第一章(弐):禁忌の略奪、あるいは理(ことわり)の破壊
「ちょっと暗すぎんか?」
「そうじゃのう」
「ちいさなひかりくらいならば在ってもよかろうよ」
あの小さな銀のひかりが生まれたのはそんな闇の気まぐれからだったと聞く。
最初から、あの光は世界の歯車などではなかった。
天・地・星が大地を固め、理を築き上げた遥か後から、ただ「暗すぎる」という理由だけで宙に放り出された、あまりにも頼りない、ちいさなちいさな銀のひかり。
闇の姿を見たことはないが、随分と傲慢で、それでいてなんという力強き神威か。
思い巡らせる自身の脳裏に、小さな銀のひかりのかつての姿が浮かぶ。
先代の月神が消えゆく間際に、ぽつりと零したひと雫を受け取って、毅然と前を向いて天に昇ってきたその姿。
かつて天に上がってきたばかりの頃の銀のひかりは、男とも女とも定まらぬ神の性を宿しながらも、その身なりはまるで少女のようにおぼつかないものだった。
風が吹けば消えてしまいそうな...そう思わせるほど小さかった。
そのかそけき光を、星神・辰星が面白がり、地神・翠嶺が慈しみ、そして――誰よりも冷徹に理を見つめていたはずのこの我自身が、無意識のうちにその視線の端に捉え続けてしまった。
(――そうだ。あのひかりは我らが庇護し、手元で囲わなければ、一瞬で世界に呑み込まれて消えてしまうような「儚い例外」に過ぎなかったのだ)
それなのに。
いつの間にか夜の巡りを統べる神として背伸びをし、星神の隣で「星産み」などという過酷な大役を背負おうとしている。
そう思考する中、ひどくどろりとした濁った声が木霊する。
『星神になど渡すものか。あの小さきひかりは我のものだ』
世界の理のままに、あの小さな光があの男の腕の中で燃え尽きていくなど、神としての誇りが、そして男としての矜持が断じて許さない。
もし壊れるというのなら、世界の破滅の果てではなく、この我の手の届く神域という名の檻の中で、自分が丸ごと抱え込んで壊してやればいい。
幾万通りの未来を焼き払い、我がたどり着いた結論だ。
『正道を何と心得る』
『世界を壊す気か、正気ではないぞっ、玄霄!!』
星神からは幾度となく神威の攻撃を受け、そのたびに打ち払ってきた。
迷いはない。
理の正道の果てに待つのが、あの小さなひかりの消滅であるならば――その未来を自らの手でへし折り、略奪してでも、この腕の中に永遠に縛り付けなければならない。
「......お前を失うくらいなら、...――」
自身のその声は存外、低く響いた。
それでも次の瞬間にはもう、我の姿は漆黒の神風と化している。
向かう先は、月夜の銀衣をまとう月神・皓月の神域――。
神々の根源の気まぐれから生まれた、愛おしくも危うい「小さな銀のひかり」を、我が物へと書き換えるために。