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第三十三話 残された声


 皇國歴1002年、覇竜11年、5月29日 海竜曜日。

 記録者、オーレリア・キルシュ。

 本記録は、5月26日に七聖学院旧塔、通称「星見の塔」において発生した異常事案について、事件後の調査、及び確認事項のまとめである。

 旧塔へ立ち入った生徒は7名、ヴァン・ラドーレ、ミコト・サトー、ハリエット・ヤクトブレオ、ハリス・ヤクトブレオ、ロイ・アッシュフィールド、ローティ・ネモニクト、及び記録者オーレリア・キルシュである。

 ただし、ローティ・ネモニクトは塔内上層部には到達していない。

 事件後、関係生徒は全員医務室にて診断を受け、異常なしと判断された。

 5月27日から28日にかけて行われた教員調査により、旧塔内で確認された螺旋階段の変質、通路床の透明化、入口の閉塞、及び瘴気はすべて消失し、階段、通路、入口は通常状態へ戻っていることが確認された。

 塞がれていた入口が元に戻るところは、記録者自身も目撃している。

 以上のことから、旧塔内の異常は塔そのものの仕掛けではなく、塔内に存在したハンナの日記が生じさせたものと推定される。

 アルフォンス先生は、当該書物を禁書「デッドマンズ・バイブル」の一種であった可能性が高いと推定している。

 デッドマンズ・バイブルとは、死者の遺した日記、手記、遺書などが、強い未練、怨恨、孤独、絶望、または誰にも読まれなかったという断絶によって変質した禁書を指す。

 日記の筆者は、ハンナ・エードラ。

 彼女の日記は、皇國歴983年4月15日付の記述から始まり、同年8月30日付の記述で途絶えていた。

 そこには、ヴェナリスへの告白と拒絶、学院内でのいじめ、母の病、神父への支払いと裏切り、母の死、及び自死に至るまでの経緯が記されていた。

 現在はアルフォンス先生の管理下に置かれている。

 学院保管の旧記録には、ハンナ・エードラ、ヴェナリス、及びシェリーヌの名が確認された。

 旧塔が閉鎖された本当の理由も判明した。表向きの理由は、老朽化、天文設備の撤去、危険箇所の増加であった。しかし実際には、旧塔で自殺者が出たことが閉鎖の主因であり、その自殺者はハンナ・エードラであった。

 ミコトさんが受けていたアーノウズ様の警告について、以下を記録する。

 ハンナ・エードラは、生前、ヴェナリスとの恋が実るよう、アーノウズ様へ祈っていた。その信仰がどの程度深いものであったかは不明である。

 一方で、アーノウズ様はその祈りを、自らへ向けられた信仰として受け取り、ハンナ・エードラを自らの信者として気に掛けていたものと推測される。

 また、恋愛は人と人の意志に関わるものであり、神ですら好きにしてよい領域ではない。

 聖域、それ以上に聖域。

 以上から、アーノウズ様がこの脅威を告げた理由は、ハンナ・エードラが恋する者として自らへ祈り、そのまま救えずに死したためと推測される。

 本件に関する処罰は行われなかった。旧塔への無断侵入、鍵の不正取得、教員への事前報告不足は、いずれも本来なら処分対象である。

 しかし、アルフォンス先生は、当該禁書を放置していた場合、学院全体が危険に晒されていた可能性を示唆した。

 よって、違反行為と英雄的行為は相殺され、公式処罰は無しとされた。

 しかし、非公式処罰として、一週間のトイレ掃除をヴァン及びハリスに課された。計画の首謀者と、立案者だからという理由だ。

 以上、5月29日時点で確認された旧塔事件の記録である。

 最後に、記録者として付記する。

 ハンナ・エードラの日記に記されていた、彼女が恋した相手。

 ヴェナリス。

 その名が指す人物について、教員調査及び当該記録の照合により、ひとつの可能性が、確信に変わった。

 ヴェナリス=ロートシュタール。

 元々「皇國」であった国号を、「帝國」へ変えた男。

 現、第十二代緋鋼皇帝である。
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緋鋼皇國物語Ⅰ作者:ふみの世界樹
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 皇國歴1002年、覇竜11年、5月29日 海竜曜日。

 記録者、オーレリア・キルシュ。

 本記録は、5月26日に七聖学院旧塔、通称「星見の塔」において発生した異常事案について、事件後の調査、及び確認事項のまとめである。

 旧塔へ立ち入った生徒は7名、ヴァン・ラドーレ、ミコト・サトー、ハリエット・ヤクトブレオ、ハリス・ヤクトブレオ、ロイ・アッシュフィールド、ローティ・ネモニクト、及び記録者オーレリア・キルシュである。

 ただし、ローティ・ネモニクトは塔内上層部には到達していない。

 事件後、関係生徒は全員医務室にて診断を受け、異常なしと判断された。

 5月27日から28日にかけて行われた教員調査により、旧塔内で確認された螺旋階段の変質、通路床の透明化、入口の閉塞、及び瘴気はすべて消失し、階段、通路、入口は通常状態へ戻っていることが確認された。

 塞がれていた入口が元に戻るところは、記録者自身も目撃している。

 以上のことから、旧塔内の異常は塔そのものの仕掛けではなく、塔内に存在したハンナの日記が生じさせたものと推定される。

 アルフォンス先生は、当該書物を禁書「デッドマンズ・バイブル」の一種であった可能性が高いと推定している。

 デッドマンズ・バイブルとは、死者の遺した日記、手記、遺書などが、強い未練、怨恨、孤独、絶望、または誰にも読まれなかったという断絶によって変質した禁書を指す。

 日記の筆者は、ハンナ・エードラ。

 彼女の日記は、皇國歴983年4月15日付の記述から始まり、同年8月30日付の記述で途絶えていた。

 そこには、ヴェナリスへの告白と拒絶、学院内でのいじめ、母の病、神父への支払いと裏切り、母の死、及び自死に至るまでの経緯が記されていた。

 現在はアルフォンス先生の管理下に置かれている。

 学院保管の旧記録には、ハンナ・エードラ、ヴェナリス、及びシェリーヌの名が確認された。

 旧塔が閉鎖された本当の理由も判明した。表向きの理由は、老朽化、天文設備の撤去、危険箇所の増加であった。しかし実際には、旧塔で自殺者が出たことが閉鎖の主因であり、その自殺者はハンナ・エードラであった。

 ミコトさんが受けていたアーノウズ様の警告について、以下を記録する。

 ハンナ・エードラは、生前、ヴェナリスとの恋が実るよう、アーノウズ様へ祈っていた。その信仰がどの程度深いものであったかは不明である。

 一方で、アーノウズ様はその祈りを、自らへ向けられた信仰として受け取り、ハンナ・エードラを自らの信者として気に掛けていたものと推測される。

 また、恋愛は人と人の意志に関わるものであり、神ですら好きにしてよい領域ではない。

 聖域、それ以上に聖域。

 以上から、アーノウズ様がこの脅威を告げた理由は、ハンナ・エードラが恋する者として自らへ祈り、そのまま救えずに死したためと推測される。

 本件に関する処罰は行われなかった。旧塔への無断侵入、鍵の不正取得、教員への事前報告不足は、いずれも本来なら処分対象である。

 しかし、アルフォンス先生は、当該禁書を放置していた場合、学院全体が危険に晒されていた可能性を示唆した。

 よって、違反行為と英雄的行為は相殺され、公式処罰は無しとされた。

 しかし、非公式処罰として、一週間のトイレ掃除をヴァン及びハリスに課された。計画の首謀者と、立案者だからという理由だ。

 以上、5月29日時点で確認された旧塔事件の記録である。

 最後に、記録者として付記する。

 ハンナ・エードラの日記に記されていた、彼女が恋した相手。

 ヴェナリス。

 その名が指す人物について、教員調査及び当該記録の照合により、ひとつの可能性が、確信に変わった。

 ヴェナリス=ロートシュタール。

 元々「皇國」であった国号を、「帝國」へ変えた男。

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