ホーム›神々の奇想四重奏›諦めない心2
← 次の話目次前の話 →

諦めない心2

 開け放たれたドアの向こうには、いつも通りのあの姿があった。

「クラウ様! どうなされたんですか!?」

 カイルは慌てた様子で部屋に雪崩れ込む。

「ミユが、ダイヤから消えた」

「えっ!?」

 青の瞳は一気に見開かれるが、そんなものを気にしていられる程の余裕はない。その瞳を見詰め、まくし立てる。
 
「アリアの所に行って、ミユがどこにいるのか聞き出して欲しい。ただし......」

「何ですか?」

「後で、絶対にミユを責めないこと。カイルとアリアに命じる」

 使い魔にとって、俺たちの命令は『絶対』だ。逆らうことは許されない。もし逆らおうとしても、言葉が喉につかえて俺たちに届きはしないだろう。
 命令なんかしてごめん、と心の中で謝罪してみる。
 カイルは大きく頷き、ぐっと目力を強めた。

「心得ました。アリアの所に行ってきますね」

「うん、頼んだ」

 一刻を争う事態だと悟ったのか、カイルは瞬く間に部屋から消えた。あったのは光の残像だけだ。
 どうか、無事でいてくれ。祈るような気持ちでその場にへたり込んだ。
 
「リエル。影のせいじゃないんだとしたら......どうしてミユは何も言わないで消えたんだろう。どこに行ったんだろう」

 何気ない気持ちで呟いた。
 リエルには心当たりがあったらしい。

“あっ”

 小さく声が発せられる。
 
「何?」

“もしかしたら、羽根をもらってなかったんじゃないかな”

「羽根? 影を倒す為の?」

“うん”

 だからと言って、何も言わずに消えるだろうか。合点がいかず、「うーん」と唸り声を上げる。

“俺の推測が合ってても合ってなくても、あの子に会えば分かるから”

「うん......」

 それでも納得がいかず、黙り込んでしまった。
 多分、どこかでおごっていたのだと思う。ミユは俺に隠しことなんかしない、と。後から考えれば、馬鹿だなと思う。
 額に流れる汗を掌で拭い、大きく溜め息を吐く。時計の秒を刻む音が耳にこびりついて離れない。
 息が詰まりそうになってきたところで、ようやくカイルは戻ってきた。部屋の入り口付近に光が現れると同時に立ち上がり、そちらへと駆け寄った。穏やかな表情から察するに、ミユは無事らしい。
 それでも、急がずにはいられない。

「ミユは?」

「地の塔にいらっしゃいます」

「ありがとう」

 淡白に礼を言うと、早速ワープを試みる。光に包まれる中で、カイルの「お気をつけて」と言う声はきちんと届いていた。
 風景に気を取られている場合ではない。生い茂る雑草を踏み分け、木の幹を掻い潜り、涼しい向かい風を受けながら地の塔に向かってひた走った。ミユの名を心の中で呼びながら辿り着くと、入り口に手をかける。

「⋯⋯ミユ!」

 座り込む彼女の姿を見つけるや否や、笑みが零れていた。
 どうやら、リエルの推測は正しかったらしい。そうでなくては、ここに来る理由なんてないのだから。
 ほっと胸を撫で下ろし、ミユの方へと歩み寄る。

「良かった、無事で。羽根を取りに行くなら、言ってくれれば――」

 言いかけたところで違和感に気がついた。ミユの頬が光を反射しているのだ。
 もしかして、泣いているのだろうか。

「何があったの?」

 何かあったのなら聞かせて欲しい。慰めてあげたい。ただそれだけだった。
 なのに、ミユは辛そうに首を横に振る。

「言ってくれなきゃ分からないよ」

「呪いが......」

 ぽつりと呟かれると、また首を横に振る。その様子に戦慄を覚えた。
 この反応は、『呪いが解けない』とでも言われたようではないか。
 いくら力を持っている者だとしても、言って良いことと悪い事ことがある。一気に怒りが俺の心を支配していく。

「何でそんなこと......! 俺も聞いてくる!」

 自分の耳で聞かなければ、納得なんか出来はしない。一言言ってやらなければ気が済まない。
 静寂を保つ魔方陣を睨みつけ、その懐へ飛び込もうとした。
 しかし、俺の行動は制御されてしまった。ミユが俺の服の裾を掴んだのだ。その勢いのまま、彼女は口を開く。

「無駄だよ! 何回行っても同じだよ⋯⋯」

「無駄なんてことはないよ。だから、離して」

 離してくれないことは分かっている。思った通り、ミユは一層強く服を握り締める。
 思わず苦笑いをしてしまった。

「ごめんね」

 俺もなかなか意思を曲げられない性格なのだ。
 小さく囁き、ミユの手にそっと触れた。力を入れないように、その手を服から離していく。ミユの悲痛な泣き声が痛々しい。
 そんな苦しい思いは俺が打ち消してみせるから。踵を返し、魔方陣へと突き進む。縁を踏み、中心部に足を踏み入れたとしても、転移されることはなかった。整然とモザイク模様が彩られているのみだ。

「ミユに言えるなら、俺にだって言える筈じゃん。何で話そうともしないのさ。俺はミユを死なせたくない! それだけなのに......!」

 悔しくて、立っているのも難しくなってしまった。膝が折れ、床に落ちる。

「ここにいるの、神様なんだって」

 不意に後方からミユの声が聞こえてきた。

「えっ?」

「他の塔にいる人も同じ。この世界の創造主なんだって」

 ミユは俯きながら、ボソボソと呟く。
 神、創造主――俺が信じてきた神とは全く性質が違う。
 神とは人々を導く存在なのではないのか。救いを与える者ではなかったのか。イメージがガラガラと砂のように崩れていく。

「他の塔に行っても、答えは同じだろうって。私、神様にも見捨てられちゃった」

 当の主が『神』と名乗った。だから、ここにいるのは神だと結びつけるのは少し安直ではないだろうか。
 何より、自分を傷つけた相手だ。信じられる要素が無くては、信じるに値しない。

「ミユはそれを信じるの?」

「私だって、証拠はあるのか聞いたよ。でも、『それを証明する必要はあるのか? 私が魔法を与えたのに』って。もう、信じるしかないよ......」
 
「なんだよ、それ......」

 確かにそうなのだ。魔法を人に与えられるなんて、それなりの力を持った者だろう。神か、それと同等の者か。
 だから何だろう。ミユに発言した内容は取り消せないのだ。
 魔法陣に向かって、拳を振り落とした。

「俺は諦めない。神だろうが何だろうが、言いたいだけ言わせておけば良い。俺はそれを超えてみせる。ミユの呪いを解いてみせる」

「どうやって⋯⋯?」

「諦めなければ、きっと方法は見つかるよ。リエルはあの時、諦めたんだ。そんな事、俺は絶対にしないから」

 諦めたから、自らの命を犠牲にしようとしたのだ。過去は繰り返させない。
 ゆるりと立ち上がり、ミユの元へと身を寄せる。そのままその身体を抱き締めた。

「大丈夫だよ」

 俺は決して諦めない。諦めさえしなければ、道はどこかに繋がっている筈だから。
 声を上げて泣きじゃくるミユの頭をそっと撫で続けた。
 
「ミユをこんな目に遭わせた影を、神を、俺は許さない。たとえ、何があっても」

 これから起こるであろうミユを苦しめる事件は少なくないだろう。その度にミユは挫け、行き先を見失ってしまうかもしれない。
 その分、俺が強くなくては。
 何があっても未来を諦めたりはしない。呪いは解けると信じ続けよう。
シェア
前の話 →
諦めない心1
← 次の話
交錯1
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません

諦めない心2

 開け放たれたドアの向こうには、いつも通りのあの姿があった。

「クラウ様! どうなされたんですか!?」

 カイルは慌てた様子で部屋に雪崩れ込む。

「ミユが、ダイヤから消えた」

「えっ!?」

 青の瞳は一気に見開かれるが、そんなものを気にしていられる程の余裕はない。その瞳を見詰め、まくし立てる。
 
「アリアの所に行って、ミユがどこにいるのか聞き出して欲しい。ただし......」

「何ですか?」

「後で、絶対にミユを責めないこと。カイルとアリアに命じる」

 使い魔にとって、俺たちの命令は『絶対』だ。逆らうことは許されない。もし逆らおうとしても、言葉が喉につかえて俺たちに届きはしないだろう。
 命令なんかしてごめん、と心の中で謝罪してみる。
 カイルは大きく頷き、ぐっと目力を強めた。

「心得ました。アリアの所に行ってきますね」

「うん、頼んだ」

 一刻を争う事態だと悟ったのか、カイルは瞬く間に部屋から消えた。あったのは光の残像だけだ。
 どうか、無事でいてくれ。祈るような気持ちでその場にへたり込んだ。
 
「リエル。影のせいじゃないんだとしたら......どうしてミユは何も言わないで消えたんだろう。どこに行ったんだろう」

 何気ない気持ちで呟いた。
 リエルには心当たりがあったらしい。

“あっ”

 小さく声が発せられる。
 
「何?」

“もしかしたら、羽根をもらってなかったんじゃないかな”

「羽根? 影を倒す為の?」

“うん”

 だからと言って、何も言わずに消えるだろうか。合点がいかず、「うーん」と唸り声を上げる。

“俺の推測が合ってても合ってなくても、あの子に会えば分かるから”

「うん......」

 それでも納得がいかず、黙り込んでしまった。
 多分、どこかでおごっていたのだと思う。ミユは俺に隠しことなんかしない、と。後から考えれば、馬鹿だなと思う。
 額に流れる汗を掌で拭い、大きく溜め息を吐く。時計の秒を刻む音が耳にこびりついて離れない。
 息が詰まりそうになってきたところで、ようやくカイルは戻ってきた。部屋の入り口付近に光が現れると同時に立ち上がり、そちらへと駆け寄った。穏やかな表情から察するに、ミユは無事らしい。
 それでも、急がずにはいられない。

「ミユは?」

「地の塔にいらっしゃいます」

「ありがとう」

 淡白に礼を言うと、早速ワープを試みる。光に包まれる中で、カイルの「お気をつけて」と言う声はきちんと届いていた。
 風景に気を取られている場合ではない。生い茂る雑草を踏み分け、木の幹を掻い潜り、涼しい向かい風を受けながら地の塔に向かってひた走った。ミユの名を心の中で呼びながら辿り着くと、入り口に手をかける。

「⋯⋯ミユ!」

 座り込む彼女の姿を見つけるや否や、笑みが零れていた。
 どうやら、リエルの推測は正しかったらしい。そうでなくては、ここに来る理由なんてないのだから。
 ほっと胸を撫で下ろし、ミユの方へと歩み寄る。

「良かった、無事で。羽根を取りに行くなら、言ってくれれば――」

 言いかけたところで違和感に気がついた。ミユの頬が光を反射しているのだ。
 もしかして、泣いているのだろうか。

「何があったの?」

 何かあったのなら聞かせて欲しい。慰めてあげたい。ただそれだけだった。
 なのに、ミユは辛そうに首を横に振る。

「言ってくれなきゃ分からないよ」

「呪いが......」

 ぽつりと呟かれると、また首を横に振る。その様子に戦慄を覚えた。
 この反応は、『呪いが解けない』とでも言われたようではないか。
 いくら力を持っている者だとしても、言って良いことと悪い事ことがある。一気に怒りが俺の心を支配していく。

「何でそんなこと......! 俺も聞いてくる!」

 自分の耳で聞かなければ、納得なんか出来はしない。一言言ってやらなければ気が済まない。
 静寂を保つ魔方陣を睨みつけ、その懐へ飛び込もうとした。
 しかし、俺の行動は制御されてしまった。ミユが俺の服の裾を掴んだのだ。その勢いのまま、彼女は口を開く。

「無駄だよ! 何回行っても同じだよ⋯⋯」

「無駄なんてことはないよ。だから、離して」

 離してくれないことは分かっている。思った通り、ミユは一層強く服を握り締める。
 思わず苦笑いをしてしまった。

「ごめんね」

 俺もなかなか意思を曲げられない性格なのだ。
 小さく囁き、ミユの手にそっと触れた。力を入れないように、その手を服から離していく。ミユの悲痛な泣き声が痛々しい。
 そんな苦しい思いは俺が打ち消してみせるから。踵を返し、魔方陣へと突き進む。縁を踏み、中心部に足を踏み入れたとしても、転移されることはなかった。整然とモザイク模様が彩られているのみだ。

「ミユに言えるなら、俺にだって言える筈じゃん。何で話そうともしないのさ。俺はミユを死なせたくない! それだけなのに......!」

 悔しくて、立っているのも難しくなってしまった。膝が折れ、床に落ちる。

「ここにいるの、神様なんだって」

 不意に後方からミユの声が聞こえてきた。

「えっ?」

「他の塔にいる人も同じ。この世界の創造主なんだって」

 ミユは俯きながら、ボソボソと呟く。
 神、創造主――俺が信じてきた神とは全く性質が違う。
 神とは人々を導く存在なのではないのか。救いを与える者ではなかったのか。イメージがガラガラと砂のように崩れていく。

「他の塔に行っても、答えは同じだろうって。私、神様にも見捨てられちゃった」

 当の主が『神』と名乗った。だから、ここにいるのは神だと結びつけるのは少し安直ではないだろうか。
 何より、自分を傷つけた相手だ。信じられる要素が無くては、信じるに値しない。

「ミユはそれを信じるの?」

「私だって、証拠はあるのか聞いたよ。でも、『それを証明する必要はあるのか? 私が魔法を与えたのに』って。もう、信じるしかないよ......」
 
「なんだよ、それ......」

 確かにそうなのだ。魔法を人に与えられるなんて、それなりの力を持った者だろう。神か、それと同等の者か。
 だから何だろう。ミユに発言した内容は取り消せないのだ。
 魔法陣に向かって、拳を振り落とした。

「俺は諦めない。神だろうが何だろうが、言いたいだけ言わせておけば良い。俺はそれを超えてみせる。ミユの呪いを解いてみせる」

「どうやって⋯⋯?」

「諦めなければ、きっと方法は見つかるよ。リエルはあの時、諦めたんだ。そんな事、俺は絶対にしないから」

 諦めたから、自らの命を犠牲にしようとしたのだ。過去は繰り返させない。
 ゆるりと立ち上がり、ミユの元へと身を寄せる。そのままその身体を抱き締めた。

「大丈夫だよ」

 俺は決して諦めない。諦めさえしなければ、道はどこかに繋がっている筈だから。
 声を上げて泣きじゃくるミユの頭をそっと撫で続けた。
 
「ミユをこんな目に遭わせた影を、神を、俺は許さない。たとえ、何があっても」

 これから起こるであろうミユを苦しめる事件は少なくないだろう。その度にミユは挫け、行き先を見失ってしまうかもしれない。
 その分、俺が強くなくては。
 何があっても未来を諦めたりはしない。呪いは解けると信じ続けよう。
シェア
次の話交錯1
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません