男性は必ず学校行事に参加しなければならない。なお、欠席した場合は授業半年の出席が義務づけられます。
僕は今、授業に出席している。
義務的に出はなく、自主的に。
今日は、男子生徒全員が出席している。理由は簡単だ。去年、この授業を欠席した結果、とんでもないことになったからだ。同じミスは犯さない、そのためだけに来ている。
教室の扉が開き、先生が入って来る。この先生を見るのは今年で2度目だ。担任なのに。
「おっ今日は全員揃ってるな、号令」
起立、気をつけ、礼、着席。
「珍しいな、男子生徒が全員揃ってるのは。まぁ去年、痛い目見たらそうなるか。一応覚えていると思うが、担任の和田だ。学級委員、続きを頼む」
「はい」
返事とともに二人の女子生徒が前に出る。
事前に決めていたのだろう、一人が黒板の近くでチョークを持ち、もう一人が教壇に上がる。
「では、今年の文化祭の出し物を決めたいと思います」
―――――――――――――――――――
文化祭。
それは男性にとって最悪なイベント。
一年の時は無知ゆえに嵌められて、2年生以降では、対策しなければ人数差でゴリ押されてしまう。
去年は、一日中店番をしていた。
客足も指名も止まらなかったから、途中で抜けることもできずに、ずっっっと。
何クラスの先輩が嫌な出し物、回避したんだろ。店番しかしてなかったから、見れてないんだよな。
「何か意見のある人はいますか?」
「はい!執事喫茶がいいと思います!」
一人の活発そうな女の子が手を上げて、当てられる間もなく案を言った。
「ふざけるな!」「俺達はやらないぞ!」「そうだそうだ」
男子生徒が声をあげる。ただでさえ、人数で負けているから、こうやって声をあげなければ、そのまま採用されそうな怖さがあった。
「静かに、他に案はありますか?」
チラリと御形に視線を送る。御形はわかってると言っているように笑い、そのまま手を上げた。
「御形くん、どうぞ」
「はい。私の案は展示会です。みんなで一つの大きなものを作って、それを展示します。何を作るかは、これからみんなで話し合って決めるつもりです」
猫かぶってるな。一人称俺だったじゃん。
「フフ」「クフフ」「プ」
クラスの中で小さな笑い声が聞こえる。絶対、認めてやるか、そんな意思を感じる。まぁ、後のことを考えるのなら、笑ってしまうのも仕方なくはある。見とけ、笑っていられるのは今のうちだぞ。
「他に案はありますか?」
学級委員の人が聞くが今度は誰も手を上げない。女子側は票が割れるのを嫌ったのだろう。そう考えると、最初の女の子はすごい策士だ。あまり考えてるようには見えなかったけど。
「他に無いようでしたら、多数決で決めますがよろしいでしょうか」
多数決。
先程、女子達が笑っていた理由。
このクラスは男子10名、女子30名の計40人。まず、多数決になったら勝てない。
だが、ここで異議を唱えても、くじ引きや、代表者じゃんけんなど、運が絡むものしか残っていない。僕達は、1%でも負ける勝負は受けたくない。
では、どうするのか。
そう、買収だ。
基本的に恋人関係の男女は同じクラスになりやすい。だから、その子達に男子案に乗るように持ちかける。彼女達も、彼氏のコスプレ姿は見たいが、他の女の子とイチャイチャしている姿が見たいわけではないのだ。
もっとも、足元みられまくって代償が高くついたのは言うまでもないが。
実際に、僕も橘を恋人でもないのに買収しないといけなかった。あいつは僕と恋人ではないが、成績の良さで同じクラスになっている。やっぱり、一桁はすごい。
ちなみに買収は、2回のデートと文化祭を一緒に過ごすことになった。文化祭はともかく、デートは少し高かった。でも、女子案を受けるよりはマシ。
そんな感じで橘と他6人を買収し、後の4人は御形が買収する。あいつこのクラスに彼女7人もいるし。
これで11人。買収できなかった男子はさっきみたいなガヤや雑務を担当する約束になっている。ちなみに買収できなかったのは、彼女側の成績が悪くてクラスを離された子と、そもそも彼女がいない子だ。あと、2人以上彼女がいるのは御形以外いなかった。いたら楽だったんだけどな。
「反対は無いようなので5分程時間をとります。それまでに投票先を決めてください」
そう言って、学級委員がストップウォッチで時間を計る。
「どちらに投票しますか?」
橘が話しかけてきた。
この前に聞いた話では、クラスの席は成績優秀者から決められるらしい。それで、成績トップの橘は一度も取られることなく隣の席を維持しているそうだ。
まぁ、僕の隣は成績トップでなくても維持できそうだけど。
「決まってるでしょ?約束忘れてないよね」
「もちろん。春野くんも約束守ってくださいよ。どちらが勝ったとしても」
どちらが勝ったとしても?
結果はもうわかってる。
「どちらって男子側が勝つよ。過半数超えてるんだし」
「そう思うなら、それでいいですよ。あくまでこれは確認ですから」
そう言って、橘は意味深に笑った。
やめてよ、少し不安になるから。
大丈夫、大丈夫なはずだ。そう考えていたら、あっという間にストップウォッチがなってしまう。
「時間になりました。投票に移ります。顔を伏せてください」
言われた通りに顔を伏せる。
ふと思ったけど、投票の時ずっと顔を伏せてる人いるのかな。絶対、横目で他の人見るよね。
「それでは、執事喫茶がいいと思う人は手を上げてください」
手を上げる音が聞こえてくる。多いか、少ないかは、わからない。音だけではわからないけれど、直感では少ない気がする。そう信じたいだけかもしれないけど。
少しだけ、委員の人に気付かれないようゆっくりと、顔を横に向ける。
隣の彼女は手を上げていなかった。少し、安心する。約束を破るとは思っていなかったけど、不安ではあった。
「手を下ろしてください。次に、展示会がいいと思った人は手を上げてください」
手を上げる。何人かの男子が勢いよく上げたのか、バサッと大きな音がした。
隣を見なくてもわかっていた。それでも、つい視線を向けてしまう。
「ッ!」
目が合った。思わず、声が出そうになる。当たり前のことではある。僕も見ているのだ、彼女がずっと伏せているわけもない。
一瞬しか目が合ってはいないが、ちゃんと手を上げてるでしょと言っているような気がした。
「集計が終わりました。顔をあげてください」
顔をあげる。目の前にある黒板にはデカデカと集計結果が書かれていた。
ええーと、展示会が17人?......17!!
「は?」
4人足りない。なんで?
男子達が混乱している声があちこちから聞こえてくる。
「静かに、文化祭の出し物は執事喫茶に決まりました」
無情にも委員はそう言い切った。