男性の方の一人での外出はあまりおすすめしません。犯罪に巻き込まれる危険性が非常に高いです。
「なんで?」
わからない。ただ一つ、誰かが裏切った。それだけは、理解できた。
「負けちゃいましたね」
橘は驚きすらもしていなかった。初めからこうなることが分かっていたかのように。
「⋯⋯知ってたの?こうなるって」
「関係ありますか、それは。私はちゃんと展示会に入れましたよ」
否定も肯定もしない。事実だけを淡々と。
「それに⋯」
橘はそこで言葉を切った。
「春野くんなら気づくと思っていました。ヒントもありましたし」
「ヒント?投票の時のあれ?」
あれをヒントと捉えるには少し難しすぎる。ただ、僕が不安にしなっただけだ。
「違いますよ、それよりもっと前です」
違う⋯?それより前?
あっ!
「ようやく、気づきましたか」
橘が呆れたように言ってくる。
なるほどね。でも、一言いわせて欲しい。わかるか、そんなもの。あと、8人もいるんだから誰か気づけ。僕は無理だったけど。
「ねぇ、御形」
教室中に聞こえるようにハッキリと。
「春野、どうかしたかな」
相変わらずの猫をかぶったイケメンフェイス。
「確か、御形の買収は4人だったよね。偶然、投票数が一致するけど、何か心当たりはある?」
女子達がいる前で買収とか言ってしまったけど、もうどうでもいい。投票終わったし、何なら最初からバレてそうだし。
「それはそうだけど、それだけで私と決めつけるのは早すぎると思うよ。買収した女子が手を上げなかったのかもしれないし、男子4人が執事喫茶の方がいいと思ってそっちに入れたのかもしれない。それに、私が裏切ってるなら私の票は喫茶の方に入っているよ」
事前に考えていたのか、スラスラと反論を述べる。
「ふーん。じゃあさ「入れてませんよ」、えっ?」
驚きで、思わずポカンと口が開いてしまう。
問い詰めようと紡いだ言葉は、被された声によって崩れて消える。
「私達は展示会には入れていません」
名前は⋯⋯忘れた。とにかく、御形の彼女はなんてこともないようにそう答えた。
「そっ、そ、それは言わないって約束じゃないか」
「言わないのは交渉があったことでしょ。私達がどこに入れたのかは口止めされていませんので。あっ、今言ってしまいましたが、これはシュウくんが言わせたようなものなんでこれはセーフですよね」
シュウくん――御形はワナワナと肩を震わせている。
「「「「「「「「「「ご〜ぎょ〜う?」」」」」」」」」」
「ごめん、みんな。これには理由が」
「「「「「「「「「「言い訳するな!!」」」」」」」」」」
こうして、僕達のクラスの出し物は執事喫茶になった。泣きたい。
―――――――――――――――――――――
「あはははっ、バカだなぁ。知恵比べで女子に勝てるわけないじゃん」
「⋯⋯いけると思ったんだよ」
レトロと言うには真新しいが、落ち着いた古き良き内装。所々に設置された緑は木目の家具とのコントラストを生み出している。
ここは木陰カフェ。
女装野郎との約束の場所。
「お待たせいたしました。木陰スペシャルパフェとショートケーキ、ホットのコーヒーが2つになります」
あぁ、3000円。さらば3000円。というか、少しは遠慮してほしかった。なんだよ、コーヒー代は払うって、全然釣り合ってないよ。
「おっ、キタキタ。それじゃあ、ゴチになります」
「本当にね。感謝して、崇めたてるくらい」
「ははあ、神様仏様春野光輝様」
「うん。悪くないね」
あいつはすぐにとパフェを食べ始めた。やっぱり僕もパフェにすればよかったかな。いやでも、あんなに量いらないんだよなぁ。半分でいい。
ケーキにフォークをすべらせる。ケーキからの少しの抵抗と皿の音。皿をカチャカチャ鳴らすのは好きではないが、この音だけは嫌いになれない。
ひとくち。
ほどよい甘さの生クリームと口にいれるだけで崩れてしまう柔らかい生地、ブラックのコーヒーがよく合う。
「おいしいね」
「うん、おいしいね。奢りだというのが特に」
「払ってくれてもいいんだよ」
「ハッ、笑止」
イジワルそうに顔を歪める。
「そう言えば、そっちのクラスはどうなったの?」
こいつも地獄に落ちてほしいところだけど、反応をみる限り回避してそうだ。
「あ、それ聞いちゃう?」
彼の口角がさらに上がる。口裂け女くらい。いや、男だから口裂け男か。「俺、かっこいい?」って聞いてくるオバケ嫌すぎる。
「ワタシ、キレイ?」
「読まれてた」
「え?当たった?ワンチャンもないと思ったのに」
怖。確信もなかったんだ。
「まぁ、それは置いといて。ボクのクラスは単純だよ。出れなくした、それだけ」
「出れなくした?」
思わず、聞き返してしまう。
「そう。知らないかもだけど、体育館でね、有志を募って出し物やってるんだよ」
「それって――」
「体育館で出し物するからクラスの方には行けない。ね、単純でしょ」
「⋯⋯教えてくれてもよかったのに」
せこせこ買収していたのがバカみたいじゃん。
「枠争いがあったからね。それに、自信満々だったじゃん。えっ、アレで負けるのって笑いが止まらなかったからね」
「うるさい。というか、僕の方が奢られるべきじゃない?少しくらい慰めてよ」
「えー、しょうがないな。う◯い棒でいい?」
「ふざけんな」
「大出血、30本入りでどうだ」
「ワンコイン以下。こっちは3000円よ、3000円」
「あれは君が悪かったし、負けたのは油断してたからでしょ」
「うッ」
それはさ、反則じゃん。ガラスのように丁寧に扱って。
「まぁでも、気づいただけよかったじゃん。あれでしょ、御形だけすべての時間シフト入ってるんでしょ」
「それは、まぁ、そうだけど。詳しいね」
「噂、というか御形本人からね。愚痴だよ愚痴。そういや、御形を問い詰めたのも君なんだってね。どうしてわかったの?カンとか?」
「カンって、理由くらいあるよ。4票足りなくて、御形の担当が4人だったてのもあるけど、御形の彼女達が笑ってたからかな」
「笑ってた?」
その時には気づけなかったけど、後から考えるとまた違って見えてくる。橘が教えてくれたからだけど。
「うん。御形が展示会って言ったときにね、なに茶番やってんだ、ていう含み笑い」
「その時気づけよ」
「いや、普通気づかないよ。あと、他の男子にも
同じこと言って。僕だけの責任じゃない」
「関係ない」
バッサリ。言い過ぎ、拗ねるよ?
無視してケーキを食べ進める。
この甘みが僕を癒してくれる。
太郎もまたやれやれといった感じでパフェを食べ始める。そこは慰める場面じゃん。
僕達はモクモクと食べる。少し話しすぎたからかパフェのアイスが溶けかけている。ドンマイ。
「あ、あの、もしよかったら私達とお茶しませんか?」
来てしまったか。彼女(女装野郎)がいるのに、図太いやつだ。女子高生のグループ、少なくとも男性配属高校ではない。そこに入学できてるなら、ナンパするほど切羽詰まっていない。面倒なヤツだ。
「あのさぁ、見てわからない?デート中だよ。邪魔しないで」
「貴方には聞いていません。彼氏さんに聞いてるんです」
外では、カレカノの振りをする。そうゆう約束。でも、悲しいかな、まったく効いていない。
「僕も彼女との時間を大切にしたいから、無理かな」
「いえいえ、私達といたほうが絶対楽しいですよ」「そうですよ」「遊ぼ!」
男性配属高校に行けないような女性は街で男を見つけたらめっちゃグイグイくる。後がないからか、執拗に。そういうところが嫌われてるのに。
「だから行かない」
「そんなこと言わずに」「お金は全部私達がだしますから」
苛つくな、そう思った時だった。
「すみません、お客様。これ以上は他のお客様のご迷惑になります。このまま続けるようですと警察を呼ばなくてはいかなくなります」
「け、警察?」「私達、そんな迷惑なことしてないですよ」
色々と文句を言うが、さすがに旗色が悪くなったのか彼女達は去っていく。店員様々である。
ちなみに、第三者って部分が重要。僕達が警察って言っても、制止して言い寄ってくるから、ああゆうヤツらは。
「もう、行こっか」
「そうだね。まだ、パフェ食べ終わってないけど、仕方ないか」
あんなことがあったからか、これ以上ここで食べる気にはならなかった。また、数ヶ月後には来ると思うけど。
「お会計ありがとうございます。合計で4630円になります」
「これで」
コーヒー代は後で請求したらいい。
「お預かりいたします。こちらお釣りとレシートです」
そう言って、お釣りを運ぶ手は僕の目の前で止まる。
「もしよろしければ、お持ち帰りでスマイルはいかがでしょうか?無料でお付けできます」
「⋯⋯」
お・ま・え・も・か