ホーム›境界の管理人 〜隠世と現世の狭間で織りなす青春奇譚〜›第60話 夕食会という名の酒宴
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第60話 夕食会という名の酒宴

翔がコウ達と客間に戻ると、そこはすでに先程とは違う様子が広がっていた。
 布団や魔法陣は無くなっており、代わりに机に大量の料理が置かれている。真ん中に陣取っている酒呑童子は呑みながら骨付きの肉に食らいついていた。

 和也を家に帰してる間に何があったと思わず翔は朔夜を見た。朔夜は机から少し離れた場所でロケットペンダントを開いて神楽鈴を袋に入れてから、収納している。
 翔の方を見る気もないようで、久遠の工房がある方向を見つめるわけでもなく見ていた。

 久遠は酒呑童子の反対側に座り、盃を傾けていた。子供が飲酒をしているように見えて違和感が拭えない。悠久の時を生きてるとはいえ、何で子供の姿なんだと疑問に思う。
 
『おー、もうやってるのか! 俺も呑む!』

 ゆうが翔の横を通り抜けて久遠の隣に落ち着く。そして、普通に盃を持ち、酒を呷っている。翔は不意に思い、靴を脱ぐとゆうの背後まで回る。
 徐に翔は腕を振り上げると拳を作り、ゆうに向かって振り下ろす。

『!? びっくりした、いきなり何するんだよ、少年』

 しかし、拳はゆうにあたることなく身体を通り抜けた。物は持てるのにどうしても当たらないんだようと翔は悔しくなる。

「散々、カズの身体を好き勝手使ったんだ! 殴られても当たり前だろ!」
『......それは暴論だぞ、少年。俺が身体を借りたから事件は早期解決したんだ。殴られるどころか、褒められるべきだろ?』
「どの口が! カズの身体を使った時点で、褒める要素はない!」

 ゆうの反撃は暴論にしか聞こえなかった。思わず翔は噛み付く。

「おお、いいぞ! 翔!」

 酒呑童子はその様子を見て楽しそうに2人を煽る。ゆうの隣にいる久遠は気にした様子もなく盃に酒を注いでいる。知世はニコニコと笑いながら、新たに出来たと思われる料理を机に並べていく。朔夜に関しては、机の方を見ようともしていない。
 コウが呆れたように間に入った。
 
「明らかに今回の件はゆうが悪いだろ」
『なんだと、コウ!』
「俺はまだ、ガキを連れてきて、拉致の達人って言われたの忘れてねぇぞ?」
『しまった、コウは敵だった! よし、酒呑童子。俺たちで組むぞ!』

 ゆうは片手に盃を持ったまま机の上を浮いて移動して酒呑童子の隣に行く。酒呑童子は豪快に笑いながら、酒を呷る。

「俺は観客だからな。組まないぜ?」
『裏切り者ー!!』
「とりあえず、カズの身体使ったことをまず謝れよ!」
『おっと......? 一応仕方なかったんだが。まっ、確かに勝手に借りたのは悪かったな、すまん!』

 翔の文句にゆうは少し考えてから謝る。少し、拍子抜けした。思わず翔はゆっくりとゆうに指していた指を下ろす。

「悪いと思ってるなら、まあ......」
「稲荷、ゆうの反省は文字通り口だけだ」

 少し離れた位置に小さな机をいつの間にか用意して、リンと知世の2人と落ち着いていた朔夜が何を思ったのか口を挟む。
 朔夜を見ると、興味なさそうに湯呑みへ急須からお茶を注いでいる。

『さや! なんてことを言うんだ!』
「事実だろ? 僕は君が本気で反省しているところは見たことないけど」
『......』

 ゆうは無言になると盃を傾ける。そして、開き直ったように胸を張る。

『俺は、自分が後悔する生き方をしてないからな! 反省する必要を感じない!』
「......マジでお前そうなの?」

 あまりの開き直り具合に翔はドン引きして言葉を紡げない。千年以上生きている幽霊がそれでいいのかと思ってしまう。しかし、周りは慣れているのか気にした様子がない。

「......ガキ、もしこっちにこれからも関わるってんなら、慣れろ。ゆうのあの調子は変わらねえ」

 諦めたようにコウが翔に伝える。やっぱりそうなのかと翔の顔がやや引き攣る。しかし、短い付き合いでもそれはなんとなく理解していた。

「......」

 もはや翔は何も言えない。酒呑童子だけが1人愉快そうに酒を呑んでる。こいつもブレないなと翔はもはや感心した。
 朔夜達の机にいた知世が翔の方に近付いてきた。

「狐くんもよかったら、食べてくださいね。......あっ、親御様がもしかして用意してるかもしれないですね、申し訳ございません」
「......いや、知世さん。貰うよ。長くなりそうだったから、外で飯食うって伝えてあるから」
「離れていても、意思を疎通できる。本当に便利な時代になりましたね」

 携帯を出しながら説明する翔に知世は微笑みかける。
 最初は翔も酒呑童子達と同じ机にいたが、あまりにも酒豪による飲み会へと化してきたため、避難することにした。
 コウはいくつかの料理を器用にプレートのように一つの皿にまとめると、退避するように縁側に向かっていた。そして庭を見ながら、葉巻を吸っていた。

 その姿が妙に哀愁を纏っていて、今日だけでかなり知ったコウの苦労人感が滲み出ているようだ。
 どこか邪魔ができない雰囲気を感じる、翔は朔夜達の机に移動する。

 しかし、こちらの机も少し混沌としていた。何も食べずにただ、朔夜の世話をしようとして断られてもめげない、リン。ニコニコとその様子を確認しながらおすすめの品や隠し味などを説明する知世。我関せずに箸を運んでいる朔夜。
 この屋敷には自由人しかいないのかと翔は呆れる。

 なんだかんだで、夕食会という名の一部宴会は1時間ぐらい続いた。知世が空いた皿を片付けるということで、リンと一緒に台所まで運び、後片付けを手伝う。

「麒麟リン様も狐くんもありがとうございます。おかげで早く片付けが終わりました」

 皿を洗い終えた知世が嬉しそうに微笑む。

「美味しい料理のお礼! 本当に知世さん上手いっすよね」
「ありがとうございます。そう言ってくださるだけで、幸せです。また御馳走するので来てくださいね?」
「ありがとう!」
「知世は甘やかしすぎです。食べたのですから、手伝うのは当然です」

 食事の時間でだいぶ知世とは仲良くなった。リンの警戒も少しは薄くなったが、嫌われている様子は変わらない。彼女に何もやった記憶がないため、翔は首を傾げるばかりだ。
 後片付けも終わり、3人で話しながら客間に戻る。

「えっ、まだ呑むの?」

 なんとゆう達は二次会だとばかりに縁側に座り、新たな日本酒を開けていた。盃もお猪口に変わっている。
 翔は形の違いはわかるが器の違いがわからず疑問に思うが、酔っ払いに絡まれるのが嫌だったため、黙る。

 そして、客間や縁側に朔夜達の姿が見えず、なんとなく探す。目的の人物はすぐに見つかった。
 朔夜は庭で式神である白猫と戯れていた。その近くでコウが見守っている。酒呑み達のところにいるより、朔夜と一緒にいた方がいいと思ったんだろうなと想像がつく。

 リンはすぐに朔夜の方に向かい、庭に出た。知世はニコニコと笑いながら、縁側の端に控えるように正座する。
 翔は自分はどうするか少し考えてから、朔夜の元に向かった。


◇◇◇◇


『おー、少年はさやの方に行ったか』

 ゆうはお猪口に口をつけながら楽しそうに庭の様子を見る。その瞳には朔夜に突っかかり、あしらわれている翔が映っている。青春だなと、ゆうは笑った。

「なんだ、あいつら実は付き合ってんのか? 息ぴったりじゃねぇか」

 横では少しだけお猪口で酒を飲むが、すぐにチマチマと呑めるかよと瓶で飲み始めた酒呑童子が朔夜達を見て呟く。
 今日初めて見た酒呑童子はそう思うのかとゆうは面白くなった。

 自分の人生の中ではほんの一瞬の時間だが、2人と接していたゆうはそれぞれのお互いの印象を多分1番身近で見ていた。
 お互いに決めつけて、嫌がって似たもの同士だなと笑っていたものだ。2人の関係にゆうが名前をつけるつもりはない。それは2人がお互いにこれから作っていく関係だから。

 でも、ゆうは生粋の愉快犯だ。ニヤリとお猪口を傾けながら笑う。

『お前には、そう見えるか、そうかそうか』
「あまり若者を揶揄うものじゃないぞ、ゆう」

 酒呑童子とは反対側でちびちびとお猪口で呑んでいる久遠が嗜めるように口を挟む。久遠の視線も翔達に向いていた。

『でも、あいつら最初っから嫌いあってたからさ。想像するだけは自由だろ?』
「ああ、嫌よ嫌よも好きのうちってか?」
『おう! 好きの反対は無関心だろ? お互いに嫌い合ってた時点で、そっちにいく可能性もあるってわけだけ』

 酒呑童子と下世話な話で盛り上がる。若者の青春話は酒の肴にちょうどいい。隣で久遠が呆れたように息を吐く。

「またさやに怒られるぞ、ゆう」
『ここじゃ聞かれてないから大丈夫! 知世もここでの話はさやに内緒だぞ?』

 久遠の後ろに控えるように座っている知世にゆうは視線を向ける。知世はニコリと微笑んだ。

「わかりました。いつかの未来までは保証出来ませんが、10年ぐらいは黙っていますね」
『たった10年か......。まあ、いいや。あいつらがどんな関係になるか楽しむには十分か』

 ゆうは笑いながら酒を呑む。久遠の屋敷ここでしか飲み食いは出来ない。それでも今日はいつもよりも美味しく感じた。

「まあ、さやが珍しく感情は置いといて意識した人間じゃからのう。これも必然かもしれないな」
「必然かっ、いいな。今後の楽しみができたぞ」
『だろ?』

 久遠と酒呑童子の2人に同意されて、ゆうは笑う。そして、お猪口に日本酒を並々に注ぐと、月に向かって掲げる。

『まあ、2人の未来に乾杯でもするか!』

 そして、心の中で声に出さずにゆうは思った。

 ――仇はとったぞ、道実。すでに輪廻の輪に戻って生まれ変わってると思うけど、これで一区切りだ。長かったな。

 本心は他の者達にバレないようにし、一気にお猪口を飲み干す。喉を焼くような刺激に笑いが込み上げる。
 また翔が朔夜に懲りずに話しかけていた。この関係を少しでも長く眺め、そして記憶していきたいと思う。いつかは、ゆうを置いて居なくなってしまう若者の未来にゆうは幸あれと祈る。

 境界の平穏と同じぐらいには、ゆうにとって眺める対象でもある葦原村の住人達の幸せも大切なのだ。
 狭霧神社の御神体の一部、人格を持った自分は考え方だけは神と似たものになってしまったのかもしれないなと笑う。
 そして、若者達を眺め続けた。
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境界の管理人 〜隠世と現世の狭間で織りなす青春奇譚〜作者:星川宙
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第60話 夕食会という名の酒宴

翔がコウ達と客間に戻ると、そこはすでに先程とは違う様子が広がっていた。
 布団や魔法陣は無くなっており、代わりに机に大量の料理が置かれている。真ん中に陣取っている酒呑童子は呑みながら骨付きの肉に食らいついていた。

 和也を家に帰してる間に何があったと思わず翔は朔夜を見た。朔夜は机から少し離れた場所でロケットペンダントを開いて神楽鈴を袋に入れてから、収納している。
 翔の方を見る気もないようで、久遠の工房がある方向を見つめるわけでもなく見ていた。

 久遠は酒呑童子の反対側に座り、盃を傾けていた。子供が飲酒をしているように見えて違和感が拭えない。悠久の時を生きてるとはいえ、何で子供の姿なんだと疑問に思う。
 
『おー、もうやってるのか! 俺も呑む!』

 ゆうが翔の横を通り抜けて久遠の隣に落ち着く。そして、普通に盃を持ち、酒を呷っている。翔は不意に思い、靴を脱ぐとゆうの背後まで回る。
 徐に翔は腕を振り上げると拳を作り、ゆうに向かって振り下ろす。

『!? びっくりした、いきなり何するんだよ、少年』

 しかし、拳はゆうにあたることなく身体を通り抜けた。物は持てるのにどうしても当たらないんだようと翔は悔しくなる。

「散々、カズの身体を好き勝手使ったんだ! 殴られても当たり前だろ!」
『......それは暴論だぞ、少年。俺が身体を借りたから事件は早期解決したんだ。殴られるどころか、褒められるべきだろ?』
「どの口が! カズの身体を使った時点で、褒める要素はない!」

 ゆうの反撃は暴論にしか聞こえなかった。思わず翔は噛み付く。

「おお、いいぞ! 翔!」

 酒呑童子はその様子を見て楽しそうに2人を煽る。ゆうの隣にいる久遠は気にした様子もなく盃に酒を注いでいる。知世はニコニコと笑いながら、新たに出来たと思われる料理を机に並べていく。朔夜に関しては、机の方を見ようともしていない。
 コウが呆れたように間に入った。
 
「明らかに今回の件はゆうが悪いだろ」
『なんだと、コウ!』
「俺はまだ、ガキを連れてきて、拉致の達人って言われたの忘れてねぇぞ?」
『しまった、コウは敵だった! よし、酒呑童子。俺たちで組むぞ!』

 ゆうは片手に盃を持ったまま机の上を浮いて移動して酒呑童子の隣に行く。酒呑童子は豪快に笑いながら、酒を呷る。

「俺は観客だからな。組まないぜ?」
『裏切り者ー!!』
「とりあえず、カズの身体使ったことをまず謝れよ!」
『おっと......? 一応仕方なかったんだが。まっ、確かに勝手に借りたのは悪かったな、すまん!』

 翔の文句にゆうは少し考えてから謝る。少し、拍子抜けした。思わず翔はゆっくりとゆうに指していた指を下ろす。

「悪いと思ってるなら、まあ......」
「稲荷、ゆうの反省は文字通り口だけだ」

 少し離れた位置に小さな机をいつの間にか用意して、リンと知世の2人と落ち着いていた朔夜が何を思ったのか口を挟む。
 朔夜を見ると、興味なさそうに湯呑みへ急須からお茶を注いでいる。

『さや! なんてことを言うんだ!』
「事実だろ? 僕は君が本気で反省しているところは見たことないけど」
『......』

 ゆうは無言になると盃を傾ける。そして、開き直ったように胸を張る。

『俺は、自分が後悔する生き方をしてないからな! 反省する必要を感じない!』
「......マジでお前そうなの?」

 あまりの開き直り具合に翔はドン引きして言葉を紡げない。千年以上生きている幽霊がそれでいいのかと思ってしまう。しかし、周りは慣れているのか気にした様子がない。

「......ガキ、もしこっちにこれからも関わるってんなら、慣れろ。ゆうのあの調子は変わらねえ」

 諦めたようにコウが翔に伝える。やっぱりそうなのかと翔の顔がやや引き攣る。しかし、短い付き合いでもそれはなんとなく理解していた。

「......」

 もはや翔は何も言えない。酒呑童子だけが1人愉快そうに酒を呑んでる。こいつもブレないなと翔はもはや感心した。
 朔夜達の机にいた知世が翔の方に近付いてきた。

「狐くんもよかったら、食べてくださいね。......あっ、親御様がもしかして用意してるかもしれないですね、申し訳ございません」
「......いや、知世さん。貰うよ。長くなりそうだったから、外で飯食うって伝えてあるから」
「離れていても、意思を疎通できる。本当に便利な時代になりましたね」

 携帯を出しながら説明する翔に知世は微笑みかける。
 最初は翔も酒呑童子達と同じ机にいたが、あまりにも酒豪による飲み会へと化してきたため、避難することにした。
 コウはいくつかの料理を器用にプレートのように一つの皿にまとめると、退避するように縁側に向かっていた。そして庭を見ながら、葉巻を吸っていた。

 その姿が妙に哀愁を纏っていて、今日だけでかなり知ったコウの苦労人感が滲み出ているようだ。
 どこか邪魔ができない雰囲気を感じる、翔は朔夜達の机に移動する。

 しかし、こちらの机も少し混沌としていた。何も食べずにただ、朔夜の世話をしようとして断られてもめげない、リン。ニコニコとその様子を確認しながらおすすめの品や隠し味などを説明する知世。我関せずに箸を運んでいる朔夜。
 この屋敷には自由人しかいないのかと翔は呆れる。

 なんだかんだで、夕食会という名の一部宴会は1時間ぐらい続いた。知世が空いた皿を片付けるということで、リンと一緒に台所まで運び、後片付けを手伝う。

「麒麟リン様も狐くんもありがとうございます。おかげで早く片付けが終わりました」

 皿を洗い終えた知世が嬉しそうに微笑む。

「美味しい料理のお礼! 本当に知世さん上手いっすよね」
「ありがとうございます。そう言ってくださるだけで、幸せです。また御馳走するので来てくださいね?」
「ありがとう!」
「知世は甘やかしすぎです。食べたのですから、手伝うのは当然です」

 食事の時間でだいぶ知世とは仲良くなった。リンの警戒も少しは薄くなったが、嫌われている様子は変わらない。彼女に何もやった記憶がないため、翔は首を傾げるばかりだ。
 後片付けも終わり、3人で話しながら客間に戻る。

「えっ、まだ呑むの?」

 なんとゆう達は二次会だとばかりに縁側に座り、新たな日本酒を開けていた。盃もお猪口に変わっている。
 翔は形の違いはわかるが器の違いがわからず疑問に思うが、酔っ払いに絡まれるのが嫌だったため、黙る。

 そして、客間や縁側に朔夜達の姿が見えず、なんとなく探す。目的の人物はすぐに見つかった。
 朔夜は庭で式神である白猫と戯れていた。その近くでコウが見守っている。酒呑み達のところにいるより、朔夜と一緒にいた方がいいと思ったんだろうなと想像がつく。

 リンはすぐに朔夜の方に向かい、庭に出た。知世はニコニコと笑いながら、縁側の端に控えるように正座する。
 翔は自分はどうするか少し考えてから、朔夜の元に向かった。


◇◇◇◇


『おー、少年はさやの方に行ったか』

 ゆうはお猪口に口をつけながら楽しそうに庭の様子を見る。その瞳には朔夜に突っかかり、あしらわれている翔が映っている。青春だなと、ゆうは笑った。

「なんだ、あいつら実は付き合ってんのか? 息ぴったりじゃねぇか」

 横では少しだけお猪口で酒を飲むが、すぐにチマチマと呑めるかよと瓶で飲み始めた酒呑童子が朔夜達を見て呟く。
 今日初めて見た酒呑童子はそう思うのかとゆうは面白くなった。

 自分の人生の中ではほんの一瞬の時間だが、2人と接していたゆうはそれぞれのお互いの印象を多分1番身近で見ていた。
 お互いに決めつけて、嫌がって似たもの同士だなと笑っていたものだ。2人の関係にゆうが名前をつけるつもりはない。それは2人がお互いにこれから作っていく関係だから。

 でも、ゆうは生粋の愉快犯だ。ニヤリとお猪口を傾けながら笑う。

『お前には、そう見えるか、そうかそうか』
「あまり若者を揶揄うものじゃないぞ、ゆう」

 酒呑童子とは反対側でちびちびとお猪口で呑んでいる久遠が嗜めるように口を挟む。久遠の視線も翔達に向いていた。

『でも、あいつら最初っから嫌いあってたからさ。想像するだけは自由だろ?』
「ああ、嫌よ嫌よも好きのうちってか?」
『おう! 好きの反対は無関心だろ? お互いに嫌い合ってた時点で、そっちにいく可能性もあるってわけだけ』

 酒呑童子と下世話な話で盛り上がる。若者の青春話は酒の肴にちょうどいい。隣で久遠が呆れたように息を吐く。

「またさやに怒られるぞ、ゆう」
『ここじゃ聞かれてないから大丈夫! 知世もここでの話はさやに内緒だぞ?』

 久遠の後ろに控えるように座っている知世にゆうは視線を向ける。知世はニコリと微笑んだ。

「わかりました。いつかの未来までは保証出来ませんが、10年ぐらいは黙っていますね」
『たった10年か......。まあ、いいや。あいつらがどんな関係になるか楽しむには十分か』

 ゆうは笑いながら酒を呑む。久遠の屋敷ここでしか飲み食いは出来ない。それでも今日はいつもよりも美味しく感じた。

「まあ、さやが珍しく感情は置いといて意識した人間じゃからのう。これも必然かもしれないな」
「必然かっ、いいな。今後の楽しみができたぞ」
『だろ?』

 久遠と酒呑童子の2人に同意されて、ゆうは笑う。そして、お猪口に日本酒を並々に注ぐと、月に向かって掲げる。

『まあ、2人の未来に乾杯でもするか!』

 そして、心の中で声に出さずにゆうは思った。

 ――仇はとったぞ、道実。すでに輪廻の輪に戻って生まれ変わってると思うけど、これで一区切りだ。長かったな。

 本心は他の者達にバレないようにし、一気にお猪口を飲み干す。喉を焼くような刺激に笑いが込み上げる。
 また翔が朔夜に懲りずに話しかけていた。この関係を少しでも長く眺め、そして記憶していきたいと思う。いつかは、ゆうを置いて居なくなってしまう若者の未来にゆうは幸あれと祈る。

 境界の平穏と同じぐらいには、ゆうにとって眺める対象でもある葦原村の住人達の幸せも大切なのだ。
 狭霧神社の御神体の一部、人格を持った自分は考え方だけは神と似たものになってしまったのかもしれないなと笑う。
 そして、若者達を眺め続けた。
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