イケメン貴族に捕まってしまった…
006
「さあ......起きて!!!」
リボンに足で突っついて起こされた......普通に起こしてくれればいいのに、まったく。
家がなくなってしまったので......盗賊の巣のこの路地にある段ボール箱の中で眠るしかなかった......
実はその家はリボンの家だったのだが......以前のクロエも、マベルも、ヒメコも、ずっと一緒に暮らしてきた場所だった。
四人はもともとこの場所に捨てられた孤児だった......殺されるか売られるかと思いきや......スラムの住人たちが四人を引き取ってくれた。まるで、強盗はするけれど無闇に人を殺したりはしない盗賊集団のようだった......
聞こえはいいかもしれないが......違う......どう見てもただの盗賊は盗賊だ......
こんな連中を信頼しろというのは......無理な話だ......
「変な話だけど......こうして全員まだ無事でいるって、本当に信じられないわね......」
正直に言ってみた......それを聞いたリボンは少しおかしそうに笑った......
「そうなのよね......おかしいとは思うけど......ずっとここにいて、何もされたことがないってね......」
どうやら盗賊たちは私たちに手を出していないらしかった......
「でもお金はちゃっかりごまかしてくるけどね」
「雰囲気壊さないでよ、マベル......」
段ボール箱を片付けてゴミ箱に捨てると......私たちは路地の角へと歩いた。やがて、それなりに大きな建物の前で足を止めた......
看板を読もうと目を細めたが......読めなかった......
「あの看板、手で書いたの? 足で書いたの?......まったく読めないんだけど......」
「そうなの?......私たちも読めないわよ......まあいいから、行きましょう......」
四人で建物に入ると、タイプライターの音があちこちから鳴り響いていた......
「わあ......これは......」
「新聞社へようこそ......こんにちは、マスター」
リボンが、カウンターで新聞を読んでいた丸眼鏡の優しそうなおじさんに挨拶した......正直に言うと、この世界にも印刷技術があることに心底驚いた......どの異世界マンガやライトノベルよりも技術が進んでいるなんて......
「おやおや......お嬢ちゃん......あらあら......クロエちゃん、戻ってきたのかい?......いつものソーセージサンドでいいかい?」
「あの......えっと......私は......」
言い終わらないうちに、ヒメコが口を挟んだ......
「この子はクロエじゃないですよ......」
彼女は口数の少ない子だった......しかも他の人に日本語風の名前をつける癖があった......
「あらそうかい?......じゃあクロエちゃんはどこへ?」
「まだこの子の体の中にいますよ......ただ別の子がこの体に入ってきただけなんです......」
「聞けば聞くほどわからないね......つまりあなたはクロエじゃないということかね......」
「......はい......」
起きたことを三人に全部話した......三人はさほど驚いた様子もなかった......このおじさんも同様で......
まあ魔法がある世界なら、前世の記憶を持ったまま別の誰かの体に転生することだって珍しくないのだろう......
ただ......今私が経験していることは、読んでいたマンガとはまったく違った。
確かにそのマンガはまだ完結していなかったが......こんなにめちゃくちゃな展開にはなっていなかったはずだった......
「でも......あなたの元いた世界がどんなところなのか、見てみたいな......」
元いた世界のことを話した......どうやら三人はとても興味津々らしかった。
「そうよね......似ているところはたくさんあるけど......あちらの世界は発明品の発展が想像をはるかに超えているわね......」
この世界は中世の環境に産業革命期を合わせたような感じだった......
私の元いた世界は技術が進んでいて、魔法は夢の中のものだった......
「あっ......」
呼び鈴が鳴った......女の子たちはカウンターから出て小さな部屋へと向かった......私もついていった......
「さあ......仕事の時間よ......」
リボンは郵便屋の鞄に似た大きなバッグを手に取り......列に並んだ。列には子どもたちや若者たちが何十人も並んでいた......
「さて......これがこの仕事の大事なところよ......印刷所から新聞をもらって、各家庭に一部ずつ届けるの......」
リボンが新聞の受け取り場所を指差した。
「チームに分かれるの......一チーム四人から六人で、それぞれ担当の路地があるわ......あなたは私たちのチーム......七番路地担当なんだけど、居酒屋の隣なのよ......気をつけてね」
マベルが耳元でそっと囁いた......
「あとこれを持っておいて......」
ヒメコが黒い棒を差し出した......
「何これ......うわっ!」
横のボタンを押してみると......スタンガンだとわかった......
「気をつけてよ......五秒以上当たり続けたら死ぬんだから......」
「どこでこんなもの手に入れたの......」
「私たちだけが知ってる"秘密の宝庫"から取ってきたのよ......」
秘密の宝庫......何それ?......
「あれだけ大きな家が建てられたのも、秘密の宝庫のものを売ったからなのよ......」
「ねえ......」
その宝庫がどんな場所なのかはわからなかったが......ちょっと待った?
そういえばこの盗賊の巣に来てから、元いた世界のいろんな時代の技術品をあちこちで見かけていた......
もしかしてあの場所には......私がこの体に転生することになった根本的な秘密が眠っているのかもしれなかった......
「さあ......次の方......」
別のおじさんが順番が来た私たちを呼んだ......こちらも同じく丸眼鏡だった......
「おや!?......なんだい、あのヘレン王子に婚約破棄されたクロエちゃんじゃないか......どうだい......街の人たちに追いかけられて楽しかったかい?」
愛想よく嫌みを言ってきた......職場の上司でなければとっくの昔に殴っていたところだ。
「少なくとも逃げ切りましたよ......同盟諸国で最強と豪語している軍隊から」
口を挟んで言い返してやった......彼は少し口をゆがめながら頷いた......
「そうかそうか......それほど優秀なら......もう二つ追加で路地を担当してくれ......」
自分の背丈より高い新聞の山を押しつけてきた......周りの子どもたちがこっそり笑い出した......
私は女の子たちの顔を見た......みんな肩をすくめた。まるで「自業自得よ」と言わんばかりに......
「ふざけんな......(Fuck off......)」
―――
「すみませーん......」
「おおっ......なんだいなんだい......あの宮廷のお嬢様が新聞売りとは......」
一人の大柄な男がいやみを言ってきた......でもこれも仕事の一部......我慢しなければ......
「まあ......出戻ってきましたので......」
彼は仲間のほうを向いて笑い出した......しかし私は耐えた。
「えっと......銅貨二枚です......」
相手は少し不満そうな顔をした......
「本気で言ってるの?......ただの紙っぺらじゃないか......タダでくれてもいいだろう?」
またこれだ......お金をごまかそうとする連中......
「申し訳ありませんが......これは手間をかけて印刷したものですので......タダにはできません......」
男は私の周りをうろうろし始めた......肩に手を置いてきたり......スカートの中に手を入れようとしてきたり......
「まあねえ......金がないんだよ、俺は......」
女の子たちが様子がおかしいと気づいて助けに来ようとした......しかしもう十分我慢した......
素早くその手を掴み......思いっきりひねり上げた......
「いたたたたた!!!!......」
絶叫が辺りに響いた......残りのチンピラたちがナイフを抜いて脅しにかかってきた......
「買うの? 買わないの?」
最後にもう一度聞いた......しかしナイフを下ろさなかった......
はあ......
スタンガンを手に取り......魔法を使って改造し、元いた世界の危険な武器のひとつへと変えた......
魔法の弾丸を無限に撃てる火縄銃だ......
「......なんだよ、それ......」
「知りたい?......一発試してみる?」
挑発してやった......さっき手をひねった男がナイフを抜いて突進してきた......頭を撃ち抜いた......
その場にいた全員が固まった......床に崩れ落ちた骸から、ぐちゃぐちゃになった頭の血が床に広がっていくのを呆然と見つめていた......
「さあ......新聞を買うか買わないか......三秒で答えなさい!!」
「か......買います!!!!」
「それでいい......まったく......偉そうにしておいて、銃を見たら腰抜け野良犬みたいにビビりやがって......情けない......」
路地の人間が全員、目を離せずに私を見つめていた......
「何?......一発喰らいたいの?......買いたい人はこっちへ来て! 来ないなら失せなさい!!」
銃をスラムの人間たちに向けた......みんな盗賊だった......
聞こえた人たちはゆっくりと列を作り始めた......新聞を受け取った人たちは家の中に入るか、人目につかない場所へと移っていった......
「よし!!」
そして私が新聞を売り続けていたそのとき......馬が四、五頭同時に嘶く声が響いた......
列に並んでいた人たちが、まるで警察に踏み込まれたかのように一斉に逃げ散った......
私はゆっくりと後ろを振り向いた......
大きな荷車を引いた馬車が一台来ていた......馬たちは見覚えのある色の鎧をまとっていた......
「まずいな......」
この人たちは他でもない......王族の兵士たちだった......
私は急いで火縄銃を手に取り、両手で銃身と銃床を掴むと......それを玩具を潰すように合わせた。
銃はたちまち消えた......
冷たい風が強く吹き抜けた......受け取ってきた新聞がバラバラと路地中に舞い散った......
馬車がちょうど目の前で止まった瞬間、私は躓いて尻もちをついた。
風のせいで顔に砂埃が当たり、全身がすっかり汚れてしまった......
すると、白一色の軍装をまとった若い男が馬車からゆったりとした優雅な足取りで降りてきた......少し長めの黒髪が艶やかで......両耳にピアスをしていた。鋭い眼光は、草食動物である私を見つめる肉食獣のようだった......少女漫画のバッドボーイそのものな顔立ちだった......
間違いない......この人は......
「大丈夫ですか?......お嬢さん......」
このマンガで最もイケメンで、心根が優しい貴族......ルイス・シルバーウィングストン様......
きゃあ!!!! 嘘でしょ......今夢を見てるに違いないわ......
ああ......なんてイケメンなの......まるで天界から舞い降りた天使みたいじゃないの......
「は......はい......大丈夫です......」
彼は高そうな手袋を脱ぎ......立ち上がるのを助けようと手を差し伸べてきた。
手を伸ばしてきてくれてるんですけどーー!!! なんて紳士なの......ああ......
急いでその手を掴んで立ち上がった......
よし......ルイス様に相応しい人間として、いい印象を残さなければ!!
「あ......えっと......私......クロエ......クロエ・アンダーソンといいます......」
ちょっと恥ずかしそうにしなきゃ......男の人は恥ずかしがり屋の女の子に弱いんだから......
髪をさりげなく横に払って、彼に対して気があることを示した......本当に気があるんだから、演技でも何でもないけれど......
「私は......ルイス・シルバーウィングストン......あなたを連れて行きたくて参りました......」
えっ、えっ、えっえっえっえっ!!!! ちょっと待って! 本当に!?......これって効果があったってこと!? きゃあ!! 連れて行ってくれるって......それってつまり一緒に暮らしましょうってことよね!?......遠回しなプロポーズじゃないの......
あはは......ルイス様、可愛すぎる......
いや待って、冷静にならなきゃ......ここは平静を保たないと......
今日中に旦那様をゲットするわよ!!
「え!?......ちょっと待ってください!?......あの......私たちまだ会ったばかりで......いきなり一緒にというのはさすがに......え?」
手首が急に重くなった気がした......何が起きてる......
突然、ルイス様が大きな手錠を取り出して私にはめてきた......
「あの......ルイス様?」
「私......ルイス・シルバーウィングストンは......クロエ・アンダーソンを宝石窃盗の件で尋問するため、身柄を拘束する!」
「何それ!!????」
待って待って......一緒に連れて行ってくれると思ったのに......逃亡の罪で逮捕されるかと思ったら......なんの話かもわからない罪状で捕まえられるって!!
頭おかしくなりそう!!
そのまま馬車に引き込まれた......
「ふざけんな!!(Mother Fucker!!)」
「このような形でお連れして申し訳ありません......ですが事情があって......」
彼はそう言いながら手錠を外してくれた......なんでわざわざそんなことをするのやら......
「えっと......なんで私を連れてきたんですか?」
今は馬車の中で二人きりだった......兵士たちはスラムの入り口に待機している別の馬車に乗っていた......
「あなたがこの街で宝石を売ろうとしている密売人を知っているかもしれないからです......」
はあ!?......ちょっと待って......前のクロエは何をやらかしていたの?......
そうか、忘れてた......この子は盗賊の巣に住んでいたんだった......
「違います! あなたが探しているクロエは私じゃないんです!......」
きっぱり否定した......でも彼はまだ信じていないようだった......
「え?......でもあなたはクロエじゃないんですか?......」
自分のことを全部話した......彼は呆気にとられた顔をしておかしかった......
「これは......本当のことですか......転生して......まだ生きている人の体に......」
「今は"体乗っ取り"と言うほうが正確かもしれません......でも誓います......密売人のことは何も知りません......」
三本指を立てて、本当に誓っていることを示した......
「......わかりました......信じますよ......」
「あ......ありがとうございます!」
なんでこんなに心が軽くなるんだろう......きっとこの世界に来てから、誰かに本当に信じてもらえたことがなかったからだ......思わず少し涙がこぼれた......
「えっと......一つ聞いてもいいですか......」
「何ですか?」
「あなたは......ヘレン王子を本当に裏切ったんですか?」
「違います! 国王陛下が私を陥れたんです!......」
すぐさまきっぱりと否定した......しかしルイス様は怒ることも責めることもしなかった......逆に......微笑んで、あっさりと受け入れた。
「......そうですか......信じますよ......」
「......なんで......信じてくれるんですか......」
あれ?......確か......
「表情を見ればその人が嘘をついているかどうかわかるんです......ただ、魔法で作った表情は見抜けないのが弱点ですが......」
そう!......マンガの中のルイスは相手の嘘を見抜く能力を持っていた。ただし、魔法で操作した表情には通用しないという弱点があった......だから王族が何かをごまかしていても気づけなかったのだ。
「これはとても大きな話です......もしあなたの言ったことが本当なら......このことは秘密にしておいてもらわなければなりません......約束してくれますか......」
自分で唾を飲み込んだ......そして手を差し出した。
「約束します!......」
彼は微笑んだ......その顔を見てしまった私はすぐに顔を背けた......恥ずかしくて......
「では......お互いに約束を交わしましたね......」
盗賊の巣......路地の奥まった一角で。
「まったく......金の延べ棒まで......」
「ほんとよね......」
「家の修理に使わなくていいなら......溶かして街の人に売って、都で暮らしたほうがよくない?」
それを聞いたマベルが指を鳴らしてヒメコを指差した......
「それだ......頭いい!......」
リボンは延べ棒を見つめながら考えていた......
第七代聖騎士がなんであのクロエを捕まえていったんだろう......彼は戦いに出たり街の治安を守ったりする兵士のはずなのに、宝石の窃盗ごときであの子を捕まえるなんて......おかしすぎる......
「リボン......ハロー!!」
「ごめんマベル......今何の話をしてたっけ?」
「宝石の話よ」
「宝石?」
「そう......さっきのイケメンが言ってた、盗まれた宝石のことよ......で、ね......」
ヒメコが一枚の紙を取り出した......とても精巧な絵が描かれていた......
世界のどんな宝石よりも美しい......一粒の宝石の絵だった......
「わあ......」
「綺麗ね......」
「綺麗でしょ?......じゃあ名前を読んでみて......」
ヒメコが小さく書かれた名前を指差した......リボンとマベルには当然読めなかった......
「あ、そうか......二人はジェポンネ語が読めないのよね......これはね......」
ロイヤルリボン......
「ロイヤルリボン......ある貴族から盗まれたって噂になってるやつよね......」
「そう......それから同じジェポンネ出身で、街で司書をしているイケメンの人から聞いたんだけど......」
この盗賊の巣でロイヤルリボンの売買が行われる......
「......じゃあつまり......」
「そう......もしあれを手に入れて持ち主に返せば......もしかしたら家と仕事を与えてもらえるかもしれないじゃない」
「何を言ってるの......私たちは盗賊よ......盗んで売るほうが簡単に決まってるじゃない......」
「つまり貴族が必死に探している宝石を盗んで売るって言いたいの......」
「...............」
リボンはしばらく考え込んだ......ヒメコの言う通りだった......別の人に売り飛ばしたら確実に追われる羽目になる......
「わかった......じゃあ宝石を盗んで持ち主に返す、ってことで?」
「いいじゃない......さあ......計画を立てましょう......」