第25話 「オムライス」
空玲須と尾牟派麗子が会議室に戻った時には、もう、午後四時を回っていました。
教頭先生は、石化が解け、元通りになっていました。
「わらわは、他の三人の部屋の鍵を開けにいくぞよ。
そちは、着替えて待っておれ。」
「でも、着替えたら部屋のドアを開けられないぞ。」
尾牟派麗子は、はっと気づいた顔をして、空玲須にネームタグを手渡した。
「職員が持っているのと同じものじゃ。それを持っておれば、警報が鳴ることはない。」
...初めから、それでよかったんじゃ...。
空玲須が言おうとした時には、すでに尾牟派麗子の姿はありませんでした。
空玲須が着替えて戻ると、奥に座る尾牟派麗子の隣に白いエプロンに高い帽子を被った男...が立っていました。
「空玲須。今回はご苦労だった。
報酬は後日、契約書に従い手続きをする。
...それとは別に。
これは、わらわの気持ちじゃ。
好きな料理を頼め。」
尾牟派麗子は、空玲須に微笑みました。
見たことがあります。あの帽子は「しぇふ」です。美味しい料理を作る人です。そう思った途端に、空玲須は猛烈にお腹がすきました。
「でも、オレ、飯持ってきてるから。
ここで食べてってもいい?」
「ほほう。『お弁当』じゃな。
わらわは、『お弁当』を食べたことがないのじゃ。後学の為、見せてもらってもよいかの?」
尾牟派麗子は席を離れ、空玲須の弁当をのぞきました。時間が経ったので保冷剤はもうぬるいですが、お弁当は大丈夫そうです。
蓋を開けると。
黄色いキャンバスに「ガンバレ!!」とケチャップの文字。女鹿蘭の応援がそこにありました。
「これは、オムレツじゃな。」
空玲須は人差し指を振って、チッチッチッとしました。
「女鹿蘭のオムライスは、うまいんです。」
尾牟派麗子のお腹が、ぐぐぅと鳴ります。
「ちょっと、食ってみます?」
尾牟派麗子は、一瞬クッという表情をして、それから言いました。
「...いや、いい。
そちの分がなくなるじゃろ。」
「一口ぐらい平気ですよ?」
少しの沈黙。
尾牟派麗子が口を開きました。
「そ、そちがそれほど言うのであれば、食ってやろうぞ。ほれ、それを貸すのじゃ。」
空玲須がスプーンを渡すと、尾牟派麗子は、オムライスの端をすくって口に運びます。
「...❤️」
さらに一口。もう一口...。みるみるオムライスは減っていき、弁当箱の大半が空間になって、しまいました。
「う、うむ。
少し、食べすぎたの...。
じゃが、それほどに美味かった。
これ!
その方、この『オムライス』を作れるか?」
スプーンを置いた尾牟派麗子は、照れ隠しにシェフに聞きます。
「いいっすよ。オレ、残りを食べるんで...。」
と、スプーンを持った空玲須に、尾牟派麗子が厳しい口調で言いました。
「待てぃ!
...そのスプーンは、わらわが口をつけた物じゃ。そして、この部分。」
尾牟派麗子は、食べ進めたオムライスの切れ目を指差しました。
「ここに触れることはならぬ。
...『間接チュー』防止じゃ。
新たなスプーンを持て!」
尾牟派麗子は手を叩いて召使を呼びました。
「めんどいから、もう、全部食べてください...。」
空玲須は、オムライス弁当を尾牟派麗子に全部食べてもらいました。