ホーム›魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―›第9話 ふたり一対、胸の内に隠した言ノ葉
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第9話 ふたり一対、胸の内に隠した言ノ葉

 金木犀の香りが微かに漂う。
 ソルが目を開けると、女性に膝枕され、頭を撫でられていた。
 女性の顔はわからない。ただ、居心地が良かった。

 ふっ、と女性は笑う。

「いつまで寝ているの。早く起きなさい」

 その声だけは、今でもはっきりと覚えている。

「母さん......」

「ソルはお兄ちゃんなんだから、マーニのことを泣かせたらダメだよ」

「マーニ――ッ!」

 *

 ――まばたきをすると森の中で仰向けになって倒れていた。

 ソルは体を起こし、すぐさま剣を握り直す。

 ツェーンと目が合った瞬間、急に足腰が震え始めた。
 ソルは後退りし、背後の木に背をぶつける。

 ソルはツェーンに恐怖心を抱いていた。

 その様子を見て、ツェーンが笑った。

「まるで生まれたての草食動物だな」

 ソルは歯を噛み締める。
 ツェーンの笑みがすぐに消えた。

 マーニが剣を構え、ツェーンの前に立ち塞がった。

「ツェーン、あなたに一撃でも当てればいいんですよね?」

 ツェーンが鼻で笑った。

「魔法使いが戦士の真似事なんてやめておけ。怪我をしたくなければ、そこを退けっ」

 マーニはツェーンをまっすぐ見つめた。

「退きません」

 横目でソルを見る。

「ソル、ここは私に任せて」

 ツェーンはため息をついた。

「言ってもわかんねぇようだな!」

 地を蹴った。
 ハルバードを大きく振り上げ、マーニへ振り下ろす。

 マーニは左へ半歩分、身体をずらし、剣を振り抜いた。

 ハルバードがピタリと止まる。

「何......っ!?」

 マーニの剣はツェーンの首筋に届き、裂けた外套から鎖帷子が鈍く光った。
 ツェーンは言葉を失う。

 マーニは静かに告げた。

「私の勝ちです」

 ツェーンは森中に響き渡るような大声で笑った。

「マール、お前、見かけによらず強いな」

「マーニです」

「マーニ、一つ聞かせろ。お前はソルよりも強い。なぜ、あいつの後ろに隠れて、こそこそと戦っているんだ」

 マーニは静かに息を吐いた。

「8年前、旅をすると決めた日のことです。私とソルは木剣で勝負しました。勝敗は32勝1敗。幼い頃の私とソルの戦績です」

「わからねぇな。それでどうして魔法使いになろうと思った」

 マーニは俯いた。

「初めて森で狩りをした時の話です。獣の前で私は一歩も動くことができませんでした。その獣はソルが狩りました」

「恐怖で足が竦んだのか」

 マーニは首を横に振った。

「私は、相手の動きを観察してからじゃないと動けないことがわかったんです。ソルに1敗した時もそうでした。獣や虫は動きが予測できません。このままでは旅に支障が出ると思い、ソルに役割を変わってもらったんです」

 マーニは苦笑いを浮かべる。

「ソルの魔力は、私よりも高いんです。でも、剣で私に勝つまで魔法を使わないと言ったきり、魔法を使わなくなりました。私がソルの才能をダメにしてしまったんです」

 ソルが「くそっ」と言い、マーニは彼に顔を向けた。

「ソルは、負けず嫌いなんです」

 ツェーンはハルバードを肩に担ぎ、ソルを一瞥した。

「お前たちの勝ちだ」

 魔獣の頭に目を向ける。

「その首はお前たちにやる。アタシからの詫びだと思ってくれ。じゃあな」

 ツェーンはその場を立ち去った。

 マーニはソルの元へ駆け寄った。

「ソル、大丈夫?」

「ああ。カバンがクッション代わりになってくれた」

 ソルは腰を下ろした。
 マーニは唇を嚙み締める。

「ごめん」

 ふたりの声が重なった。

「マーニが何で謝るんだよ。俺が危なくなったら手を貸す約束だっただろう」

「じゃあ、ソルは何で謝ったの?」

「また泣かせるところだった」

 ソルは静かに目を伏せた。

「俺が守ると約束したはずだったのにな」

 マーニはソルにデコピンをした。

 ソルは顔を上げ、赤くなった額を手で摩った。

「何するんだよ」

「ソルの気持ちは嬉しいけど、私はもう子どもじゃないんだよ」

「そうだったな」

 ソルは魔獣の頭に目を向けた。

「で、これは、どうすればいいんだ?」

「ツェーンは......もういないし、持って帰って口入屋の人に聞くしかないよ」

「わかった。俺が持つよ。マーニ、魔獣の死肉は腐ると瘴気を放つ。焼き払えるか?」

 マーニは首を横に振った。

「私の魔力じゃ、魔素を三象の炎に変換できないよ」

 ソルは立ち上がり、剣を鞘に収める。

「わかった。俺がやる」

 マーニは思わず聞き返した。

「剣で私に勝つまで魔法を使わないんじゃなかったの?」

「二人の会話を聞いて、気づかされた。変な意地は、今日で捨てる」

 ソルは呼吸を整え、詠唱を始めた。

「熾よ、万物を灰すら残さず焼き尽くせ」

 次の瞬間、魔獣の死骸を中心に熱波が広がった。
 死肉が急速にしぼみ、体液とともに蒸発する。

 魔獣の胴体が横たわっていた場所には、戦闘の痕跡以外、何も残らなかった。

 ソルは前のめりに倒れ込み、地べたに手をついた。
 全身から湯気が立ち上り、額から大粒の汗が流れ落ちる。

 すぐさまマーニが魔法を唱えた。

「流水よ、彼の者を炎熱から護りたまえ」

 地面から水の塊が浮き上がり、ソルの体に触れては蒸発を繰り返す。
 高温になったソルの体温を急速に下げる。

 ソルは潰れたカバンの中から水入れを取り出し、喉を鳴らしながら水を飲み干した。

「ぷはーっ、生き返る!」

「私の水もいる?」

「いや、水はもういい。久々に魔法を使ったから距離感を間違えた。マーニは大丈夫か?」

「うん。私は魔法に慣れているから平気なんだと思う」

 ソルは息を吐いた。

「強がるなよ。汗が出ているぞ」

「これは、ツェーンの攻撃を間一髪で避けた時、安堵したからだよ」

「はいはい。そういうことにしておくよ」

 マーニは頬を膨らませた。

「盾、借りるよ。私がソルを守るから」

「おう。それじゃ戻るとするか」

 ふたりはカバンを背負い、マーニを先頭に、ソルは魔獣の頭を引きずって、森を抜け出した。

 *

 ――水都アクアレインへ戻り、口入屋の前に魔獣の頭を置き、中に入った。

 受付が咳払いをひとつ。

「まずは、依頼の件ですが、ありがとうございます」

 ふたりを一瞥し、話を続けた。

「ツェーン様より、報酬をすべて同行者に渡すよう伝言を預かっております。お二人のお名前をちょうだいします」

「ソルだ」

「マーニです」

 受付は書類を確認し、首を傾げた。

「ツェーン様は、ソル様とマール様を同行者として選ばれております」

 マーニは無理やり笑顔を作った。

「私のことです。訂正したはずなんですけど」

 受付はマーニを見て、口元を緩めた。

「虚偽でないことは明白ですので、ご安心ください。死骸の処理もお任せください」

「それなら俺がやったけど」

「お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。ですが、現場を確認しなければなりません。知っての通り、魔獣の肉が腐ると瘴気が発生し、周辺の土地が汚染されてしまいます。魔法は地相の影響を受けてしまうため、すぐに金剛石級のハウンドを手配します。報酬をご用意いたしますので、少々お待ちください」

 受付は足早に立ち去った。

「マーニ、金剛石級のハウンドってすごいのか?」

「うん。エレメンティアは北部平原にあるんだけど、壁を築いて監視しているのがルミナルディアだよ。北部平原に足を踏み入れるためには、ルミナルディアのハウンド管理局で試験を受けて実力を証明しなければならない。序列一位階の実力者が、金剛石級だよ」

 マーニは笑みを浮かべ、ソルを見る。

「ソルの魔力なら金剛石級も夢じゃないかもね」

「俺はこれからも剣で戦うからな」

「どうして?」

 ソルは拳を握り締めた。

「俺はツェーンに手も足も出なかった。その上、手を抜かれていた。こんなんじゃ英雄になれやしない」

「ソルは私のわがままを聞いてくれた。私もソルのわがままを聞くからね」

「おう」

 マーニはソルの拳に、そっと自分の拳を重ねた。

 受付が報酬を乗せたトレイを持って戻ってきた。

「こちらが今回の報酬です」

 金貨1枚と、黒曜石と曹灰長石そうかいちょうせきが一粒ずつ置かれていた。
 受付が報酬の説明を始める。

「今回、森のヌシ討伐報酬として金貨1ルミナをご用意しておりました。しかし、魔獣を討伐されましたので、追加報酬をお渡しします。魔物や魔獣は、禁忌指定の討伐対象です。発見された場合は、黒曜石を一粒。討伐された場合、今回は魔獣ですので、曹灰長石を一粒お渡しします。これらの輝石の換金は、ルミナルディアの口入屋で行っております」

 輝石とは、錬成加工の際に出る宝石の屑を再利用した、濁りのある石。土埃が混ざり本来の輝きを失っているため、それ自体に金銭的価値はない。

 マーニが小首を傾げた。

「ここで換金できないんですか?」

「申し訳ありません。そういう決まりになっております」

 受付は顔を近づけ、小声で言った。

「ルミナルディアは北部平原を調査するために強者を募っています。自国に招くため、換金できる場所を一カ所にしたのです」

 ソルが笑った。

「目的地は同じだし、いいじゃないか」

「そうね」

 受付は姿勢を正した。

「ご理解いただけたようで何よりです」

 マーニは報酬を受け取り、布袋に入れた。

「ソル様、マーニ様、一つだけご忠告申し上げます。ひと昔前は討伐対象の一部を持ち込むことで、その証明としていましたが、現代は容易に真偽を見抜くことができます。次回からは持ち込み不要です。ご理解のほどよろしくお願いします」

 受付は外に置かれた魔獣の頭に目をやった。

「そちらは金剛石級のハウンドに処理していただくので、そのままで結構です」

「はい」

 ふたりは頭を下げて、外に出た。

「怒られちゃったね」

「そうだな」

 マーニがソルの手を掴んだ。

「診療所で診てもらうよ」

「もう平気だし、いいって」

「それは、診療所の先生が判断することだよ」

 ソルは口をつぐんだ。
 マーニの声に、有無を言わせない何かがあった。

 ふたりは通りがかった人に診療所の場所を尋ね、礼を言ってから向かった。
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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―作者:虚空小白
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 金木犀の香りが微かに漂う。
 ソルが目を開けると、女性に膝枕され、頭を撫でられていた。
 女性の顔はわからない。ただ、居心地が良かった。

 ふっ、と女性は笑う。

「いつまで寝ているの。早く起きなさい」

 その声だけは、今でもはっきりと覚えている。

「母さん......」

「ソルはお兄ちゃんなんだから、マーニのことを泣かせたらダメだよ」

「マーニ――ッ!」

 *

 ――まばたきをすると森の中で仰向けになって倒れていた。

 ソルは体を起こし、すぐさま剣を握り直す。

 ツェーンと目が合った瞬間、急に足腰が震え始めた。
 ソルは後退りし、背後の木に背をぶつける。

 ソルはツェーンに恐怖心を抱いていた。

 その様子を見て、ツェーンが笑った。

「まるで生まれたての草食動物だな」

 ソルは歯を噛み締める。
 ツェーンの笑みがすぐに消えた。

 マーニが剣を構え、ツェーンの前に立ち塞がった。

「ツェーン、あなたに一撃でも当てればいいんですよね?」

 ツェーンが鼻で笑った。

「魔法使いが戦士の真似事なんてやめておけ。怪我をしたくなければ、そこを退けっ」

 マーニはツェーンをまっすぐ見つめた。

「退きません」

 横目でソルを見る。

「ソル、ここは私に任せて」

 ツェーンはため息をついた。

「言ってもわかんねぇようだな!」

 地を蹴った。
 ハルバードを大きく振り上げ、マーニへ振り下ろす。

 マーニは左へ半歩分、身体をずらし、剣を振り抜いた。

 ハルバードがピタリと止まる。

「何......っ!?」

 マーニの剣はツェーンの首筋に届き、裂けた外套から鎖帷子が鈍く光った。
 ツェーンは言葉を失う。

 マーニは静かに告げた。

「私の勝ちです」

 ツェーンは森中に響き渡るような大声で笑った。

「マール、お前、見かけによらず強いな」

「マーニです」

「マーニ、一つ聞かせろ。お前はソルよりも強い。なぜ、あいつの後ろに隠れて、こそこそと戦っているんだ」

 マーニは静かに息を吐いた。

「8年前、旅をすると決めた日のことです。私とソルは木剣で勝負しました。勝敗は32勝1敗。幼い頃の私とソルの戦績です」

「わからねぇな。それでどうして魔法使いになろうと思った」

 マーニは俯いた。

「初めて森で狩りをした時の話です。獣の前で私は一歩も動くことができませんでした。その獣はソルが狩りました」

「恐怖で足が竦んだのか」

 マーニは首を横に振った。

「私は、相手の動きを観察してからじゃないと動けないことがわかったんです。ソルに1敗した時もそうでした。獣や虫は動きが予測できません。このままでは旅に支障が出ると思い、ソルに役割を変わってもらったんです」

 マーニは苦笑いを浮かべる。

「ソルの魔力は、私よりも高いんです。でも、剣で私に勝つまで魔法を使わないと言ったきり、魔法を使わなくなりました。私がソルの才能をダメにしてしまったんです」

 ソルが「くそっ」と言い、マーニは彼に顔を向けた。

「ソルは、負けず嫌いなんです」

 ツェーンはハルバードを肩に担ぎ、ソルを一瞥した。

「お前たちの勝ちだ」

 魔獣の頭に目を向ける。

「その首はお前たちにやる。アタシからの詫びだと思ってくれ。じゃあな」

 ツェーンはその場を立ち去った。

 マーニはソルの元へ駆け寄った。

「ソル、大丈夫?」

「ああ。カバンがクッション代わりになってくれた」

 ソルは腰を下ろした。
 マーニは唇を嚙み締める。

「ごめん」

 ふたりの声が重なった。

「マーニが何で謝るんだよ。俺が危なくなったら手を貸す約束だっただろう」

「じゃあ、ソルは何で謝ったの?」

「また泣かせるところだった」

 ソルは静かに目を伏せた。

「俺が守ると約束したはずだったのにな」

 マーニはソルにデコピンをした。

 ソルは顔を上げ、赤くなった額を手で摩った。

「何するんだよ」

「ソルの気持ちは嬉しいけど、私はもう子どもじゃないんだよ」

「そうだったな」

 ソルは魔獣の頭に目を向けた。

「で、これは、どうすればいいんだ?」

「ツェーンは......もういないし、持って帰って口入屋の人に聞くしかないよ」

「わかった。俺が持つよ。マーニ、魔獣の死肉は腐ると瘴気を放つ。焼き払えるか?」

 マーニは首を横に振った。

「私の魔力じゃ、魔素を三象の炎に変換できないよ」

 ソルは立ち上がり、剣を鞘に収める。

「わかった。俺がやる」

 マーニは思わず聞き返した。

「剣で私に勝つまで魔法を使わないんじゃなかったの?」

「二人の会話を聞いて、気づかされた。変な意地は、今日で捨てる」

 ソルは呼吸を整え、詠唱を始めた。

「熾よ、万物を灰すら残さず焼き尽くせ」

 次の瞬間、魔獣の死骸を中心に熱波が広がった。
 死肉が急速にしぼみ、体液とともに蒸発する。

 魔獣の胴体が横たわっていた場所には、戦闘の痕跡以外、何も残らなかった。

 ソルは前のめりに倒れ込み、地べたに手をついた。
 全身から湯気が立ち上り、額から大粒の汗が流れ落ちる。

 すぐさまマーニが魔法を唱えた。

「流水よ、彼の者を炎熱から護りたまえ」

 地面から水の塊が浮き上がり、ソルの体に触れては蒸発を繰り返す。
 高温になったソルの体温を急速に下げる。

 ソルは潰れたカバンの中から水入れを取り出し、喉を鳴らしながら水を飲み干した。

「ぷはーっ、生き返る!」

「私の水もいる?」

「いや、水はもういい。久々に魔法を使ったから距離感を間違えた。マーニは大丈夫か?」

「うん。私は魔法に慣れているから平気なんだと思う」

 ソルは息を吐いた。

「強がるなよ。汗が出ているぞ」

「これは、ツェーンの攻撃を間一髪で避けた時、安堵したからだよ」

「はいはい。そういうことにしておくよ」

 マーニは頬を膨らませた。

「盾、借りるよ。私がソルを守るから」

「おう。それじゃ戻るとするか」

 ふたりはカバンを背負い、マーニを先頭に、ソルは魔獣の頭を引きずって、森を抜け出した。

 *

 ――水都アクアレインへ戻り、口入屋の前に魔獣の頭を置き、中に入った。

 受付が咳払いをひとつ。

「まずは、依頼の件ですが、ありがとうございます」

 ふたりを一瞥し、話を続けた。

「ツェーン様より、報酬をすべて同行者に渡すよう伝言を預かっております。お二人のお名前をちょうだいします」

「ソルだ」

「マーニです」

 受付は書類を確認し、首を傾げた。

「ツェーン様は、ソル様とマール様を同行者として選ばれております」

 マーニは無理やり笑顔を作った。

「私のことです。訂正したはずなんですけど」

 受付はマーニを見て、口元を緩めた。

「虚偽でないことは明白ですので、ご安心ください。死骸の処理もお任せください」

「それなら俺がやったけど」

「お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。ですが、現場を確認しなければなりません。知っての通り、魔獣の肉が腐ると瘴気が発生し、周辺の土地が汚染されてしまいます。魔法は地相の影響を受けてしまうため、すぐに金剛石級のハウンドを手配します。報酬をご用意いたしますので、少々お待ちください」

 受付は足早に立ち去った。

「マーニ、金剛石級のハウンドってすごいのか?」

「うん。エレメンティアは北部平原にあるんだけど、壁を築いて監視しているのがルミナルディアだよ。北部平原に足を踏み入れるためには、ルミナルディアのハウンド管理局で試験を受けて実力を証明しなければならない。序列一位階の実力者が、金剛石級だよ」

 マーニは笑みを浮かべ、ソルを見る。

「ソルの魔力なら金剛石級も夢じゃないかもね」

「俺はこれからも剣で戦うからな」

「どうして?」

 ソルは拳を握り締めた。

「俺はツェーンに手も足も出なかった。その上、手を抜かれていた。こんなんじゃ英雄になれやしない」

「ソルは私のわがままを聞いてくれた。私もソルのわがままを聞くからね」

「おう」

 マーニはソルの拳に、そっと自分の拳を重ねた。

 受付が報酬を乗せたトレイを持って戻ってきた。

「こちらが今回の報酬です」

 金貨1枚と、黒曜石と曹灰長石そうかいちょうせきが一粒ずつ置かれていた。
 受付が報酬の説明を始める。

「今回、森のヌシ討伐報酬として金貨1ルミナをご用意しておりました。しかし、魔獣を討伐されましたので、追加報酬をお渡しします。魔物や魔獣は、禁忌指定の討伐対象です。発見された場合は、黒曜石を一粒。討伐された場合、今回は魔獣ですので、曹灰長石を一粒お渡しします。これらの輝石の換金は、ルミナルディアの口入屋で行っております」

 輝石とは、錬成加工の際に出る宝石の屑を再利用した、濁りのある石。土埃が混ざり本来の輝きを失っているため、それ自体に金銭的価値はない。

 マーニが小首を傾げた。

「ここで換金できないんですか?」

「申し訳ありません。そういう決まりになっております」

 受付は顔を近づけ、小声で言った。

「ルミナルディアは北部平原を調査するために強者を募っています。自国に招くため、換金できる場所を一カ所にしたのです」

 ソルが笑った。

「目的地は同じだし、いいじゃないか」

「そうね」

 受付は姿勢を正した。

「ご理解いただけたようで何よりです」

 マーニは報酬を受け取り、布袋に入れた。

「ソル様、マーニ様、一つだけご忠告申し上げます。ひと昔前は討伐対象の一部を持ち込むことで、その証明としていましたが、現代は容易に真偽を見抜くことができます。次回からは持ち込み不要です。ご理解のほどよろしくお願いします」

 受付は外に置かれた魔獣の頭に目をやった。

「そちらは金剛石級のハウンドに処理していただくので、そのままで結構です」

「はい」

 ふたりは頭を下げて、外に出た。

「怒られちゃったね」

「そうだな」

 マーニがソルの手を掴んだ。

「診療所で診てもらうよ」

「もう平気だし、いいって」

「それは、診療所の先生が判断することだよ」

 ソルは口をつぐんだ。
 マーニの声に、有無を言わせない何かがあった。

 ふたりは通りがかった人に診療所の場所を尋ね、礼を言ってから向かった。
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