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第6話 依頼に潜む、黒い影

 潮の香りと金属のにおいが混ざり合う。
 鉄を打つ音が響き渡る。

 街の一角にある鍛冶屋『跳水工房』の店内には、鋼の剣や槍、さまざまな防具が並んでいた。
 ふたりが店内を見渡していると、茶髪の男性店員が近寄る。

 顎にそっと手を当て、ふたりの手に持った剣を見て、目を細めた。

「いらっしゃい。ベルトが壊れたのかい?」

 ソルは首を横に振った。

「この剣は父さんからもらったけど、ベルトがなかったんだ」

「剣を見せてくれるかな」

 ソルは店員に剣を手渡した。
 店員は剣を抜き、刀身を見て、息を吐く。

「剣は研げばいいってものじゃない。脂を塗って湿気や錆を防がないと意味がない」

 ソルは苦笑いを浮かべた。

「農具と同じ感覚でやってしまった」

 店員は優しい口調で続けた。

「見たところ、この剣は数年前に製造されている。見た目に問題がなくても、劣化している可能性がある」

 ソルは一歩前に出た。

「狼を斬ったが、大丈夫だった」

「キミが大丈夫でも、剣は悲鳴を上げている」

 ソルは返す言葉を失う。

 店員はマーニの剣に目をやった。

「キミの剣も同じだ。確認させてもらうよ」

 マーニは店員に剣を預けた。

「お願いします」

 店員は刀身を一目見て、首を横に振った。

「キミたちにとって、この剣が大切なものであることは理解している。それでも、剣を買い直してほしい」

 ふたりは黙り込んだ。

「ベルトの件だったね。すぐに用意するとしよう」

 店員は工房へ向かう。

「マーニはどう思う?」

「剣のこと?」

「ああ。父さんの性格からして、剣の手入れをしていなかったと思うんだ」

 マーニは小首を傾げた。

「ソルは、新しい剣がほしいの?」

 ソルは沈んだ表情で息を吐いた。

「もし、剣が折れて、マーニのことが守れなくなるくらいならな」

 マーニはソルの肩に手を置いた。

「ソルは勘違いしているよ」

 ソルは顔を上げ、マーニを見つめる。

「勘違い?」

「うん。私もソルを守るために戦っているんだよ」

 ソルは思わず微笑んだ。

「そうだったな。俺は自分のことばかり考えていた」

 マーニは手を離し、柔らかく笑う。

「後学のために剣の値段を見ておきましょう」

「おう」

 ふたりは店内で装備の値段を調べた。
 ソルは大剣の前で足を止め、目を輝かせる。

 マーニが横から声をかけた。

「立派な剣だね」

「格好いいよな!」

「私は無理だけど、ソルなら使いこなせそう?」

 ソルは首を横に振った。

「今は、まだ無理だな」

「今は?」

「ああ、俺が英雄になる頃には使いこなしていると思うぜ」

 店員がふたりの剣を持って戻ってきた。

「柄巻が傷んでいたから交換しておいたよ。鞘だが、ベルトの固定具がなかったので取り付けておいた。代金は銀貨1ルミナと銅貨10ルミナ」

 マーニは代金を支払った。

「固定具は使っていると緩んでくることがある。鍛冶屋に言えば、すぐに修理してくれるよ」

 店員はソルの古びた胸当てを一瞥した。

「装備に金を惜しまないことが長生きする秘訣さ」

 マーニはソルの胸当てに目をやった。

「ソルの防具を新調したいです」

「それなら皮製品をオススメするよ。軽い上に伸び縮みする。柔らかい材質だから衝撃を吸収する」

 ソルは展示品の鎧に目をやった。

「鎧はないのか?」

「あるにはあるが、オーダーメイドになる上、製造に時間がかかる。その分、料金もかかる。とてもじゃないが、キミに支払う能力があるとは思えない。剣を見ればわかるからね」

「オーダーメイド......?」

「キミの体に合わせた一点ものって意味だよ」

 ソルは肩を落とした。

「憧れる気持ちはわかるけど、身の丈にあったものを選んだほうがいいよ」

 マーニが一歩前に出た。

「皮製品の防具一式と脂の値段を教えてください」

「胸当て、股当て、肘当て、膝当て、靴、脂二つで銅貨80ルミナ」

 店員はソルを見た。

「彼女を守るのなら盾もあったほうがいいと思うが、どうする。慣れないうちは軽い木の盾がオススメだよ。銀貨1ルミナ」

 ソルは一拍置いて答えた。

「この先、盾が必要になるかもしれない。買うよ」

「まいど。すぐに用意するよ」

 店員が装備一式と布で包んだ脂を持ってきた。
 装備一式をソルに、脂二つをマーニに手渡す。

「奥に試着室がある。身に着けて違和感があれば、すぐに交換するよ」

 ソルは木の盾を見て呟いた。

「これがあれば......」

「ソル......?」

 ソルは顔を上げて笑った。

「マーニ、盾があれば安心できるよな」

「えっ、まあそうだね」

「そっか。マーニがそう言うんなら、きっとそれが正解なんだろうな。俺の勘もそう言ってる」

 マーニは思わず笑った。

「変なこと言ってないで、早く行きなよ」

 ソルは試着室へ向かい、カーテンを閉めた。

 荷物を床に置く。
 古い胸当てを外し、胸当て、股当て、肘当て、膝当てを身に着ける。
 腰に剣を下げ、左手に木の盾を持ち、体を動かして異常がないか確認した。

 問題なし。

 カバンを背負って試着室を出た。
 マーニの元へ行き、親指を立てる。

「身が引き締まったぜ!」

 マーニは笑顔で頷いた。
 店員が咳払いをひとつ。

「脂は少量でいい。使い古した布で広げれば十分さ」

「ありがとな、おっちゃん」

 マーニが代金を支払い、跳水工房を出た。

「これ、ソルの分だよ」

 マーニはソルに脂一つを手渡した。彼はそれをポケットに突っ込む。

「よしっ、次は口入屋だな」

「うん。行こう!」

 マーニはソルの右手を掴み、口入屋へ向かって走り出した。
 ソルは苦笑いを浮かべながら、歩幅を合わせる。

 *

 街の中央には、ひと際大きな噴水が設置されている。

 その龍を模した噴水は街の護り神――水龍として人々に信仰され崇められていた。
 その一角に口入屋があり、ふたりは中に入った。

 口入屋には数名の旅人がおり、受付の列に並んでいた。
 ふたりは背後に人の気配を感じ、振り向く。

 黒い頭巾と外套を身に纏っている。
 右手にハルバードを持った20過ぎの大女が、緑色の瞳でふたりを見下ろしていた。

 その瞬間、ソルは一歩後ろへ下がっていた。

 女は口の端を釣り上げ、受付に告げた。

「例の依頼だが、こいつらを使う」

 ふたりを一瞥し、壁際へ向かう。

「ついてこい」

 ソルは乱れた呼吸を整えながら声を振り絞った。

「マーニ、言う通りにしよう」

 マーニはソルの顔を覗き込んだ。

「ソル、どうしたの?」

「わからない。あの女と目が合った瞬間......呼吸できなくなった」

 ソルの手が震えていたのをマーニは見逃さなかった。

「早くしろ」

 女の声が飛んできた。
 ふたりは女の元へ近寄った。

「アタシはツェーン。十二聖徒の一人だ」

 マーニが恐る恐る尋ねた。

「十二聖徒とは何ですか? 私たち、孤島村から来たばかりなので何も知らなくて」

 ツェーンは笑みを浮かべた。

「教会は知っているな」

「はい。浄光教の方々が祈りを捧げているので、世界から争いがなくなった、と聞いています」

「表向きはな。だが、いつの世も悪党はいる。そいつらを裁くのが、教会から派遣された十二聖徒の役目だ」

 ツェーンはため息をつき、続けた。

「この街には水龍に纏わる伝承が残っている。ただの水を聖女様の力が宿った聖水と偽って、旅人に売りつけているバカがいる。聖女様の名を出した以上、十二聖徒であるアタシが派遣されたってわけだ」

「それと、私たちにどういう関係があるんですか?」

「お前らはバカな旅人のフリをして水を買うだけでいい。そいつから話を聞くのはアタシの役目だ」

 マーニは半歩前に出た。

「これは、正式な依頼ですよね?」

「報酬の話か。バカを捕まえることができれば金貨3ルミナ支払ってやる。悪い話じゃないだろう」

 ツェーンが不敵な笑みを浮かべた。

「先に言っておくが、お前らに拒否権はない」

 黙って聞いていたソルが割って入った。

「何でだよ!」

「お前、名は?」

「ソルだ」

「ソル、お前は鼻が効くな。一目でアタシを強者と見抜いた。だから、お前は今も震えている。お前は強くなる。だから、アタシの欲求不満を解消するのに使える」

 ソルの額から大粒の汗が流れ落ちた。

「俺たちを痛めつけるつもりか。そんなこと許されない!」

 ツェーンは面白おかしく笑った。

「それは、お前らが決めることじゃない。外野からすれば、十二聖徒がお前らという悪を裁いているように映る。お前らが何をしたか、そんなこと気にする奴はどこにもいない」

「くっ」

 マーニがソルの肩に手を置き、首を横に振った。

「マーニ......?」

「ツェーン、依頼の件、お引き受けします」

「賢明な判断だ」

 マーニは咳払いをひとつ。

「ツェーン、どこへ向かえばいいですか?」

 ツェーンは肩を竦めた。

「場所を変えているからわからない。バカはバカなりに頭を使っているようだな」

 マーニは手をポンと叩いた。

「そっか。水入れだけ持ち運べば場所を変えることができる」

「なるほどな。この街は噴水が多い。バカの居所が特定できないのは、そういうことか。お前、名は?」

「マーニです」

「よしっ、ソル、マール。バカを探してこい」

 マーニはため息をついた。
 名前を訂正する気すら起きなかった。

「ツェーンは来ないんですか?」

「アタシは目立つから、お前らを尾行する。バカも現行犯で捕まえれば言い逃れできないからな」

「わかりました。行こう、ソル」

「おう」

 口入屋を出ると、潮風が頬を撫でた。
 にぎわう街並みが広がっている。

 どこにでもいる旅人のように見えるふたりの後ろを、あの女が尾行している。

 ソルは小声でマーニに言った。

「マーニ、本当に大丈夫か?」

「大丈夫じゃないけど――やるしかないよ」
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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―作者:虚空小白
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第6話 依頼に潜む、黒い影

 潮の香りと金属のにおいが混ざり合う。
 鉄を打つ音が響き渡る。

 街の一角にある鍛冶屋『跳水工房』の店内には、鋼の剣や槍、さまざまな防具が並んでいた。
 ふたりが店内を見渡していると、茶髪の男性店員が近寄る。

 顎にそっと手を当て、ふたりの手に持った剣を見て、目を細めた。

「いらっしゃい。ベルトが壊れたのかい?」

 ソルは首を横に振った。

「この剣は父さんからもらったけど、ベルトがなかったんだ」

「剣を見せてくれるかな」

 ソルは店員に剣を手渡した。
 店員は剣を抜き、刀身を見て、息を吐く。

「剣は研げばいいってものじゃない。脂を塗って湿気や錆を防がないと意味がない」

 ソルは苦笑いを浮かべた。

「農具と同じ感覚でやってしまった」

 店員は優しい口調で続けた。

「見たところ、この剣は数年前に製造されている。見た目に問題がなくても、劣化している可能性がある」

 ソルは一歩前に出た。

「狼を斬ったが、大丈夫だった」

「キミが大丈夫でも、剣は悲鳴を上げている」

 ソルは返す言葉を失う。

 店員はマーニの剣に目をやった。

「キミの剣も同じだ。確認させてもらうよ」

 マーニは店員に剣を預けた。

「お願いします」

 店員は刀身を一目見て、首を横に振った。

「キミたちにとって、この剣が大切なものであることは理解している。それでも、剣を買い直してほしい」

 ふたりは黙り込んだ。

「ベルトの件だったね。すぐに用意するとしよう」

 店員は工房へ向かう。

「マーニはどう思う?」

「剣のこと?」

「ああ。父さんの性格からして、剣の手入れをしていなかったと思うんだ」

 マーニは小首を傾げた。

「ソルは、新しい剣がほしいの?」

 ソルは沈んだ表情で息を吐いた。

「もし、剣が折れて、マーニのことが守れなくなるくらいならな」

 マーニはソルの肩に手を置いた。

「ソルは勘違いしているよ」

 ソルは顔を上げ、マーニを見つめる。

「勘違い?」

「うん。私もソルを守るために戦っているんだよ」

 ソルは思わず微笑んだ。

「そうだったな。俺は自分のことばかり考えていた」

 マーニは手を離し、柔らかく笑う。

「後学のために剣の値段を見ておきましょう」

「おう」

 ふたりは店内で装備の値段を調べた。
 ソルは大剣の前で足を止め、目を輝かせる。

 マーニが横から声をかけた。

「立派な剣だね」

「格好いいよな!」

「私は無理だけど、ソルなら使いこなせそう?」

 ソルは首を横に振った。

「今は、まだ無理だな」

「今は?」

「ああ、俺が英雄になる頃には使いこなしていると思うぜ」

 店員がふたりの剣を持って戻ってきた。

「柄巻が傷んでいたから交換しておいたよ。鞘だが、ベルトの固定具がなかったので取り付けておいた。代金は銀貨1ルミナと銅貨10ルミナ」

 マーニは代金を支払った。

「固定具は使っていると緩んでくることがある。鍛冶屋に言えば、すぐに修理してくれるよ」

 店員はソルの古びた胸当てを一瞥した。

「装備に金を惜しまないことが長生きする秘訣さ」

 マーニはソルの胸当てに目をやった。

「ソルの防具を新調したいです」

「それなら皮製品をオススメするよ。軽い上に伸び縮みする。柔らかい材質だから衝撃を吸収する」

 ソルは展示品の鎧に目をやった。

「鎧はないのか?」

「あるにはあるが、オーダーメイドになる上、製造に時間がかかる。その分、料金もかかる。とてもじゃないが、キミに支払う能力があるとは思えない。剣を見ればわかるからね」

「オーダーメイド......?」

「キミの体に合わせた一点ものって意味だよ」

 ソルは肩を落とした。

「憧れる気持ちはわかるけど、身の丈にあったものを選んだほうがいいよ」

 マーニが一歩前に出た。

「皮製品の防具一式と脂の値段を教えてください」

「胸当て、股当て、肘当て、膝当て、靴、脂二つで銅貨80ルミナ」

 店員はソルを見た。

「彼女を守るのなら盾もあったほうがいいと思うが、どうする。慣れないうちは軽い木の盾がオススメだよ。銀貨1ルミナ」

 ソルは一拍置いて答えた。

「この先、盾が必要になるかもしれない。買うよ」

「まいど。すぐに用意するよ」

 店員が装備一式と布で包んだ脂を持ってきた。
 装備一式をソルに、脂二つをマーニに手渡す。

「奥に試着室がある。身に着けて違和感があれば、すぐに交換するよ」

 ソルは木の盾を見て呟いた。

「これがあれば......」

「ソル......?」

 ソルは顔を上げて笑った。

「マーニ、盾があれば安心できるよな」

「えっ、まあそうだね」

「そっか。マーニがそう言うんなら、きっとそれが正解なんだろうな。俺の勘もそう言ってる」

 マーニは思わず笑った。

「変なこと言ってないで、早く行きなよ」

 ソルは試着室へ向かい、カーテンを閉めた。

 荷物を床に置く。
 古い胸当てを外し、胸当て、股当て、肘当て、膝当てを身に着ける。
 腰に剣を下げ、左手に木の盾を持ち、体を動かして異常がないか確認した。

 問題なし。

 カバンを背負って試着室を出た。
 マーニの元へ行き、親指を立てる。

「身が引き締まったぜ!」

 マーニは笑顔で頷いた。
 店員が咳払いをひとつ。

「脂は少量でいい。使い古した布で広げれば十分さ」

「ありがとな、おっちゃん」

 マーニが代金を支払い、跳水工房を出た。

「これ、ソルの分だよ」

 マーニはソルに脂一つを手渡した。彼はそれをポケットに突っ込む。

「よしっ、次は口入屋だな」

「うん。行こう!」

 マーニはソルの右手を掴み、口入屋へ向かって走り出した。
 ソルは苦笑いを浮かべながら、歩幅を合わせる。

 *

 街の中央には、ひと際大きな噴水が設置されている。

 その龍を模した噴水は街の護り神――水龍として人々に信仰され崇められていた。
 その一角に口入屋があり、ふたりは中に入った。

 口入屋には数名の旅人がおり、受付の列に並んでいた。
 ふたりは背後に人の気配を感じ、振り向く。

 黒い頭巾と外套を身に纏っている。
 右手にハルバードを持った20過ぎの大女が、緑色の瞳でふたりを見下ろしていた。

 その瞬間、ソルは一歩後ろへ下がっていた。

 女は口の端を釣り上げ、受付に告げた。

「例の依頼だが、こいつらを使う」

 ふたりを一瞥し、壁際へ向かう。

「ついてこい」

 ソルは乱れた呼吸を整えながら声を振り絞った。

「マーニ、言う通りにしよう」

 マーニはソルの顔を覗き込んだ。

「ソル、どうしたの?」

「わからない。あの女と目が合った瞬間......呼吸できなくなった」

 ソルの手が震えていたのをマーニは見逃さなかった。

「早くしろ」

 女の声が飛んできた。
 ふたりは女の元へ近寄った。

「アタシはツェーン。十二聖徒の一人だ」

 マーニが恐る恐る尋ねた。

「十二聖徒とは何ですか? 私たち、孤島村から来たばかりなので何も知らなくて」

 ツェーンは笑みを浮かべた。

「教会は知っているな」

「はい。浄光教の方々が祈りを捧げているので、世界から争いがなくなった、と聞いています」

「表向きはな。だが、いつの世も悪党はいる。そいつらを裁くのが、教会から派遣された十二聖徒の役目だ」

 ツェーンはため息をつき、続けた。

「この街には水龍に纏わる伝承が残っている。ただの水を聖女様の力が宿った聖水と偽って、旅人に売りつけているバカがいる。聖女様の名を出した以上、十二聖徒であるアタシが派遣されたってわけだ」

「それと、私たちにどういう関係があるんですか?」

「お前らはバカな旅人のフリをして水を買うだけでいい。そいつから話を聞くのはアタシの役目だ」

 マーニは半歩前に出た。

「これは、正式な依頼ですよね?」

「報酬の話か。バカを捕まえることができれば金貨3ルミナ支払ってやる。悪い話じゃないだろう」

 ツェーンが不敵な笑みを浮かべた。

「先に言っておくが、お前らに拒否権はない」

 黙って聞いていたソルが割って入った。

「何でだよ!」

「お前、名は?」

「ソルだ」

「ソル、お前は鼻が効くな。一目でアタシを強者と見抜いた。だから、お前は今も震えている。お前は強くなる。だから、アタシの欲求不満を解消するのに使える」

 ソルの額から大粒の汗が流れ落ちた。

「俺たちを痛めつけるつもりか。そんなこと許されない!」

 ツェーンは面白おかしく笑った。

「それは、お前らが決めることじゃない。外野からすれば、十二聖徒がお前らという悪を裁いているように映る。お前らが何をしたか、そんなこと気にする奴はどこにもいない」

「くっ」

 マーニがソルの肩に手を置き、首を横に振った。

「マーニ......?」

「ツェーン、依頼の件、お引き受けします」

「賢明な判断だ」

 マーニは咳払いをひとつ。

「ツェーン、どこへ向かえばいいですか?」

 ツェーンは肩を竦めた。

「場所を変えているからわからない。バカはバカなりに頭を使っているようだな」

 マーニは手をポンと叩いた。

「そっか。水入れだけ持ち運べば場所を変えることができる」

「なるほどな。この街は噴水が多い。バカの居所が特定できないのは、そういうことか。お前、名は?」

「マーニです」

「よしっ、ソル、マール。バカを探してこい」

 マーニはため息をついた。
 名前を訂正する気すら起きなかった。

「ツェーンは来ないんですか?」

「アタシは目立つから、お前らを尾行する。バカも現行犯で捕まえれば言い逃れできないからな」

「わかりました。行こう、ソル」

「おう」

 口入屋を出ると、潮風が頬を撫でた。
 にぎわう街並みが広がっている。

 どこにでもいる旅人のように見えるふたりの後ろを、あの女が尾行している。

 ソルは小声でマーニに言った。

「マーニ、本当に大丈夫か?」

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