最終話-e 尾牟派麗子編〜花火大会
花火大会、当日。
待ち合わせの時計の前では、尾牟派麗子が腕組みして待ち構えていました。
➖➖ほわわ〜(麗子の妄想world)➖➖
「空玲須、やっと来てくれた...。」
「あなたに見合う浴衣を選ぶのに時間がかかってしまい...。」
「いいのじゃ、そちさえ来てくれれば、わらわはそれで満足じゃ。」
「尾牟派麗子。ありがとう。」
ぎゅー!
➖➖➖➖ ほわわ〜 ➖➖➖➖
「尾牟派麗子、お待たせ。」
空玲須の声で、尾牟派麗子は「ほわworld」から帰還しました。
「やっと来たか。
では、よいぞ。ほれ!」
「?ん?」
現実の空玲須はまだ、ぎゅーっとしてはくれないようです。
「そちを呼んだのは他でもない。
生徒会行事で『花火大会』をしようと思うての。その下見じゃ。」
薄紫の鳥模様に、金のかんざし。可憐さと豪華さが同居する浴衣姿。
尾牟派麗子は、空玲須に説明しました。
「花火大会、見たことない?」
「うむ。
庭で上げさせたことはあるが、『会場で皆で見た』という経験はない。」
「な、なるほど...。」
空玲須は、金持ちの生活にドン引きです。
「アレは?」
会場へ向かう道で尾牟派麗子が指さします。
指の先には、女の子が持つわたあめ。女の子の顔より大きいです。
「ああ、わたあめ?」
尾牟派麗子は、空玲須にサポートされながら、初めて夜店で買い物をしました。早速わたあめを袋から取り出します。
「こ、コレは。」
そのまま口をつけた尾牟派麗子。わたあめは、唇に触れた途端、甘さを残して消えてなくなります。
「不思議なものじゃ。
甘くて、うまいがの。」
尾牟派麗子はわたあめを食べながら歩きます。空玲須は、その後ろについて行きます。
...まるで、仲の良い娘と父親のよう。
「ここに座るのか。
なるほど、会場自体は簡素で良い、ということじゃな。」
わたあめを食べながら、尾牟派麗子が座ります。空玲須も隣に座りました。
やがて、アナウンスが流れて、花火が打ち上がりました。
どどーん! パチパチパチ...
大きな花火。
ととととど、ぱぱぱぱぱ...。
カラフルな連発花火。
➖➖ほわわ〜(麗子の妄想world)➖➖
花火を見上げる尾牟派麗子の肩を、そっと抱く空玲須。
「なんじゃ。許可なく触れるでない...。」
「すみません、でもオレ...。」
「よい。このままでいてたもれ。」
「尾牟派麗子...。」
空玲須は尾牟派麗子の肩を強く抱きしめます。
ぎゅー
➖➖➖➖ ほわわ〜 ➖➖➖➖
どどーん!
次の花火の音がして、「ほわworld」から帰還した尾牟派麗子。空玲須の横顔を見上げます。
「綺麗ですね。」
視線に気づいた空玲須が尾牟派麗子に言いました。
どきっ。
綺麗なのは花火。それはわかっています。でも...。
尾牟派麗子は赤くなって、空玲須から目を逸らしました。
わたあめは、まだ半分くらい残っています。でも、尾牟派麗子の気持ちは、もうわたあめどころではなくなってしまいました。
「もしかして、わたあめ多かったです?」
食べ進まない様子を見て、空玲須は聞きました。
「う、うん...。ううん。」
曖昧な返事を返す尾牟派麗子。空玲須はにっこり笑って、尾牟派麗子の手からわたあめを取ります。
「オレが持ってますよ。手、ベタベタになるから。」
ずきゅーん。
なんたる優しさ...。
これは、何か褒美を与えねば...。
「...食べてよいぞ。」
「は?」
「そのわたあめ、そちにやる。
食べてたもれ。」
「でも...
『間接チュー』になっちゃいますよ?」
どどーーん!パッ!
パチパチパチ...。
最後の大きな花火が鳴り響きました。
「そちと来れて、よかったぞよ。
...夜店も、会場も、よく分かったしの。」
尾牟派麗子は、右手を差し出しました。
空玲須はふふ、と微笑んで、ひざまずいてその手を握ります。
「お褒めにあずかり、光栄でございます。」
尾牟派麗子も空玲須に微笑みかけました。そして、その手をちょっとだけ強く握り返します。
手を繋いでの帰り道。空玲須の片手には、食べかけのわたあめ。
尾牟派麗子の心は軽やかです。
空玲須=ヘラクレスの青春は、まだまだ続いていくようです。
「青春ヘラクレス」完