小隊長選抜試験
数日後。三治は大講堂前に貼り出された掲示物の前で背筋を伸ばしていた。
「立夏戦実施要項」という題名の掲示物が説明しているのは、魔法士官学校の春の恒例行事である部隊対抗の模擬戦闘訓練の概要である。
1年生にとっては士官学校に入学して初めての実地戦闘訓練となる立夏戦は、各部隊を小隊に分けて結成し、それぞれが持つ拠点を奪い合い、最後に占有する拠点の数で勝利部隊を決定するという訓練だ。
「ついにこの時がきたな、三治!」
横に並ぶ兼愛が大声で呼びかけながら三治の肩に手を乗せる。
三治は肉厚で力強い手を払いのけながら頷く。
「ああ。いよいよ立夏戦だ。絶対に......」
「小隊長は譲らん!!」
立夏戦の小隊長。それは魔法将校としての大きな第一歩である。立夏戦では部隊ごとに小隊が編成されるのだが、この小隊長は立候補者から選考試験を経て選出され、その小隊長の任命によって小隊の隊員が決定される。
小隊長に選出されるということは、上層部に少なからず実力を認められたという証左にもなるのだ。
「何をそんなに力んでるんだ。遠足みたいなものじゃないか」
声を揃えて気合を入れていた三治と兼愛の後ろから幽霊のように2人の肩に腕を絡めた吉継が囁く。
「遠足なわけがあるか。ここから俺の魔法将校としての道がだな......」
「何でもいいが、小隊長になるなら先に衛生候補生を確保しておいた方がいいぞ。数が少ないから、小隊によっては回復役なしの過酷な戦いになる」
「衛生候補生か」
真っ先に梗子の顔が浮かんで、三治は勝手に赤面した。おそらく吉継もそれを狙ってわざわざ言ってきたのだろう。
「衛生候補生なら宇野軍曹どのが適任であろう! とてもお優しく協調性に富んでおられるからな」
遠慮も照れもない兼愛に梗子の名を先に挙げられた三治は悔しさに歯噛みする。
「そうだな。ただ、戦略としては回復以外にも役割を持てる子を選ぶことが多いかな。俺は去年小隊長をやったが、呪いが得意な子を選んで、近くの敵部隊全員の弁当を腐らせる作戦をとった」
「最悪の作戦だな」
最悪だが、この男は躊躇わずに最悪の作戦を駆使して勝利を勝ち取ったからこそ、胸に曹長の徽章を身につけているのだろう。
「控えめな梗子が呪いのように危険な魔法を扱えるとは思えん。ただまあ......衛生候補生の知り合いなど、そうもおらんし......」
三治が口籠っていると、吉継はニヤニヤと口角を上げた口元をわざとらしく手で覆った。
三治と兼愛は競い合うように大講堂正面の事務室に駆け込み、小隊長選考会の申請を済ませた。選考会の概要を受け取り、選考内容を確認する。「行軍指揮」「魔法戦闘実技」など、これまで首位を獲得した試験内容に小隊長選出を確信した三治は、続く内容に「飛行術」という記載を見つけて白目を剥いた。