第二十三話 答えのない問いを、風に
――カイレンは生け捕りにした獣を運んでいた。
浮かない表情をした彼女に、族長は声をかけた。
「Kailen,ze tiralen estal ze nalteal?
(カイレン、体の具合でも悪いのか?)」
カイレンは足を止め、族長を見つめる。
「Losen nalteal ze tiralen estal.ze Nushial tambien nilen ze tiralen.
(ロゼンは不思議な力を持っていました。ヌシが動かなかった)」
族長は顎にそっと手を当てた。
「Losen nalteal ze tiralen estal ze nalteal.
(ロゼンは魔法を唱えたのだと思う)」
カイレンは首を横に振った。
「nilen ze tiralen estal ze Kailen nalteal.zenomal ze Losen nalteal ze familien tiralen estal.
(なぜ、その力をカイレンたちに使わなかったのかわからない。そうすれば、ロゼンは家族を失うこともなかった)」
族長は口元を緩めた。
「ze tiralen estal 400 nalteal.ze Vernaten nalteal ze tiralen estal ze nalteal.ze tiralen estal ze Raven Maiten nalteal.ze 400 nalteal tambien ze tiralen estal.Losen nalteal ze Kailen Raven Maiten estal,nilen ze tiralen nalteal.
(四百年前の話だ。賢者ヴェルナートは魔法の危険性を訴え、人に対して使うことを固く禁じた。当時、魔法で大勢の人々が亡くなったからだ。四百年経った今でも守られている。ロゼンはカイレンたちが人だったので、使う意思がなかった)」
声がわずかに揺れた。
「ze tiralen estal,ze tiralen nalteal ze nalteal.
(そのせいで、守るべき者を失った)」
カイレンは俯いた。
「Kailen nalteal Losen ze Juugial. ze tiralen estal ze nalteal, ze tiralen estal ze nalteal. ze Losen tiralen estal ze nalteal. aber, Losen nalen ze Kailen nalteal. zenomal, nilen ze tiralen estal.
(カイレンはロゼンのことを害獣と呼んだ。祖先がやられたことを思うと憎しみが込み上げた。でも、ロゼンの怒りも当然のものだった。だけど、ロゼンはカイレンに何もしなかった。だから、わからない)」
族長は首を横に振った。
「Kailen nalen ze varial. ze rulen estal, ze Veral nalteal, ze Deial sental nalteal.
(カイレンは悪くない。掟に従い、ヴェラの民を守り、神の使いを保護したのだ)」
穏やかな口調で続けた。
「ze tiralen estal ze Kozuchal.nilen ze Kailen tiralen estal ze nalteal.aber,nilen Kailen hatedal filen nalteal.
(悪いのは、その掟を作ってしまった僕だ。カイレンが行ったことを咎めるつもりはない。だが、二度と命を断とうとするな)」
カイレンは首を縦に振った。
それでも、彼女の表情が晴れることはない。
「Yalen.Kailen nalteal ze tiralen estal.
(わかりました。カイレンは宴の準備に戻ります)」
族長はカイレンの背中を見送り、ため息をついた。
不死は殺さなければ確認できない。外部の者に集落の居場所を知られると、また悲劇が生まれてしまう。
族長は空を仰ぎ、亡き妻に尋ねた。
「ze Raven Maiten tambien nalteal ze tiralen estal?
(ヴェラの民も変わるべきなのかな)」
答えの代わりに、一陣の風が吹いた。
*
――夕暮れ。
誰かが近づいてくる足音で、ロゼンは目を覚ました。
「ロゼン、起きてください。宴の準備が整いました」
ロゼンは上半身を起こし、首の関節を鳴らす。
「宴だが、俺は何かするのか?」
族長は穏やかな口調で言った。
「ヴェラの民に顔を見せるだけで大丈夫です。もし、料理が口に合わなければ、無理に食べる必要はありません」
一拍置いて、続けた。
「最後に一つだけ確認させてください。ヴェラの森に残るつもりはありませんか。言語のことなら心配ありません。僕が教えます」
ロゼンは息を吐いた。
「悪いが、それはできない」
前髪を摘まんだ。
「だけど、俺にはもう帰る場所がない。この見た目と声じゃ、父さんは気づかないだろうからな」
族長は少し俯いた。
「わかりました。キミに贈り物があります」
ロゼンは外に出た。族長は獣の牙を連ねた首飾りを差し出した。
「これは、ヴェラの戦士に認められた者に贈る首飾りです。これを身に着けていれば、たとえヴェラの森で迷っても、ヴェラの戦士が集落まで案内してくれます」
ロゼンは首飾りを受け取り、身に着けた。
「族長、ありがとな」
族長は柔らかく微笑んだ。
「これでロゼンは、ヴェラの戦士です。胸を張ってください。行きましょう」
族長が足を進め、ロゼンは隣に並んで歩く。
湖畔では火が焚かれ、それを囲むように五十人あまりのヴェラの民が獣皮を敷物にして座っていた。
族長が足を止め、ロゼンに言った。
「ロゼンは、そちらに座ってください」
ロゼンは腰を下ろした。隣に座っていたカイレンは横目で彼を見た。
族長が声高らかに叫んだ。
「Raven Maiten,naitcone ze nalen familien nalteal.ze nalteal ze Raven Romien tiralen,aber ze tiralen estal ze nalteal,naitcone ze Raven Nishel nalteal.ze nalen estal Losen.zenomal Losen ze messengeral von gott,Kozuchal tambien ze tiralen estal.
(ヴェラの民よ、今宵、新たな家族を紹介する。彼は外の世界から迷い込んだ者だが、試練を乗り越え、今日、ヴェラの戦士となった。彼の名はロゼン。僕と同じ神の使いだ!)」
ヴェラの民一同が雄叫びを上げ、ロゼンを歓迎する。
そして、宴が始まった。
族長は腰を下ろし、ロゼンに言った。
「今日は楽しんでください」
族長は、不揃いな木の皿に並べられた肉の串焼きを口にして笑みを浮かべた。ロゼンは肉の串焼きの匂いを嗅ぎ、口に運ぶ。素材本来の旨味が口の中に広がった。
「......味がしないな」
族長は眉尻を下げた。
「集落を作るのに手いっぱいで、料理にまで手が回らなかったんです」
ロゼンは食べながら言った。
「美味い肉だけに勿体ないな。塩はないのか?」
族長は、木の器に入った濁った酒で喉を潤した。
「塩はありません。ですので、酒を飲んで酔ってしまえば、味もわからなくなります」
ロゼンは肉の串焼きを見つめ、族長に言った。
「俺が塩に代わるものを用意する」
族長は少し目を見開き、聞き返した。
「そんなこと、できるのですか?」
ロゼンは頷いた。
「ああ。そのためには必要なものがある」
族長は姿勢を正した。
ロゼンは口元を緩めた。
「鍋と獣の骨を用意してくれ。あと、骨を掬う物と砕く物が必要だ」
族長の瞳の奥が輝いていた。
まるで少年のように笑っている。
「わかりました。用意するのでお願いします!」
族長は酒をぐいっと飲み干した。
「ロゼンも飲んでください」
酒が入った木の器を、ロゼンの前に置いた。
ロゼンは息を吐いた。
「そういう気分じゃない」
「気が張り詰めて、あまり眠れていないんじゃありませんか?」
「それは、そうだが......」
族長は柔らかく微笑んだ。
「身体を休めるのも、大切だと思いますよ」
「......一杯だけだからな」
ロゼンは酒を一気に飲み干した。
見事に酔い潰れた――