ホーム万年筆の大佐〜陸軍のホープ、魔法軍へ行く箒飛行訓練開始!
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箒飛行訓練開始!

三治、飛べない
 午後の授業は、校庭にて行われる飛行術訓練である。この授業は朱雀隊の1年から4年までの合同で行われる授業で、なかなかの大所帯での訓練となる。

 魔力を持ち合わせない三治にとって、箒による飛行は極めて過酷な作業である。
 魔法使いたちが魔力で行っている箒への「主従関係の調教」を、三治本人が行わねばならない。それは長年飼い慣らした馬を操ることにも似ているのだが、三治はとにかく動物に舐められがちである。

幼い頃に兄が飼っていた犬は三治を格下と捉えて体に触れる事すら許さなかったし、父が書斎で飼っていたメダカに餌をやっても全て無視されたことがある。当然馬にも侮られるので、馬術の練習の際は気性の穏やかな高齢の牝馬しか乗ることが出来なかったのだ。

 そんな三治が動物以上に難解な箒を飼い慣らすのは至難の業である。入学に際して吉継と共に選びに行った飛行用箒を手に校庭に出るが、三治の顔は冴えない。

「ではこれより合同飛行訓練を行う。朱雀隊、箒構え!!」

 朱雀隊隊長の号令に合わせて箒に跨る。天気の良い春の空を見上げて、高く空を駆けるさまを強く思い浮かべた。

「飛行開始!!」

 号令に合わせて、朱雀隊が一気に空へ飛び上がる。
 魔法使い達にとって、箒で空を飛ぶことはそれほど珍しい行動ではないので、そこに苦戦する人間は三治を含めごく僅かである。
 飛べずに地面から足が離れない隊員たちも、それでも箒そのものは自分の意思で空中に留まっていて、あとはその制御を魔力によって行うだけの状態である。

 しかし、三治は更にそれ以前の問題だ。
 三治の箒は宙を浮くどころか、至って普通の箒として三治の手中に収められている。金物屋の竹箒を持ってきたのではないかというほどの無反応ぶりだ。

「何をモタモタしている三治ッ!さっさと上空に上がらんか!」

 兼愛が箒の上から三治を一喝する。魔力を持たぬ三治にはそれがどれほど困難なことなのか、名門の魔法使いには想像もつかないのだろう。

「三治、落ち着け。いいか、ガッと掴んだ箒にシュッと乗ってピョイと上がるんだ。あとはヌルっといける」

 全く具体性に欠ける擬音だらけの説明をする吉継も三治に寄り添うつもりはあるのだろうが、箒に乗れなかった経験がない人間にはこの屈辱は一生理解できないのだろう。

「くそっ......箒に頼らずに飛行する魔法式さえ開発できれば......」

 三治は歯噛みしながら上空高くまで飛んでいる同胞たちを見上げる。ふと視線の端、自分と同じ高さの所にもう1人、三治と同じ状況の人物がいる事に気がついた。

「お願い......言うことを聞いて......」

 小さな声で箒に懇願する宇野梗子は、涙目になりながら地面にしっかりと両足をつけて箒に跨っていた。
 ふと目が合った三治と梗子は、気まずさからお互いに目を背ける。

「ああ、そういえば梗子ちゃんも飛行術が苦手だったっけ」

 空中にぷかぷかと浮いていた吉継は箒に足を掛けて身体を逆さにしたまま梗子に近づく。

「梗子ちゃん、大丈夫かい。慌てなくていい。箒も梗子ちゃんを乗せるのに緊張しているんじゃないかなあ」

 三治に対する助言とは随分態度の違う吉継は、ブランブランと梗子の目の前で身体を揺らして梗子を笑わせる。

「ありがとう、吉継くん。でも、ダメね。今年も補習かも知れないわ......」

「梗子ちゃんは前線に出るわけじゃないし、別に飛べなくても支障はないさ。問題はあそこの魔法将校志望だな」

「......うるさい」

 すっかり言い返す力も失くした三治は、梗子の方を直視できずに地面を向く。こんなことなら、士官学校の入試の時点で箒飛行が出来ない人間を除外して欲しかった。実技試験の範囲に「飛べて当たり前」の飛行術は含まれていないのである。

 梗子は地面をしっかり踏みしめながら、三治の方へおずおずと近寄る。

「あ、あの。飛べない私が言うのもおかしいけれど、三治さんならきっと大丈夫よ。ここにいる誰よりも優秀な方なんですもの」

「黙れッ!そんな慰めなど......」

 三治は思わず声を荒げてから、相手が梗子であったことを思い出して青ざめる。
 三治の大声に驚いた梗子は、身体をすくめて立ち尽くしていた。

「あ......ご、ごめんなさ......」

「三治!お前、梗子ちゃんに何てことを言うんだ!」

 吉継が諌めるように梗子と三治の間に割り入る。
 三治はどうして良いか分からず、ただただ地面に立ち尽くした。

 その時、三治の目の前に強い旋風が立ち上り、三治と吉継は同時に旋風の方向を見た。

「ひゃっ......きゃああっ!!」

 箒を握りしめていた梗子の身体が箒と共に持ち上がり、もの凄い勢いで上空に飛び上がる。

「梗子ちゃん!!」

 明らかに梗子の意思に反して飛び上がっている箒は、主人からの方向の指示がないために放物線を描くように空高く打ち上がっている。

「まずい。箒が暴走してる。早く指示を入れないと」

 吉継は箒に跨って梗子の行方を追う。しかし、同じ軌道に沿って追いかける吉継の箒が梗子の箒に追いつくことはない。

──もし彼女に追いつくのであれば、最高到達点を過ぎた落下点を目指して直線距離で向かうべきだ。それも無駄のない軌道で。

 三治は自らが向かうべきが校庭の奥にある林の中央であることを理解して、無意識のうちに箒に跨る。

 飛べるか飛べないか、という次元ではないと気がついた時、三治の足は自然と地面を蹴っていた。

 先ほどまで庭先を掃く箒と何ら変わらなかった箒の柄が、生き物のような鼓動を三治の手のひらに伝えてくる。ふわりと内臓が浮く感覚がして、三治の周囲の空気抵抗が強くなった。

......間に合う。

 三治は梗子の落下地点と推測した校庭奥の林まで一直線に飛行し、放物線を描いて落ちてくる梗子の真下に滑り込んで彼女の身体を抱き留めた。

「梗子ッ!!」

 気を失っている彼女からの応答はない。ダラリと垂れた頭を守るように、胸の前でしっかりと抱えた。
 とっくに箒から手を離していた三治は、梗子を抱き抱えたまま林の方へ落下する。骨の1、2本を折ることは覚悟の上で地面への衝撃に備えて目を閉じた。

「うおおおおっ⁉︎」

 地面へ叩きつけられる想定であった三治の体は、グニャッという感覚と共に落下した。
 下から野太い声がした気がしたが、構わず起き上がって脱力している梗子の体を抱き起こした。
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万年筆の大佐〜陸軍のホープ、魔法軍へ行く作者:甘味屋
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三治、飛べない
 午後の授業は、校庭にて行われる飛行術訓練である。この授業は朱雀隊の1年から4年までの合同で行われる授業で、なかなかの大所帯での訓練となる。

 魔力を持ち合わせない三治にとって、箒による飛行は極めて過酷な作業である。
 魔法使いたちが魔力で行っている箒への「主従関係の調教」を、三治本人が行わねばならない。それは長年飼い慣らした馬を操ることにも似ているのだが、三治はとにかく動物に舐められがちである。

幼い頃に兄が飼っていた犬は三治を格下と捉えて体に触れる事すら許さなかったし、父が書斎で飼っていたメダカに餌をやっても全て無視されたことがある。当然馬にも侮られるので、馬術の練習の際は気性の穏やかな高齢の牝馬しか乗ることが出来なかったのだ。

 そんな三治が動物以上に難解な箒を飼い慣らすのは至難の業である。入学に際して吉継と共に選びに行った飛行用箒を手に校庭に出るが、三治の顔は冴えない。

「ではこれより合同飛行訓練を行う。朱雀隊、箒構え!!」

 朱雀隊隊長の号令に合わせて箒に跨る。天気の良い春の空を見上げて、高く空を駆けるさまを強く思い浮かべた。

「飛行開始!!」

 号令に合わせて、朱雀隊が一気に空へ飛び上がる。
 魔法使い達にとって、箒で空を飛ぶことはそれほど珍しい行動ではないので、そこに苦戦する人間は三治を含めごく僅かである。
 飛べずに地面から足が離れない隊員たちも、それでも箒そのものは自分の意思で空中に留まっていて、あとはその制御を魔力によって行うだけの状態である。

 しかし、三治は更にそれ以前の問題だ。
 三治の箒は宙を浮くどころか、至って普通の箒として三治の手中に収められている。金物屋の竹箒を持ってきたのではないかというほどの無反応ぶりだ。

「何をモタモタしている三治ッ!さっさと上空に上がらんか!」

 兼愛が箒の上から三治を一喝する。魔力を持たぬ三治にはそれがどれほど困難なことなのか、名門の魔法使いには想像もつかないのだろう。

「三治、落ち着け。いいか、ガッと掴んだ箒にシュッと乗ってピョイと上がるんだ。あとはヌルっといける」

 全く具体性に欠ける擬音だらけの説明をする吉継も三治に寄り添うつもりはあるのだろうが、箒に乗れなかった経験がない人間にはこの屈辱は一生理解できないのだろう。

「くそっ......箒に頼らずに飛行する魔法式さえ開発できれば......」

 三治は歯噛みしながら上空高くまで飛んでいる同胞たちを見上げる。ふと視線の端、自分と同じ高さの所にもう1人、三治と同じ状況の人物がいる事に気がついた。

「お願い......言うことを聞いて......」

 小さな声で箒に懇願する宇野梗子は、涙目になりながら地面にしっかりと両足をつけて箒に跨っていた。
 ふと目が合った三治と梗子は、気まずさからお互いに目を背ける。

「ああ、そういえば梗子ちゃんも飛行術が苦手だったっけ」

 空中にぷかぷかと浮いていた吉継は箒に足を掛けて身体を逆さにしたまま梗子に近づく。

「梗子ちゃん、大丈夫かい。慌てなくていい。箒も梗子ちゃんを乗せるのに緊張しているんじゃないかなあ」

 三治に対する助言とは随分態度の違う吉継は、ブランブランと梗子の目の前で身体を揺らして梗子を笑わせる。

「ありがとう、吉継くん。でも、ダメね。今年も補習かも知れないわ......」

「梗子ちゃんは前線に出るわけじゃないし、別に飛べなくても支障はないさ。問題はあそこの魔法将校志望だな」

「......うるさい」

 すっかり言い返す力も失くした三治は、梗子の方を直視できずに地面を向く。こんなことなら、士官学校の入試の時点で箒飛行が出来ない人間を除外して欲しかった。実技試験の範囲に「飛べて当たり前」の飛行術は含まれていないのである。

 梗子は地面をしっかり踏みしめながら、三治の方へおずおずと近寄る。

「あ、あの。飛べない私が言うのもおかしいけれど、三治さんならきっと大丈夫よ。ここにいる誰よりも優秀な方なんですもの」

「黙れッ!そんな慰めなど......」

 三治は思わず声を荒げてから、相手が梗子であったことを思い出して青ざめる。
 三治の大声に驚いた梗子は、身体をすくめて立ち尽くしていた。

「あ......ご、ごめんなさ......」

「三治!お前、梗子ちゃんに何てことを言うんだ!」

 吉継が諌めるように梗子と三治の間に割り入る。
 三治はどうして良いか分からず、ただただ地面に立ち尽くした。

 その時、三治の目の前に強い旋風が立ち上り、三治と吉継は同時に旋風の方向を見た。

「ひゃっ......きゃああっ!!」

 箒を握りしめていた梗子の身体が箒と共に持ち上がり、もの凄い勢いで上空に飛び上がる。

「梗子ちゃん!!」

 明らかに梗子の意思に反して飛び上がっている箒は、主人からの方向の指示がないために放物線を描くように空高く打ち上がっている。

「まずい。箒が暴走してる。早く指示を入れないと」

 吉継は箒に跨って梗子の行方を追う。しかし、同じ軌道に沿って追いかける吉継の箒が梗子の箒に追いつくことはない。

──もし彼女に追いつくのであれば、最高到達点を過ぎた落下点を目指して直線距離で向かうべきだ。それも無駄のない軌道で。

 三治は自らが向かうべきが校庭の奥にある林の中央であることを理解して、無意識のうちに箒に跨る。

 飛べるか飛べないか、という次元ではないと気がついた時、三治の足は自然と地面を蹴っていた。

 先ほどまで庭先を掃く箒と何ら変わらなかった箒の柄が、生き物のような鼓動を三治の手のひらに伝えてくる。ふわりと内臓が浮く感覚がして、三治の周囲の空気抵抗が強くなった。

......間に合う。

 三治は梗子の落下地点と推測した校庭奥の林まで一直線に飛行し、放物線を描いて落ちてくる梗子の真下に滑り込んで彼女の身体を抱き留めた。

「梗子ッ!!」

 気を失っている彼女からの応答はない。ダラリと垂れた頭を守るように、胸の前でしっかりと抱えた。
 とっくに箒から手を離していた三治は、梗子を抱き抱えたまま林の方へ落下する。骨の1、2本を折ることは覚悟の上で地面への衝撃に備えて目を閉じた。

「うおおおおっ⁉︎」

 地面へ叩きつけられる想定であった三治の体は、グニャッという感覚と共に落下した。
 下から野太い声がした気がしたが、構わず起き上がって脱力している梗子の体を抱き起こした。
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万年筆の大佐〜陸軍のホープ、魔法軍へ行く作者:甘味屋
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