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第二十九話 金と、測れない価値

 夕食を取った後、ロゼンはカイレンに、シャワーやトイレ、ハーブスティックの使い方を教えた。
 カイレンは熱心に聞いていたが、ハーブスティックを誤って食べてしまう。

 ロゼンはやむを得ず、自身でハーブスティックの枝先を噛み、ブラシ状にした。
 カイレンの口を開けさせ、それで歯を磨く。

 カイレンはベッドで眠りにつき、ロゼンはランプの灯かりを頼りに手紙を書いていた。

 *

 父さんへ

 今、俺は守護の鏡ルミナルディアにいます。
 マーニが命を落としました。

 俺は、マーニに夢を託された。
 だから、旅を続けます。

 この手紙が最期になるかもしれません。
 父さん、約束を守れなくて、ごめん。

 ソル・アルヘイナ

 *

 手紙には、インクが滲み出た箇所があった。

 ロゼンはペンを置き、拳を握り締める。
 手紙の前で静かに謝罪した。

「父さん、ごめん......」

 手紙を宛先を書いた封筒に入れ、ロゼンは肩を落とす。
 靴を脱ぎ、ベッドで横になった。

 目を閉じると、意識が遠のいていく。

 *

 ――翌日の午前七時頃。

 ロゼンが目を開けると、物静かだった。
 上半身を起こし、部屋の中を見渡すと、床の上でカイレンが身を低くし、ロゼンの風袋を見つめている。

 片目を閉じ、風袋にそっと触れ、恐る恐る目を開ける。

 ロゼンは息を吐いた。

「カイレン、何をしてるんだ?」

 カイレンは肩をビクッと震わせ、上半身を起こす。

「ケガワ、ブジカ?」

 ロゼンはベッドから降り、風袋からカイレンの毛皮を取り出した。
 カイレンはロゼンの手から毛皮を奪い取る。

 ロゼンの風袋に目をやった。

「ソレ、ください」

「銀貨七十ルミナで売ってやる」

「ギンカ?」

「金のことだ。外の世界では金が必要になる」

 カイレンは肩を落とした。

「あんたの服も買ってやる。だから、その毛皮を渡せ」

 カイレンは渋々頷き、ロゼンに毛皮を渡す。
 ロゼンは風袋に毛皮を入れ、腰に身に着けた。

 朝の支度を済ませ、朝食が運ばれるまで、カイレンにお金とその価値を覚えさせる。

 ドアがノックされ、ロゼンが対応する。

「おはようございます。朝食をお持ちしました」

 係員が朝食を運び、テーブルに並べる。

 ロゼンは係員に尋ねた。

「俺たちは、ハウンド管理局の試験が再開されるまでの間、滞在する予定だ。それまで、この部屋を使わせてもらいたい」

 係員は微笑んだ。

「はい。受付にお声がけください」

 会釈し、その場を後にする。

 カイレンのお腹の虫が鳴いた。
 朝食を見つめ、涎を垂らしている。

 ロゼンは肩を竦め、イスに腰かけた。
 カイレンはロゼンに倣う。

 ロゼンはカイレンに料理のことを教えながら食事を取った。

 *

 ――食事を済ませ、ロゼンはカイレンに雨具を着用させた。

 身支度をし、部屋を出る。
 受付に十日分の宿泊代を前金で支払い、鍵を返却する。

 馬車に乗り、二人は服飾店へ向かった。

 服飾店に到着し、ロゼンは男物の旅装束を五着、皮のブーツを一足手に取る。

 高齢の男性店員は目を細めて、二人を見た。

「試着しなくていいのか?」

 ロゼンは肩を竦める。

「靴は連れが履くが、足が汚れている。服は土産用だ。それとも、試着しないと買えないのか?」

「銀貨十七ルミナ」

 ロゼンは笑顔を作り、値下げ交渉を始めた。

「銀貨十三ルミナ」

「銀貨十六ルミナ」

「銀貨十四ルミナ。嫌なら他の店で買う」

 店員は息を吐いた。

「ちょっと待ってくれ。銀貨十五ルミナだ。うちとしてもこれが限界だ」

 ロゼンは代金を支払い、カイレンの足元にブーツを置く。

 カイレンはロゼンの顔色を伺い、それからブーツに足を入れた。

「ロゼン、ありがとう」

「気にするな」

 ロゼンは旅装束を風袋に入れ、店を出る。
 カイレンは飛び跳ねながら、ロゼンの後に続いた。

「カイレン、一度宿に戻る。服の着方を教えてやる」

 カイレンは頷いた。

 馬車に乗って、二人は宿に戻る。

 宿に入り、受付で鍵を受け取り、部屋に入る。
 施錠し、風袋から購入した旅装束を床に置いた。

「カイレン、そいつを脱いでくれるか」

 カイレンは剣と雨具を脱ぎ捨てる。

 ロゼンは顎にそっと手を当てた。

「胴巻きが邪魔だな」

 ため息をつく。

「失念していた。肌着も必要か。あいつのものを借りるか」

 ロゼンはマーニの肌着を取り出す。

 しばしの沈黙。

 カイレンは胴巻きを脱ぎ捨て、全裸になった。

 ロゼンはなるべく視線を逸らしながら、カイレンに肌着を着せ、大きく息を吐く。

 ロゼンは剣と風袋を外して床に置いた。
 旅装束とブーツを脱ぎ、カイレンに言う。

「今から服を着る。同じようにしろ」

 カイレンは頷き、ブーツを脱ぎ捨て、旅装束を持ち上げた。

 旅装束は、上衣とズボンがひと続きになった服で、腰のあたりがわずかに絞られている。袖は長く、裾は足首まで覆っていた。前身頃には胸元から腰までボタンが並び、それを外せば一枚の服を上下まとめて脱げる作りになっている。

 ロゼンは説明しながら旅装束を着て、ブーツを履く。
 カイレンは苦戦しながらも旅装束に袖を通し、同様にブーツを履いた。
 さらに、雨具にも袖を通す。

 ロゼンはカイレンに尋ねた。

「それはもう必要ないだろう?」

「コレ、ください」

「何かを羽織ってないと落ち着かないのか」

 カイレンはロゼンからもらった物なので、肌身離さず身につけておきたかった。

 たとえ雨具でも、カイレンにとっては掛け替えのない思い出の一つだった。

 カイレンは笑みを浮かべて頷く。

「まあ、いいか」

 ロゼンは剣と風袋を身に着ける。
 カイレンも腰に剣を下げた。

「よし、ハウンド管理局に行くか」

 カイレンは右手を振り上げる。

「おう」

 *

 ――だが、昨日と同様に門前払いを受けた。

 カイレンのお腹の虫が鳴く。

「昼飯にするか」

 カイレンは笑みを浮かべた。

 馬車に乗り、二人は御者オススメの喫茶店へ向かう。

 そこは、白豚のフライサンドが名物だった。
 二人は店に入り、ロゼンがマスターに料理と飲み物を注文する。

 *

 ――待つこと数分。

 マスターが白豚のフライサンドとハーブティを並べる。
 二人は白豚のフライサンドに大口でかぶりついた。

「ヴァルトクローネでしか味わえないと思っていたが、美味いな」

 カイレンが頷いた。

「美味い」

 ロゼンはハーブティに蜂蜜を入れ、スプーンでかき混ぜる。
 ハーブティを口に運ぶと、マーニとの思い出が脳裏を過った。

 ロゼンは息を吐く。

 あいつのことを忘れたりなんかしない――ロゼンは内心でつぶやいた。

 カイレンはロゼンの横顔を見つめている。

「ロゼン、具合、ワルイカ」

 ロゼンは首を横に振った。

「少し感傷に浸ってしまっただけだ」

 カイレンはハーブティを口に含み、すぐに蜂蜜を入れる。
 ロゼンは横目でカイレンを見た。

「カイレン、この後、口入屋で依頼を受けて滞在費を稼ぐ。いいな?」

「ワカッタ」

 *

 ――二人は食事を済ませ、代金を支払い、店を出た。

 馬車に乗り、二人は口入屋へ向かう。
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魔法は嘘をつく ―賢者が残した遺産―作者:虚空小白
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第二十九話 金と、測れない価値

 夕食を取った後、ロゼンはカイレンに、シャワーやトイレ、ハーブスティックの使い方を教えた。
 カイレンは熱心に聞いていたが、ハーブスティックを誤って食べてしまう。

 ロゼンはやむを得ず、自身でハーブスティックの枝先を噛み、ブラシ状にした。
 カイレンの口を開けさせ、それで歯を磨く。

 カイレンはベッドで眠りにつき、ロゼンはランプの灯かりを頼りに手紙を書いていた。

 *

 父さんへ

 今、俺は守護の鏡ルミナルディアにいます。
 マーニが命を落としました。

 俺は、マーニに夢を託された。
 だから、旅を続けます。

 この手紙が最期になるかもしれません。
 父さん、約束を守れなくて、ごめん。

 ソル・アルヘイナ

 *

 手紙には、インクが滲み出た箇所があった。

 ロゼンはペンを置き、拳を握り締める。
 手紙の前で静かに謝罪した。

「父さん、ごめん......」

 手紙を宛先を書いた封筒に入れ、ロゼンは肩を落とす。
 靴を脱ぎ、ベッドで横になった。

 目を閉じると、意識が遠のいていく。

 *

 ――翌日の午前七時頃。

 ロゼンが目を開けると、物静かだった。
 上半身を起こし、部屋の中を見渡すと、床の上でカイレンが身を低くし、ロゼンの風袋を見つめている。

 片目を閉じ、風袋にそっと触れ、恐る恐る目を開ける。

 ロゼンは息を吐いた。

「カイレン、何をしてるんだ?」

 カイレンは肩をビクッと震わせ、上半身を起こす。

「ケガワ、ブジカ?」

 ロゼンはベッドから降り、風袋からカイレンの毛皮を取り出した。
 カイレンはロゼンの手から毛皮を奪い取る。

 ロゼンの風袋に目をやった。

「ソレ、ください」

「銀貨七十ルミナで売ってやる」

「ギンカ?」

「金のことだ。外の世界では金が必要になる」

 カイレンは肩を落とした。

「あんたの服も買ってやる。だから、その毛皮を渡せ」

 カイレンは渋々頷き、ロゼンに毛皮を渡す。
 ロゼンは風袋に毛皮を入れ、腰に身に着けた。

 朝の支度を済ませ、朝食が運ばれるまで、カイレンにお金とその価値を覚えさせる。

 ドアがノックされ、ロゼンが対応する。

「おはようございます。朝食をお持ちしました」

 係員が朝食を運び、テーブルに並べる。

 ロゼンは係員に尋ねた。

「俺たちは、ハウンド管理局の試験が再開されるまでの間、滞在する予定だ。それまで、この部屋を使わせてもらいたい」

 係員は微笑んだ。

「はい。受付にお声がけください」

 会釈し、その場を後にする。

 カイレンのお腹の虫が鳴いた。
 朝食を見つめ、涎を垂らしている。

 ロゼンは肩を竦め、イスに腰かけた。
 カイレンはロゼンに倣う。

 ロゼンはカイレンに料理のことを教えながら食事を取った。

 *

 ――食事を済ませ、ロゼンはカイレンに雨具を着用させた。

 身支度をし、部屋を出る。
 受付に十日分の宿泊代を前金で支払い、鍵を返却する。

 馬車に乗り、二人は服飾店へ向かった。

 服飾店に到着し、ロゼンは男物の旅装束を五着、皮のブーツを一足手に取る。

 高齢の男性店員は目を細めて、二人を見た。

「試着しなくていいのか?」

 ロゼンは肩を竦める。

「靴は連れが履くが、足が汚れている。服は土産用だ。それとも、試着しないと買えないのか?」

「銀貨十七ルミナ」

 ロゼンは笑顔を作り、値下げ交渉を始めた。

「銀貨十三ルミナ」

「銀貨十六ルミナ」

「銀貨十四ルミナ。嫌なら他の店で買う」

 店員は息を吐いた。

「ちょっと待ってくれ。銀貨十五ルミナだ。うちとしてもこれが限界だ」

 ロゼンは代金を支払い、カイレンの足元にブーツを置く。

 カイレンはロゼンの顔色を伺い、それからブーツに足を入れた。

「ロゼン、ありがとう」

「気にするな」

 ロゼンは旅装束を風袋に入れ、店を出る。
 カイレンは飛び跳ねながら、ロゼンの後に続いた。

「カイレン、一度宿に戻る。服の着方を教えてやる」

 カイレンは頷いた。

 馬車に乗って、二人は宿に戻る。

 宿に入り、受付で鍵を受け取り、部屋に入る。
 施錠し、風袋から購入した旅装束を床に置いた。

「カイレン、そいつを脱いでくれるか」

 カイレンは剣と雨具を脱ぎ捨てる。

 ロゼンは顎にそっと手を当てた。

「胴巻きが邪魔だな」

 ため息をつく。

「失念していた。肌着も必要か。あいつのものを借りるか」

 ロゼンはマーニの肌着を取り出す。

 しばしの沈黙。

 カイレンは胴巻きを脱ぎ捨て、全裸になった。

 ロゼンはなるべく視線を逸らしながら、カイレンに肌着を着せ、大きく息を吐く。

 ロゼンは剣と風袋を外して床に置いた。
 旅装束とブーツを脱ぎ、カイレンに言う。

「今から服を着る。同じようにしろ」

 カイレンは頷き、ブーツを脱ぎ捨て、旅装束を持ち上げた。

 旅装束は、上衣とズボンがひと続きになった服で、腰のあたりがわずかに絞られている。袖は長く、裾は足首まで覆っていた。前身頃には胸元から腰までボタンが並び、それを外せば一枚の服を上下まとめて脱げる作りになっている。

 ロゼンは説明しながら旅装束を着て、ブーツを履く。
 カイレンは苦戦しながらも旅装束に袖を通し、同様にブーツを履いた。
 さらに、雨具にも袖を通す。

 ロゼンはカイレンに尋ねた。

「それはもう必要ないだろう?」

「コレ、ください」

「何かを羽織ってないと落ち着かないのか」

 カイレンはロゼンからもらった物なので、肌身離さず身につけておきたかった。

 たとえ雨具でも、カイレンにとっては掛け替えのない思い出の一つだった。

 カイレンは笑みを浮かべて頷く。

「まあ、いいか」

 ロゼンは剣と風袋を身に着ける。
 カイレンも腰に剣を下げた。

「よし、ハウンド管理局に行くか」

 カイレンは右手を振り上げる。

「おう」

 *

 ――だが、昨日と同様に門前払いを受けた。

 カイレンのお腹の虫が鳴く。

「昼飯にするか」

 カイレンは笑みを浮かべた。

 馬車に乗り、二人は御者オススメの喫茶店へ向かう。

 そこは、白豚のフライサンドが名物だった。
 二人は店に入り、ロゼンがマスターに料理と飲み物を注文する。

 *

 ――待つこと数分。

 マスターが白豚のフライサンドとハーブティを並べる。
 二人は白豚のフライサンドに大口でかぶりついた。

「ヴァルトクローネでしか味わえないと思っていたが、美味いな」

 カイレンが頷いた。

「美味い」

 ロゼンはハーブティに蜂蜜を入れ、スプーンでかき混ぜる。
 ハーブティを口に運ぶと、マーニとの思い出が脳裏を過った。

 ロゼンは息を吐く。

 あいつのことを忘れたりなんかしない――ロゼンは内心でつぶやいた。

 カイレンはロゼンの横顔を見つめている。

「ロゼン、具合、ワルイカ」

 ロゼンは首を横に振った。

「少し感傷に浸ってしまっただけだ」

 カイレンはハーブティを口に含み、すぐに蜂蜜を入れる。
 ロゼンは横目でカイレンを見た。

「カイレン、この後、口入屋で依頼を受けて滞在費を稼ぐ。いいな?」

「ワカッタ」

 *

 ――二人は食事を済ませ、代金を支払い、店を出た。

 馬車に乗り、二人は口入屋へ向かう。
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