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交錯1

 左側に並ぶ窓から差し込む柔らかい日差しを受け、ミユの部屋へと向かう。速度を気にしながら、左手でほんの少し後ろを歩くミユの小さな手を握る。握り返してくれることはないが、その手から温もりを感じることが出来る。愛おしくて堪らない。
 それでも声をかけられずにいた。
 無事にミユを取り戻した喜びと呪いに対する不安が混ざり合い、何を話せば良いのか分からないのだ。下手に話を振り、傷つけてしまうのも恐い。
 無言のままで廊下を歩き進んでいく。
 一度だけ角を曲がり、もう少しでミユの部屋へ着く。そんな時に、僅かに左手を繋ぐ手に力が加わった。

「ねえ」

「ん?」

 不意に話しかけられ、微笑んでしまった。それがいけなかったのかもしれない。
 ミユは頬に睫毛の影を落とし、頬をほんのりと紅に染める。

「羽根って......何のこと?」

「えっ? 羽根を取りに行ったんじゃないの?」

 リエルとの話の流れから、てっきり羽根を取りに行ったものだと思い込んでいた。

「呪いの解き方が知りたくて、それを聞きに行っただけ」

「そうだったんだ......」

 相当な勇気を持ってあの場所に挑んだ筈だ。その気持ちを踏みにじられた痛みは計り知れない。恐らく、神の声すら聞きたくはないだろう。
 しかし、そうとばかりは言っていられないのが現実だ。

「羽根はあいつを倒す最終手段だから、絶対に塔まで取りに行かなきゃいけない」

「えっ......」

 やはり、ミユは大きな溜め息を吐く。

「羽根を取りに行く時は、一緒に行こう? 大丈夫だよ、羽根は神様に会わなくても貰えるからさ」

「う〜ん......」

 神と会う必要はない。多少、話す必要はあるかもしれないが。
 納得してくれたのか、ミユは小さく何度か頷いてみせる。
 程なくして、前方からドアの閉まる音が響いた。フレアの部屋からアレクが出てきたのだ。浮かない表情だ。

「オマエら、大丈夫か?」

 こちらに近づきながら、アレクは小さく口を開く。

「大丈夫そうに見える?」

「いや、見えねぇ。悪ぃ」

 頭を掻きながら反省を述べるアレクに、若干の呆れが混ざった息が漏れた。
 アレクは俺たちの前で足を止めると、俺とミユの顔を見比べる。

「何があったんだ?」

 神に呪いを解く方法はないと言われた。他にミユを傷つけずに済む伝え方はないだろうか。
 思考を巡らせていると、先にミユが口を開いた。

「私が勝手に部屋を抜け出しちゃったから、それで......」

「何で部屋を抜け出した?」

「それは......。呪いを解く方法が知りたくて、塔に行ったら何か分かるかな、って」

「オマエなぁ......」

 アレクは大袈裟に溜め息を吐き、右手で長い前髪を搔き上げる。

「気持ちは分からなくもねーけどよー、誰かに相談くらいしろよ」

「ごめんなさい」

 ミユはしおらしく頭を下げた。
 アレクは再び溜め息を吐く。

「それで、何か分かったのか?」

 それはミユの口から言わせたくない。首を横に振る彼女の行動を確かめ、アレクを見遣る。

「後で俺から話すから。今はそっとしといてあげて」

「あぁ」

 これだけで、良い結果を期待出来ないと悟ったのだろう。アレクの表情は曇っていった。
 唐突だった。

「フレアは?」

 ミユが声を上げたのだ。緑色の瞳は左右に揺れている。

「今は寝てる。アイツも混乱してたんだけどよー、やっと落ち着いてきたみてぇだ」

「そっか」

 アレクの返答で、ミユの顔に笑みが戻る。
 ミユには申し訳ないが、これではアレクの立つ瀬がない。
 アレクの表情は更に曇ってしまった。

「フレアを......いや、なんでもねぇ」

 口ごもり、真一文字に結ぶ。

「じゃあ、俺はミユを部屋まで送るから、また後で」

「あぁ」

 俺は微笑みすら見せずに、アレクと別れた。互いの気持ちが分かるからこそ、上手いことが言えない。
 ただ、俺が離れてしまえばミユの味方はアリアだけになるだろう。それは分かる。

「無理に頑張らなくても良いよ。今は自分を大事にしてあげなくちゃ」

「うん」

 フレアの傍にはアレクがいる。それならば、ミユの傍には俺がついていなくては。それ以上に、俺自身がミユの味方でありたい。
 手を握り直し、彼女の部屋へと向かう。
 どちらからも話し出すことはなく、目的地へと到着してしまった。ミユがドアを開けるので、自然と繋いでいた手は離れていった。

「ホントに一人で大丈夫?」

「うん」

 一人で居るのが辛いなら、一緒にいてあげたい。それだけだった。
 しかし、ミユは小さく頷いてみせる。

「一つだけ約束して? さっきみたいに一人でいなくなったりしないで。いつでも俺の所に来て良いから」

「うん」

 きちんと聞いてくれているのかは分からない。どうしても説教地味た物言いになってしまう。
 これ以上、返事は来ないものだと思っていた。
 ところが、ミユは視線をこちらに向けてくれたのだ。

「迷惑ばっかりかけて、ごめんね」

 正直、驚いた。視線を向けられたことではない。ミユが『迷惑をかけている』と思い込んでいるところに、だ。

「迷惑だなんて思ってないよ。それじゃ、またね」

「うん」

 微笑みかけると、ミユも僅かに笑ってくれた。条件反射なのかもしれないが、素直に嬉しい。
 小さな音を立ててドアが閉まり、完全なる静寂が訪れる。
 一度、俺も自室へ戻って作戦を練り直そう。廊下を歩きながら、両手で拳を握り締めた。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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 左側に並ぶ窓から差し込む柔らかい日差しを受け、ミユの部屋へと向かう。速度を気にしながら、左手でほんの少し後ろを歩くミユの小さな手を握る。握り返してくれることはないが、その手から温もりを感じることが出来る。愛おしくて堪らない。
 それでも声をかけられずにいた。
 無事にミユを取り戻した喜びと呪いに対する不安が混ざり合い、何を話せば良いのか分からないのだ。下手に話を振り、傷つけてしまうのも恐い。
 無言のままで廊下を歩き進んでいく。
 一度だけ角を曲がり、もう少しでミユの部屋へ着く。そんな時に、僅かに左手を繋ぐ手に力が加わった。

「ねえ」

「ん?」

 不意に話しかけられ、微笑んでしまった。それがいけなかったのかもしれない。
 ミユは頬に睫毛の影を落とし、頬をほんのりと紅に染める。

「羽根って......何のこと?」

「えっ? 羽根を取りに行ったんじゃないの?」

 リエルとの話の流れから、てっきり羽根を取りに行ったものだと思い込んでいた。

「呪いの解き方が知りたくて、それを聞きに行っただけ」

「そうだったんだ......」

 相当な勇気を持ってあの場所に挑んだ筈だ。その気持ちを踏みにじられた痛みは計り知れない。恐らく、神の声すら聞きたくはないだろう。
 しかし、そうとばかりは言っていられないのが現実だ。

「羽根はあいつを倒す最終手段だから、絶対に塔まで取りに行かなきゃいけない」

「えっ......」

 やはり、ミユは大きな溜め息を吐く。

「羽根を取りに行く時は、一緒に行こう? 大丈夫だよ、羽根は神様に会わなくても貰えるからさ」

「う〜ん......」

 神と会う必要はない。多少、話す必要はあるかもしれないが。
 納得してくれたのか、ミユは小さく何度か頷いてみせる。
 程なくして、前方からドアの閉まる音が響いた。フレアの部屋からアレクが出てきたのだ。浮かない表情だ。

「オマエら、大丈夫か?」

 こちらに近づきながら、アレクは小さく口を開く。

「大丈夫そうに見える?」

「いや、見えねぇ。悪ぃ」

 頭を掻きながら反省を述べるアレクに、若干の呆れが混ざった息が漏れた。
 アレクは俺たちの前で足を止めると、俺とミユの顔を見比べる。

「何があったんだ?」

 神に呪いを解く方法はないと言われた。他にミユを傷つけずに済む伝え方はないだろうか。
 思考を巡らせていると、先にミユが口を開いた。

「私が勝手に部屋を抜け出しちゃったから、それで......」

「何で部屋を抜け出した?」

「それは......。呪いを解く方法が知りたくて、塔に行ったら何か分かるかな、って」

「オマエなぁ......」

 アレクは大袈裟に溜め息を吐き、右手で長い前髪を搔き上げる。

「気持ちは分からなくもねーけどよー、誰かに相談くらいしろよ」

「ごめんなさい」

 ミユはしおらしく頭を下げた。
 アレクは再び溜め息を吐く。

「それで、何か分かったのか?」

 それはミユの口から言わせたくない。首を横に振る彼女の行動を確かめ、アレクを見遣る。

「後で俺から話すから。今はそっとしといてあげて」

「あぁ」

 これだけで、良い結果を期待出来ないと悟ったのだろう。アレクの表情は曇っていった。
 唐突だった。

「フレアは?」

 ミユが声を上げたのだ。緑色の瞳は左右に揺れている。

「今は寝てる。アイツも混乱してたんだけどよー、やっと落ち着いてきたみてぇだ」

「そっか」

 アレクの返答で、ミユの顔に笑みが戻る。
 ミユには申し訳ないが、これではアレクの立つ瀬がない。
 アレクの表情は更に曇ってしまった。

「フレアを......いや、なんでもねぇ」

 口ごもり、真一文字に結ぶ。

「じゃあ、俺はミユを部屋まで送るから、また後で」

「あぁ」

 俺は微笑みすら見せずに、アレクと別れた。互いの気持ちが分かるからこそ、上手いことが言えない。
 ただ、俺が離れてしまえばミユの味方はアリアだけになるだろう。それは分かる。

「無理に頑張らなくても良いよ。今は自分を大事にしてあげなくちゃ」

「うん」

 フレアの傍にはアレクがいる。それならば、ミユの傍には俺がついていなくては。それ以上に、俺自身がミユの味方でありたい。
 手を握り直し、彼女の部屋へと向かう。
 どちらからも話し出すことはなく、目的地へと到着してしまった。ミユがドアを開けるので、自然と繋いでいた手は離れていった。

「ホントに一人で大丈夫?」

「うん」

 一人で居るのが辛いなら、一緒にいてあげたい。それだけだった。
 しかし、ミユは小さく頷いてみせる。

「一つだけ約束して? さっきみたいに一人でいなくなったりしないで。いつでも俺の所に来て良いから」

「うん」

 きちんと聞いてくれているのかは分からない。どうしても説教地味た物言いになってしまう。
 これ以上、返事は来ないものだと思っていた。
 ところが、ミユは視線をこちらに向けてくれたのだ。

「迷惑ばっかりかけて、ごめんね」

 正直、驚いた。視線を向けられたことではない。ミユが『迷惑をかけている』と思い込んでいるところに、だ。

「迷惑だなんて思ってないよ。それじゃ、またね」

「うん」

 微笑みかけると、ミユも僅かに笑ってくれた。条件反射なのかもしれないが、素直に嬉しい。
 小さな音を立ててドアが閉まり、完全なる静寂が訪れる。
 一度、俺も自室へ戻って作戦を練り直そう。廊下を歩きながら、両手で拳を握り締めた。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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