制御下にある。
005
路地の中で......
「マルガム様! ここで何をしているんですか!」
クロエを馬で追いかけていたヘレン王子が、偶然にもウィリアムを追いかけるマルガムと同じ方向に走り込んできた......
「わしは......任務中......赤任務......でございます......」
「なぜ走り回っているんですか......まさか......」
マルガムは老いて走ることもままならず、屋根の上を指差した......
「わかりました!!」
赤任務......それはごく一部の者しか知らない秘密任務だった......王族は三冊の魔法書を探し出すよう依頼を出していた......それを密かな武器として、世界でも有数の権力を持つ都となるための巨大な軍隊を作り上げるために......
それが成功すれば......レギュラー王国は世界の大国のひとつとなれる......
そしてウィリアムを蘇らせる計画もその一環だった......聖騎士がただ一人いるだけで、いかなる国よりも強大な軍と権力を持てることは明らかだった。ましてや聖騎士が二人ともなれば......比べるものもない無敵の力を持つことになる。
当然ながら、もし周辺国がこの計画を知れば大戦争が起きるのは必至だった......
だからこそ秘密任務なのだった......国王は関係者に厳命していた、情報は絶対に漏らすな、と......
ヘレン王子はすぐさま馬を走らせ、クロエとウィリアムの前に回り込もうとした......
「マルガム様!!」
「はあ......はあ......エリック......早く......追え......」
彼は弟子に力強く命じた......そして自らもウィリアムの後を追って走り出した......
「まったく......最初は使うつもりなんてなかったのだがな......」
彼はふと、ある狡猾な顔つきをした司書と話したときのことを思い返した......
[こちらがご入用の品でございます......]
[ふむ......こんなものが本当に使えるとは信じ難いがな......]
[では一度お試しになってみてください。あ、こちらの装置と組み合わせてご自身の魔法をお使いになると、より効果が増しますよ......きっと......その能力に驚かれることでしょう]
「しかし、言葉で説得できんなら......力ずくにするしかないな......」
マルガムはローブの中から小さな筒を取り出した。それは幼児向けアニメに出てくる起爆スイッチに似た代物だった。
マルガムはためらいもなく即座にそれを押した......
仕立て屋の前で......
クロエが仕立て屋へと走り込んできた......ウィリアムはクロエを見て、亡き妻のことを思い出した......
「ケイシーそのものだ......」
彼は屋根から飛び降り、ためらうことなくクロエに向かって走り出した......しかしその瞬間......
「ぐっ!!!!」
突然、頭に激しい痛みが走った......これ以上ないほどの激痛だった。
「うああ!!!!!」
彼はその場に崩れ落ちた......立ち上がろうとしても、できなかった......
「これは......何だ......」
複数の足音が近づいてきた......振り返ると、そこにいたのは他でもない......
「こんにちは、ウィリアム様......」
「お前......うああああ!!!!」
「ああ、これは申し訳ありません......こちらとしても、貴方を聖騎士初代として我が軍にお迎えするよう、言葉でお説きしようとしたのですが......どうやら協力していただけそうにありませんでしたので......」
マルガムは魔法の力をさらに強めた。
「うあああああ!!!!!!!」
「仕方なく昔ながらの方法を使わせていただくことにしました......洗脳です......」
「はあ......はあ......お前たちは......なぜ......こんなことを......」
マルガムはウィリアムの頬を軽く叩いた......そして"伝説の聖騎士初代"に向かって即座に嫌みを言い放った。
「今の我々にはまだ力が足りないからですよ......七王国同盟以外の周辺国は日に日に力をつけている......」
「......権力のためか......」
「貴方ときたら......貴方が命をかけて救い、築き上げた王国は、誰もが偉大で神聖と称える都でございます......しかしそれでもなお、絶えず金と資源を必要としている......ならば少々の力を使って......周辺国にほんの少し......援助してもらわねばならんのです」
「それは援助ではない......弱者を権力で踏みにじることだ......うあああああ!!!!!!!」
「きれいごとを......我々に力がなければ、周辺国はつけ上がり......いつでも戦争を仕掛けてくる......」
マルガムは歯を食いしばった......そして洗脳魔法の効果を高めた......
「......お前たちは滅びる......」
「はあ?......何をおっしゃっているのですか......我々は永遠に栄え続けるのですよ! ヘンリー国王陛下万歳!!!」
ヘンリー国王......その名前......まさか!!
「これはあの腐れ外道ヘンリーの計画なのか!!?......」
ウィリアムが言い終わる前に、再び頭痛が襲いかかった......
先ほどより何十倍も強い痛みが頭全体に炸裂した......このまま爆発してもおかしくないほどだった......
そしてウィリアムは......いや、ウィリアムの"自我"は外に弾き飛ばされた......目の前に広がる光景は、まるで映画を座って眺めているのと何ら変わらなかった......
もう自分の体を動かすことすらできなかった......ただ......目の前の光景を見るしかなかった......
[腐れ外道ヘンリー......お前だったのか!!!]
いくら叫んでも誰にも聞こえない......観客が一人もいない映画館で叫ぶようなものだった......
「さあ......ウィリアム様、クロエ・アンダーソンを捕まえてまいりましょう。捕まえ次第、貴方の体についていろいろと実験を行う予定ですので......」
「ああ......生け捕りでも死んでいても構いません......あの娘はいろいろと知りすぎていますので......」
ウィリアムの体は頷き、すぐさまクロエを追って走り出した。
[ケイシー! 聞こえるか! ケイシー!!]
クロエはウィリアムを見るなりすぐに壁を爆破して仕立て屋の中へと走り込んだ。
「頭を使うってこういうことよ!!」
[お前......わしのことが......わからないのか!?......待て......クロエ、だと?......名前は違う......だが......なぜ......]
[なぜお前の顔は......こんなにもケイシーに似ているんだ......]
ウィリアムの体は隣の武器屋へと歩み入った......そして中に入り......ポンドハンマーを手に取って仕立て屋へと向かった......
「よう......ブラックウッド卿の手下か......(ロバート・ダウニー・Jr.版シャーロック・ホームズの悪役)」
「............」
[はあ?......誰だそれは......この子の性格はケイシーとはまるで違うな......だが確かめなければ......]
ウィリアムの体は自らのシャツを引き裂き......ポンドハンマーを床から掴み上げた......
「ねえ......話し合いできるよね? オーケー?......私、最初から何もしてない......濡れ衣なんだって......オーケー?」
[そうか......ならばこの子もわしたちと同じだということか......早く逃げろ!!!!]
しかしウィリアムの体はまったく聞く耳を持たず、即座にポンドハンマーを振り下ろした......
「ちょっと!!」
クロエは飛び退いた。ハンマーは仕立て屋の木の床を粉砕した......
あれを避けていなければ......肉塊になっていたのは確実だった......
「お願いだから......少しは加減してよ......ただの女の子だって思ってよ......」
[逃げろと言っているだろう、ケイシー!!]
ウィリアムの体はポンドハンマーを横に薙ぎ払った......しかしクロエはまたも難なくかわした......
「もう!......」
クロエは近くにあった小さなハンマーを掴み、投げつけた......
小さなハンマーは胸に当たり、床に落ちた......
「この人、人間なの?ロボットなの?......」
ウィリアムの体は拳を固め、クロエへと殴りかかった......クロエは両腕で胸と顔をガードした......
[やめろ!!!!]
そして頭と同じくらい大きな拳が全力で叩き込まれた......
「ぐあっ!!!」
[嫌だ......嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ......]
ウィリアムは祈り続けた......ケイシーに顔がそっくりなこの子に何もないことを......
魔法を使おうとした......しかし効かなかった......今の自分は純粋な魂、百パーセントの霊体だった。
[頼む、ケイシー......頼むから......]
「ふんっ......」
彼女は両手を広げた......緑色の光が全身を包んだ......傷ついた体が元の状態へと戻り始めた......
「あ......くっ......痛っ!!!」
[はあ......良かった、無事だ......]
やがて村人たちとヘレン王子が到着した......
「王子殿下......もう一度申し上げます......私は浮気などしておりません......」
「最後の言葉かと思えば......結局は悪魔の言い訳に過ぎないか!」
[はあ?......ケイシーはあの腐れ外道の息子の婚約者だったのか?......なぜあんなふうに追い回されているんだ......]
「聞いてくれないんですね! 私たちはかつて婚約者同士だったのに......」
「黙れ!......そのような口を利く権利はお前にはない! お前はただの淫売に過ぎぬ......わしはこのレギュラー王国の王子だぞ!」
[確認できた......こいつはやはり、あの腐れ外道の王の息子に間違いない......]
そしてウィリアムの体がまた動き出した......クロエの顔面を殴ろうと突進した......しかしクロエは拳が届く前にその顔面を打ちつけた......
体は気絶した......しかし意識はまだ働いていた。
[よし......これでしばらく楽になれる......ん?]
突然......ウィリアムは指がわずかに動かせることに気づいた......
頭の中でジジジという虫の鳴き声に似た音が鳴り響いた......
[この音は何だ......それより重要なのは......少し体が動かせるようになったということだ......]
[これはいったいどういうことだ......]
「もうどうにでもなれ......ジャービス!......飛ぶわよ!!」
彼女は両手を地面につけた......爆発が炎の流れとなって広がり、ゆっくりと彼女の体を地面から押し上げた......
そしてそのまま飛び去っていった......
「さて......体はまだ気絶しているようだな......」
その場の騒動が収まると、マルガムたちはウィリアムの体を馬車に乗せ始めた。
「体の状態は良好だ......しかし魔法での実験をたくさん行う必要がありそうだな......」
そしてそれは......五人の魔法使いにとって、ウィリアムの絶叫を毎日のBGMとして聞くことになる予感を抱かせるには十分だった。