第8話 阿卯毛明日矢のプール掃除②
空玲須の視線に気づいて、女鹿蘭が言いました。
「空玲須、ちゃんと掃除してね。間に合わないと『全員グラウンド10周の刑』なんだから。」
「え、あ、うん。ちょっと見とれてただけだから。」
空玲須の言葉に、女鹿蘭はムッとした表情をしました。
「...あ、そう。どうせ出井亜寧羅でしょ。全くもう、男ってこれだから...。」
「いや、お前に見とれてた。楽しそうだなって。」
女鹿蘭の顔はみるみる真っ赤になって、
「ち、ちょっと何言ってんの。
早く掃除しなさいって!」
バーン!
プール中に響きわたる音を立てて、女鹿蘭は空玲須の背中を平手打ちしました。
水しぶきをかき分けて進むモップ。軽やかなステップでそれを操る素足。眩しい笑顔の水着。
男子は出井亜寧羅にうっとりです。女子は皆ジト目です。
...けれど、ここで大問題が。
あと十分しかありません。気づいた女鹿蘭や「真面目な」生徒たちは焦り始めました。
「やばいって。あと十分。まだ半分も終わってないよ。」
空玲須は考えました。水を流して汚れを取るなら、もっと大量の水を流せば...。
少しの頭痛を抱えながら、空玲須はプールサイドを見回しました。
「このハンドルは、バケツに水を汲むヤツのデカいヤツだな。よし。
フンぬッ!」
空玲須がプールの水栓を力一杯捻ると、水栓のハンドルは吐水口ごとポッキリと取れてしまいました。
どじゃーっ!
たちまち吹き上がる水。プールサイドを越えて、プールにどんどん流れ込みます。
きゃーッ、うわーッ!
生徒たちの叫び。水はどんどんどんどん床の汚れを流していきます。
「しゃあッ!」
流れる水の上を滑るように、華麗なモップさばきを披露する出井亜寧羅。見とれる男子たちは次々と水に足を取られ、流されます。
女鹿蘭たち「真面目な」生徒たちは、体操着までびしょびしょにして、一生懸命床を磨き上げました。
キーンコーンカーンコーン。
授業終わりのチャイムがなって、阿卯毛明日矢先生の前に生徒たちが整列しました。
水は止まることなく、プールの汚れを押し流し続けています。
水圧が変になったせいか、目洗いの水道からも水が噴き出しています。
阿卯毛明日矢先生は、溢れ出す水を頭から被りながら、苦い顔をして言いました。
「プールは綺麗になった。よって、「グラウンド十周」はなしだ。」
生徒たちはびしょびしょのまま、歓声を上げました。
そこへ、阿卯毛明日矢先生の声が響きます。
「ただーし!」
全員そこに固まって、次の言葉に耳を傾けました。
「水栓を壊した者!前に出ろ。」
阿卯毛明日矢先生は、前に出た空玲須に一言、こう告げました。
「水栓設備と、水道代。
...お前が弁償な。」