男性の授業参加は任意です。しかし、給食には出席しなければならない。
「......うっ、はぁ......」
くっ、やられた。
こんなタイトルで感動系だったとは。
ありきたりな異世界無双系かと思ったら、全然そんなことなかった。もっと他にいいタイトルあっただろ。
本を閉じる。
それで気づいたのか、あいつがニヤついた笑みを浮かべながら僕を見ている。
「どう?面白かったでしょ」
「ほんとに。まさかこのタイトルで感動系とは思わなかったよ」
「そうだよね。ボクも読んだときびっくりしたもん」
「バルト(ハーレムメンバーの一人)が死んだときはさすがに胸にきた」
「わかる。でも、あれがあるから最後の死者の国が一層感動できるんだよね」
「それな。え、これ2巻以降どうなるの?」
「さぁ、ボクもまだ続き買ってないんだよね」
「えー、仕方ないから今買うか、スマホあるし」
カバンからスマホを取り出す。
この学校はスマホの使用を禁止していない。というか、給食への出席ぐらいしか縛られていない。
「ちょっと待って。買うなら電子じゃなくて紙で買ってよ。そっちの方が色々お得だし」
「そう言って、自分が読みたいだけでしょ」
「バレた?でも、いいじゃん。いつも色々本貸してるし、その一巻もボクのだし、少しくらいみせてくれたってねぇ」
「でも、嫌」
「なんでさ、いつもボク貸してるじゃん」
顔を歪ませて、文句を言ってくる。
言いたいことはわかる。
でも⋯⋯でも、
「こんなタイトルの本、家に置きたくない」
彼は一瞬、目を丸くし、苦虫を噛み潰したような顔になった。やっぱり、『転生したから逆ハーレムを作ります』はダメだよ。
「⋯⋯売れば?」
絞り出したような、そんな声だった。
「そしたら読み返せないじゃん」
「わかった、ボクの負けだよ」
そう言いつつも、ぶつくさ文句を言っている。
僕は聞こえないふりをして、スマホを開いた。
「うわぁ、もう昼か」
スマホに映った数字が僕に時間を告げる。
いつの間にか、こんなに時間が経っていた。
「えーもう昼?」
「そう。給食まで20分」
「だるぅ。授業と一緒に給食もなくなればいいのに」
「わかるけど、無理だよ」
「そうだけどさぁ」
「ほら、さっさと婚活場に行くよ」
「そう言うなよ。余計行きたくなくなるじゃん」
そう言いつつ、席を立つ。
早めに行かないと女子の授業が終わってしまう。
「給食、終わった後どうする?」
教室から移動しながら彼に聞いた。
まだ、授業中なのに、廊下は少し食堂に向かう男子で少しにぎやかで、女性は一人も見当たらない。とはいえ、授業が終われば、この場所は食堂へ急ぐ女性によって埋め尽くされる。
「寮に直帰だけど、なにかあんの?」
「いやぁ、駅前に新しくベビーカステラ屋ができたらしくて、一緒に行かない?」
「いいけど、奢れよ」
「もちろん。その分、女避けよろしく」
「はいはい。あー、もう食堂着いた」
「じゃあ給食の後、教室集合ね」
「うん。また、あとで」
僕とあいつの席はけっこう遠い。
女性が入ってきたら、姿が見えることはない。
「はぁ」
彼が完全に離れてから、ひとりため息をつく。
ひとりになると、嫌なことばかり考えてしまう。彼と一緒にいた時は茶化してごまかしていたけれど、嫌なものはやっぱり嫌だ。
指定されている席に座る。男性は入学した時から座る席が固定されている。できるなら、あいつの隣がいいけれど、そうゆう訳には行かない。
スマホの時計を確認してもまだ給食まで10分以上残っている。
もうすぐか。
しばらくして、廊下を走る音が聞こえてくる。一人二人程度ではない、100人は優に超えている。
授業終わりのチャイムはまだ鳴っていない。
授業が早く終わった、もしくは抜け出した、そんな人達が一斉に押し寄せる。
女性は自由席だ。
だから、早く来ないと座りたい席が取られてしまう。
恋人だから、いずれ結婚するから、は関係ない。人気の男性の場合、彼氏の隣に座ることはおろか、近くにすら座れず、まったく知らない人の近くで食べるなんてことも多々ある。
第一陣が食堂に到着する。
迷うことはない。全員、自分が座りたい席に一直線で向かっていく。
「どいて、そこは私の席だから!」「と、取った雨水くんの隣!」「邪魔」「先に私がこの席に触った、だからこの席は私の」
これからご飯を食べる場所のはずなのに、戦場の様な激しさでイスの取り合いが起こっている。
「よし、間に合った。右隣ゲット」
僕の右隣が埋まる。
「真海さん、早かったね」
「うん。時間割変更があって、4限杉原先生の授業だったんだよね」
「あーなんか優しい先生なんだっけ」
「そうそう。4限は必ず10分前に終わってくれる神様だよ」
「だから、今日こんなに早いんだ」
「うん。本当にラッキーだったよ」
そうこう話しているうちに授業の終わりのチャイムが鳴った。
食堂に入って来る人はどんどん増えていく。
「人多すぎ」「ふざけんな、今チャイム鳴ったばっかりだろ」「あっ埋まってる」「空いてる、空いてるセーフ」
騒がしさは増していく。
正面、右斜め前、左斜め前、一つ離れた右左。次々と周りの席が埋まっていく。
席が埋まるにつれて食堂へ走っていく音は減っていく。今聞こえてくるのは、歩いてくる音の方が多いように思える。
諦めてしまった女性達、遅れてきた男性達、それから⋯⋯あっ御形だ。
授業後だと、女性の波にのまれるからな。御形の周りに15人いるはずの彼女の姿はない。全員、席取りのために彼氏放ったらかして急いだからだろう。そのせいだろうか、御形の姿がとても小さく見えてしまった。
あっ、さらに縮こまった。彼女達、席取り失敗してんじゃん。
「あら、何を見ているの?」
後から声がする。
「うん。ちょっと御形をね」
いつの間にか食堂に来ていた彼女に返事をする。
「あぁ、御形ね」
少しだけ嫌そうに顔を歪める。純愛を謳う彼女からしたら御形はあまり好きではないのだろう。
「隣、座るわね」
そう言って、左の空いていた席に座った。
先ほど言いかけた、彼女は歩いてくる人達の一人。彼女は急ぐ必要はない。
女性は自由席。
それに間違いはない。ただ、例外がある。
――定期テスト学年一桁
その功績を祝して、一つの権利が与えられる。
それは、食堂の1席を指定することができる。
彼女は橘彩。
学年3位の努力家で、僕が一番苦手な相手だ。