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交錯2

「うーん......」

 一度は部屋に戻ってきたものの、思考がまとまらない。テーブルに着き、片手で頭を抱える。
 駄目だ、誰かに意見をもらわなくては。と言っても、今はリエルの他にアレクしかいない。アレクとは後で話す約束もしてしまったし、仕方がない。
 ミユのことを悪く言う事態だけは避けたいな、などと考えながら、嫌々椅子から立ち上がった。溜め息を吐きつつ、廊下へと出る。
 ミユは今頃、何をしているのだろう。塞ぎ込んでいなければ良いのだが。いや、そんなことを考えても無理がある。頼むから、自暴自棄にはならないでくれ。考えながら、隣室のドアの位置を確認する。
 あっという間に辿り着いてしまった。
 重たいノックの音を響かせると、すぐさま「入って良いぞ」と声が聞こえた。
 扉を押し開けても、アレクはこちらを見もしない。ただ、長閑な窓の外をぼんやりと眺めているようだ。腕を組み、目を細める。
 
「ミユの呪い、解けねーって言われたんだろ?」

「......うん」

 否定してどうにかなるものでもない。数歩横に移動しただけで壁に凭れ、腕を組んだ。
 
「塔にいるの、神様なんだってさ。ミユが言ってた」

「神だと?」

「うん。俺たちのイメージとはかけ離れてるけどね」

 神は人間が敬い慕う一番上位の存在だ。手に届く筈のない存在だ。それが、いとも容易く俺たちの期待を挫くなんて。想像はしたくない。
 
「神様だろうと何だろうと、俺は絶対に認めない。何か方法はある筈だよ」

「オレだって認めて堪るかよ。あんな思いは二度とごめんだ」

 アレクは軽く首を振り、細い息を吐き出した。
 
「足掻くだけ足掻かせてもらおーぜ」

「当たり前だよ」

「その前に、だ」

 前に、何だろう。小首を傾げると、ようやくアレクはこちらを向いた。鋭い視線はまっすぐに俺を捉える。

「オレらは弱ぇ。前の影との戦いで分かってるだろ? アイツが本気で今のオレらにかかってきたら、オレらは一発で終わる。だからよー......」

「何?」

「前に言ってた魔法の特訓だ。それが先だ」

 俺たちに魔法の特訓なんかしている時間の余地はあるのだろうか。アレクの意見に賛成は出来かねない。

「呪いを解く方法を探す方が先だよ。影と戦闘にもつれ込んだら、呪いを解いてる場合じゃなくなる。ミユを助けられない」

「オレらが弱ぇままだったら、どっちにしろ全員殺られるぞ。ミユがどうこう言ってる場合じゃなくなる」

 それはそうなのだ。思う反面、悠長に魔法の特訓をしていても影に勝てるとは限らない。繰り返される問答にグッと言葉を飲み込み、奥歯を噛み締める。

「何より、誰かが生き残る事が先決だ。オレは魔法の強化を推すからな」

「......分かった」

 結論を出すには早急な気もするが、いくら考えても俺の頭はミユの命を優先してしまい、まとまらないだろう。アレクに判断を任せた方が良い。
 頷くと、アレクは満足そうに口元を上げた。
 
「今日くらいは美味いもん食わせてやる。昼も、夜もな。ただし、魔法の特訓始めたら飯の支度なんかしてられなくなるからな。それだけは了承してくれ」

「うん」

 食事の事なんて、正直言ってどうでも良い。すぐに行動を起こしてあげられなくてごめん。ただミユに詫びるのみ、だ。
 用事は済んだ。もう自室に戻ろう。

「それじゃあ、また、ご飯の時にでも」

 素っ気なく返事をし、くるりとドアへと向き直る。ドアノブに手をかけたところで、不意に言葉を投げかけられた。

「オマエ、ちゃんと寝てんのか? 顔色悪ぃぞ?」

 寝ている余裕なんてない。振り返りもせずに、ただ首を横に振った。

「睡眠もちゃんと取れよ。オマエに倒れられるのが一番厄介だからな」

「......うん」

 曖昧に返事をし、ドアノブを回す。ドアを閉めてアレクの視線から逃れると、一気に緊張が緩んでいった。
 アレクに言われたからではない。今日はへとへとに疲れてしまった。一度、ベッドで休もう。
 何となく歩を進め、自分の部屋へと辿り着いた。鈍い足取りでベッドに向かい、倒れ込む。
 少しだけ。ほんの少しだけ眠ろう。瞼を閉じると、瞬く間に意識は眠りの世界へと沈んでいった。
 夢は見なかった。
 次に瞼を開けた時には、辺りは真っ暗になっていた。まだ夢の中にいるのだろうか。最初はそう思った程だ。
 明かりよ点け、と念じながら、右手で指を鳴らす。ほんわりと明るくなっていくこの場所は、白い壁に白い床、それに青色の家具、配置――どれを取っても俺の部屋だ。カーテンの閉められていない窓の外には星空が広がっている。そこに黄色と水色の月も寄り添いながら輝いている。
 昼食を食べ損なった。食事には執着していなかった筈なのに、一番最初に思ったのはそれだった。
 一言、アレクに文句を言ってやろう。むくりと起き上がり、靴を履く。足音を鳴らしながら、出口へと向かった。それでも静かにドアは閉めたと思う。一直線に会議室へと向かったのに、俺を出迎えていたのはがらんとした大広間だった。ホタテのリゾットにトマトサラダ、ローストビーフに白身魚のアクアパッツアなど、豪勢な食事が俺の指定席にだけ広げられていた。
 丁寧に『オレはフレアの部屋で飯食ってくる。好きなだけ食ってくれ』と達筆なメモが添えられている。
 こればかりは文句を言っても仕方が無い。
 頭を掻きながら席に着き、静かに食事を始めた。会話がないと、一人で考え事をしてしまう。
 何故、俺たちばかりがこんな思いをしなくてはいけないのだろう。何故、誰も助けてはくれないのだろう。取り留めのない泣き言がついて出ては消えていく。両頬が涙で濡れていった。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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「うーん......」

 一度は部屋に戻ってきたものの、思考がまとまらない。テーブルに着き、片手で頭を抱える。
 駄目だ、誰かに意見をもらわなくては。と言っても、今はリエルの他にアレクしかいない。アレクとは後で話す約束もしてしまったし、仕方がない。
 ミユのことを悪く言う事態だけは避けたいな、などと考えながら、嫌々椅子から立ち上がった。溜め息を吐きつつ、廊下へと出る。
 ミユは今頃、何をしているのだろう。塞ぎ込んでいなければ良いのだが。いや、そんなことを考えても無理がある。頼むから、自暴自棄にはならないでくれ。考えながら、隣室のドアの位置を確認する。
 あっという間に辿り着いてしまった。
 重たいノックの音を響かせると、すぐさま「入って良いぞ」と声が聞こえた。
 扉を押し開けても、アレクはこちらを見もしない。ただ、長閑な窓の外をぼんやりと眺めているようだ。腕を組み、目を細める。
 
「ミユの呪い、解けねーって言われたんだろ?」

「......うん」

 否定してどうにかなるものでもない。数歩横に移動しただけで壁に凭れ、腕を組んだ。
 
「塔にいるの、神様なんだってさ。ミユが言ってた」

「神だと?」

「うん。俺たちのイメージとはかけ離れてるけどね」

 神は人間が敬い慕う一番上位の存在だ。手に届く筈のない存在だ。それが、いとも容易く俺たちの期待を挫くなんて。想像はしたくない。
 
「神様だろうと何だろうと、俺は絶対に認めない。何か方法はある筈だよ」

「オレだって認めて堪るかよ。あんな思いは二度とごめんだ」

 アレクは軽く首を振り、細い息を吐き出した。
 
「足掻くだけ足掻かせてもらおーぜ」

「当たり前だよ」

「その前に、だ」

 前に、何だろう。小首を傾げると、ようやくアレクはこちらを向いた。鋭い視線はまっすぐに俺を捉える。

「オレらは弱ぇ。前の影との戦いで分かってるだろ? アイツが本気で今のオレらにかかってきたら、オレらは一発で終わる。だからよー......」

「何?」

「前に言ってた魔法の特訓だ。それが先だ」

 俺たちに魔法の特訓なんかしている時間の余地はあるのだろうか。アレクの意見に賛成は出来かねない。

「呪いを解く方法を探す方が先だよ。影と戦闘にもつれ込んだら、呪いを解いてる場合じゃなくなる。ミユを助けられない」

「オレらが弱ぇままだったら、どっちにしろ全員殺られるぞ。ミユがどうこう言ってる場合じゃなくなる」

 それはそうなのだ。思う反面、悠長に魔法の特訓をしていても影に勝てるとは限らない。繰り返される問答にグッと言葉を飲み込み、奥歯を噛み締める。

「何より、誰かが生き残る事が先決だ。オレは魔法の強化を推すからな」

「......分かった」

 結論を出すには早急な気もするが、いくら考えても俺の頭はミユの命を優先してしまい、まとまらないだろう。アレクに判断を任せた方が良い。
 頷くと、アレクは満足そうに口元を上げた。
 
「今日くらいは美味いもん食わせてやる。昼も、夜もな。ただし、魔法の特訓始めたら飯の支度なんかしてられなくなるからな。それだけは了承してくれ」

「うん」

 食事の事なんて、正直言ってどうでも良い。すぐに行動を起こしてあげられなくてごめん。ただミユに詫びるのみ、だ。
 用事は済んだ。もう自室に戻ろう。

「それじゃあ、また、ご飯の時にでも」

 素っ気なく返事をし、くるりとドアへと向き直る。ドアノブに手をかけたところで、不意に言葉を投げかけられた。

「オマエ、ちゃんと寝てんのか? 顔色悪ぃぞ?」

 寝ている余裕なんてない。振り返りもせずに、ただ首を横に振った。

「睡眠もちゃんと取れよ。オマエに倒れられるのが一番厄介だからな」

「......うん」

 曖昧に返事をし、ドアノブを回す。ドアを閉めてアレクの視線から逃れると、一気に緊張が緩んでいった。
 アレクに言われたからではない。今日はへとへとに疲れてしまった。一度、ベッドで休もう。
 何となく歩を進め、自分の部屋へと辿り着いた。鈍い足取りでベッドに向かい、倒れ込む。
 少しだけ。ほんの少しだけ眠ろう。瞼を閉じると、瞬く間に意識は眠りの世界へと沈んでいった。
 夢は見なかった。
 次に瞼を開けた時には、辺りは真っ暗になっていた。まだ夢の中にいるのだろうか。最初はそう思った程だ。
 明かりよ点け、と念じながら、右手で指を鳴らす。ほんわりと明るくなっていくこの場所は、白い壁に白い床、それに青色の家具、配置――どれを取っても俺の部屋だ。カーテンの閉められていない窓の外には星空が広がっている。そこに黄色と水色の月も寄り添いながら輝いている。
 昼食を食べ損なった。食事には執着していなかった筈なのに、一番最初に思ったのはそれだった。
 一言、アレクに文句を言ってやろう。むくりと起き上がり、靴を履く。足音を鳴らしながら、出口へと向かった。それでも静かにドアは閉めたと思う。一直線に会議室へと向かったのに、俺を出迎えていたのはがらんとした大広間だった。ホタテのリゾットにトマトサラダ、ローストビーフに白身魚のアクアパッツアなど、豪勢な食事が俺の指定席にだけ広げられていた。
 丁寧に『オレはフレアの部屋で飯食ってくる。好きなだけ食ってくれ』と達筆なメモが添えられている。
 こればかりは文句を言っても仕方が無い。
 頭を掻きながら席に着き、静かに食事を始めた。会話がないと、一人で考え事をしてしまう。
 何故、俺たちばかりがこんな思いをしなくてはいけないのだろう。何故、誰も助けてはくれないのだろう。取り留めのない泣き言がついて出ては消えていく。両頬が涙で濡れていった。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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