ぞ知る天才ピアニストだったんだって』
水瀬。ぼくは慌てて周囲を見渡した。FMブースの壁際に、小さな看板が掲げられている。
『祝・水瀬凛音さん 公開生出演』
その文字の下に、お馴染みのパーソナリティーの写真があり、吹き出しで「俺のおかげ」と書かれている。ダメ押しに吹き出しそうになりながら、ぼくはなのかからのメッセージに、「いま知った」と送り返した。
数秒もしないうちに、手の中のスマホが揺れる。
『わたしも一昨日始めて知った』
『ピアノ激ウマ』
『声超綺麗』
続けざまに、なのかからのメッセージが届く。
『南帆に言い返したのは撤回しない』
『でも音は自信だけで出すものじゃない』
『この人のピアノで初めて知った』
『超推し』
我が妹ながら、本当に現金だと思う。
『音楽聞いた?』