第23話 尾牟派麗子〜目堂冴⑤
目堂冴が追ってくる気配はありません。
「厳密には、わらわは目堂冴を『見た』。窓ガラスに映る、黒い影と蛇の髪をな。それでも石化しておらぬ。
つまり...。」
二人は、生徒会室に入りました。ドアを開けると、正面に「会長」の札がある席。そしてその後の壁には、天井まで届きそうな大きな姿見があります。
「わらわが会長になったとき、おじい様が設置してくださったのじゃ。」
...どう考えてもデカ過ぎる。高校生としては小さな尾牟派麗子なら、上半分以上が余ってしまう...。
空玲須は、思わず呟きました。
「デカすぎね?」
尾牟派麗子は、姿見を撫でながら言います。
「わらわが、もっと大きく成長するようにという、おじい様の願いが込められておるのじゃ。」
いや、それは自分の家でやることなんじゃないかな、と空玲須は思いましたが黙っていました。
「コレなら。」
尾牟派麗子は、空玲須の手を離し、目を見つめました。
「そちならば、分かるであろ?」
見ると石化。ガラス越しはオッケー。鏡...。
空玲須は頷き、拳を空中に出します。尾牟派麗子が拳をそれに合わせました。
生徒会室を出た二人。尾牟派麗子は、手鏡を手に辺りの様子を伺います。目堂冴はどうやら、この辺には来ていないようです。
「ここに来てもらわないと、作戦がおじゃんじゃな。」
尾牟派麗子はしばらく考えて、何か思いついたようです。
「呼び出すとするか。
生徒会室の放送を使ってな。」
空玲須は、黙って尾牟派麗子のすることを見守ることにしました。自分に何かの記憶があるのかないのか分かりませんが、今回は頭痛もしないし、尾牟派麗子なんて名前も...。
尾牟派麗...オムパレー?不思議と言いやすい名前に思えてきました。
そんなことを考えているうちに、尾牟派麗子は、放送器具のスイッチを入れて話し始めました。
「...空玲須。そちの思いはわかった。
しかし、悪いがの...。
その想いには、わらわは応えられぬ。」
「え?」
オレの想いって何?空玲須は思わず声を出してしまいましたが、尾牟派麗子は構わず続けます。
「わらわとそちは、違う学校に通う者。
...この関係は、長くは続くまい...。」
プツッ。
尾牟派麗子は、放送器具のスイッチを切りました。なぜか少しぼぅっとした表情です。
「意味わからないんですけど、コレでいいんですか?」
尾牟派麗子は、仕方ないのう、という目で空玲須を見下しました。
「ゴシップに興味を持つのは、全人類の本能じゃぞ。見ておれ、必ずやつは来る。」
しばらく待つ二人。尾牟派麗子は、会長席には座らず、段に腰掛けて鏡越しにドアを見ていました。
空玲須は、尾牟派麗子の大きなツインテールロールが小刻みに震えているのに気がつきました。
「いつ来るか分からないものを待つのは不安だな。」
声をかける空玲須。尾牟派麗子は少し驚いた顔をして、
「...そちは、やはり鋭いの。
そうじゃ。わらわは今、怖いのじゃ。」
そう言って、窓の外に目をやりました。
「オレが、何とかします。
尾牟派麗は安全なところへ...。」
空玲須の申し出に、尾牟派麗子は首を振った。
「今更、逃げることもできまい。
生徒会室に続く階段は一つ。
いや、それよりも、わらわが客人を残して逃げるなど、あってはならぬことじゃ。」
空玲須は、尾牟派麗子の肩に手を置いた。「無断でわらわに触れるとは...。
じゃがな。
少し勇気が出た。」
尾牟派麗子の瞳は、少し潤んでいるように見えた。