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輝く氷雪2

 火の塔でミユが倒れてから、今日で七日が経った。いよいよ水の塔へ行き、俺の記憶を見る日、か。
 ミユは何を思い出し、どんな風に感じるのだろう。カノンと過ごした日々を思い返し、かっと顔が熱くなる。
 とにかく、ベッドの中から抜け出そう。おもむろにクローゼットへと向かい、白い衣服を一着取りだした。そして、着替えに取りかかる。
 そう言えば、リエルが塔を巡った時は何を見せられたのだっただろうか。思い出そうと試みてみるものの、霧がかかったかのように上手く思い出せない。
 そうだ、本人に聞いてみよう。

「あのさ、リエル」

“何?”

「リエルが魔法を得た時って、塔で何を見せられたの? やっぱり過去?」

“えっ? うーん......”

 考えを巡らせていたのか、回答までには数十秒の間が開いた。

“駄目だ、思い出せない。なんでだろう”

 本人でも思い出せないとは。ただ、記憶力が悪いだけ、なのだろうか。分からない。
 まあ、分からないことを考えても無駄な時間を過ごすだけだ。今は止めておこう。
 着替え終わると「ふう」と大きく息を吐き、廊下へ向けて踵を返した。
 静かに進んでいくと、ミユの部屋の前にはフレアがいた。アレクの姿はない。

「フレア、おはよう」

「あっ、おはよう」

 フレアは目を擦ると、小さな欠伸をする。それにつられて、俺も欠伸をしてしまった。

「欠伸って移るよね」

「そうだね。お互いに十分寝れてるとは言えないし」

 フレアは肩を竦め、苦笑いをする。

「あと一週間とちょっとだから。ミユのためだもん。頑張ろうよ」

「うん」

 果たして、本当にミユのためになっているのだろうか。身を守るどころか、危険に晒すことにはならないだろうか。俺の自己中心的な気持ちに従っているだけではないのだろうか。葛藤はあるが、今は駆け抜けるしかない。

「クラウ」

「ん?」

「また難しい顔してる」

 感情が表情に出てしまっていただろうか。フレアは眉をひそめ、腰に両手を当てる。

「一人で抱え込まないの。不安なことがあったら、あたしたちに言ってくれても良いから」

 そうは言うが、この気持ちを吐き出してしまえば、フレアも迷いを生じるかもしれない。ミユに魔法を獲得してもらうためには、隠し通す他にはない。軽く首を横に振ると、フレアは悲しそうに口を尖らせるだけだった。
 そこへ大きな足音が近づいてきた。

「よ!」

 アレクは能天気な顔で片手を上げて挨拶をする。ここで、問題を蒸し返すつもりもない。何とか笑顔を作り、手を小さく振ってみせた。
 フレアは大きく息を吐き、アレクへと視線を移した。

「なんかあったのか?」

「ううん」

 当然のようにフレアの隣へと立つアレクに、彼女は首を振ってみせる。
 良かった、フレアも俺を責め立てるつもりはないらしい。
 アレクは部屋のドアを顧み、口を開いた。

「ミユは起きてんのか?」

「まだ声はかけてないから、分からない」

「そーか。オレが部屋を出た時は、九時過ぎてたからな。声かけるだけかけてみよーぜ」

「分かった」

 アレクとフレアだけで話をまとめると、フレアはドアへと歩み寄る。静かすぎる廊下に、ノックの音が三回鳴り響いた。

「ミユ、起きてる?」

「う~......」

 小さなミユの唸り声が聞こえた。起きてはいるらしい。
 そこへフレアが声を張る。

「ミユ、準備は出来た?」

 しかし、ミユからの返事はない。
 
「ミユ?」

 まさか、ミユの身に何かあったのでは。嫌な考えが先走り、行動に移してしまっていた。俺だけではなく、三人全員が。
 慌ただしく部屋の中へと踏み込み、声を荒げる。

「ミユ! 何かあった?」

 びくりとミユの肩が震えた。まずい、驚かせてしまったかもしれない。そう思った時には、ミユのいるベッドの目前に来てしまっていた。
 俺の行動をカバーするかのように、フレアはミユの背中に手を当てる。

「ごめんね、影が現れてないか心配なだけなの。こっち向いて?」

 フレアは穏やかで優しい言葉を紡ぎ出した。
 そのお陰か、ようやくミユがこちらを向いてくれた。揺れる焦げ茶の瞳で頷く。どうやら危険が迫った訳ではないらしい。

「良かった......」

 安心したせいで、腰が砕けそうになる。
 ミユが起き上がるのを待ち、アレクはちらりと俺の方を見た。

「じゃ、魔法陣作ってくれ」

「分かった」

 返事をすると、アレクの視線はミユへと戻っていった。
 俺が自分以外の誰かのために魔法陣を作るのは、これが初めてだ。水の塔へと続く魔法陣を描きたい。瞼を閉じて念じると、右手に何かが当たった感触がした。
 何となく杖の先を床につけると、勝手に杖は動き始める。淡い青色の線は古代文字となり、線となり、円となり、魔法陣を形作っていく。
 途中でミユとアレクの話し声が聞こえたが、意識を魔法陣に集中していたため、何を言っているのかまでは分からなかった。
 魔法陣を描き終えると、杖は勝手に姿を消した。一瞬だけ、魔法陣は強い光を放つ。

「クラウ、出来たか?」

「うん、今出来たとこ」

 頷いてみせると、アレクも無表情で小さく頷いた。

「ミユ、すぐついてこい」

 黄色の瞳は瞼で遮られる。ワープの態勢に入ったのだろう。光に包まれると、すっとアレクの姿は掻き消えた。

「アレク! ちょっと強引過ぎるよ......」
 
 フレアは大きく溜め息を吐き、頭を抱える。
 先程のアレクの物言いは、話の見えない俺でも強引だと感じた。不信感が沸き起こる。

「何があったの? ほとんど話が聞こえてなかったけど」

「今日のアレクはちょっとおかしいだけ」

「アレクがおかしいのなんていっつもじゃん」

 無神経で、気遣いなんかなくて。振り回されるこちらの身にもなって欲しい。
 しかし、被害に遭ったのは、今回はミユだ。
 彼女は気分を害したらしく、口をへの字に曲げ、何やら息巻いている。ずんずんと魔法陣へと近づき、その線を跨いだ。
 瞬時に魔法陣は強い青色の光を放つ。そうしてミユの姿も光とともに消えていった。

「俺たちも急ごう」

「うん」

 フレアと頷き合い、ミユの後を追った。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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輝く氷雪2

 火の塔でミユが倒れてから、今日で七日が経った。いよいよ水の塔へ行き、俺の記憶を見る日、か。
 ミユは何を思い出し、どんな風に感じるのだろう。カノンと過ごした日々を思い返し、かっと顔が熱くなる。
 とにかく、ベッドの中から抜け出そう。おもむろにクローゼットへと向かい、白い衣服を一着取りだした。そして、着替えに取りかかる。
 そう言えば、リエルが塔を巡った時は何を見せられたのだっただろうか。思い出そうと試みてみるものの、霧がかかったかのように上手く思い出せない。
 そうだ、本人に聞いてみよう。

「あのさ、リエル」

“何?”

「リエルが魔法を得た時って、塔で何を見せられたの? やっぱり過去?」

“えっ? うーん......”

 考えを巡らせていたのか、回答までには数十秒の間が開いた。

“駄目だ、思い出せない。なんでだろう”

 本人でも思い出せないとは。ただ、記憶力が悪いだけ、なのだろうか。分からない。
 まあ、分からないことを考えても無駄な時間を過ごすだけだ。今は止めておこう。
 着替え終わると「ふう」と大きく息を吐き、廊下へ向けて踵を返した。
 静かに進んでいくと、ミユの部屋の前にはフレアがいた。アレクの姿はない。

「フレア、おはよう」

「あっ、おはよう」

 フレアは目を擦ると、小さな欠伸をする。それにつられて、俺も欠伸をしてしまった。

「欠伸って移るよね」

「そうだね。お互いに十分寝れてるとは言えないし」

 フレアは肩を竦め、苦笑いをする。

「あと一週間とちょっとだから。ミユのためだもん。頑張ろうよ」

「うん」

 果たして、本当にミユのためになっているのだろうか。身を守るどころか、危険に晒すことにはならないだろうか。俺の自己中心的な気持ちに従っているだけではないのだろうか。葛藤はあるが、今は駆け抜けるしかない。

「クラウ」

「ん?」

「また難しい顔してる」

 感情が表情に出てしまっていただろうか。フレアは眉をひそめ、腰に両手を当てる。

「一人で抱え込まないの。不安なことがあったら、あたしたちに言ってくれても良いから」

 そうは言うが、この気持ちを吐き出してしまえば、フレアも迷いを生じるかもしれない。ミユに魔法を獲得してもらうためには、隠し通す他にはない。軽く首を横に振ると、フレアは悲しそうに口を尖らせるだけだった。
 そこへ大きな足音が近づいてきた。

「よ!」

 アレクは能天気な顔で片手を上げて挨拶をする。ここで、問題を蒸し返すつもりもない。何とか笑顔を作り、手を小さく振ってみせた。
 フレアは大きく息を吐き、アレクへと視線を移した。

「なんかあったのか?」

「ううん」

 当然のようにフレアの隣へと立つアレクに、彼女は首を振ってみせる。
 良かった、フレアも俺を責め立てるつもりはないらしい。
 アレクは部屋のドアを顧み、口を開いた。

「ミユは起きてんのか?」

「まだ声はかけてないから、分からない」

「そーか。オレが部屋を出た時は、九時過ぎてたからな。声かけるだけかけてみよーぜ」

「分かった」

 アレクとフレアだけで話をまとめると、フレアはドアへと歩み寄る。静かすぎる廊下に、ノックの音が三回鳴り響いた。

「ミユ、起きてる?」

「う~......」

 小さなミユの唸り声が聞こえた。起きてはいるらしい。
 そこへフレアが声を張る。

「ミユ、準備は出来た?」

 しかし、ミユからの返事はない。
 
「ミユ?」

 まさか、ミユの身に何かあったのでは。嫌な考えが先走り、行動に移してしまっていた。俺だけではなく、三人全員が。
 慌ただしく部屋の中へと踏み込み、声を荒げる。

「ミユ! 何かあった?」

 びくりとミユの肩が震えた。まずい、驚かせてしまったかもしれない。そう思った時には、ミユのいるベッドの目前に来てしまっていた。
 俺の行動をカバーするかのように、フレアはミユの背中に手を当てる。

「ごめんね、影が現れてないか心配なだけなの。こっち向いて?」

 フレアは穏やかで優しい言葉を紡ぎ出した。
 そのお陰か、ようやくミユがこちらを向いてくれた。揺れる焦げ茶の瞳で頷く。どうやら危険が迫った訳ではないらしい。

「良かった......」

 安心したせいで、腰が砕けそうになる。
 ミユが起き上がるのを待ち、アレクはちらりと俺の方を見た。

「じゃ、魔法陣作ってくれ」

「分かった」

 返事をすると、アレクの視線はミユへと戻っていった。
 俺が自分以外の誰かのために魔法陣を作るのは、これが初めてだ。水の塔へと続く魔法陣を描きたい。瞼を閉じて念じると、右手に何かが当たった感触がした。
 何となく杖の先を床につけると、勝手に杖は動き始める。淡い青色の線は古代文字となり、線となり、円となり、魔法陣を形作っていく。
 途中でミユとアレクの話し声が聞こえたが、意識を魔法陣に集中していたため、何を言っているのかまでは分からなかった。
 魔法陣を描き終えると、杖は勝手に姿を消した。一瞬だけ、魔法陣は強い光を放つ。

「クラウ、出来たか?」

「うん、今出来たとこ」

 頷いてみせると、アレクも無表情で小さく頷いた。

「ミユ、すぐついてこい」

 黄色の瞳は瞼で遮られる。ワープの態勢に入ったのだろう。光に包まれると、すっとアレクの姿は掻き消えた。

「アレク! ちょっと強引過ぎるよ......」
 
 フレアは大きく溜め息を吐き、頭を抱える。
 先程のアレクの物言いは、話の見えない俺でも強引だと感じた。不信感が沸き起こる。

「何があったの? ほとんど話が聞こえてなかったけど」

「今日のアレクはちょっとおかしいだけ」

「アレクがおかしいのなんていっつもじゃん」

 無神経で、気遣いなんかなくて。振り回されるこちらの身にもなって欲しい。
 しかし、被害に遭ったのは、今回はミユだ。
 彼女は気分を害したらしく、口をへの字に曲げ、何やら息巻いている。ずんずんと魔法陣へと近づき、その線を跨いだ。
 瞬時に魔法陣は強い青色の光を放つ。そうしてミユの姿も光とともに消えていった。

「俺たちも急ごう」

「うん」

 フレアと頷き合い、ミユの後を追った。
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