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灼熱の砂漠4

「うん、なんとか」

 しかし、ミユは笑うばかりで俺の手を取ってはくれない。仕方なく、苦笑いを返すしかなかった。
 たったこれだけのことが苦痛で堪らない。やはり、俺はミユのことが好きなのだろうか。

「オマエら、どうかしたのか?」

「ううん、なんでもない」

 言っても真意は伝わらないだろうし、ミユの前で言うことではない。
 首を横に振ってみせると、アレクは口をへの字に曲げて両腕を組んだ。

「ミユ、良いか?」

「うん」

 アレクの問いに、ミユは決意に満ちた瞳を向ける。
 フレアは息を吸い込むと、天に向かい声を張った。

「地の魔導師を連れてきたよ」

“地の魔導師、魔方陣の中へ来なさい”

 聞こえてきたのは、一年前にも聞いたあの女性の声だった。
 床のモザイク模様に刻まれている赤色の魔方陣が、ほんのりと光を放ち始める。

「行かなくちゃ......」

 ミユは呟くと、一歩一歩、確実に魔方陣へと近づいていく。魔方陣の縁を踏むと、魔法陣から光の柱が立ち上る。そのままミユの姿は掻き消えてしまった。

「あたしも行かなくちゃ」

 フレアは振り向くと、ニコッと笑った。

「ちゃんと二人で喧嘩しないで待てる?」

 まるで子供に質問するかのように、フレアは俺とアレクの顔を見比べる。
 ムスッとした顔を向けると、フレアはぷっと噴き出した。

「ごめんね、意地悪しちゃった。行ってくるね」

 フレアは小さく手を振ると、俺たちに背を向ける。数歩進んだ所で、魔方陣の中に吸い込まれていった。
 塔の中は影になっているとはいえ、熱いことには変わりない。ミユやフレアが戻ってくる前に、俺が倒れてしまう。
 水の流れを意識し、頭の上から流水をかける。身体の火照りはだいぶ取れたように思う。

「オマエ、良いな」

 アレクも風の魔法が使えるのだから、冷風を自分に当てれば良いのに。心の中で文句を言うが、口には出さない。

「おい、無視か?」

 うるさい。こうなったら、いつまでも絡んでくるだろう。構ってやる理由もないし、これが一番の効果があるだろう。
 アレクの頭上を目がけて、先程の三倍はあろうかと言う程の水を被せてやった。彼は奇声を発し、じたばたと暴れる。

「オマエ、今のはやりすぎだろ!」

「やってもらって文句言う?」

「はぁ!?」

 憤慨したのか、アレクはがばっと立ち上がった。鋭い眼光を俺に向ける。

「オレは頼んだつもりはねぇ!」

「あれで頼んでないって言うんなら、ただの馬鹿だよ」

「オマエなぁ......!」

 アレクの右手がこちらに迫る。そのまま俺の胸倉を掴むので、応戦しようと俺もアレクの右手を掴んだ。そんな時だった。
 タイミング悪く、フレアが帰ってきてしまったのだ。俺たちを見たフレアは頭を抱える。

「やっぱり喧嘩してた......」

 呆れたフレアの目を向けられ、アレクは手を放した。仕方なく、俺もその流れに乗る。

「いや、これは何つーか」

「何?」

「ただの揉めごとだ」

 全く言い訳になっていない。フレアは盛大な溜め息を吐いた。

「それを喧嘩って言うの」

 フレアは腰に手を当て、アレクを牽制する。
 場を収めるために、謝るしかない、か。
 
「ごめん」

「アレクは?」

「済まなかった」

「うん、偉い」

 満足したように、フレアはにこにこと笑う。そして、もう喧嘩をさせないためなのか、俺とアレクの間に割って入った。
 静かな時が一瞬だけ訪れた。それもアレクによって破られる。

「大丈夫か?」

 消え入りそうな程の声量でフレアに囁くと、問われた人は小さく頷いた。

「無理すんなよ」

「うん」

 事情を知っているだけに、口を挟めない。今は二人の会話を聞き流すことにした。
 それからしばらく経ってからのことだ。突如として魔方陣が輝き、一瞬で消え去る。そこには横たわったミユが取り残されていた。

「ミユ!」

 駆け寄ってみると、瞼は閉じられており、呼吸も安定している。風の塔の時と同じ状態だ。

「早く連れて帰ってあげよう」

 フレアの呟きを聞きながら、ミユの身体を抱き寄せる。どうしようもなく愛しい。思わず腕に力が入る。

「クラウ、出来たよ」

「今行く」

 身を翻し、フレアが描き終えた魔方陣を潜った。
 ダイヤに帰ってきてから雲は流れ、日は傾き、空はオレンジ色へと染まる。ミユは一向に目覚めない。アイリスの記憶のせいなのだろうか。
 フレアは水嚢も準備し、ミユの傍らで待機している。そして、俺たちも。

「こんなに眠り続けてたら、ちょっと心配になるよね」

「うん......」

 フレアの言葉にも、なんとなく返事をしてみる。
 すると、ミユの瞼が持ち上がったのだ。途端に顔をしかめ、頭を抱える。

「った......!」

「ミユ!」

「おい、大丈夫か!?」

「大丈夫な訳ないでしょ」

 ミユが返事をする代わりに、フレアが声を張る。てきぱきとミユの額に水嚢をセットすると、細い息を吐いた。

「まだ痛む?」

「うん......」

 肯定はするものの、その声に力はない、表情だって険しいままだ。
 「うぅ......」とか細い声を出すミユを見て、フレアは俺たちに向き直る。

「過去を見るのは一旦止めない? ミユの身が持たないよ。こんな辛そうな姿、見てられないよ」

 ミユの右手に、フレアの左手が触れる。その瞬間、乾いた音が鳴り響いた。

「私に構わないで」

 ミユがフレアの手を平手打ちしたのだ。
 耐えきれなかったのか、フレアは一筋の涙を流す。

「......ごめんね。あたし、ここにいない方が良いよね。先に部屋に戻るね」

「フレア!」

 その場から逃げ出したフレアをアレクが追う。
 フレアはアレクに任せれば良い。今はミユが心配だ。ドアの方を見詰める焦茶の瞳は段々と潤んでいく。

「何で......? 私、そんな事言うつもりじゃなかったのに......。フレアのこと、傷つけちゃった......!」

 その両手は泣き出してしまいそうな顔を覆う。

「これは『過去』のせいだ。ミユのせいじゃない」
 
「『過去』? どうして『過去』が出てくるの?」

「それは......」

 カノンがアイリスを恨んでしまったがために出た行動だろうから。言いたいのに言えない自分がもどかしい。

「今日は眠った方が良いよ。大丈夫、ミユはミユのままだから」

 頭を撫でたい衝動を殺し、代わりに拳を作る。
 十数分見守っていると、ミユは寝息を立て始めた。余程、疲れたのだろう。

「今は、ゆっくり眠ったら良いよ」

 戦いが始まる前の今くらいは。ミユに微笑みかけ、天を仰いだ。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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灼熱の砂漠4

「うん、なんとか」

 しかし、ミユは笑うばかりで俺の手を取ってはくれない。仕方なく、苦笑いを返すしかなかった。
 たったこれだけのことが苦痛で堪らない。やはり、俺はミユのことが好きなのだろうか。

「オマエら、どうかしたのか?」

「ううん、なんでもない」

 言っても真意は伝わらないだろうし、ミユの前で言うことではない。
 首を横に振ってみせると、アレクは口をへの字に曲げて両腕を組んだ。

「ミユ、良いか?」

「うん」

 アレクの問いに、ミユは決意に満ちた瞳を向ける。
 フレアは息を吸い込むと、天に向かい声を張った。

「地の魔導師を連れてきたよ」

“地の魔導師、魔方陣の中へ来なさい”

 聞こえてきたのは、一年前にも聞いたあの女性の声だった。
 床のモザイク模様に刻まれている赤色の魔方陣が、ほんのりと光を放ち始める。

「行かなくちゃ......」

 ミユは呟くと、一歩一歩、確実に魔方陣へと近づいていく。魔方陣の縁を踏むと、魔法陣から光の柱が立ち上る。そのままミユの姿は掻き消えてしまった。

「あたしも行かなくちゃ」

 フレアは振り向くと、ニコッと笑った。

「ちゃんと二人で喧嘩しないで待てる?」

 まるで子供に質問するかのように、フレアは俺とアレクの顔を見比べる。
 ムスッとした顔を向けると、フレアはぷっと噴き出した。

「ごめんね、意地悪しちゃった。行ってくるね」

 フレアは小さく手を振ると、俺たちに背を向ける。数歩進んだ所で、魔方陣の中に吸い込まれていった。
 塔の中は影になっているとはいえ、熱いことには変わりない。ミユやフレアが戻ってくる前に、俺が倒れてしまう。
 水の流れを意識し、頭の上から流水をかける。身体の火照りはだいぶ取れたように思う。

「オマエ、良いな」

 アレクも風の魔法が使えるのだから、冷風を自分に当てれば良いのに。心の中で文句を言うが、口には出さない。

「おい、無視か?」

 うるさい。こうなったら、いつまでも絡んでくるだろう。構ってやる理由もないし、これが一番の効果があるだろう。
 アレクの頭上を目がけて、先程の三倍はあろうかと言う程の水を被せてやった。彼は奇声を発し、じたばたと暴れる。

「オマエ、今のはやりすぎだろ!」

「やってもらって文句言う?」

「はぁ!?」

 憤慨したのか、アレクはがばっと立ち上がった。鋭い眼光を俺に向ける。

「オレは頼んだつもりはねぇ!」

「あれで頼んでないって言うんなら、ただの馬鹿だよ」

「オマエなぁ......!」

 アレクの右手がこちらに迫る。そのまま俺の胸倉を掴むので、応戦しようと俺もアレクの右手を掴んだ。そんな時だった。
 タイミング悪く、フレアが帰ってきてしまったのだ。俺たちを見たフレアは頭を抱える。

「やっぱり喧嘩してた......」

 呆れたフレアの目を向けられ、アレクは手を放した。仕方なく、俺もその流れに乗る。

「いや、これは何つーか」

「何?」

「ただの揉めごとだ」

 全く言い訳になっていない。フレアは盛大な溜め息を吐いた。

「それを喧嘩って言うの」

 フレアは腰に手を当て、アレクを牽制する。
 場を収めるために、謝るしかない、か。
 
「ごめん」

「アレクは?」

「済まなかった」

「うん、偉い」

 満足したように、フレアはにこにこと笑う。そして、もう喧嘩をさせないためなのか、俺とアレクの間に割って入った。
 静かな時が一瞬だけ訪れた。それもアレクによって破られる。

「大丈夫か?」

 消え入りそうな程の声量でフレアに囁くと、問われた人は小さく頷いた。

「無理すんなよ」

「うん」

 事情を知っているだけに、口を挟めない。今は二人の会話を聞き流すことにした。
 それからしばらく経ってからのことだ。突如として魔方陣が輝き、一瞬で消え去る。そこには横たわったミユが取り残されていた。

「ミユ!」

 駆け寄ってみると、瞼は閉じられており、呼吸も安定している。風の塔の時と同じ状態だ。

「早く連れて帰ってあげよう」

 フレアの呟きを聞きながら、ミユの身体を抱き寄せる。どうしようもなく愛しい。思わず腕に力が入る。

「クラウ、出来たよ」

「今行く」

 身を翻し、フレアが描き終えた魔方陣を潜った。
 ダイヤに帰ってきてから雲は流れ、日は傾き、空はオレンジ色へと染まる。ミユは一向に目覚めない。アイリスの記憶のせいなのだろうか。
 フレアは水嚢も準備し、ミユの傍らで待機している。そして、俺たちも。

「こんなに眠り続けてたら、ちょっと心配になるよね」

「うん......」

 フレアの言葉にも、なんとなく返事をしてみる。
 すると、ミユの瞼が持ち上がったのだ。途端に顔をしかめ、頭を抱える。

「った......!」

「ミユ!」

「おい、大丈夫か!?」

「大丈夫な訳ないでしょ」

 ミユが返事をする代わりに、フレアが声を張る。てきぱきとミユの額に水嚢をセットすると、細い息を吐いた。

「まだ痛む?」

「うん......」

 肯定はするものの、その声に力はない、表情だって険しいままだ。
 「うぅ......」とか細い声を出すミユを見て、フレアは俺たちに向き直る。

「過去を見るのは一旦止めない? ミユの身が持たないよ。こんな辛そうな姿、見てられないよ」

 ミユの右手に、フレアの左手が触れる。その瞬間、乾いた音が鳴り響いた。

「私に構わないで」

 ミユがフレアの手を平手打ちしたのだ。
 耐えきれなかったのか、フレアは一筋の涙を流す。

「......ごめんね。あたし、ここにいない方が良いよね。先に部屋に戻るね」

「フレア!」

 その場から逃げ出したフレアをアレクが追う。
 フレアはアレクに任せれば良い。今はミユが心配だ。ドアの方を見詰める焦茶の瞳は段々と潤んでいく。

「何で......? 私、そんな事言うつもりじゃなかったのに......。フレアのこと、傷つけちゃった......!」

 その両手は泣き出してしまいそうな顔を覆う。

「これは『過去』のせいだ。ミユのせいじゃない」
 
「『過去』? どうして『過去』が出てくるの?」

「それは......」

 カノンがアイリスを恨んでしまったがために出た行動だろうから。言いたいのに言えない自分がもどかしい。

「今日は眠った方が良いよ。大丈夫、ミユはミユのままだから」

 頭を撫でたい衝動を殺し、代わりに拳を作る。
 十数分見守っていると、ミユは寝息を立て始めた。余程、疲れたのだろう。

「今は、ゆっくり眠ったら良いよ」

 戦いが始まる前の今くらいは。ミユに微笑みかけ、天を仰いだ。
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