大講堂裏の決闘
三治、決闘を受けて立つ
夜。同室の兼愛がでかい鼾をかきはじめたのを確認して、三治はそっと部屋を出た。手には魔法陣を書き溜めたノートを持っている。
消灯時間を過ぎてからの寮の外への外出は禁止事項だが、致し方ない。三治は1人の男として、非魔法使いの代表として、負けられない戦いを挑みにいくのである。
暗闇の中、小さな灯りを灯す魔法を記述して大講堂の裏手を目指す。警備のために所々灯されている灯りも、大講堂の裏には灯されていない。監視を避けながら決闘をするのにはうってつけの場所というわけだ。
三治は暗闇の中に信濃の姿を探しながら、慎重に壁際を伝って歩く。
春の冷たい風に混じって、ガサガサと木々の揺れではない音が聞こえた。
三治はそちらに向けて魔法陣のノートとペンを構える。しかし雷魔法が落ちてきたのは三治の背後からであった。
「......ちっ」
三治の予想通りの展開だ。
信濃は「決闘」と宣言して三治を呼び出したが、おそらくこの場所に決闘のつもりでノコノコやってきた三治を叩き潰すための「協力者」が複数名隠れているのだろう。
三治の足元に、風魔法と水魔法が同時に発生する。前方に転がって、水魔法の魔法陣が現れた方角に向けて炎魔法を発動する。
素早く逃走する足音が聞こえてきた。
三治と近い範囲だけでも、おそらく6人。
信濃が協力者を連れてくる可能性は考えた上で、それでも三治はあえて単騎でこの決闘に乗り込んだ。
そもそも「決闘」とは一対一で行うものである。それを宣言された以上、協力者を連れて挑むのは軍人としての誇りを著しく汚す行為だ。例え不利になろうと、自分は1人で決闘を挑みに来たのだと胸を張って言いたい。
それが軍人一族である澤山家の男としての矜持である。
足元に火球を放たれて地面の雑草が燃える。
三治は敢えてその場に立ち止まって、水魔法を放った。燃える炎と水魔法の少量の水がぶつかり、辺りに霧が発生する。
周囲からの追跡を眩ませて、大講堂の壁際から距離をとった。周囲の状況を確認していると講堂の柱の影から雷魔法が迸る。
発生先を見れば大柄な人影が見えた。信濃に間違いない。三治は一気に間合いを詰めながら魔法式を記入する。
「そこだッ」
信濃の足元の雑草に火をつけ、風魔法で風向きを彼の方に向けて足止めする。
先日兼愛と言い合いになった時に受けた魔法を参考にしたものだ。この2週間の兼愛との喧嘩で、三治の魔法技術は良くも悪くも成長を見せていた。
炎の向こうから雷魔法が飛んできて、三治のすぐ横の木の枝を直撃する。枝に止まっていたコウモリたちが驚いて三治を攻撃してくる。
「ぐっ......!」
鎮火した炎魔法の先から信濃が正面に杖を構えて現れる。杖の先が強く光って、表情の抜け落ちた信濃の顔を照らした。
「ハッ。不真面目な上級生を潰すためなら決闘の場所にもお仲間を連れてくんのかい。最近のお坊ちゃんは矜持ってもんを知らん」
「何だと......?」
その時、信濃の頭上に炎の魔法陣が現れる。信濃は三治から視線を逸らすことなく杖を振り、落ちてきた炎柱を無効化する。
それは、明らかに第三者が「信濃に対して」放った攻撃であった。
「もしや。この術者どもはお前が連れてきた人間ではないのか、信濃」
「ああ?俺はアンタと決闘するために来たんだ。1人で来たに決まってるだろうがよ」
その時、ガサガサという茂みを踏み締める足音と共に、10人程度の士官候補生たちが三治と信濃を取り囲んだ。軍服の勲章から分かる部隊も学年もバラバラである。
「信濃、一年坊と決闘遊びとは随分余裕じゃないか。俺たちの相手もしてくれよ」