日常
「家が見違えるほど綺麗になっていますね。お嬢さんが?」
居間で俺がグロッキーになっている横でニッタがスミレちゃんに家の様子を聞いている。そんないうほど汚れてたか?
「あ、はい。お世話になっているお礼に掃除と......色々させてもらってます」
「なるほど、道理で先生が社会人らしい恰好をしていると思いました」
「どういう意味だコラ」
自宅で働いてるんだからラフな格好なのは仕方ないだろ。
「突然訪ねたのに先生がちゃんとプレスされた服を着ているので、よもや合コンにでも行く予定なのかと思いましたよ」
「なんでちゃんとした格好で行くのが合コンなんだよ!?」
もっと他に......ないな、たしかに自由業でずっと家にいるから出会いがない。いい加減結婚とか考えなきゃいけない時期だが親がいないので急かされることもなく、このままズルズルと独身でいそうなんだよなぁ......。
(嫁さんか......)
「......?」
ちらりと横のスミレちゃんを見ると、思わず目が合ったので慌てて反らすと不思議そうに首をかしげる。
イヤイヤ、何考えてるんだ俺は、中学生だぞ。年齢差もヤバイだろ。
「掃除に洗濯......もしや炊事も?」
「はい。大したものは作れませんが、セイヤさんいつも美味しいって言ってくれます」
十分大したものなんだがなぁ。スマホを渡して使い方を覚えてからというもの、レシピを調べるのが楽になったのか格段にレパートリー増えたんだよな......。
毎日今日はどれ作ろう何試そうって買い物に行くと楽しそうで、そんなスミレちゃんの料理に俺はすっかり胃袋をつかまれてしまっている。
住むところが見つかるまでいるといいとは言ったが......、正直スミレちゃんが出て行った後のこと考えると憂鬱になる。このままずっと見つからないといいのに、なんて酷いことを考えてしまう。
「これではどちらがお世話になっているかわかりませんね」
「それは俺も申し訳ないと思ってる」
寝床を与えているだけなのに家の家事全部を任せるなんて働かせすぎだよな......。亭主関白の旦那じゃあるまいに。
もっとお礼をしたいんだがスミレちゃんは遠慮がちで何も欲しがらないから難しいんだよな。まぁ実はこっそりお礼をしているんだが。
「そんなことないです! 家事するの凄く楽しいですし!」
「甲斐甲斐しいですねぇ。どうです? このままお嫁さんに貰ってしまっては?」
「ひゃっ!?」
「ばっ! 中学生だぞ!? お前なに言ってんだ!」
「ははははは」
コイツ真顔で冗談言うから始末が悪い。いや、いつも真顔だが。
「ちなみに寝床はどの部屋で?」
「座敷をお借りしています」
「ということは押し入れの布団を使っているんですね。それはよかった、先日経費で買い替えておいたんですよ」
「お前いつのまに......」
かび臭いはずの布団にしてはやけにスミレちゃんが満足げだなと思ったが、ニッタのヤツが買い換えてやがったのか。
「僕が泊まるのにあんまりにもでしたからね」
「えと、ごめんなさい。そうとも知らないで勝手に使ってしまって」
「いえいえ、むしろお嬢さんが使ってくれてよかったです。僕も滅多に泊まりませんしね。また新しいのを買ってきますよ、経費でね」
「待てお前、また泊まる気かよ」
「こっちで仕事をするのに都合がいいんですよ、まだ部屋も空いてるでしょう?」
「ふてぶてしい奴だなぁ」
猫といいコイツといい。ウチの家を何だと思っているんだ。
「あ、ごめんねナツメちゃん。うるさかったかな?」
噂をすれば机の下で寝てたらしいナツメが這い出してもの言いたげにスミレちゃんの膝に乗る。コイツもスミレちゃんにすっかり懐いたな。
と、何気なくニッタの方を見るとその様子にえらく驚いた様子だ。なんだ? たしかにお前には懐かないが、そんな驚くような光景か。
「コレは......当てが外れましたね......」
「は?」
「当て」ってなにがだ?
「いやてっきり、ここに居ついてた黒猫が人間になって先生に恩返しをしていると思っていたのですが──」
おまえは、なにを、いっているんだ。
「よくある話じゃないですか、動物が人間になって嫁に来るなんて」
「いやよくはないだろ、ていうか全くないわ。それ童話かラノベとかの話だろ。しかもスミレちゃんに似ても似つかないわ」
「たしかにふてぶてしいこの猫が人間になるならもっとこう、ツンデレ的な感じになるはずですね」
「なんで後半部分だけ納得してんだよ」
冗談なのか本気なのか、本気だとしたら出版業界の連中は創作に触れ過ぎて頭がどうかしてるのか?
「あはははは」
ニッタがあまりに馬鹿なことを大真面目に話すものだからスミレちゃんが可愛らしく笑っている。
ん......、なんだ。笑っているスミレちゃんはとても可愛いんだが......。なんか他のヤツの話で笑ってるのは......もやもやする。
「ファンタジーはいいから仕事の話をするぞ」
なんだかよくわからない感情が気持ち悪いので、俺はいい加減コイツを追い出すのに仕事の話を進めることにした。
セイヤさんたちがお仕事の話を始めたので私はナツメちゃんをリビングに連れて行き、お茶を汲んでくることにしました。
「どうぞ」
「ありがとな」
「ありがとうございます」
客人用の良い茶葉を入れて二人の前に置く。このまま私もお邪魔にならないよう退散するべきなんだろうけど、今日は初めて見るセイヤさんの顔が沢山だから。もっと見ていたいな。
「あの、お邪魔でなければ私もお話聞いていいですか?」
「なんだ? 別に面白い話はしないと思うぞ。特にさっきみたいな面白発言は」
なんだかセイヤさんが露骨に不機嫌そうに言います。ニッタさんの話面白かったのに、どうしたんだろう? やっぱりお邪魔かな......。
「セイヤさんのお仕事しているところを見ていたいです」
「それこそ面白いモノでもないと思うが......」
「可愛らしいこと言ってくれるじゃないですか。僕は構いませんよ」
「俺も嫌とは言ってねぇよ」
どうやら承諾は貰えたらしい、私は軽くお辞儀してセイヤさんの隣に座ります。
「それで......、弟子育成プロジェクトだって?」
「はい、今どきの作家は弟子を取りませんし、弟子入りなんかもしないでしょう?」
「そりゃぁなぁ、学ぶなら独学でいくらでもできるし、執筆に手伝いもいらん。職人じゃあるまいし、正直弟子入りの意味がわからん」
今と昔の純文学業界の違いは知らないけれど、やっぱりそういう昔の風習? みたいなのも廃れてるんだなぁ。
「現在、わが社で採用を検討・様子を見ている若い作家が数名いるのですが、これをそれぞれわが社の作家たちに弟子入りさせて、競わせよう。という趣向です」
「オイオイ、ひよっこの面倒をマンツーマンで見ろっていうのか?」
もし引き受けたらお弟子さんがこの家に住むのかな? それはなんか......やだな。居候の私が言えることじゃないけれど。
「まさか。弟子入りと言ってもそんな本格的なものじゃありませんよ。弟子に原稿を上げてもらって、師の方に書き加えやアドバイスを繰り返して、一作仕上げて貰う。という形です。つまり師弟という名のプロデュースですね」
「なるほど、師の方も自分のプロデュース力を競うのか。あんまり適当な指導はできない訳だな」
「はい。ただ、対抗心の強い先生方ですから、今は参加を決定している先生とお声をかけさせてもらっている先生は伏せさせていただきます」
やっぱり同じ出版社内でも対抗意識バチバチだったりするんだなぁ。それが良い作品を生むことになるんだろうけど。
「セイヤさんはライバルの作家さんとかいるんですか?」
思わずセイヤさんはどうなのかと聞いてしまう。セイヤさんにはあんまり高いプライドとか感じないけど、やっぱり作家として競争心はあるのかな?
「俺がライバル意識向ける作家も、俺をライバル意識する作家もまぁいないな」
「先生の作風は独特ですからね」
「地味なだけだろ」
なんか安心したようなやっぱりというか。セイヤさんのお話は、変に「熱」がないというか、誰かに対抗意識燃やして書いてるようには見えないものなぁ。
「あ、ごめんなさい。お話のお邪魔して」
「構わんよ」
っていけない、お仕事のお話をお邪魔してしまった。
「それで、その弟子とやらはこちらが選ぶのか? それとも弟子が希望するのか?」
「こちらで弟子と師匠、向いている組み合わせを選ばせていただきます」
「まぁ、そうなるだろうな。希望だと人気作家に集中するし、俺なんて誰も希望しないだろう」
「そうでもないですよ。予め希望する師のアンケートをとったところ、先生は結構な人気でしたよ。あ、コレはオフレコでお願いします」
「はぁ? 冗談だろ?」
「アンケートによると先生を希望する理由は「優しそう」「我が強くなさそう」「うるさくなさそう」といった感じですね」
うーん、実に現代人。
「上昇志向のない若モノだな......、厳しいのがイヤなだけじゃねぇか」
「セイヤさんのお話とても優しいので、優しい作家さんだと思われてるんですよ! 実際メチャクチャいい人ですし!」
「そう言われたら悪い気はしないけどな......」
まんざらでもないらしくセイヤさんが照れてる照れてる!
「僕にも優しくしてくれればいう事なしなんですがね」
「お前はまず自分の行動を見直せ」
セイヤさんが私とアリスちゃん以外と話すところなんてほとんど見ないけど。この二人、なんだかんだ仲がいいんじゃないかな?
「それほどお手を煩わせませんし、報酬もいいですよ」
生々しい金の話を聞くと、逆にやる気が削がれるんだよなぁ......。まぁ食いぶちが増えたからには金は稼いでおくに限るんだが......。
といってもスミレちゃんが来てから食費が格段に減ったから実は毎月の支出はほとんど変わってないどころか良くなってるんだけどな。
「でもなぁ、弟子になるならちゃんと賞を貰った作家の弟子になるべきじゃないか?」
正直、気が乗らない。“プロ作家なのに何の賞も貰ったことがない”俺のコンプレックスはこういう話があるたびに鎌首をもたげる。
「まだそんなこと気にしてるんですか?」
「あれ? ナリナリ先生のプロフィールに『路傍の花のように』で新人大賞貰ってデビューしたって書いてますよね?」
そうなんだよな、表向きはそういうことになってるんだよな。それが、俺が自分のデビュー作を嫌う理由だ。
「あの作品は大賞どころか選考落ちだよ」
「え?」
「先生、その話は......」
「もう時効だろ」
ニッタのヤツは黙っておきたいらしいが、俺は『大賞を取っているのに選考落ち』の経緯を話す。
「その年の二回目の新人賞で大賞の盗作が発覚した。それで俺の『路傍の花のように』が急遽大賞に挿げ替えられた」
「それっておかしくないですか? 普通は次点が繰り上げ当選になるんじゃ。しかも選考落ちを大賞に繰り上げたっていうんですか?」
そうなんだよな、普通はそうなるはずなんだが、あの時はちょっと色々と事情があった。
「その大賞の盗作元が、その年の一回目の新人賞で選考落ちした俺の『路傍の花のように』だったんだよ」
「えぇ!?」
そりゃ驚くよな、俺だって連絡が来たときは驚いたわ、その年の二回目は応募してないのに「アナタが大賞です!」って、意味わからんかったわ。
「一回目の選考落ちの盗作を大賞にしたなんて、大賞を決めた評論家様方すりゃ大恥もいいところだ。半年前とはいえ雁首揃えて誰も「内容が同じ」事に気が付かなかったんだからな」
「頭のいい方々はプライドも高い。そこで編集長が評論家様方のメンツを守るため手を回し、初めから『路傍の花のように』が大賞だったという事になりました、選考落ちはタイトルも発表されてませんでしたからね」
元々評論家連中の事なんて好いちゃいないが。あの一件でますます嫌いになったね。おかげで大賞になった喜びなんてこれっぽっちもなかった。
「ちなみに俺の作品の盗作で大賞を取ったのがそいつな」
「はい、僕です」
俺が当て付けて指さしたというのに、ニッタのヤツは真顔で悪びれもせず自分です、と手を挙げる。
「えぇぇ!? 盗作した人を担当にしてるんですか!?」
まぁ、驚く気持ちもわかる。盗作なんて普通の作家は怒って当然だろうからな。
「デビュー作の担当がいけ好かないヤツだったってのもあるんだが......」
勝手にフリガナつけて、おかげで俺のペンネームは「ナリナリ」だ、ナリナリはねぇだろ、児童文学の作家じゃねぇんだぞ......。
「選考落ちするような俺の作品を書き換えるだけで大賞を取るようなやつなら、俺の話をもっと良くしてくれると思ってな」
「あぁ、なるほど......」
いやマジで、盗作品も読んだけどビックリしたよ。俺より才能あるんじゃないかコイツ?
「だというのにコイツ、俺の原稿にほとんど手を付けないで製本しやがる」
「あれは僕が評論家方の好みをよく知ってたからできた芸当ですよ。あんな遠回しで難しく、過剰な装飾にまみれた読みづらい文体、読者受けはしません」
「私も今の読みやすい文体の方が絶対いいと思います!」
評論家受けすりゃぁ、勝手に世間が持ち上げてくれてるもんなんだけどな......。いや、最近はそうでもないか?
「とにかく。そういう訳で俺は、世間的には大賞を取っているが、本当は賞を貰ったことがないんだよ」
昔の俺はよくあんなもので大賞狙って応募したよな......我ながら若かったねぇ。
「大賞の公約でデビューしてこうして作家を続けているが、その後に何にも賞を貰えてないのが俺の地力って事だ」
「そうだったんですか......。でもでも、賞を持ってるとか持ってないとか関係なく、私はナリナリ先生の作品を好きになりましたし! どのお話も大好きですよ?」
「あぁ、そうだな......」
そうなんだよ、俺は、君のそんな無意識の応援に、作家として挫折した時に救われたんだ。貸出カードに書かれた君の名前が、なによりの賞だったんだ......。
まさか、それが拾った少女だとは思いもしなかったが。
「そうですよ、賞を持っていなくとも、先生のプロとしての実力は僕が保証します」
「そうだな......、スマン。ちょっと考えさせてくれ」
書く分にはいいんだ、スミレちゃん一人のためになら書き続けられる。
だが、批評を付けたり、選考したり、師として振舞うとなるとこのコンプレックスがどうしてもな......。
「先生に弟子入りを予定する作家のとりあえずの下書きです、目を通して見てください」
「おう」
俺はニッタのヤツからUSBメモリを受け取ると、二階の自分の部屋へと向かった。
落ち込むように居間から出て行ったセイヤさんを見送って、二人きりになった私は担当さんに向き直る。
「あの......担当さん、いいですか?」
「はい、なんですか?」
今の話で一つ大きな疑問がある。セイヤさんは何故自分の作品が盗作されたのかを話さなかったけど......。
「どうして、セイヤさんのお話を盗作したんですか?」
普通に考えるなら、この担当さんはセイヤさんのお話を盗作した悪い人なんだけど......、とてもその罪悪感からセイヤさんの担当をしているようにも見えない。
多分、私の予想だとこの人は......。
「やっぱり気になりますか」
「はい」
担当さんは少し考えてから告白するように話し出す。
「僕はね、先生のファン第一号なんですよ」
「やっぱり......」
「ふふ、わかりますか」
担当さんのセイヤさんへの態度は、ふてぶてしくはあるもののどこか敬意のようなものを感じたもの。「自分が担当しているから売り込んでいる」みたいに、仕事だからって感じはしなかった。
「僕が編集者として初めての仕事が応募作品の確認と整理でした、そこで初めて先生の作品に出会いました」
担当さんは当時を懐かしむように、初めて作品に出会った感動を思い出すように語る。
「先生のお話は、難しもなく、大きな感動もなく、なにも特別なことはない。本当に何気ない幸せを描いたお話で。僕はその優しいお話に一目惚れしました」
担当さんの言葉に、私も無意識にうんうんと、頷いてしまう。ファンとして、やっぱり同じ気持ちだから。
「だけれど、先生のお話はご存じの通りあまりにも平坦なんです。評論家は作品のインパクト・言葉の難しさ・作品の難解さ・読者を裏切る展開・前例のないもの・新しい手法。そういったものを評価します」
そしてそのどれもが、ナリナリ先生の......セイヤさんのお話にはないものです。
「先生の作品は評論家からすれば箸にも棒にも掛からないもので、選考落ちされたのが本当に悔しかったんです」
「......わかります」
「だから、二回目の新人賞で先生の作品を元に彼らが好む言葉遣い・言い回し・難解な表現で彼らに媚び媚びの文体に書き換えてやったんですよ。そしたら今度は大賞になったじゃないですか」
簡単そうに言ってるけど、それを実際やってのけてホントに大賞を取るのは凄いと思う......。
「なので、そこで盗作だと発覚させました」
「あ、やっぱりご自分で」
そんな気はしてたけれど。やっぱり自分でバラしたんだ。
「でも、それでよくクビにならずに済みましたね?」
編集者が応募作品を盗作だなんて、出版業界にいられなくなりそうな事件だと思うけれど。
「言ったでしょう? 編集長が“メンツを守るために手を回した”って。この事件は内々に処理されたので、盗作犯が僕だと知っているのは先生と、父さんの編集長だけです」
「編集長がお父さんで、グルだったんですか!?」
親子でセイヤさんのためにそこまでやってくれたんですか!? このファンただモノじゃないですよ!
「ふふふ、編集長は先生のファン第二号ですからね」
「じゃぁ、やっぱり作家続けてるのはセイヤさんの実力じゃないですか!」
こんな有能な担当に好かれるなんて、編集長に好かれるなんて、セイヤさんの作品の実力に他ならないです。
「そうなんですけど、あの人は大成しない事にどうしても作家としての地力を感じているようですね」
「自分は大きな感動のない作品を書いてるのに......」
「矛盾しているようで、そこが作家のジレンマなのかもしれませんね」
うーん、創作って難しい......。作家さんて凄いなぁ。
「でもでも、セイヤさんはそんなに悩んでいるのに作風を変えないんですね」
「デビューした経緯が経緯なので、評論家受けにせよ読者受けにせよ、作品に媚びを入れるのをためらうみたいですね」
「それがセイヤさんの良いところだと思います!」
「ですね!」
担当さんと意気投合して、同じファンとしてセイヤさんが戻ってくるまで作品の好きなところ語り合いました。
結局、セイヤさんは一度仕事を断ったのだけど、担当さんが「じゃぁ泊まります」と言うと根負けしたのかお仕事受けてました。
なんでも前は5日も居座られたんだとか。叩き出さないセイヤさんもお人よしが過ぎると思うなー。
それはスミレちゃんがウチに住むようになってから3週間ほど経った頃。
「スミレちゃんの親友である君に相談があるんだが」
「親友じゃないよ、大親友。あるいはズッ友!」
スミレちゃんがお風呂に入っている時間、絶対に聞かれてないであろうタイミングに俺はアリスちゃんに電話した。
「ていうかなんで電話? LINEでいいじゃん」
「証拠を残したくない」
「わーお、何か企んでるー!」
スミレちゃんが勝手に人のスマホを覗くとは思えないが、一応念のためだ。それに俺はスマホで文字を打つのが早くないので電話のが手っ取り早い。
「それでだ、実はスミレちゃんにお小遣いを上げたいんだが──」
「なんかイヤラシイ」
「いやらしくない!」
いやたしかにそういう使い方もあるけども、そういうニュアンスではねぇよ。
「寝床与えてるだけで家事全部やってくれてるんだから、そのお礼をしたいんだよ」
「いいじゃん。なんでそれをアタシに相談すんの?」
「スミレちゃんの性格を考えると、素直にお小遣いを受け取ってくれるとは思えない」
「あー、たしかに。絶対受け取らないわ」
あの年ごろなら欲しいモノや、やりたいことも沢山あるだろうに、スミレちゃんは自分のお金をほとんど持たないにもかかわらず欲しいモノをほとんどねだらない。
「代わりに欲しいモノ上げようにも何もねだらないし。それとなく欲しいモノ聞いたら「分度器」って言われたぞ」
「うはははは! 欲しいモノ聞かれて文房具答えるって! あの子らしいわ!」
なんだ分度器って、いや、何かは知ってるが。年頃の娘が欲しいモノ聞かれて分度器はないだろ。それともなんだ、最近の分度器は音楽が聴けたり動画が見られたり多機能高性能だったりするのか?
「スミレちゃんって、お前からのプレゼントや奢りなら受けたりするのか?」
「うん。アタシの奢りで一緒に茶店行ったり満喫行ったりカラオケ行ったりするよ。アタシもお小遣いそんなにないからあんまり連れてってあげられないけど」
こないだ彼女と喫茶店で過ごした風に聞いたのでそんな気はしていたが、やはりスミレちゃんは親友からの奢りは受けるらしい。
「よし、じゃぁ。お前に金を渡すから、俺の代わりにスミレちゃんに奢ったり、それとなく彼女の欲しいモノを買ってあげてくれないか」
「あーなるほど。そういう話」
俺からの小遣いだと遠慮するとしても、彼女を仲介すればスミレちゃんも気が楽なはずだ。親友の彼女ならスミレちゃんの好みもわかるだろうし。
「流石に現金を渡すのはマズイからスマホで使える電子マネーを俺がチャージしようと思う」
便利な世の中だよな、直接現金渡すのは流石に事案に見えるからマズイし。
「待って待って、アタシまだ引き受けるって言ってない。それじゃお兄さんのお金なのに全部アタシの手柄になるじゃん」
「それが何か問題あるのか?」
「いやぁ、問題はないんだけど......。アタシがお兄さんに申し訳ないというか」
軽そうな子に見えたが案外真面目なんだな、スミレちゃんの親友だし当然か。
「俺が頼んでるんだから申し訳ないなんて思う事ないだろ。他に頼れる相手がいないんだ、頼むよ」
「うーん、イマイチ釈然としないけどスミレのためだと思えばまぁ......」
「ありがとう、それじゃぁLINEで電子マネーのID送るな。そっちでログインしたらLINEのメッセージは削除してくれよ」
「うっす」
よし、早速チャージして――ところで今の中学生の小遣いってどれくらいが相場なんだ?
「あ、待った。参考まで君の月の小遣いを聞いておきたい」
「アタシ? アタシは5000円だよ」
「わかった」
高いのか低いのかわからないが、まぁそんなもんか。
俺は電話を切って電子マネーをチャージし、IDをアリスちゃんに送る。
するとすぐに返事の? の電話がかかってきた。
「ちょっと!? 一万も入ってんだけど!? アタシの2倍!? スミレに甘すぎじゃない!?」
「イヤイヤ、スミレちゃんの分は7500円だ、2500円は君の駄賃だ。スミレに奢るのに自分の分も必要になるだろ? それで二人は同額になるし、報酬と思ってくれ」
スミレに奢るために彼女の小遣いを使わせてしまっては彼女に申し訳がないからな。
「いや......まぁ。それはありがたいけどさ......」
なんだか釈然としないようだが、小遣いをもらえるのは嬉しいという風でもある。まぁ彼女の月の小遣いの半額だしな。
「君なら自分のために使いこんだりしないだろうし、信頼してるぞ。よろしくな」
むしろ満額スミレちゃんに使ったりもしそうだよな。
「まぁ、うん。気を付けるよ」
彼女にも魔が差さないということもないようだ。まぁ大丈夫だろう。
俺はこうしてスミレちゃんに(間接的に)お小遣いを渡す算段をつけたのだった。
セイヤさんの家にお世話になり始めて四ヵ月くらい経った頃。今日もアリスちゃんと机を合わせてお昼のお弁当を広げる――と言っても今日はお弁当じゃなくてラップしたサンドイッチだけど。
「あれ? 珍しいね、スミレがサンドイッチなんて」
「今日は寝坊しちゃって、ご飯炊く時間なくって」
私がご飯大好き星人、むしろ「拙者、おかずはご飯を美味しく食べるためにある侍でござる」ってなのを知っているアリスちゃんなので、お弁当じゃないのを不思議に思われる。
ご飯が炊けなかったので当然セイヤさんのお昼も私と同じサンドイッチ。サンドイッチって冷めるとかないのは良いんだけど、あんまり手の込んだことできないから料理としてはイマイチ......。
拘れなくもないんだけどどのみち寝坊で時間がなかったわけだけし、毎日私の料理を楽しみにしてくれるセイヤさんにちょっと申し訳ない。
「へー。アンタが寝坊だなんて、遅くまでナ~ニしてたのかナ~?」
アリスちゃんにイヤらしいニュアンスで聞かれる。
ウソッ、アリスちゃんってそんなことまでわかるの!? 私の事お見通し過ぎじゃない!?
「遅くまで......オ、オナニーしてました......」
「ぶふっ!? 冗談で聞いたのに素直に答えないでよ!?」
「えぇ!? 知ってて聞いてたんじゃないの!?」
なんでバレたんだろうって思ったのに! 完全に私の自爆じゃん!
「アンタホント純朴そうに見えてエロイことに関してはオープンよね」
「ちょ、今のは違くて! オープンじゃないもん!」
たしかに育った環境のせいでエッチは見慣れちゃってるけど!
「年齢的には普通の事だし......。アリスちゃんだって......オナニーするよね?」
「そこはトップシークレット」
「ずるい! 私は言ったのに!」
「それアンタの自爆じゃん」
ぐぅ。その通りなんだけど......、親友として痛み(?)は分かち合おうよ。一緒に恥かいてよ。
「ていうかなに? アンタ欲求不満なの?」
「そりゃ......まぁ......」
年頃の女の子だもん、そういう事もあるもん。
「あー、やっぱりお兄さんのせいかー」
「もう! アリスちゃんがあんな事言うからセイヤさん全然エッチなことしてこないじゃん!」
「えー? アタシが脅さなくてもあのお兄さんはアンタにエロいことなんてしないと思うけどなー」
私は最初になんでもするっていってたもん。エッチはNGなんて言ってないのに......、もう! セイヤさん真面目過ぎ!
「そんなに好きなら襲っちゃえば? アンタの方からならお兄さんも犯罪にならんでしょ。知らんけど」
「え、やだ。襲うより襲われたい」
「乙女なんだかスケベなんだか......」
セイヤさんにそんな女だと思われるのはちょっとヤだし......。
「もっとセクシーな格好してればセイヤさんもその気になったりするかな?」
「飽くまで襲わせる方向なのね」
「うーん、でも私の持ってる服でセクシーな格好なんて......」
制服に夏冬のワンピース二着づつしか持ってないからなぁ。あ、そうだ!
「そういえばスマホで見た! 男の人は裸ワイシャツに弱いって!」
それなら制服のシャツで簡単にできるじゃん!
「いやアンタ、普段からノーパンじゃん。ノーパン浴衣のがエロイっしょ」
「そうだったぁー!」
いや違うんです。パジャマと同じなんです。小さいころからお母さんがパンツ買ってくれなくてずっと履かないで育ったから、履いてないのがデフォルトっていうか......。
パンツ履かないと気持ちいい、とかじゃなくて、パンツ履いてると気持ち悪い、みたいな。だから決して痴女とか露出好きとかそんなのじゃなくって......。あとどうせ隠れるものにお金出したくないし......。
「いやでもセイヤさんにはノーパンなのバレてないと思うし......」
「お兄さんからアンタがノーパンじゃないのかって相談来てたけど? 一応知らばっくれといたけど、ほとんど確信してるんじゃない?」
「セイヤさんなんでアリスちゃんにそんな相談してるの!?」
ノーパンなの感づかれてたぁー!?
そりゃそうだよね、私が洗濯してるったって朝干してる洗濯物は家にいるセイヤさんが一番見てるし私のパンツないのおかしいと思うよね!
「そもそもアンタデフォでエロすぎるんだから、今更セクシーで誘おうったって無理でしょ」
「し、失礼な! エロくないですよ!」
いや性格はエロいのかもしれないけど......。見た目は純真可憐(?)な女の子だもん。
「イヤエロイよ。こないだお泊りした時さぁ、寝巻の浴衣姿みたけどどちゃくそエロかったもん。風呂上りとか寝起きの着崩れかたとか色気マジヤバ、女のアタシでも襲いたくなったわ」
「ひぃ、アリスちゃん破廉恥!」
「破廉恥なのはお前じゃい!」
それはたしかにそうかもしれない。
「それでね。アタシが思うに、お兄さんみたいなのはむしろ清楚な感じで攻めるべきね、女子力高めの」
「清楚な感じ?」
「女子力に関してはアンタカンストしてるだろうから、あとは清楚な恰好すれば完璧よ、お兄さんだって間違いなく落ちるわ」
「kwsk」
ほぅほぅ、流石少女漫画をたくさん読んでるアリスちゃん。参考になりそう。
「童貞を殺す服ってのはセクシーな服の事じゃないのよ。如何にも純朴で清楚で露出の控えめな服、そういう服」
「セイヤさんが童貞かは知らないけども」
経験豊富だったりしたらちょっとイヤかも? あ、でもエッチの上手いセイヤさんもアリかなぁ......。大人のテクで私ばかり一方的に何度もイk──
「おいコラ、妄想に更けんな、このムッツリ」
「はっ!?」
やだ顔に出てた!?
「でも私、そんな服持ってないし......」
「だから今日放課後買いにいこ。アタシがプレゼントするからさ」
「え、昨日も奢ってもらったのに、服なんて高いモノ貰えないよ」
可愛い服ってなると、値段もそれなりにするんじゃないの? なんか新学期入ったくらいからはぶり良すぎだよね。
「大丈夫だって、まだ先月分のがのk......」
ヤバっと、アリスちゃんが口元を抑える。ん-? コレはー。
「アリスちゃん、ここのところ羽振りが良すぎると思ったけど、なんか隠してるでしょ」
「いやナイナイ、先月分のお小遣いが残ってるって言おうとしたのよ」
「それおかしいよね? 先月も沢山奢ってもらったし、私のボロボロの財布見て、新しい財布まで買ってくれたよね?」
奢ってもらってばかりで申し訳ないから、行った回数も金額もはハッキリ言えるくらいに覚えてるんだから。
「いやほら、臨時収入とかあったからさ」
アリスちゃんの目が泳いでる。怪しい。絶対何か隠してる。
「アリスちゃんバイトしてないよね? ご両親がバイト禁止だって言ってたもんね?」
「えーあー、テニスラケットを泉に落としたら金のかぐや姫がどんぶらこと......」
「アリスちゃーん!!」
もう自分でも何言ってるかわかってないじゃん!
リビングで天井を仰いで今日も寝起きのスミレちゃんの姿を思い出す。
「どうしたものか......」
スミレちゃんと暮らしてもう結構経つが、慣れるどころか最近......イヤ最近でもないな思えば初めからあの子は──
「スミレちゃん、エロすぎないか?」
貧乏生活だったらしいので体型は年齢より小柄なほうかもしれないが......、なんというかこう、纏う雰囲気が蠱惑的というか。
「夜一階に降りられねぇよ......」
風呂上がりの浴衣姿とかなんだアレ、ホントに中学生の色気か? あるいは俺が変態なのか?
しかも常々思ってたんだがスミレちゃんノーパン疑惑があるんだよな......。アリスちゃんに聞いてみたが流石にわからんらしい。
「本人に聞くべきか否か......」
それで違ったら俺完全にノーパン好きの変態みたいになるだろ......。
でも洗濯物にスミレちゃんの下着がないんだよなぁ。まぁ男の俺に見られるのが恥ずかしくて自室に隠してるという可能性もあるにはあるが。
まぁ、本当にノーパンだとしてもそこは個人の自由だろうし俺がどうこう言う事でもないしな。ないよな? 人の趣味はそれぞれだし。
「セイヤさん!!」
取り合えずノーパン疑惑は保留。と結論が出たところでスミレちゃんが帰ってきたので玄関へ出迎えるとする、が、なんか様子がおかしいような?
「おかえりスミレちゃん?」
「ただいまです!!」
玄関に行くとスミレちゃんが渋い表情で腕を組んで仁王立ちしていた。その後ろに何故か居心地の悪そうなアリスちゃんもいる。
「あれ? なんか? 怒ってる?」
「はい! 私はとっても! 怒っています!!」
マズイ、なんだ、何か怒られるような事したか俺。
冷やしてた枝豆摘まみ食いした件か? ちり紙ポッケに入れたままのズボンを洗濯機に放り込んでた件か? コーヒー飲んだコップを水につけてなかった件か?
「えーっと、俺なにかしたかね......」
アレか、スミレちゃんも「俺の視線がいやらしい」とか反抗期的なのに突入したのか。イヤラシイつもりはないが実際そうかもしれない。
「ごめんお兄さん、バレた」
珍しく俺を睨むスミレちゃんに戸惑いながら心当たりを考えていると、アリスちゃんが口を開いた。
バレた? 何がだ? って、あぁ......。
「二人とも!! 居間にきてください!!」
「「はい!!」」
俺とアリスちゃんは居間で並んで正座させられて、正面にはスミレちゃん。完全にお説教モードである。
「セイヤさん! アリスちゃんを使って私にお小遣いってどういうことですか!!」
はい、やっぱりその件ですよね。
「直接渡したかったんだが......スミレちゃんお小遣い受け取ってくれないだろ?」
「受け取れるわけないじゃないですか! ただでさえお家からご飯から色々お世話になってるのに!!」
ほらやっぱり、な?
「俺からすればそれだけで家事全部やってくれてるのが申し訳なくて......。スミレちゃんも年頃の女の子だし欲しいモノとかも沢山あるんじゃないかと」
「欲しいモノなんて沢山ないです! 本なら書斎にあるし図書館でだって借りられます!!」
無趣味な俺が言うのもなんだけど、スミレちゃんも貧乏が染みついてとにかく金のかからない趣味なんだよな......。
「前の家を追い出されて、セイヤさんに拾ってもらえて、生活はむしろ前より豊かになってるんですよ!」
俺はスミレちゃんの昔の生活をよく知らないが、とても貧乏だったとは聞いている。
「冷たいシャワーじゃない、暖かいお風呂に浸かれて! 押し入れの中でくたびれた布団じゃない、ちゃんとした部屋に敷かれたフカフカの布団で寝られて!
痛んだ食材じゃない、ちゃんとした食材で美味しいモノをたくさん作れて! 憧れだったスマホも使わせて貰えて、アリスちゃんといつでもお話できて!」
スミレちゃんの声に少しづつ涙が篭ってくる。スミレちゃんのいうそれらは、凡庸な幸せの、なんら特別ではない普通の事のはずなのに。
「いってらっしゃいって、おかえりって言ってもらえて......。私は、十分に幸せなんです!」
彼女にとっては、それが特別な幸せだった。
「ごめんな、スミレちゃん......」
思わず泣き出してしまったスミレちゃんに俺は謝る事しかできなくて、本当に俺は、彼女の気も知らないで余計なことを......。
で、なんか目をそらすと横でアリスちゃんが「抱け! 抱け! それいけ!」ってジェスチャーしてるんだが、お前なんなんだよ。
「アリスちゃんも!!」
「はいぃ!?」
そんなことをしているから矛先がアリスちゃんに変わって、アリスちゃんはビシっと姿勢を正す。
「他所の男の人からお小遣い貰うなんてダメでしょ!!」
「いやだって、アタシの分のお小遣いは後から出てきた話だし......。お兄さんだって知らない仲じゃないし......」
「屁理屈言わない!!」
「はい! スイマセン!」
「セイヤさんも他所の子にお金渡すなんて何考えてるんですか!! 非常識過ぎます!」
「はい、はい。スミレさんの言う通りです、はい」
「アリスちゃんのご両親にバレてたら大事になってたかもしれないんですよ!?」
「はい、はい。返す言葉もございません」
「大金持たされたアリスちゃんが変な遊びにハマったらどうするんですか!? もう!」
「いやアタシには大金って程じゃ......」
「屁理屈言わない!」
「はいごめんなさい!」
スミレママ、もう勘弁してください。
ふー。ヨシ、言いたいことは大体言いました、ちょっと落ち着きました。
「スミレママ、ちょっといいですか」
「なんですか?」
誰がスミレママですか。コレはセイヤさん反省が足りませんね?
「怒らせた......っていうか、迷惑をかけたお詫びをしたいんだが」
「お詫び?」
もうちょっと怒ろうかと思ったらセイヤさんから提案をされます。
「お詫びにスミレちゃんのために何かをしたい」
「私にお小遣いをくれてた事に怒ってるのに、お詫びに私のために何かするってのもなんだかズレてる気がしますが......」
「イヤ本当に、お詫びの気持ちだ。なんでもしよう。なんでも言ってくれ、どこか行きたいところとかでもいい」
な ん で も し よ う 。
今なんでもするって言った!? なんでもって言った!?
「......、少し考えます」
私はセイヤさんに自室に行ってもらって、アリスちゃんとお詫びの内容を考える事にした。
「いやー、よかったじゃん。なんでもしてくれるってさ! コレもアタシの協力のおかげだね!」
「アリスちゃん、反省の色が見えないようだけど?」
もう一度スミレママになりますよ?
「反省してるって! それより何してもらうか考えよ! ね!」
「まぁ、アリスちゃんの事は保留にしておきます」
「あ、保留なんだ......」
アリスちゃんの事は後に回すとして。セイヤさんに何をしてもらうかを考えないと。
「なんでもしてくれるって事だから......やっぱり」
エ ッ チ し た い !
「何考えてるか顔に書いてるけど、それはダメだからね?」
「え? なんで!?」
ていうか人の思考読まないでよ!
「さっきまで常識的な事語ってお説教してたくせに、今度はアンタがお説教されるわ!!」
「でもお詫びのためにお金かけたくないし、エッチならお金かからないし......、ゴム代くらいしか」
「お金のかかるかからないでしょうが! エッチ要求する中学生とかお兄さんだってドン引きだわ!」
「え、やだ! セイヤさんに引かれたくない!」
せっかくセイヤさんとエッチできてもそれで嫌われたりしたら意味ないじゃん!
「だったらもっと常識的な事考えなさいよムッツリ。お兄さんの前では純朴な少女でいたいんでしょ」
「むぅ」
アリスちゃんに常識を語られるのなんか釈然としない......。あと私の名前ムッツリじゃないし。
じゃぁせめて添い寝とか......はダメだ、余計に欲求不満になる。
今だってセイヤさんの洗濯物一つちょろまかして凌いでるのに、実物とか、色んな意味で寝られなくなる。
「あとできるだけお金を使わない要求するのもナシね」
「なんで!?」
私に間接的にお小遣い渡してた事を怒ってのお詫びなのに!
「お兄さんはさ、貧乏生活してたアンタに年頃の女の子らしい楽しみをして欲しいのよ」
「それはわかるけど......」
今の私はそんなものよりもっといい境遇を手に入れたと思うもの。
「ここでお金を使わない要求で中途半端に終わらせたら。また同じような事するかもよ?」
「たしかにそれは避けたいかな......」
「だからさ、ここは遊園地とかお金を使う遊びをお願いして、お兄さんにしっかりお金を使わせて、年頃の女の子のように楽しめたよってアピールすんのよ」
なるほど、セイヤさんにも“私を楽しませた”事を満足してもらう訳か。
「うーん、遊園地かぁ......。そんなに興味ないけどなぁ」
絶叫マシーンとか、なんで自ら進んで怖いモノ乗るの? メリーゴーランドとかコーヒーカップとか、同じとこぐるぐる回るだけじゃん。
「でも、お兄さんと一緒なら行きたくない?」
「う......。行きたい......かも」
セイヤさんとメリーゴランドとかコーヒーカップ......いいなぁ......。観覧車とか二人きりの密室だなんて......。
「おーい、また頭の中がおピンクになってないかー?」
「は!? 違う違う! 今回は乙女的な妄想だったもの! 断じてピンクじゃなかったもの!」
そんなエロい事ばかり考えてるみたいに思わないでよね。
「じゃぁ遊園地デートで決定ね」
「ちょっ、まっ。デートォ!?」
いや、遊園地は良いけど、デートは聞いてない!
「なに? お兄さんと二人で行くならデートでしょ」
「いや......その......、アリスちゃんも付いてきて欲しいなぁって......」
てっきりアリスちゃんも一緒に来るものかと思ってたのに......、妄想の中にはいなかったけども。
「なんでよ、二人きりの方がいいじゃん」
「えと、その......、デートはまだ、ちょっと恥ずかしくて......」
「はぁ? エッチがどんとこいで、デートが恥ずかしいってアンタの感覚どうなってんのよ」
改めて言われるとなんかおかしいな私?
「大体いつも二人きりでいるのに何をいまさら」
「家の中ではいいの! 自然体でいられるの、居候だから!」
「いやよくわかんない」
「なんというかこう、家族......は図々しいかな。使用人? みたいな? 外だと他人になっちゃうから距離感が難しいというか......」
「夕食の買い物に毎日一緒に行ってるんじゃないの?」
「買い出しは家事の延長みたいなものだし......」
そういえば私、数ヵ月もセイヤさんと一緒にいるのに買い出し以外で外で一緒になった事ないや。今度散歩に行くセイヤさんに付いてってみようかな。
「よくわかんない感覚だけど、アンタがそうして欲しいってなら付いてってあげるわ」
「アリスちゃんありがとう!」
「普通は二人きりのデート邪魔すんな、ってなるはずなんだけどなぁ......」
そうなの? 遊園地って人数多いほうが楽しいモノじゃないの? ってそういえば。
「そうだ! アリスちゃん可愛いお洋服貸して!」
せっかくセイヤさんと外に遊びにいくのに、くたびれたいつもの普段着なんて着てられない!
「それなら明日服買いに行こうよ。もうアンタの小遣い今月分チャージされちゃってるからさ。アタシが使うわけにはいかないでしょ?」
といってアリスちゃんがスマホの電子マネーの残高を見せてくれる。私のためのお小遣いが一万ちょっとも......改めて金額見ると頭が痛くなるや......。バツとして今日の夕ご飯はセイヤさんの嫌いなピーマン混ぜてやる。