衛生兵の少女
三治、かわいい先輩に出会う
他の新入生が寮の割り当てられた自室に向かっていく中、三治と男が運び込まれたのは朱雀寮の奥にある衛生科の医務室だった。
「はい。これでひとまず出血は止まりましたが、頭を打っていますから、しばらくここで安静にしてくださいね」
「......ありがとう、ございます」
朱雀寮の衛生科の女子候補生は三治の額に巻いた包帯に緩みがないか、丁寧に確認する。
左腕には衛生兵であることを示す空色の腕章が付けられていた。
「貴方も、鼻出血は止まっていますが、鼻の骨が折れていないか心配だわ。もう少し冷やして様子を見ましょうね」
「恩に着る」
「それにしても、入学して半日も経たないうちに医務室送りになるだなんて、お元気な1年生さんですね」
二つ並んだ寝台の上の三治と男を交互に見ていた女子候補生は、どこか悲しげな顔立ちの目をニッコリと細めて笑った。
「この男が悪いのです、衛生兵殿。俺が純粋な賞賛を贈ったにも関わらず、曲解して卑屈なことを」
すかさず三治を指さした男が女子候補生に訴える。
彼女の前で悪者にされそうになったことに慌てた三治は奥歯を噛んで男を睨みつけた。
「何だと、一般市民一般市民と繰り返しおって。そういう傲慢な態度が......」
「あら、医務室でのケンカは禁止事項ですよ。せっかくこの朱雀隊の仲間になったのですから、仲良くしてくださいな」
女子候補生は三治と男の寝台の間に膝をついた。彼女は三治の左手と男の右手をそれぞれ握る。小さくて柔らかい手の感触に、三治は息を呑んだ。
「私、朱雀隊衛生科2年の宇野梗子と申します。階級は軍曹よ。新しい仲間ができて嬉しいわ。お二人のお名前は?」
ニコニコと柔らかい笑顔を向けた梗子に、男はウッと息を詰まらせてから咳払いをする。
「......樋口兼愛だ。本日付で朱雀隊に配属となった」
先ほどまでの大声が嘘のように小さな声で言った樋口兼愛は、ニコニコと頷く梗子の目線に耐えられなくなったのか天井を見つめる。
敵意のなさそうな梗子の丸い目が三治の方を向いて小首を傾げた。名を名乗れということだろう。
「澤山三治。そ、その......1年生、だ」
「兼愛さんと、それから、三治さん。どうぞよろしくお願いいたします。ほら、お二人も仲直りですよ。ね?」
梗子は握っていた三治と兼愛の手を結ばせて、強制的に握手をさせる。別に兼愛と仲良くしてやる義理はないのだが、彼女の前で揉めるわけにもいかないので仕方なく握手を交わす。
ウンウンと満足げに頷いた彼女の髪を纏める茜色の髪留めの先に付けられた鈴がチリンと鳴った。