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第三十話 語ったこと、語れないこと

 口入屋に到着した二人は、馬車を降りた。

 建物を見上げ、ロゼンはカイレンに言った。

「ハウンド管理局の試験が再開されるまでの間、口入屋で仕事を斡旋してもらい、滞在費を稼ぐからな」

 カイレンが頷く。
 ロゼンが歩き出し、カイレンは後に続いた。

 中に入ると、ロゼンは空いている受付の元へ向かった。
 カイレンは周囲を見渡しながら、その後に続く。

 女性の受付が微笑んだ。

「ご用件をお伺いします」

「仕事を紹介してほしい」

「はい。鑑札かんさつはお持ちですか?」

 ロゼンは首を横に振った。

「持っていない」

「初めてのご利用ですね。それでは、口入屋の規則を説明させていただきます」

 ロゼンは横目でカイレンを見た。

「ああ」

「口入屋は、依頼主との仲介窓口となっています。利用者の方には依頼を案内していますが、鑑札の等級に応じて、紹介する依頼を用意します」

 ロゼンは聞き返した。

「依頼は選べないのか?」

「はい。利用者の安全面に配慮して、実力に見合った依頼を紹介する形になります」

 受付は眉尻を下げた。

「鑑札が導入される前は、身の丈に合わない依頼を受けて、命を落とす方がいました」

 口元を緩める。

「鑑札を導入してから、二次被害が減りました」

「二次被害?」

「はい。ヌシが魔獣になるのはご存じでしょうか?」

「ああ。いろんな肉を喰らった結果、獣が堕ちて魔獣になると聞いた」

 受付は膝の上で指先を握り締めた。

「魔獣が人を喰らうと、魔物に堕ち、言葉をもちます。魔物は、魔法を唱えるため、非常に危険な存在です」

 ロゼンは剣の位置を調整する。

「だから、ヌシ討伐は実力者にしか頼めないのか」

「はい。魔獣に堕ちている可能性もあるため、報告していただくだけで報酬をお渡ししています」

「魔獣や魔物だった場合は、十二聖徒が討伐するから無理する必要もないのか」

「ご理解いただけたようで何よりです」

「ああ」

 受付は柔らかく笑った。

「お二人の鑑札を作成しますが、何か実力を証明できるものはお持ちでしょうか?」

 ロゼンは顎にそっと手を当てた。

「実力の証明になるかわからないが、輝石でも構わないか?」

「拝見してもよろしいですか」

 ロゼンは風袋から黒曜石と曹灰長石そうかいちょうせきを一粒ずつ取り出し、カウンターに置いた。

 受付はわずかに目を見開く。

「黒曜石はわかりますが、曹灰長石は魔獣討伐の証しです。なぜ、鑑札を持っていないのに曹灰長石を持っているのですか?」

「十二聖徒のツェーンのヌシ討伐に同行した際、詫びとして報酬を受け取った。俺が魔獣を討伐したんじゃない」

 受付は机の上で両手を組んだ。

「十二聖徒のツェーン様から直々に声をかけられたのですか?」

「ああ。向こうは忘れているかもしれないが、ヌシ討伐の勝負に誘われた」

 受付は頷き、カイレンに視線を向ける。

「お連れの方は、どうでしょうか?」

 ロゼンは自分の首飾りを外し、カウンターに置いた。

「これは、ヌシの牙を使った首飾りだ。連れも同じものを身に着けている」

「失礼します」

 受付はロゼンの首飾りを手に持ち、目を細めた。

「これは、紅虎? いや、それよりも大きい」

 受付はロゼンに目を向ける。

「どのようなヌシでしたか?」

「大蛇だ。大男を丸呑みできるほど大きかった」

 受付は首飾りに視線を落とし、頷いた。

「話を伺う限り、未発見のヌシを討伐されたのですね」

 ロゼンに首飾りを返す。

「どこでヌシを発見されましたか?」

「亡霊の森だ」

 次の瞬間、受付の目つきが変わった。
 ロゼンを射貫くように目を細める。

「亡霊の森に入ったのですか?」

「ああ。セルメア大陸とアルテリア大陸を繋ぐ国境の前に架かっていた橋が壊れていた。俺はルミナルディアに用があった」

 ロゼンの声がわずかに揺れた。

「だから、亡霊の森を抜けた」

「なるほど。亡霊の代わりにヌシと遭遇してしまったのですね」

 ロゼンは静かに目を伏せる。

「他にもヌシがいた。想像以上に危険な場所だった」

 顔を上げ、笑顔を作った。

「生きているのが不思議なくらいだ」

「貴重な情報ありがとうございます。この件は、ハウンド管理局にも報告しておきます」

 ロゼンは言葉が喉に引っかかった。

「......調査するのか?」

 受付は淡々とした口調で答える。

「それは、ハウンド管理局の管轄になりますので、わかりかねます」

 一拍置いて、続けた。

「それでは、お二人の鑑札を作成するので、お名前をいただきます」

「俺はロゼン。連れはカイレン」

「お二人の鑑札の手数料として、銀貨四ルミナが必要です。用意してお待ちください」

「ああ」

 受付は奥の部屋へ向かった。

 ロゼンは首飾りを見つめる。

 ハウンド管理局に、ヴェラの森を調査されるのは非常にまずい。

 もし、ヴェラの民の存在を知られれば、彼らを危険に晒すことになるかもしれない。

 話すべきではなかった。

 ロゼンは首飾りを握り締める。
 その心中は、穏やかではなかった。

 カイレンがロゼンに声をかけた。

「ロゼン、キモチワルイ?」

 ロゼンは息を吐く。

「少しな」

 首飾りを身に着け、銀貨四枚を用意し、二人は受付が戻ってくるのを待った。

 トレイを手にした受付が戻ってくる。
 トレイには、鑑札が二枚並べられていた。

 受付がカウンターにトレイを置き、イスに腰を下ろす。

「お待たせしました。こちらがお二人の鑑札です。手数料として銀貨四ルミナいただきます」

 ロゼンは手数料を支払い、鑑札を手に取った。

 長方形の形をした鑑札は厚さ八ミリの板だった。
 手のひらよりも少し大きく、角は丸めてある。
 表面には等級の『弐』の字、裏面には名前が彫られていた。

 ロゼンはカイレンの鑑札を手に取り、彼女に手渡す。

「失くすなよ」

 カイレンはこくんと頷いた。

 ロゼンは受付に尋ねる。

「名前はわかるが、この文字は見たことがない。これは何だ?」

「等級です。等級には、壱・弐・参・肆の四段階があります。お二人はヌシを討伐できる実力をお持ちなので、壱の一つ上の等級の弐になります」

 ロゼンは鑑札に視線を落とした。

「この等級は上がるのか?」

「はい。魔獣討伐で参、魔物討伐で肆になります」

 受付は笑顔を作る。

「鑑札を紛失しますと、依頼を紹介できない決まりになっています。また、損壊してしまった場合、手数料を支払っていただくことで新しいものと交換しますが、名前がわからないものに関しては、紛失と同じ扱いになります」

 淡々とした口調で続けた。

「他人の鑑札の悪用や、名前を偽って新たに鑑札を作成した場合、警備兵を呼ぶことになりますのでお止めください」

「ああ。肝に命じておく」

 ロゼンは視線を落とした。

「依頼を受ける前に、輝石を換金してくれ」

 受付は輝石を二粒、トレイに置き、机の上に移動させた。
 金貨一枚と銀貨一枚を用意し、ロゼンの前に置く。

「こちらが換金の支払いになります」

 ロゼンはお金をポケットに突っ込んだ。

 受付は柔らかく微笑む。

「依頼の件ですが、家庭教師に興味はありますか?」

「家庭教師?」

「依頼内容は、剣と魔法の指南です」

 ロゼンは額の右側を人差し指で掻いた。

 受付が囁くように言う。

「報酬は一日金貨一ルミナです」

 ロゼンは即答した。

「やります」
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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―作者:虚空小白
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第三十話 語ったこと、語れないこと

 口入屋に到着した二人は、馬車を降りた。

 建物を見上げ、ロゼンはカイレンに言った。

「ハウンド管理局の試験が再開されるまでの間、口入屋で仕事を斡旋してもらい、滞在費を稼ぐからな」

 カイレンが頷く。
 ロゼンが歩き出し、カイレンは後に続いた。

 中に入ると、ロゼンは空いている受付の元へ向かった。
 カイレンは周囲を見渡しながら、その後に続く。

 女性の受付が微笑んだ。

「ご用件をお伺いします」

「仕事を紹介してほしい」

「はい。鑑札かんさつはお持ちですか?」

 ロゼンは首を横に振った。

「持っていない」

「初めてのご利用ですね。それでは、口入屋の規則を説明させていただきます」

 ロゼンは横目でカイレンを見た。

「ああ」

「口入屋は、依頼主との仲介窓口となっています。利用者の方には依頼を案内していますが、鑑札の等級に応じて、紹介する依頼を用意します」

 ロゼンは聞き返した。

「依頼は選べないのか?」

「はい。利用者の安全面に配慮して、実力に見合った依頼を紹介する形になります」

 受付は眉尻を下げた。

「鑑札が導入される前は、身の丈に合わない依頼を受けて、命を落とす方がいました」

 口元を緩める。

「鑑札を導入してから、二次被害が減りました」

「二次被害?」

「はい。ヌシが魔獣になるのはご存じでしょうか?」

「ああ。いろんな肉を喰らった結果、獣が堕ちて魔獣になると聞いた」

 受付は膝の上で指先を握り締めた。

「魔獣が人を喰らうと、魔物に堕ち、言葉をもちます。魔物は、魔法を唱えるため、非常に危険な存在です」

 ロゼンは剣の位置を調整する。

「だから、ヌシ討伐は実力者にしか頼めないのか」

「はい。魔獣に堕ちている可能性もあるため、報告していただくだけで報酬をお渡ししています」

「魔獣や魔物だった場合は、十二聖徒が討伐するから無理する必要もないのか」

「ご理解いただけたようで何よりです」

「ああ」

 受付は柔らかく笑った。

「お二人の鑑札を作成しますが、何か実力を証明できるものはお持ちでしょうか?」

 ロゼンは顎にそっと手を当てた。

「実力の証明になるかわからないが、輝石でも構わないか?」

「拝見してもよろしいですか」

 ロゼンは風袋から黒曜石と曹灰長石そうかいちょうせきを一粒ずつ取り出し、カウンターに置いた。

 受付はわずかに目を見開く。

「黒曜石はわかりますが、曹灰長石は魔獣討伐の証しです。なぜ、鑑札を持っていないのに曹灰長石を持っているのですか?」

「十二聖徒のツェーンのヌシ討伐に同行した際、詫びとして報酬を受け取った。俺が魔獣を討伐したんじゃない」

 受付は机の上で両手を組んだ。

「十二聖徒のツェーン様から直々に声をかけられたのですか?」

「ああ。向こうは忘れているかもしれないが、ヌシ討伐の勝負に誘われた」

 受付は頷き、カイレンに視線を向ける。

「お連れの方は、どうでしょうか?」

 ロゼンは自分の首飾りを外し、カウンターに置いた。

「これは、ヌシの牙を使った首飾りだ。連れも同じものを身に着けている」

「失礼します」

 受付はロゼンの首飾りを手に持ち、目を細めた。

「これは、紅虎? いや、それよりも大きい」

 受付はロゼンに目を向ける。

「どのようなヌシでしたか?」

「大蛇だ。大男を丸呑みできるほど大きかった」

 受付は首飾りに視線を落とし、頷いた。

「話を伺う限り、未発見のヌシを討伐されたのですね」

 ロゼンに首飾りを返す。

「どこでヌシを発見されましたか?」

「亡霊の森だ」

 次の瞬間、受付の目つきが変わった。
 ロゼンを射貫くように目を細める。

「亡霊の森に入ったのですか?」

「ああ。セルメア大陸とアルテリア大陸を繋ぐ国境の前に架かっていた橋が壊れていた。俺はルミナルディアに用があった」

 ロゼンの声がわずかに揺れた。

「だから、亡霊の森を抜けた」

「なるほど。亡霊の代わりにヌシと遭遇してしまったのですね」

 ロゼンは静かに目を伏せる。

「他にもヌシがいた。想像以上に危険な場所だった」

 顔を上げ、笑顔を作った。

「生きているのが不思議なくらいだ」

「貴重な情報ありがとうございます。この件は、ハウンド管理局にも報告しておきます」

 ロゼンは言葉が喉に引っかかった。

「......調査するのか?」

 受付は淡々とした口調で答える。

「それは、ハウンド管理局の管轄になりますので、わかりかねます」

 一拍置いて、続けた。

「それでは、お二人の鑑札を作成するので、お名前をいただきます」

「俺はロゼン。連れはカイレン」

「お二人の鑑札の手数料として、銀貨四ルミナが必要です。用意してお待ちください」

「ああ」

 受付は奥の部屋へ向かった。

 ロゼンは首飾りを見つめる。

 ハウンド管理局に、ヴェラの森を調査されるのは非常にまずい。

 もし、ヴェラの民の存在を知られれば、彼らを危険に晒すことになるかもしれない。

 話すべきではなかった。

 ロゼンは首飾りを握り締める。
 その心中は、穏やかではなかった。

 カイレンがロゼンに声をかけた。

「ロゼン、キモチワルイ?」

 ロゼンは息を吐く。

「少しな」

 首飾りを身に着け、銀貨四枚を用意し、二人は受付が戻ってくるのを待った。

 トレイを手にした受付が戻ってくる。
 トレイには、鑑札が二枚並べられていた。

 受付がカウンターにトレイを置き、イスに腰を下ろす。

「お待たせしました。こちらがお二人の鑑札です。手数料として銀貨四ルミナいただきます」

 ロゼンは手数料を支払い、鑑札を手に取った。

 長方形の形をした鑑札は厚さ八ミリの板だった。
 手のひらよりも少し大きく、角は丸めてある。
 表面には等級の『弐』の字、裏面には名前が彫られていた。

 ロゼンはカイレンの鑑札を手に取り、彼女に手渡す。

「失くすなよ」

 カイレンはこくんと頷いた。

 ロゼンは受付に尋ねる。

「名前はわかるが、この文字は見たことがない。これは何だ?」

「等級です。等級には、壱・弐・参・肆の四段階があります。お二人はヌシを討伐できる実力をお持ちなので、壱の一つ上の等級の弐になります」

 ロゼンは鑑札に視線を落とした。

「この等級は上がるのか?」

「はい。魔獣討伐で参、魔物討伐で肆になります」

 受付は笑顔を作る。

「鑑札を紛失しますと、依頼を紹介できない決まりになっています。また、損壊してしまった場合、手数料を支払っていただくことで新しいものと交換しますが、名前がわからないものに関しては、紛失と同じ扱いになります」

 淡々とした口調で続けた。

「他人の鑑札の悪用や、名前を偽って新たに鑑札を作成した場合、警備兵を呼ぶことになりますのでお止めください」

「ああ。肝に命じておく」

 ロゼンは視線を落とした。

「依頼を受ける前に、輝石を換金してくれ」

 受付は輝石を二粒、トレイに置き、机の上に移動させた。
 金貨一枚と銀貨一枚を用意し、ロゼンの前に置く。

「こちらが換金の支払いになります」

 ロゼンはお金をポケットに突っ込んだ。

 受付は柔らかく微笑む。

「依頼の件ですが、家庭教師に興味はありますか?」

「家庭教師?」

「依頼内容は、剣と魔法の指南です」

 ロゼンは額の右側を人差し指で掻いた。

 受付が囁くように言う。

「報酬は一日金貨一ルミナです」

 ロゼンは即答した。

「やります」
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