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始まりの疾風2

 そんなことをしている間に、すぐにミユの部屋の前へ到着してしまった。三人揃って足を止めると、フレアはドアをノックする。

「ミユ? 起きてる?」

 返事はない。
 まだ寝ているのだろうか。
 少し心配になりながらも、部屋に入るのは躊躇われた。何より、こちらを見るフレア目が「入るな」と言っているようなのだ。

「ミユ?」

 やはり返事はない。

「二人はここで待ってて」

 頷くしかなく、フレアが一人で部屋に入っていくのを見守った。

「ミユ、そろそろ行かないと」

 恐る恐る部屋の中を覗いてみると、ベッドには眠っているミユの姿があった。こちらに背を向け、すやすやと寝息を立てている。
 無事で良かった。
 小さな不安は徐々に消えていき、ほっと胸を撫で下ろす。

「ミユ! ミユってば!」

 フレアの声色が強まっても、起きた気配はない。

「ミユ!」

 何度か呼ぶと、ようやくミユの寝息が消えた。

「そろそろ行くよ。着替えて」

「えっ? うん」

「着替えたら廊下に出てね。あたしたち、そこにいるから」

「うん」

 そのやり取りをぼんやり眺めていると、左腕を強く引っ張られた。

「何するのさ!」

 思わず声を上げると、アレクは顔を顰める。

「静かにしろ。ミユに覗いてんのバレるぞ」

 はっと気づき、慌ててドアの方を顧みた。ドアが閉まる音と共に、フレアが眉をしかめ、溜め息を吐いている所だった。

「ごめん......」

 申し訳なくなってしまい、謝ってみる。居心地が悪い。
 俯いている所に、アレクがひそひそと口を開いた。

「ま、気持ち切り替えよーぜ。これからミユが過去を見るんだ。気ぃ引き締めないとな」

「そうだね」

 返事をするのと同時に頷いていた。
 そうだ、俺がしっかりしなければ。
 拳を握り締めると、部屋のドアが勢い良く開けられた。ミユが来たのだ。心臓がとくりと跳ねる。
 ミユは俺たちの顔を見ると、思い切り頭を下げる。

「遅刻しちゃってごめんなさい」

「ううん、気にしないで。あたしも遅刻することだって結構あるし」

 フレアはにこっと笑い、俺とアレクを見る。遅刻とは言うが、俺にはピンとこない。

「そもそもさ、集合時間なんて決めてたっけ?」

「いや、決めてねーな」

「じゃあ、遅刻とかないじゃん」

 ミユに微笑みかけると、彼女はもう一度頭を下げた。
 フレアはアレクに目をやり、口を開く。

「もう会議室に行く必要もないし、ここでミユのための魔方陣作っちゃったら?」

「あぁ、そーだな」

 アレクは頷くと、前方へ右手をかざす。身長と変わらない長さの、木製の杖を出したのだ。どういう訳か、先端を床に向けると、勝手に魔方陣が描かれていく仕組みになっている。アレクも躊躇うことなく、魔方陣を作り始めた。

「これ、何の魔方陣?」

 ミユはその光景を不思議そうに眺めている。

「風の塔に繋がる魔方陣だよ」

「ワープは使えないの?」

 俺が答えると、ミユはこちらを見てちょこんと首を傾げる。それが小動物のようで、とてつもなく可愛らしい。

「俺たち、一回でも行った事がある場所じゃないとワープ出来ないんだ」

「えっ? でも、私――」

「出来たぞ」

 ミユが何かを言いかけたところで、アレクの声に遮られてしまった。
 先を聞きたかったが、アレクの方が言葉を紡ぐのが早かった。

「ミユ、魔方陣の中に立つんだ」

 優しい声で、何とか促そうとしている。
 しかし、ミユはスカートを両手で握り締め、気持ちを隠そうとはしない。

「怖い......」

「大丈夫、あたしたちもついてるから」

 フレアがミユの背中を一撫ですると、その強張っていた顔は若干緩んだように見える。

「絶対について来てね」

「うん、安心して?」

 フレアに同調するように、俺とアレクも笑顔を作ってみせる。
 ミユは小さく頷くと、ゆっくりと一歩ずつ、足を前へと運んでいく。魔方陣の端に触れた瞬間、黄色い光が魔方陣から溢る。あまりの眩しさに、腕で庇を作って顔を背けた。
 ミユは風の塔に行き着いたのだろう。
 光が収まると、慌てて俺たちも風の塔へと向かった。
 これで風の塔を見るのは二度目――ミユと同じく、過去を思い出すために足を踏み入れて以来だ。天にまで届きそうな程に高い、黄色い石造りの塔だ。若干乾いた風が周囲を荒らし、砂埃を発生させる。剝き出しの黄色い岩が転がり、足場は悪い。
 振り返ると、ミユが不安いっぱいな表情で俺たちを見ていた。

「ミユにはここにいるヤツと会ってもらう。ソイツが過去を知ってる筈だ」

「それは誰?」

「オレらには分からねぇ」

 声は聞こえるものの、姿を現さないのだ。ただ、「行ってこい」と言われるがまま、声の主と話をしたところ、過去を見せられ、魔法を使えるようになっていた。
 的を得ない回答に、ミユは眉をしかめる。その様子に、アレクはガハハと大きく笑う。

「心配すんな! 誰もソイツに危害を加えられたヤツはいねぇからな」

 ミユは明らかにがくりと肩を落とす。

「オレらもついてくからよー、心配すんな」

「行こう」

 ここで話をしていても、何も進まない。
 声をかけると、塔を目指して一斉に歩き出した。
 俺のエゴのために、魔法を得ることになるのを、どうか許してほしい。ミユ、ごめん――。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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始まりの疾風2

 そんなことをしている間に、すぐにミユの部屋の前へ到着してしまった。三人揃って足を止めると、フレアはドアをノックする。

「ミユ? 起きてる?」

 返事はない。
 まだ寝ているのだろうか。
 少し心配になりながらも、部屋に入るのは躊躇われた。何より、こちらを見るフレア目が「入るな」と言っているようなのだ。

「ミユ?」

 やはり返事はない。

「二人はここで待ってて」

 頷くしかなく、フレアが一人で部屋に入っていくのを見守った。

「ミユ、そろそろ行かないと」

 恐る恐る部屋の中を覗いてみると、ベッドには眠っているミユの姿があった。こちらに背を向け、すやすやと寝息を立てている。
 無事で良かった。
 小さな不安は徐々に消えていき、ほっと胸を撫で下ろす。

「ミユ! ミユってば!」

 フレアの声色が強まっても、起きた気配はない。

「ミユ!」

 何度か呼ぶと、ようやくミユの寝息が消えた。

「そろそろ行くよ。着替えて」

「えっ? うん」

「着替えたら廊下に出てね。あたしたち、そこにいるから」

「うん」

 そのやり取りをぼんやり眺めていると、左腕を強く引っ張られた。

「何するのさ!」

 思わず声を上げると、アレクは顔を顰める。

「静かにしろ。ミユに覗いてんのバレるぞ」

 はっと気づき、慌ててドアの方を顧みた。ドアが閉まる音と共に、フレアが眉をしかめ、溜め息を吐いている所だった。

「ごめん......」

 申し訳なくなってしまい、謝ってみる。居心地が悪い。
 俯いている所に、アレクがひそひそと口を開いた。

「ま、気持ち切り替えよーぜ。これからミユが過去を見るんだ。気ぃ引き締めないとな」

「そうだね」

 返事をするのと同時に頷いていた。
 そうだ、俺がしっかりしなければ。
 拳を握り締めると、部屋のドアが勢い良く開けられた。ミユが来たのだ。心臓がとくりと跳ねる。
 ミユは俺たちの顔を見ると、思い切り頭を下げる。

「遅刻しちゃってごめんなさい」

「ううん、気にしないで。あたしも遅刻することだって結構あるし」

 フレアはにこっと笑い、俺とアレクを見る。遅刻とは言うが、俺にはピンとこない。

「そもそもさ、集合時間なんて決めてたっけ?」

「いや、決めてねーな」

「じゃあ、遅刻とかないじゃん」

 ミユに微笑みかけると、彼女はもう一度頭を下げた。
 フレアはアレクに目をやり、口を開く。

「もう会議室に行く必要もないし、ここでミユのための魔方陣作っちゃったら?」

「あぁ、そーだな」

 アレクは頷くと、前方へ右手をかざす。身長と変わらない長さの、木製の杖を出したのだ。どういう訳か、先端を床に向けると、勝手に魔方陣が描かれていく仕組みになっている。アレクも躊躇うことなく、魔方陣を作り始めた。

「これ、何の魔方陣?」

 ミユはその光景を不思議そうに眺めている。

「風の塔に繋がる魔方陣だよ」

「ワープは使えないの?」

 俺が答えると、ミユはこちらを見てちょこんと首を傾げる。それが小動物のようで、とてつもなく可愛らしい。

「俺たち、一回でも行った事がある場所じゃないとワープ出来ないんだ」

「えっ? でも、私――」

「出来たぞ」

 ミユが何かを言いかけたところで、アレクの声に遮られてしまった。
 先を聞きたかったが、アレクの方が言葉を紡ぐのが早かった。

「ミユ、魔方陣の中に立つんだ」

 優しい声で、何とか促そうとしている。
 しかし、ミユはスカートを両手で握り締め、気持ちを隠そうとはしない。

「怖い......」

「大丈夫、あたしたちもついてるから」

 フレアがミユの背中を一撫ですると、その強張っていた顔は若干緩んだように見える。

「絶対について来てね」

「うん、安心して?」

 フレアに同調するように、俺とアレクも笑顔を作ってみせる。
 ミユは小さく頷くと、ゆっくりと一歩ずつ、足を前へと運んでいく。魔方陣の端に触れた瞬間、黄色い光が魔方陣から溢る。あまりの眩しさに、腕で庇を作って顔を背けた。
 ミユは風の塔に行き着いたのだろう。
 光が収まると、慌てて俺たちも風の塔へと向かった。
 これで風の塔を見るのは二度目――ミユと同じく、過去を思い出すために足を踏み入れて以来だ。天にまで届きそうな程に高い、黄色い石造りの塔だ。若干乾いた風が周囲を荒らし、砂埃を発生させる。剝き出しの黄色い岩が転がり、足場は悪い。
 振り返ると、ミユが不安いっぱいな表情で俺たちを見ていた。

「ミユにはここにいるヤツと会ってもらう。ソイツが過去を知ってる筈だ」

「それは誰?」

「オレらには分からねぇ」

 声は聞こえるものの、姿を現さないのだ。ただ、「行ってこい」と言われるがまま、声の主と話をしたところ、過去を見せられ、魔法を使えるようになっていた。
 的を得ない回答に、ミユは眉をしかめる。その様子に、アレクはガハハと大きく笑う。

「心配すんな! 誰もソイツに危害を加えられたヤツはいねぇからな」

 ミユは明らかにがくりと肩を落とす。

「オレらもついてくからよー、心配すんな」

「行こう」

 ここで話をしていても、何も進まない。
 声をかけると、塔を目指して一斉に歩き出した。
 俺のエゴのために、魔法を得ることになるのを、どうか許してほしい。ミユ、ごめん――。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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