第11話 出井亜寧羅〜経鳥栖③
出井亜寧羅の周りの水流が渦巻き、彼女をプールの奥底へと引きずりこんでいく...。
これぐらい!出井亜寧羅は水面目指して泳ぐ。引き込む流れは思ったより強い。それでも彼女は少しずつ少しずつ、水面へと近づいていった。
「出井亜寧羅!」
水中では聞こえるはずのない叫び。たくましく、力強い手のひらが伸びる。
「空玲須くん!」
出井亜寧羅は迷わずその手を取った。
命綱のホースをたぐって、何とか陸に上がった二人。プールはさらに波打ち、時折黒い背鰭や尾鰭が水面を打つ。波は高いままだ。
「あれは、経鳥栖部長...。
確かに聞こえたの。水中で、『出井亜寧羅〜』って。部長の声だった。」
「『怪化』か。経鳥栖...!?」
ケートス。軽い頭痛を覚えながら、空玲須はプールを見つめた。怪化した本人は見えない。そして、今こうしていても、経鳥栖はプールからは出てこない...。
「...空玲須くんは、水中では力が出せないし、とにかく経鳥栖部長を水から出さないと命が危ない。」
「やつはおそらく水を操る力を持っているけど、その力は陸には及ばない。だからプールから出てくることがない。」
二人は自分の考えを言い合った。そして、
「プールから出そう。」
同時に言って、二人は顔を見合わせた。
「ア、アハハッ!
そろっちゃった!」
「あ、ああ。」
「あたしがおとりになって、水から身体を出させる!」
ガッツポーズの出井亜寧羅。しかし、空玲須は心配だった。
「引き込まれるかもしれない。危険すぎる。」
何より、今の出井亜寧羅は自信がありすぎる。空玲須はそう思った。
出井亜寧羅は、とてもイイ顔で空玲須を見つめた。
「大丈夫。絶対、大丈夫。
これは、あたしの願いだから。」
軽い頭痛...。どこかで聞いたことのある言葉。
「空玲須くんのこと、信じてるよ。
アイツが飛び出したら、絶対捕まえて!」
他に、方法はないだろう。空玲須は頷いた。
高鳴る波の中、出井亜寧羅はプールサイドに立つ。足が震える。
波が勢いよく打ち付ける。自分を引き込むつもりなのだとわかる。
怖い、と、出井亜寧羅は思った。
だけど、振り返ることはできない。振り返ってしまったら空玲須くんはきっと止めてくれちゃう。行くしかないんだ。
肩に大きな手が置かれた。
「大丈夫か?怖いのなら...。」
空玲須の手。大きくて力強い。さっきも自分を引き寄せてくれた...。
出井亜寧羅は、空玲須の手に自分の手を重ねた。
「ありがとう。勇気出た。」
大きく息を吸い、荒波のプールに飛び込む出井亜寧羅。たちまちその姿は波間に消えていく。
「応えなければ、な。」
空玲須は、そう言って、ホースリールのホースを全て引き出した。