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輝く氷雪1

 フレアの落ち込みようは相当なものだった。会議室で、三人で食事をしていても、シルバーが進んでいない。

「大丈夫か?」

「んー......」
 
 アレクの質問にも、上の空だった。
 アレクからの受け答えが困難なら、俺が出たところで解決はしないだろう。
 重苦しい雰囲気の中で、黙々と食事する他になかった。
 ミユの部屋の見張りだけはやってくれたのは救いだっただろうか。フレアが欠ければ、俺とアレクの睡眠時間が削られる。
 薄暗がりの中で廊下を進むと、いつものようにアレクが壁に寄りかかっていた。ミユの部屋のドアを見据え、難しい顔をしている。

「アレク、交代の時間」

「あぁ」

 アレクは曖昧に返事をすると、ゆっくりと体勢を立て直した。そのままこちらに歩いてくる。

「異常はない?」

「今のところはな」

 このまま何も起きなければ良いが。吐息をつきつつ、アレクが立っていた場所へと移動した。

「オマエはフレアのこと、どうしたら良いと思う? 放っときゃ改善するもんか?」

「それはミユとフレア次第だよ。時間が解決する問題じゃない」

「だよな」

 アレクは呟き、フレアがいるであろう部屋へと視線を向ける。

「誤解がすぐに解けりゃ良いんだけどな」

 アレクが言いたいことは分かる。だが、ミユを急かしてはいけない。余計に混乱させてしまう。
 
「それは俺もどうにかしたいと思ってる。でも、まだミユは過去が前世だってことにも気づいてないんだ。すぐには無理だよ」

 軽く首を振ってみせると、アレクは大きな溜め息を吐いた。

「とりあえず、寝てくる。後は頼む」

「うん」

 遠ざかっていくアレクの背中を見ながら思う。ミユがフレアを許す日はやってくるのだろうか。カノンが死に際まで恨んでいた相手だ。転生後であるミユもその気持ちは引き継ぐのだろう。
 いや、俺がフレアのことを考えていても仕方がない。壁に背中を預け、腕を組む。俺はミユのことと、自身の身の振り方を考えなくては。目を伏せ、床とドアの間を見詰めていた。
 
 * * *

 火の塔に行ってから四日の歳月が流れていた。
 フレアは未だにミユと接触をしていない。
 恐らく、今日も無理なのだろうな、と思いながらキッチンを覗いた。朝食を作り終わり、アレクとフレアが談笑しているところだった。俺の存在には気づいていないようだ。
 テーブルに置いてあるスープ皿に、フレアは手を伸ばす。

「あたし、これ持っていくね」

「いや、無理すんな」

「無理してる訳じゃないよ。ちゃんとミユに謝りたいだけなの」

 どうやら、ミユの朝食の奪い合いをしているようだ。
 ここで棒立ちしている訳にもいかず、小さく口を開いてみる。

「おはよう」

「あっ、クラウ。おはよう」

「よ!」

 フレアは以前の調子に戻っている。彼女の中でどんな変化があったのかは分からないが、嬉しい変化であることには変わりない。
 挨拶をしつつも、会話は二人だけで展開されていく。

「謝るだけなら、オレが持って行っても謝れるだろ?」

「そうなんだけど......」

 フレアは「うーん」と唸り声を上げ、右手を腰に当てる。

「じゃあ、お願いしようかなぁ。考えごとして、スープ溢しちゃっても大変だから」

「よし」

 どうやら決着がついたようだ。結果的にアレクがスープ皿を手にし、こちらへと進んでくる。

「おい、オマエもミユの部屋に行くだろ?」

「えっ? うん」

 行くに決まっている。俺を置いていこうとでもするようなアレクとフレアの後を追う。
 ミユの部屋にはすぐに着いてしまった。皿を持っているアレクの代わりに、フレアがノックをし、ドアを開ける。

「ミユ、朝飯持ってきたぞ。食えそうか?」

 アレクに続いて部屋へと足を踏み入れた。多分、フレアもドアの隙間から顔を覗かせていると思う。
 だからだろうか。ミユは飛び起き、目を丸くする。それも僅かな間で、俯いてしまった。
 フレアもどう切り出したら良いのか分からないらしく、気まずい空気が流れる。ゆっくりと俺とアレクの間に割って入り、瞳を潤ませる。
 その空気を破ったのもフレアだった。

「あたし、ミユに謝りたくて。ずっと部屋に来れなかったから」

 震える声にミユははっと顔を上げ、眉尻を下げる。

「私の方こそごめんなさい」

 言いながら、ミユは勢い良く頭を下げた。

「二人とも、んな顔すんな! これで仲直りな」

 アレクは皿をテーブルへと置き、ミユの方へと歩み寄る。太い腕を伸ばすと、ミユの頭を乱暴に撫で始めた。
 まるで、影のことを知らなかった百年前に戻ったかのような感覚だ。
 微笑ましくて、小さく笑ってしまった。どうやらそれはフレアも同じだったようで、笑みを溢す。
 ふと、頭上から白いものが現れたのだ。三つの――これはラナンキュラスだ。ミユがまた無意識のうちに魔法を使ったのだろう。ふわりふわりとそれぞれが地面に落ち、音も立てずにカタリと傾く。何となく、そのうちの一輪を摘まみ上げた。

「ラナンキュラス......」

 この花はカノンが好きだった花だ。魔法で出すくらいなので、ミユも好きなのだろうか。しんみりとしてしまう。

「ラナンキュラス?」

「うん。この花の名前だよ」

 言うと、そっと微笑んでみせる。

「誰が用意したんだ? この花」

「またクラウ?」

「えっ?」

 不審に思われるかもしれないため、上手く反応が出来ない。何故、都合の悪いことばかり、俺に押しつけるのだろう。
 そんな俺に、ミユは小首を傾げる。
 なんとか話題を変えようと、テーブルへと近づいた。
 
「それより、スープが冷めちゃうよ。ミユ、こっちに来れる?」

「えっ? うん......」

 不振がりながら、ミユは俺たち三人の顔を見比べる。俺たちもバレる訳にはいかないので、平静を装う。アレクとフレアなんて苦笑いまでしていた。
 探りを入れることを諦めたのか、ミユはそろりとベッドから抜け出し、テーブルへと移動する。

「いただきます」

 彼女特有の挨拶が聞こえると、静かな食事は始まった。
 ラナンキュラスについて追及されなくて良かった。ほっと胸を撫で下ろし、食事後にアレクとフレアに不服の目を向けた。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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輝く氷雪1

 フレアの落ち込みようは相当なものだった。会議室で、三人で食事をしていても、シルバーが進んでいない。

「大丈夫か?」

「んー......」
 
 アレクの質問にも、上の空だった。
 アレクからの受け答えが困難なら、俺が出たところで解決はしないだろう。
 重苦しい雰囲気の中で、黙々と食事する他になかった。
 ミユの部屋の見張りだけはやってくれたのは救いだっただろうか。フレアが欠ければ、俺とアレクの睡眠時間が削られる。
 薄暗がりの中で廊下を進むと、いつものようにアレクが壁に寄りかかっていた。ミユの部屋のドアを見据え、難しい顔をしている。

「アレク、交代の時間」

「あぁ」

 アレクは曖昧に返事をすると、ゆっくりと体勢を立て直した。そのままこちらに歩いてくる。

「異常はない?」

「今のところはな」

 このまま何も起きなければ良いが。吐息をつきつつ、アレクが立っていた場所へと移動した。

「オマエはフレアのこと、どうしたら良いと思う? 放っときゃ改善するもんか?」

「それはミユとフレア次第だよ。時間が解決する問題じゃない」

「だよな」

 アレクは呟き、フレアがいるであろう部屋へと視線を向ける。

「誤解がすぐに解けりゃ良いんだけどな」

 アレクが言いたいことは分かる。だが、ミユを急かしてはいけない。余計に混乱させてしまう。
 
「それは俺もどうにかしたいと思ってる。でも、まだミユは過去が前世だってことにも気づいてないんだ。すぐには無理だよ」

 軽く首を振ってみせると、アレクは大きな溜め息を吐いた。

「とりあえず、寝てくる。後は頼む」

「うん」

 遠ざかっていくアレクの背中を見ながら思う。ミユがフレアを許す日はやってくるのだろうか。カノンが死に際まで恨んでいた相手だ。転生後であるミユもその気持ちは引き継ぐのだろう。
 いや、俺がフレアのことを考えていても仕方がない。壁に背中を預け、腕を組む。俺はミユのことと、自身の身の振り方を考えなくては。目を伏せ、床とドアの間を見詰めていた。
 
 * * *

 火の塔に行ってから四日の歳月が流れていた。
 フレアは未だにミユと接触をしていない。
 恐らく、今日も無理なのだろうな、と思いながらキッチンを覗いた。朝食を作り終わり、アレクとフレアが談笑しているところだった。俺の存在には気づいていないようだ。
 テーブルに置いてあるスープ皿に、フレアは手を伸ばす。

「あたし、これ持っていくね」

「いや、無理すんな」

「無理してる訳じゃないよ。ちゃんとミユに謝りたいだけなの」

 どうやら、ミユの朝食の奪い合いをしているようだ。
 ここで棒立ちしている訳にもいかず、小さく口を開いてみる。

「おはよう」

「あっ、クラウ。おはよう」

「よ!」

 フレアは以前の調子に戻っている。彼女の中でどんな変化があったのかは分からないが、嬉しい変化であることには変わりない。
 挨拶をしつつも、会話は二人だけで展開されていく。

「謝るだけなら、オレが持って行っても謝れるだろ?」

「そうなんだけど......」

 フレアは「うーん」と唸り声を上げ、右手を腰に当てる。

「じゃあ、お願いしようかなぁ。考えごとして、スープ溢しちゃっても大変だから」

「よし」

 どうやら決着がついたようだ。結果的にアレクがスープ皿を手にし、こちらへと進んでくる。

「おい、オマエもミユの部屋に行くだろ?」

「えっ? うん」

 行くに決まっている。俺を置いていこうとでもするようなアレクとフレアの後を追う。
 ミユの部屋にはすぐに着いてしまった。皿を持っているアレクの代わりに、フレアがノックをし、ドアを開ける。

「ミユ、朝飯持ってきたぞ。食えそうか?」

 アレクに続いて部屋へと足を踏み入れた。多分、フレアもドアの隙間から顔を覗かせていると思う。
 だからだろうか。ミユは飛び起き、目を丸くする。それも僅かな間で、俯いてしまった。
 フレアもどう切り出したら良いのか分からないらしく、気まずい空気が流れる。ゆっくりと俺とアレクの間に割って入り、瞳を潤ませる。
 その空気を破ったのもフレアだった。

「あたし、ミユに謝りたくて。ずっと部屋に来れなかったから」

 震える声にミユははっと顔を上げ、眉尻を下げる。

「私の方こそごめんなさい」

 言いながら、ミユは勢い良く頭を下げた。

「二人とも、んな顔すんな! これで仲直りな」

 アレクは皿をテーブルへと置き、ミユの方へと歩み寄る。太い腕を伸ばすと、ミユの頭を乱暴に撫で始めた。
 まるで、影のことを知らなかった百年前に戻ったかのような感覚だ。
 微笑ましくて、小さく笑ってしまった。どうやらそれはフレアも同じだったようで、笑みを溢す。
 ふと、頭上から白いものが現れたのだ。三つの――これはラナンキュラスだ。ミユがまた無意識のうちに魔法を使ったのだろう。ふわりふわりとそれぞれが地面に落ち、音も立てずにカタリと傾く。何となく、そのうちの一輪を摘まみ上げた。

「ラナンキュラス......」

 この花はカノンが好きだった花だ。魔法で出すくらいなので、ミユも好きなのだろうか。しんみりとしてしまう。

「ラナンキュラス?」

「うん。この花の名前だよ」

 言うと、そっと微笑んでみせる。

「誰が用意したんだ? この花」

「またクラウ?」

「えっ?」

 不審に思われるかもしれないため、上手く反応が出来ない。何故、都合の悪いことばかり、俺に押しつけるのだろう。
 そんな俺に、ミユは小首を傾げる。
 なんとか話題を変えようと、テーブルへと近づいた。
 
「それより、スープが冷めちゃうよ。ミユ、こっちに来れる?」

「えっ? うん......」

 不振がりながら、ミユは俺たち三人の顔を見比べる。俺たちもバレる訳にはいかないので、平静を装う。アレクとフレアなんて苦笑いまでしていた。
 探りを入れることを諦めたのか、ミユはそろりとベッドから抜け出し、テーブルへと移動する。

「いただきます」

 彼女特有の挨拶が聞こえると、静かな食事は始まった。
 ラナンキュラスについて追及されなくて良かった。ほっと胸を撫で下ろし、食事後にアレクとフレアに不服の目を向けた。
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