ホーム万年筆の大佐〜陸軍のホープ、魔法軍へ行く大講堂裏の乱闘
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大講堂裏の乱闘

三治、必殺技発動
 三治と信濃を取り囲んだ候補生たちが一斉に信濃に向けて魔法を放つ。
 信濃は杖を振り上げてそれぞれを打ち消すが、間に合わなかった雷撃が信濃の足を貫く。信濃の手から杖が転がった。

「ああ、くそっ」

「どういうことだ、信濃。奴らはなぜ貴様を狙う」

「最近決闘で潰した雑魚どもだ。単独じゃ俺に勝てねえからと束になってかかって来たんだろうよ」

 ジリジリと距離を詰めてくる候補生たちが杖に魔力を集めている。三治は膝をついて耐える信濃の前へ躍り出てノートとペンを構えた。

「貴様ら、いくら非公式の決闘とはいえ、複数で攻撃を仕掛けるとは軍人としてあるまじき行為だ。恥を知れ」

「おお。これはこれは一般市民どの。ご忠告痛みいるが、そんな非効率的な魔法しか使えん分際で何ができる?」

 三治は「一般市民」という言葉を口走った候補生に容赦なく火球を放った。詠唱の隙なく魔法を放てるのは、演算魔法を扱う者の利点である。

「一般市民に鼻っ面を黒焦げにされたくなければ早々に立ち去るのだな」

 大袈裟に挑発して候補生たちをいきり立たせる。それぞれの杖の先に魔力を込めた光が輝き始めた。ふらふらと立ち上がった信濃に杖を手渡す。

「悪いがお前の安全までは保障できん。俺は勝手にここを切り抜けるので、お前も自分の身は自分で守れ」

「ああ?何を言って......」

 三治は見開きの頁に描かれた2つの魔法陣に魔法式を同時に記述して、正面に向けて火球を2つ放ちながら走り出す。

「お、おい、一年坊、無茶だろ!!」

 詠唱を終えた候補生の大きな火球がそれを飲み込んだ。

「バカが。話にならん......」

 しかし次の瞬間、嘲るように笑った候補生の身体がふわりと宙を舞う。

「うおおっ⁉︎」

 ビタン、という音と共に候補生の身体を石畳に叩きつけた。陸軍大佐の父直伝の、綺麗な背負い投げである。
 魔法による応酬を繰り広げていた士官候補生たちがどよめく。
 魔法使いどもには信じられないだろうが、一般市民は魔法よりも組み手の方が確実に敵を討伐できるのである。

「おっと。こいつはまた」

 信濃が手を叩いて笑う。
 戸惑う他の候補生に頭突きを喰らわせ、先程信濃が雷撃で落とした木の枝に火をつけて振り回した。陸軍士官学校ならば確実に後ろ指を指されるような下品な戦いようである。

「き、貴様、ここを何処だと」

「非公式な決闘を行う大講堂裏だ。決まりなどあるまい」

 戸惑う候補生たちが三治に向けて杖を構える。詠唱を始めた候補生に、信濃が背後から雷撃を喰らわせた。

「最高だな、澤山軍曹。喧嘩が身に付いとる」

 信濃は3発連続で雷を発生させた後、三治の背後にいた候補生に飛びかかって締め上げる。杖を捨てた候補生が2人に飛びかかって来た。
 そこはまるで魔法など存在しないかのような、血と泥に塗れた戦場と化していた。

 深夜。血まみれの状態で朱雀寮に戻って来た三治と信濃は、寮監から身を隠して静かに医務室へ向かった。
 衛生科に見つからないようにこっそりと手当を済ませなければ、彼らが私的な決闘、しかも魔法を使わない肉弾戦による戦闘を繰り広げたと知れ渡ってしまう。
 素行不良の信濃はともかく、三治まで退学の危険性がある。

 こっそりと医務室の扉を開けて、信濃と共に中へ入る。明かりのついていない医務室の中は暗いので、信濃が杖の先に小さな閃光弾を灯した。

 三治が医薬品の棚に手をかけた時、ふと部屋の奥からすすり泣くような声が聞こえた。ギョッとして信濃と顔を見合わせる。恐る恐る奥の方へ灯りを向けると、部屋の隅で梗子が小さく丸まって自らの身体を抱きしめていた。

「梗子......⁉︎」

 思わず声をかけると、梗子は口元を抑えて小さな悲鳴をあげる。確かに、深夜の医務室にこんな血まみれの男が2人乗り込んできたら誰でも驚くだろう。

「み、三治さん?左近さんも。どうして、ひどい怪我だわ」

 少し枯れた声で驚嘆の声をあげた梗子は2人を座らせて、急いで処置を始める。顔や体についた血を拭き取り、杖の先から温かな光を発生させて裂傷に翳す。みるみるうちに傷が塞がっていく。

「回復魔法か。初めて見た」

「あんまり上手くないのです。恥ずかしいわ」

「お嬢、回復魔法の発動は衛生教官の許可が要るでしょう。また衛生長にどやされますぞ」

 信濃の指摘に梗子は少し悪い笑顔を浮かべて、人差し指を自分の唇に当てた。

「内緒ですよ。お二人だって、許可なく寮から出ていたのですから、おあいこです」

「君はこんな時間の医務室で何を?消灯時間以降、立ち入り禁止のはずでは」

 少しオドオドとした梗子は、まっすぐに見つめる三治から視線を逸らして下を向く。

「その......生まれ育ったお寺の子供達から貰ったお手紙を読んでいたら、戻りそびれてしまって」

「お寺?」

 梗子は部屋の隅に置いてあった手紙を拾い上げて、机の上に乗せる。

「ええ。私、孤児としてお寺で育ててもらったのです。たまにお寺の子供達からお手紙が届くのが楽しみで」

 三治は少しだけ手紙を覗いてみる。『おべんきょう、がんばって』という拙い文字や、梗子と思われる絵などが一枚の紙にぎっしりと書かれている。
 恥ずかしそうに顔を覆う梗子を、信濃はじっと見つめていた。
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三治、必殺技発動
 三治と信濃を取り囲んだ候補生たちが一斉に信濃に向けて魔法を放つ。
 信濃は杖を振り上げてそれぞれを打ち消すが、間に合わなかった雷撃が信濃の足を貫く。信濃の手から杖が転がった。

「ああ、くそっ」

「どういうことだ、信濃。奴らはなぜ貴様を狙う」

「最近決闘で潰した雑魚どもだ。単独じゃ俺に勝てねえからと束になってかかって来たんだろうよ」

 ジリジリと距離を詰めてくる候補生たちが杖に魔力を集めている。三治は膝をついて耐える信濃の前へ躍り出てノートとペンを構えた。

「貴様ら、いくら非公式の決闘とはいえ、複数で攻撃を仕掛けるとは軍人としてあるまじき行為だ。恥を知れ」

「おお。これはこれは一般市民どの。ご忠告痛みいるが、そんな非効率的な魔法しか使えん分際で何ができる?」

 三治は「一般市民」という言葉を口走った候補生に容赦なく火球を放った。詠唱の隙なく魔法を放てるのは、演算魔法を扱う者の利点である。

「一般市民に鼻っ面を黒焦げにされたくなければ早々に立ち去るのだな」

 大袈裟に挑発して候補生たちをいきり立たせる。それぞれの杖の先に魔力を込めた光が輝き始めた。ふらふらと立ち上がった信濃に杖を手渡す。

「悪いがお前の安全までは保障できん。俺は勝手にここを切り抜けるので、お前も自分の身は自分で守れ」

「ああ?何を言って......」

 三治は見開きの頁に描かれた2つの魔法陣に魔法式を同時に記述して、正面に向けて火球を2つ放ちながら走り出す。

「お、おい、一年坊、無茶だろ!!」

 詠唱を終えた候補生の大きな火球がそれを飲み込んだ。

「バカが。話にならん......」

 しかし次の瞬間、嘲るように笑った候補生の身体がふわりと宙を舞う。

「うおおっ⁉︎」

 ビタン、という音と共に候補生の身体を石畳に叩きつけた。陸軍大佐の父直伝の、綺麗な背負い投げである。
 魔法による応酬を繰り広げていた士官候補生たちがどよめく。
 魔法使いどもには信じられないだろうが、一般市民は魔法よりも組み手の方が確実に敵を討伐できるのである。

「おっと。こいつはまた」

 信濃が手を叩いて笑う。
 戸惑う他の候補生に頭突きを喰らわせ、先程信濃が雷撃で落とした木の枝に火をつけて振り回した。陸軍士官学校ならば確実に後ろ指を指されるような下品な戦いようである。

「き、貴様、ここを何処だと」

「非公式な決闘を行う大講堂裏だ。決まりなどあるまい」

 戸惑う候補生たちが三治に向けて杖を構える。詠唱を始めた候補生に、信濃が背後から雷撃を喰らわせた。

「最高だな、澤山軍曹。喧嘩が身に付いとる」

 信濃は3発連続で雷を発生させた後、三治の背後にいた候補生に飛びかかって締め上げる。杖を捨てた候補生が2人に飛びかかって来た。
 そこはまるで魔法など存在しないかのような、血と泥に塗れた戦場と化していた。

 深夜。血まみれの状態で朱雀寮に戻って来た三治と信濃は、寮監から身を隠して静かに医務室へ向かった。
 衛生科に見つからないようにこっそりと手当を済ませなければ、彼らが私的な決闘、しかも魔法を使わない肉弾戦による戦闘を繰り広げたと知れ渡ってしまう。
 素行不良の信濃はともかく、三治まで退学の危険性がある。

 こっそりと医務室の扉を開けて、信濃と共に中へ入る。明かりのついていない医務室の中は暗いので、信濃が杖の先に小さな閃光弾を灯した。

 三治が医薬品の棚に手をかけた時、ふと部屋の奥からすすり泣くような声が聞こえた。ギョッとして信濃と顔を見合わせる。恐る恐る奥の方へ灯りを向けると、部屋の隅で梗子が小さく丸まって自らの身体を抱きしめていた。

「梗子......⁉︎」

 思わず声をかけると、梗子は口元を抑えて小さな悲鳴をあげる。確かに、深夜の医務室にこんな血まみれの男が2人乗り込んできたら誰でも驚くだろう。

「み、三治さん?左近さんも。どうして、ひどい怪我だわ」

 少し枯れた声で驚嘆の声をあげた梗子は2人を座らせて、急いで処置を始める。顔や体についた血を拭き取り、杖の先から温かな光を発生させて裂傷に翳す。みるみるうちに傷が塞がっていく。

「回復魔法か。初めて見た」

「あんまり上手くないのです。恥ずかしいわ」

「お嬢、回復魔法の発動は衛生教官の許可が要るでしょう。また衛生長にどやされますぞ」

 信濃の指摘に梗子は少し悪い笑顔を浮かべて、人差し指を自分の唇に当てた。

「内緒ですよ。お二人だって、許可なく寮から出ていたのですから、おあいこです」

「君はこんな時間の医務室で何を?消灯時間以降、立ち入り禁止のはずでは」

 少しオドオドとした梗子は、まっすぐに見つめる三治から視線を逸らして下を向く。

「その......生まれ育ったお寺の子供達から貰ったお手紙を読んでいたら、戻りそびれてしまって」

「お寺?」

 梗子は部屋の隅に置いてあった手紙を拾い上げて、机の上に乗せる。

「ええ。私、孤児としてお寺で育ててもらったのです。たまにお寺の子供達からお手紙が届くのが楽しみで」

 三治は少しだけ手紙を覗いてみる。『おべんきょう、がんばって』という拙い文字や、梗子と思われる絵などが一枚の紙にぎっしりと書かれている。
 恥ずかしそうに顔を覆う梗子を、信濃はじっと見つめていた。
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