第24話 尾牟派麗子〜目堂冴⑥
生徒会室のドアの隙間から、黒い影が滲み入るのが見える。
空玲須は、ドアの蝶番側に立つ。飛びかかるのは遅れるが、誤って「目堂冴を見てしまう」危険度は下がる。
尾牟派麗子は、会長席の後ろの大きな姿見の方を向いて座った。
目を合わせて頷き合う二人。空玲須はドアを開けた。
尾牟派麗子は、鏡越しに目堂冴を見た。
黒い影を纏いながら、ドアの向こうに立つ目堂冴。髪は、無数の蛇となり鎌首をもたげ、顔や首は蛇のような鱗におおわれていた。
「目堂冴さん、いつもの眼鏡はどうしたのじゃ?」
鏡を見たまま、尾牟派麗子が声をかけた。
「眼鏡...。眼鏡が好きって言った...。」
言葉と共に生徒会室に踏み込む目堂冴。その首には、鎖のついた眼鏡がぶら下がっていた。
「入ったぞ!」
尾牟派麗子の声で、空玲須は「目を閉じたまま」目堂冴につかみかかった。
腕に細い物が刺さる感覚。多分、爪。頬もチクチクするが、特に致命傷にはなりそうにない。空玲須はそのまま目堂冴を床に押し付け、締め上げた。獅子夫の時とは違う、冷たく硬い鎧のような感覚。目堂冴はもがくが、この程度の力なら負けることはない。そのまま力を強める。
...おかしいな。
もう、かなり長く締めている。獅子夫でさえ、こんなに長くは耐えなかった。
「『怪化』はまだ解けないのか?
これ以上強く締めると、目堂冴さんの身体が...。」
空玲須が叫んだ。
尾牟派麗子は、会長席から立ち上がる。
「目堂冴さん。
何があって、そのようになったかは、わらわには分からぬ。しかし、何があろうが、そなたはそなた。
有能な事務員を失うことはできぬのじゃ。学園も。わらわも。」
目堂冴の動きが止まった。尾牟派麗子が言葉を続ける。
「過去は変えられぬ。
しかし、未来なら変えられる。
皆が幸せになる未来。そういう学園が作れるよう、今一度、わらわに力を貸してくれぬか?」
しかし、「怪化」が解ける気配はやはりなかった。
「ふむ、動かぬようになったな。今じゃ!」
「...
何が、今!?」
「ほれ、光がブワーっ!とか、『ひっさぁつ!!』とか、なんかあるのじゃろ?『怪化』を解く技みたいな。」
空玲須は、今までそんなことをしたことがない。
「オレは締めたり、潰したり、引っ張ったりしか、したことないぞ!」
空玲須の言葉に、尾牟派麗子は珍しく冷や汗をかいた。
「...むむう。しからば、どうしたものか...。」
思い出す。目堂冴の行動、言葉...。鏡で目堂冴を見る。蛇の髪、鱗の肌、眼鏡のない...。
「空玲須。首にかかる鎖を引け!」
鎖。細いが、これのことか?空玲須は、目堂冴を床に押さえたまま、片手で鎖を引いた。
プチ。鎖はあっけなく切れ、軽いものが床に落ちる音がした。
「おお!
影が集まっていくぞ。」
尾牟派麗子の実況。しばらくして、目堂冴は元の事務長の姿に戻った。
「元に戻った。もう、目を開けてもよいぞ。」
空玲須は目を開けて、立ち上がりました。
目堂冴の上に、黒い影が浮いています。床には、鎖の切れた眼鏡が落ちていました。
空玲須はいつも通り影を持って行こうとして、レジ袋をポケットから出そうとしましたが。
「あ、レジ袋、ズボンのポケット...。」
「レジ袋とはなんじゃ?」
空玲須は、尾牟派麗子に説明しました。
「ビニールの薄い袋なら、ほれ。
イベント用の靴袋じゃ。」
尾牟派麗子は、副会長席の後ろのロッカーから、レジ袋を出してきました。
空玲須が、黒い影を集めたその袋には。「聖リディア女学院」の校章がどーんとプリントされていました。