第一章(参):神々のざわめきと代償の始まり
天と地、そして星と月の繋がりが、暴力的なまでの神威によって無理やり引き裂かれた。
その瞬間、世界の根底を支える理に、はっきりと亀裂が走った。
下界の人間たちにその災厄が及ぶことはない。
玄霄が放つ強大な神威が、理の破綻による余波を完璧に遮断しているからだ。
だが、世界の基盤そのものを書き換えたという事実――『正道が断たれた』という悍ましい衝撃は、神域の者たちの感覚を容赦なく撃ち抜いた。
星神・辰星の神殿が、怒りのあまり激しく震える。
正規の結びつきを断ち切られた辰星は、銀の牙を噛み締めながら、遥か天神の神域へと険しい視線を飛ばした。
「......あの馬鹿、本気で理をへし折ったな......っ!」
その衝撃は地神・翠嶺にも届いていた。
「玄霄さま...?!いったい何を...」
天神との繋がりが断たれ、薄く広がっていた浄化の神威が、跳ね返されるようにして返ってきた。
もう一度神威を広げようとも天神の領域に届くことはなく、霧散するように消えてしまう。
「正道が...」
小さく呟かれた翠嶺の声は、正道を失う恐怖に震えていた。
そしてさらに、深淵の底――世界を形作る深淵の闇の中で、眠っていたはずの三大老がふと目を開く。
「なんじゃ......?」
「天が大きく揺れておる」
「おお...なんと」
深淵から覗き込むように伸び縮みして天を仰ぐ三大老は大きく揺らぎ、断ち切られた正道を視てその綿ぼうしのような体をぶわりと膨らませた。
「我らが定めし天の神が......我らの小さき銀のひかりを閉じ込めてしもうた!」
「なんと横暴な」
「我らの縫い上げし世界を如何する」
老いた神々が驚き、底知れぬ嘆きを宿して世界を覗き込む。
「我らが小さき銀のひかりの窮地ぞ」
「なれど我らは...」
「手出しできぬか...」
世界の根源であるがゆえの理に縛られ、悲しそうに縮こまり、そして深淵のずっとずっと深いところへ潜っていく古き神々。
「許せ、小さき銀のひかり」
「我ら無力な深淵の闇なれば」
「せめてもあの憎き天神に我らが業を背負わせようぞ」
星の怒りと、大地の驚き。
そして闇の大いなる嘆き。
理を違えた代償として、禁忌を犯した張本人の肉体と魂を、即座に凄まじい反動が蝕み始めた。