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男性は防犯の観点から6歳まで特定の施設で暮らさなければならない。家族以外の出入りはできません。

初めて、咲良に会った日のことを、僕は今でも憶えている。

あれは僕が6歳になった時のことだ。男性はその年齢になると男性保育所から家族に引き渡されるから、そこで初めて会った。

男性保育所というのは男性が生まれてから6歳まで暮らさないといけない場所だ。男児の誘拐や家庭内での事故を防ぐため、というのが理由らしい。

ちなみに太郎も僕と同じ男性保育所で暮らしていた。この頃はそんなに仲はよくなく、知り合いくらいだったけど。

当たり前だが女装はしていない。彼が女装を始めたのが中学3年の半ばだから、だいぶ先のことだ。

幼い時のことだから、当時のことを僕はあまり覚えてはいない。ただ、男性保育所という名前の割には女性が多いなという記憶がある。

家族であれば施設に入ることができる。この規則のせいか、施設に入り浸る母親と姉がたくさんいた。

1人っ子だから姉はいないけど、僕の母なんか毎日のように施設に来ていた。

そういえば、僕は姉がいる子が羨ましかった気がする。というのも母親を除けば、大多数は男だった。外とは真反対である。

そんな中、年の近い姉はものすごく人気だった。母親や年の離れた姉は少し怖かったというのも理由の1つだろう。特に目とかね。

今考えると年の近い姉が人気だった理由がわかる気がする。なんて言うか、男が希少だとわかっていない。気を遣わず、友達として男と接する。

女友達なんているわけもない僕達にとって、それが一番効いたのだろう。

特に外に出てからだと、その子達がどれだけ特別だったのか身にしみてわかる。今はもう、出会う女性全員が、僕達を男としてしか見ていない。

お互いの性別を気にせずに遊ぶなんてこの頃しかなかった。実際に、そういう女の子と結婚する男性も多いらしい。

僕も幼心にも好意を抱いていた女の子がいた。1歳年上の優しい女の子だった。

え、じゃあ、その子と結婚するの?そう思うかもしれないが、現実はそううまくはいかない。

その子は今、立派なモンスターペアレントならぬ、ヤンデレモンスターシスターになっている。悲しい。

弟の彼女達は大変だろうけど⋯⋯。

考えるのをやめた。

まぁ、そんな施設で6歳になるまで過ごし、見慣れた母に引き渡される。

母に連れられて初めて家に行くと、そこには葵叔母さんと従姉妹の咲良がいた。

姉がいることに憧れていた僕は、年の近い女の子と暮らせることが嬉しかった。

けれど、期待しすぎたのがよくなかった。実際、その期待は数秒後には崩れる。

さて、ここで一つ質問だ。初対面の相手には普通なんと声をかけるだろう?

たぶん、『はじめまして』と大多数は答えるであろう。けれど、咲良の答えはまったく違った。



「わたし、この人とケッコンする!」

である。









は?

これが僕の咲良への第一印象である。甘い夢は覚めてしまった。

この子はないな。一目惚れでも、もうちょっとあるだろ。『はじめまして』より先にそれがでてくるのは、完全にヤバいやつだ。

そう思ったのだけれど、母はなぜか嬉しそうで、僕と咲良をくっつけようとした。本当に、わけがわからない。


そんな過去がありつつ今に至る。

「えへへー」

パンケーキなどとっくの昔に食べ終わり、今は抱き着いている咲良の頭を撫で続ける仕事をしている。
かれこれ1時間は続けているが、給料は入らない。時給0円の超絶ブラックである。

「あ、忘れてた。アレ出して」

ようやく、僕がここに来た理由に触れる。
やっとか。

用意していた招待券を取り出す。

「違うよ。それもだけど、スマホ出してよ」

ああ、そっちですか。対策はしてある。

「わかった」

そう言って、カバンを漁る。まぁ、入ってないからただの演技なんだけど。スマホ見られるってわかってたら置いてくるよね。

「ごめん。朝バタバタしてたから忘れて来たみたい」

皮肉も混ぜつつ、申し訳なさそうな表情をする。ちなみに、取りに帰らされたとしてもスマホ2台持ちだから、対策は完璧である。

「えー、また?」

問題はこの作戦を多用しすぎているところか。前回は取りに帰らされたし。

「じゃあ、いいよ」

少しだけ不機嫌に咲良は言う。

「私のこと好き?」

「好き」

「本当に?」

「本当に」

感情をこめてオウムのように返す。

「じゃあ、私が今1番してほしいことわかるよね?」

知らないよ、それは。わからないから、適当にギュッとハグをする。

「えへへ、うれしい」

咲良は一瞬だけ驚いて、僕に身を委ねる。なんとかなったか。そう安心してしまった。

「でも、不正解」

安心しきっていたからか、その声が深く響いた。

「さすがに、わからないよ。答えは?」

表情を崩さないように質問する。咲良はニコリと笑って、口を僕の耳元に運ぶ。内緒話でもするかのようだった。

「ヒ・ミ・ツ」

そう言って、口を耳から首元に向き直す。柔らかいものが触れたと思ったら、勢いよく吸い始める。
痛い、ヘタクソ。

しばらくして、唇が離される。咲良は優しくその跡を撫でる。僕には見えないけれど、赤いアザできてるだろう。

「うん、よくできてる。隠したらダメだよ、コウくん。これは、罰なんだからね」

1週間は跡が残るというのに罰なんて軽く言う。問題の答えなんて初めからないような気がした。

アザに触る。少し痛い。服では隠しにくい位置。もちろん、隠すのだが。隠すななんて聞くわけがない。確認されるわけでもないし。

その後も、咲良の寂しさを埋めるために時間が進んでいく。外はもう太陽が沈みかけている。

帰省はもう終わりだ。

泊まっていけという母達をなんとか説得し、寮まで送ってもらうことになった。

ようやく寮に戻れる。帰りの車では行きと同じように相槌だけと打って過ごす。

母の話はあまり聞いていなかった。ただ、咲良の別れの言葉が頭の中をぐるぐると回っている。

『キスマークはちゃんとあの子に見せてあげてね』

という言葉が。
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男女比が壊れた世界のブラックな日常作者:霊兎卯
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男性は防犯の観点から6歳まで特定の施設で暮らさなければならない。家族以外の出入りはできません。

初めて、咲良に会った日のことを、僕は今でも憶えている。

あれは僕が6歳になった時のことだ。男性はその年齢になると男性保育所から家族に引き渡されるから、そこで初めて会った。

男性保育所というのは男性が生まれてから6歳まで暮らさないといけない場所だ。男児の誘拐や家庭内での事故を防ぐため、というのが理由らしい。

ちなみに太郎も僕と同じ男性保育所で暮らしていた。この頃はそんなに仲はよくなく、知り合いくらいだったけど。

当たり前だが女装はしていない。彼が女装を始めたのが中学3年の半ばだから、だいぶ先のことだ。

幼い時のことだから、当時のことを僕はあまり覚えてはいない。ただ、男性保育所という名前の割には女性が多いなという記憶がある。

家族であれば施設に入ることができる。この規則のせいか、施設に入り浸る母親と姉がたくさんいた。

1人っ子だから姉はいないけど、僕の母なんか毎日のように施設に来ていた。

そういえば、僕は姉がいる子が羨ましかった気がする。というのも母親を除けば、大多数は男だった。外とは真反対である。

そんな中、年の近い姉はものすごく人気だった。母親や年の離れた姉は少し怖かったというのも理由の1つだろう。特に目とかね。

今考えると年の近い姉が人気だった理由がわかる気がする。なんて言うか、男が希少だとわかっていない。気を遣わず、友達として男と接する。

女友達なんているわけもない僕達にとって、それが一番効いたのだろう。

特に外に出てからだと、その子達がどれだけ特別だったのか身にしみてわかる。今はもう、出会う女性全員が、僕達を男としてしか見ていない。

お互いの性別を気にせずに遊ぶなんてこの頃しかなかった。実際に、そういう女の子と結婚する男性も多いらしい。

僕も幼心にも好意を抱いていた女の子がいた。1歳年上の優しい女の子だった。

え、じゃあ、その子と結婚するの?そう思うかもしれないが、現実はそううまくはいかない。

その子は今、立派なモンスターペアレントならぬ、ヤンデレモンスターシスターになっている。悲しい。

弟の彼女達は大変だろうけど⋯⋯。

考えるのをやめた。

まぁ、そんな施設で6歳になるまで過ごし、見慣れた母に引き渡される。

母に連れられて初めて家に行くと、そこには葵叔母さんと従姉妹の咲良がいた。

姉がいることに憧れていた僕は、年の近い女の子と暮らせることが嬉しかった。

けれど、期待しすぎたのがよくなかった。実際、その期待は数秒後には崩れる。

さて、ここで一つ質問だ。初対面の相手には普通なんと声をかけるだろう?

たぶん、『はじめまして』と大多数は答えるであろう。けれど、咲良の答えはまったく違った。



「わたし、この人とケッコンする!」

である。









は?

これが僕の咲良への第一印象である。甘い夢は覚めてしまった。

この子はないな。一目惚れでも、もうちょっとあるだろ。『はじめまして』より先にそれがでてくるのは、完全にヤバいやつだ。

そう思ったのだけれど、母はなぜか嬉しそうで、僕と咲良をくっつけようとした。本当に、わけがわからない。


そんな過去がありつつ今に至る。

「えへへー」

パンケーキなどとっくの昔に食べ終わり、今は抱き着いている咲良の頭を撫で続ける仕事をしている。
かれこれ1時間は続けているが、給料は入らない。時給0円の超絶ブラックである。

「あ、忘れてた。アレ出して」

ようやく、僕がここに来た理由に触れる。
やっとか。

用意していた招待券を取り出す。

「違うよ。それもだけど、スマホ出してよ」

ああ、そっちですか。対策はしてある。

「わかった」

そう言って、カバンを漁る。まぁ、入ってないからただの演技なんだけど。スマホ見られるってわかってたら置いてくるよね。

「ごめん。朝バタバタしてたから忘れて来たみたい」

皮肉も混ぜつつ、申し訳なさそうな表情をする。ちなみに、取りに帰らされたとしてもスマホ2台持ちだから、対策は完璧である。

「えー、また?」

問題はこの作戦を多用しすぎているところか。前回は取りに帰らされたし。

「じゃあ、いいよ」

少しだけ不機嫌に咲良は言う。

「私のこと好き?」

「好き」

「本当に?」

「本当に」

感情をこめてオウムのように返す。

「じゃあ、私が今1番してほしいことわかるよね?」

知らないよ、それは。わからないから、適当にギュッとハグをする。

「えへへ、うれしい」

咲良は一瞬だけ驚いて、僕に身を委ねる。なんとかなったか。そう安心してしまった。

「でも、不正解」

安心しきっていたからか、その声が深く響いた。

「さすがに、わからないよ。答えは?」

表情を崩さないように質問する。咲良はニコリと笑って、口を僕の耳元に運ぶ。内緒話でもするかのようだった。

「ヒ・ミ・ツ」

そう言って、口を耳から首元に向き直す。柔らかいものが触れたと思ったら、勢いよく吸い始める。
痛い、ヘタクソ。

しばらくして、唇が離される。咲良は優しくその跡を撫でる。僕には見えないけれど、赤いアザできてるだろう。

「うん、よくできてる。隠したらダメだよ、コウくん。これは、罰なんだからね」

1週間は跡が残るというのに罰なんて軽く言う。問題の答えなんて初めからないような気がした。

アザに触る。少し痛い。服では隠しにくい位置。もちろん、隠すのだが。隠すななんて聞くわけがない。確認されるわけでもないし。

その後も、咲良の寂しさを埋めるために時間が進んでいく。外はもう太陽が沈みかけている。

帰省はもう終わりだ。

泊まっていけという母達をなんとか説得し、寮まで送ってもらうことになった。

ようやく寮に戻れる。帰りの車では行きと同じように相槌だけと打って過ごす。

母の話はあまり聞いていなかった。ただ、咲良の別れの言葉が頭の中をぐるぐると回っている。

『キスマークはちゃんとあの子に見せてあげてね』

という言葉が。
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