最終話-d 井尾玲編〜花火大会
花火大会、当日。
街行く人は皆振り返る、爽やかな水色の花柄。歩くたびに揺れる銀のポニーテール。翠のかんざしが、その結目を飾ります。
待ち合わせの時計の前には、見慣れた大男が立っていました。
「空玲須くん!」
浴衣の井尾玲は小走りに駆け寄ります。
「今日は、誘ってくれてありがとう。」
美しい、プリンセスの微笑み。
「?どうか、しました?」
「あ、いや。
こちらこそ、ありがとう。他の予定もあったんじゃない?」
見惚れていたことをごまかす空玲須に、井尾玲は真面目に答えました。
「...他の皆さんも誘ってくれたんだけど、空玲須くんと約束があったから、断っちゃった。」
そしてまた、プリンセスの微笑み。
美しすぎる。
よくまあ、この子を支えたもんだ...。頑張った、オレ。空玲須は心の中でつぶやきました。
会場に向かう道。井尾玲は金魚すくいの前で立ち止まりました。女の子が、パパに泣きついています。どうやら、金魚が取れなかったみたい...。
「空玲須くん、待っていてもらえますか?」
井尾玲の眼差しが、部活モードです。
井尾玲は目を閉じて、精神統一。
「...行きます。」
目を開けて、ポイを水槽に!
そして。
前振りの雰囲気とは裏腹に、ポイはすでに破れていました...。
「はぁ...、うまくいきませんね。」
がっかりしている姿さえ美しい...。
しかし。ここはオレの腕の見せ所です。
「ほい、ほい、ほい...。」
空玲須は、タイミングよく、金魚をお椀に掬い取っていきます。ポイはすでに破れていますが、隅に残った部分でまだまだいけます。
見ていた女の子に金魚の半分をあげて、もう半分は井尾玲に。
「めっちゃ、うまいんですね、空玲須くん。
あの手捌き。惚れ惚れしました。
...書道に興味ありません?」
楽しそうな笑顔も美しい...。
会場に座る二人。アナウンスが流れて、花火が打ち上がりました。
どどーん! パチパチパチ...
大きな花火。
ととととど、ぱぱぱぱぱ...。
カラフルな連発花火。
「ドーン。」
花火が上がるたびに、小さく声を上げる井尾玲。空玲須の視線に気がついて、
「ん?あ、うるさいですね。すみません、つい...。」
少し赤くなってかしこまる姿も美しい。
空玲須は、次の花火と共に、声を上げました。
「ドーン!」
井尾玲は嬉しそうに空玲須を見ます。
「ふふ...、ありがとう、優しいね。」
そして、井尾玲はそっと空玲須の手を握りました。
どどーーん!パッ!
パチパチパチ...。
最後の大きな花火が鳴り響きました。
帰り道。
二人とも、何も話しません。
ただ、手を握ったまま、歩きます。
銀のポニーテールと、金魚の袋が楽しげに揺れていました。
空玲須=ヘラクレスの青春は、まだまだ続いていくようです。
「青春ヘラクレス」完