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灼熱の砂漠3

 夜の睡眠を少し削っているせいか、起床時間が大分遅れている。
 目を覚まして時計を見てみれば、針は九時をさしていた。
 まずい。今日はミユが過去の記憶を見るために、火の塔に行く日なのに。
 慌ててベッドから飛び起き、クローゼットを開ける。何着かかけられている同じデザインの白い服を一着取り出し、ささっと着替えを終わらせた。
 朝食を取っている時間はない。廊下に出ると、一直線にミユの部屋へと向かった。その扉の前には既に二人の姿がある。

「アレク、フレア、ごめん。遅くなった」

「いや、大丈夫だ。まだミユも寝てるみてーだしな」

「良かった」

 ほっと胸を撫で下ろし、吐息を吐く。
 その時、フレアが目をこすったのが気になった。

「二人はちゃんと休めてる?」

「オレらの事は考えなくて良い。オマエはミユの心配だけしてろ」

「あたしのせいだね。ちょっと目が痒くなっただけだから、心配要らないよ」

「そっか」

 フレアがふふっと笑うので、俺もつられて小さく笑ってしまった。

「ミユのこと、起こした方が良い? 起こすならあたしが行ってくるけど」

「いや、寝かせとこ―ぜ。寝られる時に眠っといた方が良いだろ」

「分かった」

 この後、またミユは頭痛に襲われるのだろうか。いや、そうに決まっている。俺が塔を回った時も激しい頭痛に襲われたのだから。
 この場の空気の緊張感が増していく。
 こういう時に、きっと影なら姿を現すのだろう。自己顕示欲が強いのは周知の事実だ。ところが、何も起こらなかったのだ。扉の先を見詰めたまま、ただ時間のみが過ぎ去っていく。

「いや、やっぱ起こすか?」

 アレクが口にした時には、十数分経っていたように思う。張り詰めた緊張感の中で、ミユの今後のことを考えたり、自分の気持ちを整理しようとしていたため、正確な時間は分からない。俺のミユへの気持ちは未だに解読出来ないままだ。

「アレクったら、はっきりしないんだから」

「済まねぇ」

「クラウはどう思う?」

「えっ? 俺?」

 物思いにふけっていたせいか、思考転換が上手くいかない。
 考えあぐねていると、フレアは「もう!」と声を上げた。

「あたし、行ってくるからね。良い?」

 眉を吊り上げるフレアに、アレクと二人で頷いてみせる。
 その時、扉の向こう側から何やら小さな音が聞こえてきた。ミユが起きたのだろう。

「ミユ? 入るよ?」

「ま、待って!」

 フレアがノックと共に声をかけると、ミユのくぐもった声が返ってきた。

「丁度良いタイミングだったね」

 小さく笑い合い、三人で横に並んだ。ミユがいつ出てきても良いように、受け入れる態勢は整っている。
 数分も経たずに扉は開かれた。ミユはそろりと廊下へと出てきた。その表情は明るいとは言えない。

「準備出来た?」

「うん、大丈夫」

 やはりミユの顔に笑みはなく、それどころか強張ってさえいる。下ろされた両手は握り拳を作っている。
 もう記憶を見たくないのか、頭痛が嫌なのか。その両方かもしれない。
 反射的に身体が行動を起こしていた。ミユの左手に触れ、そっと微笑んでみる。

「無理しなくても良いんだよ」

 出来ることなら、もう苦しんで欲しくない。苦しんでいるところを見たくない。
 それなのに、ミユは首を横に振る。

「私、やるって決めたことを曲げたくないの」

「そっか......」

 意志の強さはカノン譲りらしい。
 ミユから手を離し、触れていた右手を軽く握る。

「フレア、頼む」

「分かった」

 今日はフレアが魔方陣を作る番だ。
 フレアは廊下の奥へ数歩進むとこちらに背を向け、魔方陣を描き始める。

「ミユ」

「ん~? 何?」

 ミユが返事をしても、アレクは何も答えようとはしない。数秒間、嫌な沈黙が流れた。

「......いや、なんでもねぇ」

 記憶と魔法との関係を伝えようとしたのだろうか。一旦はミユに目を向けたアレクだったが、考えを口にことはなかった。
 そうこうしているうちに、フレアが魔方陣を完成させたようだ。彼女の動きが止まったのだ。

「ミユ、行くんだ」

「えっ? う、うん......」

 強くはないが、アレクはミユの背中を右手で押す。
 そんなに急かさなくても良いのに。反発したくなる自分をどうにか抑えた。アレクがこうするのには訳がある。その一端は俺である。
 ミユは魔方陣の縁を踏むと、赤色の光と共に一瞬にして姿を消した。

「オレらもすぐ行くぞ」

 フレアも何か言いたそうな顔をしていたが、口にはしなかった。今、口論をしても仕方がないことを知っているのだ。
 アレク、続いて俺が火の塔に移動した。その瞬間、熱波が身体を包み込む。
 目の前の赤い煉瓦造りの塔以外は、大地は黄色い砂で覆われている。砂漠で生息するサボテンも数えるほどしか生えていない。俺が耐えられる外気温を超えている。

「さっさと行くぞ」

 アレクの声もきちんと聞かずに、堪らず塔へと駆け出した。あそこなら日陰がある。涼むことが出来る。砂に足元を掬われながら、必死に足を動かす。
 ミユを置いて来てしまった事に気づいたのは、塔の中に入ってきてからのことだった。慌てて入口から顔を出すと、こちらに駆けてくるミユ、その後ろにはアレクとフレアの姿があった。地平線は蜃気楼で揺れている。

「大丈夫?」

 同じく暑さに弱いのだろう。腕で額の汗を拭うミユに、右手を差し出した。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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灼熱の砂漠3

 夜の睡眠を少し削っているせいか、起床時間が大分遅れている。
 目を覚まして時計を見てみれば、針は九時をさしていた。
 まずい。今日はミユが過去の記憶を見るために、火の塔に行く日なのに。
 慌ててベッドから飛び起き、クローゼットを開ける。何着かかけられている同じデザインの白い服を一着取り出し、ささっと着替えを終わらせた。
 朝食を取っている時間はない。廊下に出ると、一直線にミユの部屋へと向かった。その扉の前には既に二人の姿がある。

「アレク、フレア、ごめん。遅くなった」

「いや、大丈夫だ。まだミユも寝てるみてーだしな」

「良かった」

 ほっと胸を撫で下ろし、吐息を吐く。
 その時、フレアが目をこすったのが気になった。

「二人はちゃんと休めてる?」

「オレらの事は考えなくて良い。オマエはミユの心配だけしてろ」

「あたしのせいだね。ちょっと目が痒くなっただけだから、心配要らないよ」

「そっか」

 フレアがふふっと笑うので、俺もつられて小さく笑ってしまった。

「ミユのこと、起こした方が良い? 起こすならあたしが行ってくるけど」

「いや、寝かせとこ―ぜ。寝られる時に眠っといた方が良いだろ」

「分かった」

 この後、またミユは頭痛に襲われるのだろうか。いや、そうに決まっている。俺が塔を回った時も激しい頭痛に襲われたのだから。
 この場の空気の緊張感が増していく。
 こういう時に、きっと影なら姿を現すのだろう。自己顕示欲が強いのは周知の事実だ。ところが、何も起こらなかったのだ。扉の先を見詰めたまま、ただ時間のみが過ぎ去っていく。

「いや、やっぱ起こすか?」

 アレクが口にした時には、十数分経っていたように思う。張り詰めた緊張感の中で、ミユの今後のことを考えたり、自分の気持ちを整理しようとしていたため、正確な時間は分からない。俺のミユへの気持ちは未だに解読出来ないままだ。

「アレクったら、はっきりしないんだから」

「済まねぇ」

「クラウはどう思う?」

「えっ? 俺?」

 物思いにふけっていたせいか、思考転換が上手くいかない。
 考えあぐねていると、フレアは「もう!」と声を上げた。

「あたし、行ってくるからね。良い?」

 眉を吊り上げるフレアに、アレクと二人で頷いてみせる。
 その時、扉の向こう側から何やら小さな音が聞こえてきた。ミユが起きたのだろう。

「ミユ? 入るよ?」

「ま、待って!」

 フレアがノックと共に声をかけると、ミユのくぐもった声が返ってきた。

「丁度良いタイミングだったね」

 小さく笑い合い、三人で横に並んだ。ミユがいつ出てきても良いように、受け入れる態勢は整っている。
 数分も経たずに扉は開かれた。ミユはそろりと廊下へと出てきた。その表情は明るいとは言えない。

「準備出来た?」

「うん、大丈夫」

 やはりミユの顔に笑みはなく、それどころか強張ってさえいる。下ろされた両手は握り拳を作っている。
 もう記憶を見たくないのか、頭痛が嫌なのか。その両方かもしれない。
 反射的に身体が行動を起こしていた。ミユの左手に触れ、そっと微笑んでみる。

「無理しなくても良いんだよ」

 出来ることなら、もう苦しんで欲しくない。苦しんでいるところを見たくない。
 それなのに、ミユは首を横に振る。

「私、やるって決めたことを曲げたくないの」

「そっか......」

 意志の強さはカノン譲りらしい。
 ミユから手を離し、触れていた右手を軽く握る。

「フレア、頼む」

「分かった」

 今日はフレアが魔方陣を作る番だ。
 フレアは廊下の奥へ数歩進むとこちらに背を向け、魔方陣を描き始める。

「ミユ」

「ん~? 何?」

 ミユが返事をしても、アレクは何も答えようとはしない。数秒間、嫌な沈黙が流れた。

「......いや、なんでもねぇ」

 記憶と魔法との関係を伝えようとしたのだろうか。一旦はミユに目を向けたアレクだったが、考えを口にことはなかった。
 そうこうしているうちに、フレアが魔方陣を完成させたようだ。彼女の動きが止まったのだ。

「ミユ、行くんだ」

「えっ? う、うん......」

 強くはないが、アレクはミユの背中を右手で押す。
 そんなに急かさなくても良いのに。反発したくなる自分をどうにか抑えた。アレクがこうするのには訳がある。その一端は俺である。
 ミユは魔方陣の縁を踏むと、赤色の光と共に一瞬にして姿を消した。

「オレらもすぐ行くぞ」

 フレアも何か言いたそうな顔をしていたが、口にはしなかった。今、口論をしても仕方がないことを知っているのだ。
 アレク、続いて俺が火の塔に移動した。その瞬間、熱波が身体を包み込む。
 目の前の赤い煉瓦造りの塔以外は、大地は黄色い砂で覆われている。砂漠で生息するサボテンも数えるほどしか生えていない。俺が耐えられる外気温を超えている。

「さっさと行くぞ」

 アレクの声もきちんと聞かずに、堪らず塔へと駆け出した。あそこなら日陰がある。涼むことが出来る。砂に足元を掬われながら、必死に足を動かす。
 ミユを置いて来てしまった事に気づいたのは、塔の中に入ってきてからのことだった。慌てて入口から顔を出すと、こちらに駆けてくるミユ、その後ろにはアレクとフレアの姿があった。地平線は蜃気楼で揺れている。

「大丈夫?」

 同じく暑さに弱いのだろう。腕で額の汗を拭うミユに、右手を差し出した。
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