妹
「一年、上がっていいぞ!」
「はい、ありがとうございました!」
〈今里、無事に本日の練習を乗り切りました〉
ようやく実況終わるのか? 長かった......
〈では、帰宅を挟みまして自宅での今里の状況をお伝えします〉
誰にお伝えするんだよ! いつまで続くんだ? だが、自分の部屋ならこの実況と会話する事も出来るかもしれない。もうこっちが折れても良いから、終わりにしてもらおう。
俺は自転車通学だ。うるさいとマジに危ないからか、帰宅中は実況も少し控えめだった。
〈今里コンビニの角を右折します、今日は買い食いはしない模様〉とか、ほとんどカーナビみたいな内容だ。帰宅するなり、俺は自室にこもって、謎の声に話しかけた。
「おい、どういうつもりだ! 俺に何か恨みでもあるのか?」
......返事がない。ようやく終わったのか?
「ったく、俺を困らせて何の得があるんだよ......」
〈知りたい?〉
「うおっ、ビックリした! まだいたのか! つか、あんのか、得?」
突然、実況からタメ口に変わった頭の中の声に内心ビビった俺は、妙に饒舌になってしまう。
〈ホントに、知りたい?〉
そこまで言われると、さらにビビってしまう。
「お、おう。言ってみろよ」
謎の声はクスクス笑って〈タダの嫌がらせだよ〉と言ったので、俺は完全に頭にきて、空を殴った。
〈私が考えつく中で、言葉だけでできて、されて一番嫌なのが実況かなって思ったから〉
「どんだけ意地悪いんだよ! ホントにそれだけ? 嫌がらせして何が嬉しいんだよ」
〈うーん、恨みなら、あるっちゃあるんだよね〉
急に静けさが訪れ、アナログ時計のコチコチという音が響く。冷静に考えれば、さっきからこの部屋に響いているのは俺の声だけだ。何か空恐ろしい。
「何だよ、恨みって」
〈この世に産まれてきた事〉
「ふざけんなよ」
〈ふざけてないよ〉
声は真剣そのものだ。
「つか、お前誰だよ? そもそも誰とかあんのか?」
〈失礼だな、可愛い妹に向かって〉
そういえば、声はずっと女の声だった。だが、俺は一人っ子だ。妹などいるわけもない。
〈聞いたこと無い? お兄ちゃんホントは双子だったんだよ。産まれる前に私が死んで、お兄ちゃんだけが産まれてきたってわけ〉
その話なら親に聞いたことがある......
〈私は結局産まれられなかったんだけど、魂はもうあって、死んだ瞬間お兄ちゃんに取り憑いたってわけ。まあ幽霊だね〉
「幽霊にしては、随分堂々と出てきたな」
〈どういうわけか、最近力が増してきてね。で、今日爆発したってワケ。恨んでるんだよ、お兄ちゃん私のこと吸収した挙げ句、両親の愛情も、一身に受けて育ってるんだもん〉
「えっ......」
吸収。そう考えたことは無かった。ただ産まれる前に双子の片割れが亡くなった、そう思い込んでいた。だが、吸収したことを恨んでいる、とまで本人に言われたら......なんだか申し訳ない。
〈......まあ、それを言うと本気で反省しちゃうの知ってるから、言わなかったんだけどね。恨み晴らしづらいもん〉
「で、恨みは晴れたのか?」
〈不可抗力だからね、許してあげるよ。でも、お願いがあるの〉
「何だよ?」
〈生きてるって感じてみたい。私、産まれたことも無いんだよ? 成仏するにはまず生きないとね〉
「それって、つまり......」
〈身体貸して〉
冗談じゃない、人の身体をなんだと思ってるんだ! でも、確かに不憫ではある。
「......少しだけだぞ」
〈ホントに良いの? 別にそうなる流れでもないよ?〉
「どうせそう答えるのも分かってたんだろ、このリサーチ魔」
〈じゃ、明日起きたら私がメインになってるから。
あ、私からお兄ちゃんには口に出して喋らないと話できないし、お兄ちゃんの心の声も喋ろうとしてないことは聴こえないから安心して。じゃ、おやすみ〉
寝て起きたらこっちが幽霊か。でも、人助けだもんな。細かいことは忘れて、今日はとにかく寝よう。